弛緩(しかん)性便秘という症状名を聞いたことがあるでしょうか?単に便秘と言えば、排泄物がなかなか出てこない症状のことで、もしかしたら病気として認識していない人もいるかもしれません。
しかしながら、便秘の症状もれっきとした病変の一つであり、単なる便秘と言っても様々なタイプや種類が存在しているのです。そして、便秘のタイプ・種類が複数存在するということは、その解消法についても自ずと違いが生じてきます。
実は、弛緩性便秘は、日本人に発症する便秘の中で最も多いタイプとされています。そこで今回は、数ある種類の便秘の中でも、特に弛緩性便秘について、その症状・原因・解消法などをご紹介したいと思います。
便秘の種類について
そもそも便秘には、どのようなタイプ・種類の便秘が存在するのでしょうか?
弛緩性便秘について深く理解していただくためにも、まずは便秘の種類についての概要を確認しておきましょう。
便秘の定義について
便秘は、排泄物としての便が大腸の中に溜まり続け、何らかの理由によって正常な便の排泄(排便)がなされない状態・症状のことです。
ただし、人には様々な個人差があるように、排泄についても個人差が生じますから、便秘と判断するには個々人の排泄状況を丹念に確認する必要があるとされます。例えば、毎日排便していたとしても、その人に残便感が強く残るようであれば便秘と判断されることもあるのです。
便秘の症状を治療せずに放置していると、腸内環境の悪化や免疫力の低下など身体に対して様々な悪影響が懸念されますので、速やかに治療をしなければなりません。
便秘の種類について
本記事の導入でも触れましたが、便秘にはいくつかのタイプ・種類が存在します。便秘のタイプを、大きく分類すると器質性便秘と機能性便秘に分けられ、機能性便秘はさらに弛緩性便秘・痙攣性便秘・直腸性便秘に分類することができます。
器質性便秘とは?
器質性便秘とは、胃・小腸・大腸など消化器系の臓器の中でも排便に関連する臓器や肛門などに病気や疾患が存在することが原因で、便秘の症状が生じることを言います。
そして、大腸癌や潰瘍性大腸炎、腸閉塞や腸捻転、あるいは子宮筋腫などといった病気が、器質性便秘を生じさせる病気として挙げられます。
ですから、器質性便秘は下剤の服用といった一般的な便秘の治療法では症状の改善が見込めず、便秘症状を改善するには原因疾患の治療を行わなければなりません。
機能性便秘とは?
機能性便秘とは、一般の人がイメージするように、栄養バランスの偏った食生活・不摂生な生活習慣などを原因として、大腸などの腸管の機能が一時的に低下することで便秘症状が生じることを言います。
前述のように機能性便秘は、弛緩性便秘・痙攣性便秘・直腸性便秘に分類することができます。
弛緩性便秘とは?
弛緩性便秘とは、様々な要因から大腸の蠕動運動(ぜん動運動)に関わる筋力が低下、いわば筋肉が弛緩することが原因となって、便を肛門方向に上手く運ぶことができなくなり便秘症状が生じることを言います。
一般的に、ただ「便秘」という場合は、この弛緩性便秘のことを意味している場合が多く、また弛緩性便秘は日本人に最も多く発症するタイプの便秘です。
痙攣性便秘とは?
痙攣性便秘とは、大腸の蠕動運動に関わる筋力に問題はないものの、ストレスなど様々な理由によって自律神経が乱れて筋肉を正常に動かせないことが原因で、便を肛門方向に上手く運ぶことができなくなり便秘症状が生じることを言います。
自律神経の乱れによって大腸が痙攣しているような動きをすることから、痙攣性便秘と呼ばれます。
直腸性便秘とは?
直腸性便秘とは、大腸の蠕動運動に関わる筋肉にも、自律神経にも問題がなく、便が肛門手前の直腸まで運ばれているのに、排便できずに便秘症状を生じることを言います。
直腸性便秘は、便意を我慢し続けたことで便意を感じなくなったり、老化によって便意を感じにくくなったりすることが主な原因とされています。
詳しくは、直腸性便秘の解消方法を知ろう!訓練が必要な場合もある?症状や原因も紹介!を読んでおきましょう。
弛緩性便秘の症状
このように弛緩性便秘は、日本人に最も多く発症するタイプの便秘ですが、具体的にどのような症状が現れるのでしょうか?
