普段は便通に問題は無いのにもかかわらず、生理前になると腹部に張りが生じて、便秘の症状が現れるという女性が少なからず存在します。ましてや、いつも便秘がちな女性は、生理前になると便秘症状がより悪化する場合もあるようです。
実は、生理前に現れる便秘といった便通異常の症状は、女性の生理・月経の周期に伴って生じる心身の不調を総称する月経前症候群(PMS)の可能性があります。
そこで今回は、生理前に便秘症状が現れる原因や仕組みを説明するとともに、生理前に便秘症状が現れた際の解消方法などについて、ご紹介したいと思います。
便秘に関する基礎知識
一口に便秘と言っても、原因や発生メカニズムに応じて、便秘症状にはいくつかのタイプが存在します。そして、その便秘症状のタイプに合わせて、それぞれ対処法や対策方法は少し異なっています。
そこで、生理前に便秘症状が現れる原因・仕組み・解消法に触れる前に、まずは便秘に関する基礎知識を再確認しておこうと思います。
便秘の定義
便秘は、本来排泄されるはずの便が大腸の中に溜まり、何らかの要因のせいで正常な排便がなされない状態のことです。
もっとも、人間には人それぞれ個人差があるように、排便についても個人差が生じます。そのため、便秘症状と断定するには、それぞれの排便状況を詳細に確認する必要があります。例えば、毎日トイレで排便していても、それが快便でなく残便感が生じているのであれば、便秘と診断される場合もあります。
それゆえに、便秘症状の目安としては、3日以上排便がなかったり、排便があっても残便感が生じている場合と考えると良いでしょう。
ちなみに、便秘症状が長く続くと、善玉菌・悪玉菌の腸内細菌バランスが悪くなって腸内環境が悪化し、結果としてお腹の痛み・張り、免疫力低下、肌荒れ、便秘のストレスによる自律神経症状など、様々な悪影響が考えられますので注意が必要です。
便秘症状のタイプ・種類
便秘症状には、いくつかのタイプ・種類が存在します。慢性的な便秘症状は、大きく器質性便秘と機能性便秘に分けられます。そして、機能性便秘は、さらに弛緩性便秘・痙攣性便秘・直腸性便秘に分類されます。一方で、便秘症状が一過性の場合もあり、こちらは一過性単純性便秘と呼ばれます。
器質性便秘
器質性便秘とは、大腸(結腸・直腸)や肛門など排便に関わる器官に病気が存在することが要因となって現れる便秘症状のことです。
例えば、大腸がん・潰瘍性大腸炎・腸閉塞・腸捻転などが、器質性便秘を生じさせる代表的な要因とされます。加えて女性特有の要因として、子宮筋腫の肥大化によって、直腸が圧迫されて器質性便秘となるケースがあります。
機能性便秘
機能性便秘とは、食生活・生活習慣・ストレスなどが要因となって、一時的に排便に関わる器官の働きが低下することにより現れる便秘症状のことです。
そして機能性便秘は、さらに弛緩性便秘・痙攣性便秘・直腸性便秘に分類されます。
弛緩性便秘
弛緩性便秘とは、便を肛門へと送り出す大腸の蠕動運動(ぜん動運動)に関わる筋肉の筋力が低下や弛緩することが要因となって現れる便秘症状のことです。
筋力が低下・弛緩する原因は、主に加齢・老化と過度なダイエットです。一般的に「便秘」と言う場合には、弛緩性便秘を指していることが多く、日本人に最も多いタイプの便秘症状です。
痙攣性便秘
痙攣性便秘とは、大腸の蠕動運動に関わる筋肉の筋力低下は無いものの、自律神経の乱れで筋肉が痙攣するような形で正常に機能しないことにより、便が肛門まで押し出されずに滞留する便秘症状のことです。
自律神経が乱れて大腸の平滑筋が正常に機能しない原因は、主に精神的ストレスが考えられます。
