生理前になると抑えようもないイライラ感が襲ってきて、周囲の人に八つ当たりしてしまう経験のある女性は少なくないのではないでしょうか?また、奥さんや彼女が急に機嫌が悪くなってしまい、途方にくれてしまった経験をお持ちの男性も少なくないでしょう。
実は、生理前に女性がイライラしてしまうのは、月経前症候群(PMS)と呼ばれる女性に特有の症候群の中に含まれる症状の一つかもしれません。
そこで今回は、女性が生理前になると、どうしてイライラしてしまうのか原因やメカニズムを解き明かすとともに、そのような心身の体調変化と上手く付き合っていくためのイライラ解消法などについて、ご紹介したいと思います。また、本記事が男性が女性に抱く疑問点の解消につながれば幸いです。
月経前症候群(PMS)って何?
月経前症候群(PMS)について、「症候群」と言うからには様々な症状の集まりだと言うことは想像できますが、そもそも月経前症候群(PMS)とは何なのでしょうか?
まずは、月経前症候群に関する基礎的な事項を確認しておこうと思います。
月経前症候群(PMS)の定義について
月経前症候群(PMS)とは、排卵後で月経(生理)前1~2週間程度前から症状が現れて、月経・生理が始まると症状が消失するという、様々な精神的症状や身体的症状の集まりのことを言います。
このような月経前症候群の定義から分かるように、月経前症候群は月経周期・生理周期に伴って、ほぼ毎月のように現れることになります。
月経前症候群で現れる症状は?
月経前症候群で現れる症状は、非常に多岐にわたっていますが、精神的な症状と身体的な症状に大きく分類することができます。
月経前症候群で現れる精神的な症状
月経前症候群で現れる可能性がある精神的な症状は、次のようなものがあります。
- イライラする
- 怒りやすい(攻撃的になる)
- 集中力の低下
- 判断力の低下(優柔不断になる)
- 無気力(やる気が出ない)
- 精神的に疲れやすい(気力や根気が続かない)
- 憂鬱になる(孤独感・不安感を感じる)
月経前症候群で現れる身体的な症状
月経前症候群で現れる可能性がある身体的な症状は、次のようなものがあります。
- 乳房の張り(乳房に痛みが現れる場合も)
- お腹の痛み
- 下腹部の膨満感
- 便秘あるいは下痢
- 全身の疲労感や倦怠感
- 腰痛
- 吐き気やめまい
- 頭痛
- 手足のむくみ
- 過剰な食欲(空腹感)
- 体重増加
- 過剰な眠気(常に眠い)
- 不眠症状
- 肌トラブル(肌荒れ・吹き出物)
現れる症状は個人差が大きい
このように月経前症候群で現れる可能性のある症状は、とても沢山あります。そして、どのような症状が現れるかというのは、個人によって大きな違いがあります。
例えば、ある女性には抑えようのないイライラ感が現れるのに対して、別の女性には無気力感のほうが強く現れるということもあるのです。身体的な症状も同様で、ある女性には過剰な睡眠欲が現れることがあり、別の女性には不眠症状が現れることがあります。
また、前述したような複数の症状が複合的・同時多発的に現れることも珍しくはありません。
月経前症候群(PMS)は、病気なの?
このような月経前症候群の様々な症状が現れる要因として、月経周期・生理周期に伴う女性ホルモンのバランスの変化が関係していると指摘されています。
そのため、月経前症候群で現れる症状それ自体は、女性のホルモンバランスの変化による作用の影響であって病気ではありません。
ただし、月経前症候群の症状が重いことが理由で、女性の仕事などの社会・経済的な能力に明らかな影響が出て損害などが生じる場合は、病気として扱われる場合もあり治療対象にもなります。
月経前不快気分障害(PMDD)
月経前症候群(PMS)と似たような症状として、月経前不快気分障害(PMDD)という疾患があります。
月経前不快気分障害(PMDD)は、月経前症候群(PMS)の症状における精神症状が特に重度になり、日常生活に支障が出る状態のことを言います。具体的には、極度の無気力状態、重度の抑うつ状態、他人への攻撃的言動など自分の感情をコントロールできなくなります。
周囲の人に不快感をもたらすことも自覚していて後悔することで、余計に抑うつ状態に拍車をかける場合もあります。ただし、月経・生理が始まると通常の精神状態を取り戻します。
生理前にイライラする原因とメカニズム
このように月経前症候群では、様々な症状が現れる可能性があります。この様々な症状の中でも、特に多くの女性に現れる症状が、気分がイライラするという精神症状です。
それでは、どうして心がイライラするのでしょうか?生理前にイライラする原因とそのメカニズムについて、解き明かしていきたいと思います。
卵胞ホルモンと黄体ホルモン
女性ホルモンには、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)があります。そして、女性の体内では一度の月経周期・生理周期の期間内で、これらのホルモンのバランスが変化します。
ちなみに、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの主な役割は、次の通りです。
卵胞ホルモンの役割