そこで、弛緩性便秘の症状について、詳しく見ていきたいと思います。
お腹の違和感を生じる
弛緩性便秘で最もよく見られる症状が、腹部の違和感やお腹の張りです。これは、便が腸内に長く滞留していると、腸内に存在する悪玉菌によって便の腐敗が進むことが原因です。
悪玉菌による便の腐敗が進むと、有害ガスや癌の発生を促進する有害物質が生じますし、悪玉菌の増殖によって善玉菌と悪玉菌の腸内細菌バランスが崩れて腸内環境も悪化します。
したがって、便の腸内での滞留と便の腐敗に伴う有害ガスが腸内に充満することが原因となって、腹部の違和感やお腹の張りを生じるのです。また、便の腐敗の影響で、オナラが通常の場合よりも臭くなるという症状も現れます。
肌トラブルが生じる
また、お腹の違和感と同様に、弛緩性便秘でよく見られる症状の一つが、肌荒れです。これも、腸内の悪玉菌による便の腐敗が原因です。
通常の場合は、悪玉菌の働きで有害ガスや有害物質が生じても、便とともに排出されます。しかしながら、便秘で慢性的に便が腸内に滞留し、便の腐敗に伴う有害ガスや有害物質が腸内に充満していると、大腸の内側の腸壁がこれらを吸収してしまうのです。腸壁から吸収された有害ガスや有害物質は、血液を介して身体の至るところに運ばれ、最終的に肌細胞に悪影響が及びニキビや吹き出物が現れたり、肌荒れが生じます。
このように弛緩性便秘では、肌トラブルが生じることが多いのです。
便が硬くなる
弛緩性便秘では、便が硬くなるという症状も現れます。
そもそも大腸は、栄養素の消化吸収機能の他に、栄養素が吸収された残りカスである食物残渣(しょくもつざんさ)から便を形成し、排便まで貯留する働きをします。そして、この便の形成と貯留の際に、便を排泄するのに適度な硬さとするため、大腸は水分吸収機能も有しているのです。
ですから、肛門手前の直腸や大腸の大半を構成する結腸に便が長く貯留していると、大腸の水分吸収機能によって、次第に便から水分が吸収されて便の水分量が不足し硬くなってしまうのです。
ちなみに、弛緩性便秘になった場合、排便できたとしても硬いコロコロとした便であることが多く、残便感が残る傾向があります。
体臭や口臭が生じる
弛緩性便秘では、肌トラブルと同じようなメカニズムで、体臭や口臭が生じる場合もあります。
有害ガスや有害物質が生じても便とともに排出されるのが通常ですが、便・有害ガス・有害物質が腸内に滞留していると、大腸の内側の腸壁がこれらを吸収してしまいます。そして、腸壁から有害ガスなどのニオイの成分も同時に吸収され、血液を介して汗腺や肺まで運ばれます。
ですから、汗とともにニオイの成分も汗腺から排出されれば体臭が生じますし、肺で呼吸により酸素と二酸化炭素のガス交換をする際に、呼気とともにニオイの成分が排出されれば口臭が生じます。
その他に現れる症状
腸の中に便や有害ガスなどが長く滞留している状態は正常ではありませんから、便秘症状が続くとストレスになります。
そして、ストレスが高まると自律神経が乱れることがあり、自律神経の乱れから血流が悪くなり、むくみ・肩こり・頭痛などといった様々な身体的症状に波及する場合があります。
また、ストレスによって身体的症状だけでなく、イライラや気分の落ち込みといった精神的症状が現れることもあります。
弛緩性便秘の原因
このように弛緩性便秘になると、単に便が排泄されずに腸内に滞留するだけでなく、様々な関連症状が現れます。
それでは、弛緩性便秘となる原因は、どこにあるのでしょうか?弛緩性便秘の原因について、詳しく見ていきたいと思います。
大腸の蠕動運動に関わる筋力の低下
弛緩性便秘の最大の原因は、大腸の蠕動運動に関わる筋力の低下にあります。
大腸の蠕動運動は、筋肉によって大腸を波打つように動かして、便を肛門方向へ押し出す動きのことで、便の形成や円滑な排便のために必要不可欠な運動機能です。
この大腸の蠕動運動に直接関与する筋肉は、大腸の腸壁に存在する平滑筋です。平滑筋は、別名で内臓筋とも呼ばれ、手足を動かす骨格筋など自分の意思で動かせる随意筋ではなく、自分の意思で動かすことのできない不随意筋で自律神経の支配を受けています。