直腸性便秘
直腸性便秘とは、大腸の蠕動運動に関わる筋肉も自律神経も問題がなく、便が肛門直前の直腸まで到達しているにもかかわらず、便意を催さないなどの要因により現れる便秘症状のことです。
便意を生じない原因は、過度に便意を我慢したり、老化などによって、直腸の便意を催すための神経の感受性が低下することにあると考えられています。
一過性単純性便秘
一過性単純性便秘とは、急激に食事制限した場合やホルモンバランスの変化が要因となって現れる、一時的かつ一過性の便秘症状のことです。
急激に食事制限をすれば、便の元となる食物残渣、すなわち栄養吸収後の食べ物の残りかすが不足しますから、排泄すべき便の量が少なくなり排便に至らないことがあります。また、生理前・月経前や妊娠初期は女性ホルモンのバランスの変化によっても、一時的に便秘症状が現れることがあります。
月経前症候群(PMS)に関する基礎知識
このように一口に便秘と言っても、便秘症状には複数のタイプが存在します。その上で、
生理前に便秘といった便通異常の症状が現れる場合は、女性の生理・月経の周期に伴って生じる心身の不調を総称する月経前症候群(PMS)の可能性があります。
そこで、生理前に便秘症状が現れる原因・仕組み・解消法に触れる前に、月経前症候群(PMS)に関する基礎知識についても確認しておこうと思います。
月経前症候群(PMS)
月経前症候群とは、排卵後から生理日までの期間で、生理前10~14日あたりから症状が現れて、生理開始と同時に症状が消失することを特徴とする様々な症状が集まった症候群のことです。月経前症候群は、英語でPremenstrual Syndromeと言い、その略語であるPMSと呼ばれることが多くなっています。
月経前症候群は、基本的に女性の生理周期に応じて、定期的に症状の発生と収束を繰り返します。そのため、月経前症候群の各症状(PMS症状)の発症には、女性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)のホルモンバランスの変化が関係しています。
それゆえ、PMS症状は、女性の体内におけるホルモンの作用による生理現象と言えますので、原則として病気ではありません。ただし、PMS症状があまりにも重く酷い場合には、例外的に病気として治療対象となる場合もあります。
代表的なPMS症状
月経前症候群として現れるPMS症状は、身体的症状のほかに精神的症状もあり、とても多岐にわたります。そして、PMS症状は、どの女性にも一律に同じような症状が発症するわけではなく、女性それぞれの症状の現れ方に大きな個人差があります。
また、PMS症状は、単一の症状が現れる場合もあれば、複数の症状が複合的に現れる場合もあります。
身体的なPMS症状
PMS症状として現れる身体的な症状として、便秘あるいは下痢といった便通異常、腹痛、腹部膨満感など、腹部の状態変化が顕著に見られる傾向にあります。
その他にも、全身倦怠感・疲労感、頭痛、めまい、吐き気、肌荒れ、手足のむくみ、乳房の張り・痛み、過剰食欲、体重増加、睡眠障害(不眠・過眠)といった症状が現れることがあります。
精神的なPMS症状
PMS症状として現れる精神的な症状は、精神的に不安定になりやすい傾向にあります。具体的には、イライラ感・怒りやすい、やる気が出ない・無気力、気力が続かない・精神的疲労感、孤独感や不安感から憂鬱になる、といった症状が現れることがあります。
PMS症状として便秘が現れる原因と仕組み
それでは、どうしてPMS症状として便秘症状が現れるのでしょうか?