卵胞ホルモン(エストロゲン)は体内で様々な機能を担っていますが、主要な役割としては女性らしさを形作ることが挙げられます。つまり、女性に特有の乳房・子宮といった身体のパーツを発達させたり、肌質を整える機能があるのです。
また、卵胞ホルモンには血管拡張機能があります。血管を拡張することで放熱しますので、基礎体温を下げる効果をもたらします。
さらに、卵胞ホルモンは自律神経を正常に維持する役割も担っています。そのため、卵胞ホルモンの分泌が減少する女性の更年期には、自律神経が乱れやすく発汗・のぼせ・ほてり・動悸などの自律神経症状が生じやすいのです。
黄体ホルモンの役割
卵胞ホルモンに対して、黄体ホルモン(プロゲステロン)は女性の妊娠に関わる様々な機能を担います。つまり、妊娠に備えるために食欲が増加して栄養や水分を体内に溜めこみ、受精卵を着床させるために子宮内膜を厚くさせます。
また、黄体ホルモンには基礎体温を上昇させる機能があります。というのも、受精卵が着床した場合に受精卵の発育を促すには、体温が通常時より高めである必要があるからです。そのため、受精卵が着床し妊娠すると胎児の発育を促すためにも、黄体ホルモンの分泌量が増えて高めの体温が維持されます。
卵胞ホルモンと黄体ホルモンのバランス変化
前述したように月経前症候群の様々な症状は、月経周期・生理周期に伴う女性ホルモンのバランスの変化に関係しています。
女性の月経周期・生理周期では、排卵を境界として黄体期と呼ばれる期間になります。黄体期とは、排卵から月経・生理までの期間のことを言い、女性の身体が妊娠するための準備をする期間とされています。
そして、黄体期になると黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が増えて、卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が減ります。そのため、女性の体内では黄体ホルモンのホルモン量が卵胞ホルモンのそれを上回るようになります。
したがって、卵胞ホルモンの自律神経を整える働きが低下して自律神経が乱れやすく、普段ならどうでもないことがストレスになるなど精神が不安定な状態になります。さらに、このような女性ホルモンのバランス変化が、様々な影響をもたらすのです。
セロトニンの減少
黄体期に入ると、卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少しますが、それに伴って脳内の神経伝達物質の一つであるセロトニンが減少します。
セロトニンは、精神の安定をもたらす脳内の神経伝達物質とされています。というのも、同じ脳内神経伝達物質で攻撃性を高めたり興奮作用のあるノルアドレナリンやドーパミンの過剰な働きを抑制するのがセロトニンだからです。このようなセロトニンの働きから、セロトニンは幸せホルモンと呼ばれることがあります。ですから、セロトニンの分泌量が多ければ、気持ちや感情が安定します。
このセロトニンの分泌量は、卵胞ホルモンの分泌量とある程度の比例関係が見られることが分かっています。そのため、黄体期に入ることで卵胞ホルモンが減少すると、セロトニンの量も減少してしまい、感情が不安定となってイライラしてしまう要因となるのです。
黄体ホルモンによるインスリン作用の低下
黄体期に入り分泌量が増える黄体ホルモンは、血糖値を下げる働きをするホルモンであるインスリンの働きを低下させます。インスリンの働きが悪くなると、食事をとることで血糖値が急上昇して高血糖状態になってしまいます。
そもそも血液内のブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源ですが、その血液中のブドウ糖濃度である血糖値は高くても低くても人間の身体に害をもたらすので、ホルモンの働きで一定の範囲内に収まるように調整されています。
ですから、血糖値が急上昇をすると、インスリンの働きの低下を量でカバーしようと膵臓が大量のインスリンを分泌してしまいます。すると今度は、大量のインスリンによって血糖値が急降下してしまうのです。
血糖値が低下すると、脳のエネルギー源が不足して脳機能が低下してしまいますから、血糖値を上昇させるホルモンが働きます。その血糖値を上昇させるホルモンの一つがアドレナリンで、攻撃性を高めたり興奮作用があるとされています。
生理前のイライラを増大させる要素
このように女性ホルモンのバランス変化に起因して、イライラという精神症状が現れます。
そして、このようなメカニズムで発生するイライラ感を増大させてしまうブースターのような役割をしてしまう要素が、実はいくつか存在するのです。そこで、イライラ感を増大させてしまう要素について、ご紹介したいと思います。
ストレス
前述のようにセロトニンが減少すると、感情が不安定となってイライラしてしまいます。
このセロトニンの分泌量は、卵胞ホルモンの分泌量との比例関係の他に、ストレスがかかることでも減少することが分かっています。
つまり、人間関係などによって精神的ストレスを感じたり、日常生活で疲労が溜まり身体的ストレスを受けると、セロトニンの分泌量が減ってしまうのです。