そして、このような平滑筋の筋力が低下して筋肉が弛緩すると、十分な蠕動運動ができずに、結果として便が肛門方向へ押し出されず便秘となってしまうのです。
筋力を低下させる無理なダイエット
一般的に弛緩性便秘は、男性よりも女性に多く見られます。というのも、女性は男性よりも、排便に関わる腹筋が弱いからです。
そもそも直腸に貯留した便を排便する際には、下腹部の腹圧を上昇させて、いきむことが必要になります。そして、この下腹部の腹圧を上昇させるために必要なのが、下腹部の腹筋なのです。
このような身体構造に加えて、女性はダイエットに取り組む傾向があり、食事制限などの無理なダイエットをすることで筋肉が落ちて、筋力が低下している人もいます。無理なダイエットでは、筋肉も栄養不足になりますから、下腹部の腹筋だけでなく、不随意筋の平滑筋も筋力が低下します。
その上、過剰な食事制限をしているならば、便の材料となる食物残渣も少なくなり、便の形成量も少なくなります。
ですから、無理なダイエットは、平滑筋の筋力低下による蠕動運動機能低下、腹筋の筋力低下による排便機能の低下、形成される便の減少を招くのです。
加齢・老化による筋力の低下
一般的に弛緩性便秘は、高齢者に多く見られることも特徴とされています。これは、加齢や老化に伴って、筋力が低下することが理由と考えられています。
筋力が低下する筋肉は手足を動かす骨格筋などの随意筋だけでなく、内臓などを動かす不随意筋であっても筋力が低下します。
そのため、高齢者になると大腸の蠕動運動が正常になされず、便秘となってしまうのです。
内臓下垂(内臓の垂れ下がり)
内臓下垂とは、筋力の低下が主な原因となって、本来あるはずの場所から内臓が下がり、下側に移動してしまう状態のことです。
胃など大腸より上方にあるはずの内臓が、筋力低下によって垂れ下がり胃下垂などの内臓下垂になると、大腸が上から圧迫される状態になります。また、大腸下垂となれば、大腸が大腸自体を圧迫することになります。
大腸が押しつぶされる状態になれば、大腸の正常な蠕動運動を阻害するだけでなく、大腸の血流が悪化して栄養不足になり、大腸の平滑筋の筋力低下にもつながりかねません。
内臓下垂を起こす要因
内臓下垂は、一般的に加齢や老化によって起こりますが、前述のような無理なダイエットによっても生じる可能性があります。また、運動不足あるいは運動不足気味の人にも起こる可能性があります。いわゆるポッコリお腹の人は、内臓下垂の可能性があると言えるでしょう。
便の水分不足
このように弛緩性便秘は、筋力の低下によって正常な大腸の蠕動運動がなされないことに主な原因があります。
このような原因に加えて、便秘症状を強化する要因が大腸の水分吸収機能です。大腸の水分吸収機能によって、滞留した便から水分が吸い取られ、便は徐々に水分不足の状態になっていきます。
水分不足で硬くなった便は、いわゆる宿便となって腸壁にこびりつき、筋力の低下した大腸の蠕動運動では運ぶのが困難になります。
弛緩性便秘の解消方法
それでは、もし弛緩性便秘になってしまったら、どのような対策方法があるのでしょうか?そこで、弛緩性便秘に対する対策法・解消法について、詳しく見ていきたいと思います。
適度な運動をする
弛緩性便秘の主な原因は、大腸の蠕動運動を行う平滑筋の筋力の低下や排便に関わる腹筋などの筋力の低下にありました。
ですから、弛緩性便秘の解消法の一つは、適度な運動をすることで筋肉を鍛えて、筋力アップすることと言えます。
腹筋は随意筋ですから自らの意思で腹筋を鍛えることができますが、大腸の平滑筋は不随意筋ですので自らの意思で鍛えることは困難です。
しかしながら、有酸素運動などの適度な運動が、腸管を刺激して蠕動運動を促す効果があることが判明していて、蠕動運動を正常に働かせることが平滑筋の筋力アップにつながります。また、加齢や老化は避けられませんが、筋肉は高齢であっても鍛えれば筋力アップすることも研究により明らかになっています。