このような便秘に関する基礎知識と月経前症候群に関する基礎知識を踏まえて、PMS症状として便秘症状が現れる原因と仕組みについて、ご紹介したいと思います。
生理周期に伴う女性ホルモン分泌量の変化
前述のようにPMS症状は、基本的に女性の生理周期に応じて、定期的に症状の発生と収束を繰り返します。
女性の生理周期を大きく二つの期間に分けると、卵胞期(生理直後~排卵日まで)と黄体期(排卵後~生理直前まで)の二つに分類されます。そして、卵胞期にはエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量が多くなり、黄体期にはプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が多くなります。このように女性の体内では、周期的に女性ホルモンの分泌量が変化することで、女性ホルモンのバランスが変化しているのです。
そして、PMS症状は排卵後から生理日までの期間に現れますから、黄体期になるとPMS症状が発生しはじめ、卵胞期になるとPMS症状は収束するのです。
生理前に便秘症状が現れる原因
このように黄体期になるとPMS症状が発生しはじめ、卵胞期になるとPMS症状は収束します。そのため、生理周期における黄体期になってプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が増え、プロゲステロン濃度(黄体ホルモン濃度)が高まることにより、便秘症状が引き起こされていると考えられます。
ですから、生理前に便秘症状が現れる原因は、抽象的には女性ホルモンのホルモンバランスの変化であって、具体的にはプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が増えることだと言えるのです。
生理前に便秘症状が現れる仕組み
このように生理前に便秘症状が現れる原因は、プロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が増えることにあります。
そもそも黄体期にプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が増えるのは、女性の身体が妊娠への準備態勢に入るためです。そして、このプロゲステロン(黄体ホルモン)には、女性の身体を妊娠準備態勢に導くための様々な作用があるのです。
筋肉の収縮を抑制する
プロゲステロン(黄体ホルモン)には、受精卵が子宮内膜に着床して妊娠しやすくするために、厚くなった子宮内膜を柔らかくするほか、子宮の収縮を抑制する働きがあります。
実は子宮も筋肉でできており、プロゲステロン(黄体ホルモン)の子宮の筋肉収縮を抑制する作用が、子宮周辺の臓器にも影響を及ぼします。その結果として、大腸の蠕動運動を担当する大腸の平滑筋の伸縮する動きも抑制され、本来排泄されるはずの便が大腸の中に溜まってしまい便秘症状が現れるのです。
このような仕組みで、生理前に便秘症状が現れやすくなるのです。
大腸の水分再吸収機能
もともと大腸には腸壁から水分を再吸収して、便を排泄する際に丁度良い硬さに調節する働きがあります。それゆえ、大腸の蠕動運動の動きが抑制されて、便が大腸の中に停滞・滞留していると、大腸の水分再吸収機能によって、便からどんどん水分が吸収されてしまいます。その結果として、便は水分不足となって硬くなり、便が硬くなることで排便がスムーズにいかなくなります。
このような大腸の水分再吸収機能とは別に、プロゲステロン(黄体ホルモン)は、受精卵が子宮内膜に着床して妊娠した場合の準備として、栄養や水分を体内に蓄えようとする働きも有しています。
ですから、大腸の水分再吸収機能とプロゲステロン(黄体ホルモン)の栄養・水分を蓄えようとする働きが、プロゲステロン(黄体ホルモン)の筋肉収縮の抑制作用によって現れる便秘症状を悪化させるような形になるのです。
生理前に便秘症状が現れた際の解消方法
それでは、生理前に便秘症状が現れた場合には、どのようにして解消すれば良いのでしょうか?そこで、便秘に関する基礎知識と月経前症候群に関する基礎知識を踏まえながら、生理前に便秘症状が現れた際の解消法を、ご紹介したいと思います。
器質性便秘以外の便秘に共通の解消法
器質性便秘は、その原因となる病気を治療しなければ、便秘症状は解消しません。しかしながら、器質性便秘以外の便秘については、ある程度共通する便秘の解消法が存在します。
水分補給
機能性便秘や、PMS症状による一過性単純性便秘に対しては、水分補給をこまめに実施することが、便秘を改善するための有効な対策法の一つとなっています。というのも、前述のように便が排泄されずに大腸に停滞・滞留していると、大腸の水分再吸収機能によって便が徐々に硬くなってしまうからです。
ですから、PMS症状が現れる生理前の時期は、意識して白湯などを飲んで水分補給するように努めましょう。
食生活の改善
機能性便秘や、PMS症状による一過性単純性便秘に対しては、食生活の改善をすることが有効な便秘解消法となります。
まずは、漬物・ヨーグルト・納豆などの発酵食品を意識的に摂取して、それらに含まれる乳酸菌・ビフィズス菌・納豆菌などを摂取しましょう。これらの菌は腸内で善玉菌として働くか、善玉菌の増殖を助けて腸内環境を良くする効果をもたらします。また、これらの善玉菌と同時にオリゴ糖を摂取すると、オリゴ糖が善玉菌のエサとなり、より増殖を助けます。
また、食物繊維(不溶性食物繊維と水溶性食物繊維)を意識して摂取するように心掛けましょう。不溶性食物繊維は食物残渣となり便の材料となるほか、大腸の中で水分を吸収して膨張することで大腸を刺激し、大腸の蠕動運動を促す働きをします。また、水溶性食物繊維は大腸内で水分を吸収してゲル状になり、便の水分を保つ働きをします。
さらに、オリーブオイルなどの適度な油分も、円滑な排便には必要不可欠です。というのも、適度な油分は便を排泄する際の潤滑油的な働きをするからです。
ですから、PMS症状が現れる生理前の時期だけに限らず、日頃から発酵食品や食物繊維などを意識して摂取するように心掛けましょう。
適度な運動
機能性便秘や、PMS症状による一過性単純性便秘に対しては、適度な運動をすることが便秘解消につながります。
ウォーキングや水泳などの有酸素運動を実施すると、腸管が刺激されて大腸の蠕動運動を促す効果があるとされています。
ですから、PMS症状が現れる生理前の時期だけに限らず、日頃から適度に運動する習慣をつけておくと良いでしょう。
生理前に便秘症状が現れても、普段は便秘でない場合
普段は便秘ではないのに、生理前になると便秘症状が現れる場合は、生理周期に伴ったPMS症状かつ一過性単純性便秘の可能性が高いと思われます。
一過性単純性便秘の場合、基本的に原因が解消されれば便秘症状も治まります。つまり、生理が来て卵胞期に入れば、自然と便秘症状が解消されます。ですから、前述した便秘一般の解消法を実践するようにしましょう。
ただし、女性は男性に比べて、ダイエットや運動不足などの生活習慣に加えて、排便の際に腹圧を上げるための腹筋などの筋力が弱い、といった便秘を招く要因が多いので注意が必要です。
普段から便秘がちで、生理前になると便秘症状が悪化する場合
普段から便秘がちな場合は、PMS症状による便秘のほかに、機能性便秘などの慢性的な便秘症状が現れている可能性があります。ですから、一度病院を受診してみると良いかもしれません。
器質性便秘の場合は、その原因となる病気の治療が便秘解消に必要不可欠です。機能性便秘の場合は、便秘一般の解消法のほかに、下剤・便秘薬を服用したり、病院で腸内洗浄を実施する、といった治療法があります。
ただし、下剤は即効性の効果が期待できますが、効果は一時的で完治するわけではありません。また、弛緩性便秘と直腸性便秘とでは服用すべき下剤成分が異なりますので、必ず専門家である医師に相談しましょう。
妊娠初期症状かもしれない
生理前の便秘症状は、前述のように女性の身体が妊娠準備に入るために、排卵後の黄体期にプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が増加することに原因がありました。
この点、基本的に妊娠がなければ生理が来て卵胞期に入り、自然と便秘症状が解消されます。
一方で、妊娠している場合は、女性の身体が受精卵を育み妊娠を維持するために、引き続きプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量の増加が継続されます。それゆえに、妊娠初期症状は、PMS症状と非常に似ているのです。いずれも、生理・月経に近い時期に現れ、便秘・腹痛などの腹部症状のほか、全身倦怠感・疲労感、頭痛、めまい、吐き気、肌荒れ、手足のむくみ、乳房の張り・痛み、体重増加、睡眠障害(特に過眠)、精神の不安定(イライラ感・憂鬱など)といった症状が現れます。
ですから、生理前に便秘症状が現れた際には、該当時期の性行為の有無、便秘以外の症状、生理周期、基礎体温の変化などから総合的に判断する必要があります。婦人科・産婦人科の医師に相談しましょう。
まとめ
いかがでしたか?生理前に便秘症状が現れる原因や仕組み、生理前に便秘症状が現れた際の解消方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
生理前に現れる便秘といった便通異常の症状は、女性の生理・月経の周期に伴って生じる月経前症候群(PMS)の可能性があります。また、日頃から便秘がちの女性の場合は、月経前症候群のほかにも便秘になる原因があり、生理前になると月経前症候群で便秘症状が悪化している可能性もあります。さらには、生理前の便秘症状は、妊娠の可能性を示唆する場合もあるのです。
ですから、単なる便秘と軽く考えるのではなく、日頃から自身の生理周期や基礎体温を把握するように努めることが大切です。
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