したがって、無理のない範囲で適度な運動をして運動不足解消をすることが、筋力アップにつながり、弛緩性便秘を解消することにつながるのです。
食物繊維を摂取する
弛緩性便秘の解消法の一つとして、食物繊維を摂取することも大切です。
食物繊維は、水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維に分類されますが、弛緩性便秘の解消には特に不溶性食物繊維の摂取が推奨されています。
不溶性食物繊維の摂取
不溶性食物繊維は、豆類、玄米などの穀類、繊維質の多い根菜類に多く含まれています。そして、これらの食べ物は栄養素が胃腸で吸収された後、不溶性食物繊維の部分が食物残渣となって大腸に運ばれます。
不溶性食物繊維はその過程で水分を含んで膨張しますので、その膨張により腸管が刺激されて蠕動運動が促されます。
水溶性食物繊維の摂取
とはいえ、水溶性食物繊維を摂取しなくて良いわけではありません。というのも、水溶性食物繊維は水に溶けてゲル状になり保水力があるので、大腸内での水分吸収を阻害して便の水分を保つ働きをするからです。ちなみに、水溶性食物繊維は、ワカメやコンブなどの海藻類に多く含まれています。
ですから、食物繊維は不溶性と水溶性の両方をバランス良く摂取する必要があり、弛緩性便秘の解消には十分な食物繊維量を確保して食物繊維不足にならないことが重要です。
腸内環境を良好に保つ
弛緩性便秘の対策として、腸内環境を良好に保つことも大切となってきます。
腸内環境が善玉菌優位で良好な状態にあることを腸内フローラと呼びますが、腸内フローラを維持するにはビフィズス菌や乳酸菌をはじめとする善玉菌を含む食品を摂取すると良いでしょう。
善玉菌を含む食品は漬け物・ヨーグルトなどの発酵食品で、合わせて腸内ビフィズス菌のエサとなるオリゴ糖を含む食品(ハチミツなど)を摂取すると高い整腸効果が期待できます。また、善玉菌やオリゴ糖を含むサプリメントを利用しても良いでしょう。
下剤の使用
運動や食事によって便秘症状が改善しない場合は、下剤(便秘薬)によって腸内に滞留した便を排出する必要に迫られる場合もあります。
一般的に市販されている大部分の下剤は、大腸を刺激して蠕動運動を強制的に引き起こす、刺激性下剤と呼ばれる種類のものです。この刺激性下剤は、弛緩性便秘の症状改善に一時的な効果をもたらします。
ただし、下剤の種類は他にもありますので、下剤を使用する際はどのタイプの便秘に有効なのかを確認する必要がありますから注意してください。また、刺激性下剤を長く服用していると、いわゆる下剤依存症になり排便機能を低下させる危険性もありますので留意しておく必要があるでしょう。
腸内洗浄
最近は、便秘症状の改善のために腸内洗浄を実施する病院もあります。
腸内洗浄は、専用機器で温水を体内に注入し、腸内に滞留した便を洗い出す治療法のことで、悪化した腸内細菌バランスをリセットする効果があります。なかなか便秘症状が改善しない場合は、腸内洗浄を検討してみて良いのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?弛緩性便秘の症状・原因・解消法について、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、便秘というと大した病気ではないと思いがちです。しかしながら、便秘症状を放置していると、様々な悪影響が身体に現れます。
弛緩性便秘は、日本人に最も多いタイプの便秘で、その主な原因は大腸の蠕動運動に関わる筋肉の筋力不足にあるとされています。そのため、運動不足にある人には、誰にでも発症する可能性があるのです。
ですから、適度に運動をするなど、弛緩性便秘にならないようにすることが大切と言えるでしょう。
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