したがって、黄体期は自律神経が乱れやすく、普段ならどうでもないことがストレスに感じられてしまいますから、セロトニン不足の要因が重なりイライラ感を増大させてしまうのです。
アルコールの摂取
アルコールを大量に摂取すると、結果として低血糖症になりやすく、血糖値を上昇させるためにアドレナリンが分泌され、精神的に不安定になる可能性があります。
血液中のブドウ糖は、腸で吸収された栄養素が肝臓に運ばれて再合成されたものですが、一方で飲酒をすると肝臓はアルコールの分解もしなくてはなりません。そして、飲酒の際に、ブドウ糖の合成とアルコールの分解のどちらが優先されるかというと、アルコールの分解が優先されるので、飲酒後は低血糖状態に陥りやすいのです。
ですから、生理前にアルコールを大量に飲むと、イライラを増大させかねないのです。
タバコの喫煙
喫煙には、血管を収縮させて血流を悪くする作用があることは良く知られています。血流が悪くなれば、当然ながら脳への血流も悪くなりますので、脳機能が低下してしまいます。
また、血流が悪くなることで身体が冷えて、生理痛の悪化や生理不順を招き、それが悩みとなってストレスになりセロトニン不足につながることもあります。
さらに、ストレス解消として喫煙する人もいるようですが、実は喫煙で解消できるストレスはニコチン依存からのニコチン切れによるストレスや不安感にすぎません。
いずれにしろ、喫煙は悪影響しかありませんので、ご注意ください。
潜在性鉄欠乏性貧血
女性は月経・生理に伴う経血の排出で定期的に出血しますから、貧血になりやすい傾向があります。そして、その貧血の原因が出血による鉄分不足であることが多いのです。
潜在性鉄欠乏性貧血は、鉄欠乏性貧血の前段階の状態のことで、血液検査ではヘモグロビンなどの異常が見られないために見逃されやすいのが特徴です。
しかし、この潜在性鉄欠乏性貧血の症状は、イライラや憂鬱などの精神症状、眠気や頭痛などの身体症状が月経前症候群と共通しているのです。
ですから、潜在性鉄欠乏性貧血の人は、生理前になるとイライラ感が強く現れやすくなるのです。
生理前のイライラの対処方法
それでは生理前にイライラ感に襲われた場合、どのような対策をすれば良いのでしょうか?生理前のイライラを改善するための対処法・対策法について、ご紹介したいと思います。
月経前症候群(PMS)の周期と症状の自覚
月経前症候群(PMS)の周期は、月経周期・生理周期に伴います。ですから、生理予定日や排卵予定日が分かれば、月経前症候群(PMS)の症状が現れる時期も概ね予測できます。
また、月経前症候群(PMS)によって自分に現れる症状について、自覚しておくことも大切です。
このように月経前症候群(PMS)の周期と症状を自覚していれば、月経前症候群(PMS)の症状としてイライラ感が現れても、原因と症状の期間が予め分かっているので自分でも対処がしやすくなります。また、男性にも予め伝えておくと、男性も心の準備が出来て良いかもしれません。
リラックス状態をつくる
月経前症候群(PMS)の症状が現れる黄体期の間は、意識的にリラックスできる環境を整えることもイライラ改善の対策の一つと言えます。
この時期は、意識的に仕事量を減らしたり、帰宅時間を早めたり、予定を詰め込み過ぎないようにコントロールしましょう。
また、マッサージや整体などを受けたり、神経を落ち着かせる効果のあるハーブティーを飲んだりするなど、自分がリラックス効果を感じられる状況に身を置くと良いでしょう。
規則正しい生活習慣
日頃から規則正しい生活をすることが、月経前症候群(PMS)の症状の緩和につながります。十分な睡眠、バランスのとれた食事をすることが必要です。食事の際には鉄分を含んだ食材、特に吸収されやすいヘム鉄を含んだ食材を意識して摂取しておくと、失われがちな鉄分を補充できます。また、月経前症候群(PMS)の症状が現れる時期以外に、適度な運動をしておくことも大切です。
薬剤の服用
月経前症候群(PMS)の症状を緩和するために、薬剤を服用することも対処法の一つです。
低用量ピルの服用
低用量ピルは、経口避妊薬のことで、女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)が配合されたホルモン剤の一種です。
本来の使用目的は避妊ですが、月経周期・生理周期を整えたり、月経前症候群(PMS)の症状緩和や月経痛の緩和などにも効果があるとされています。
ただし、少ないとはいえ副作用の危険もありますから、服用にあたっては婦人科などの病院で相談をしてからが良いでしょう。
漢方薬の服用
東洋医学に基づく自然由来の漢方薬を服用することも、月経前症候群(PMS)の症状を緩和する効果があるとされ、多くの婦人科でも処方されています。
漢方薬は症状に合わせて処方・調合されますので、婦人科の病院や漢方薬局などに相談してみましょう。
まとめ
いかがでしたか?女性の生理前のイライラについて原因・メカニズム・解消法などをご理解いただけたでしょうか?
なかには、生理前の女性のイライラ感を捉えてホルモンザウルスなどという心無い呼び方をする人もいるようです。しかしながら、本記事でご紹介したようにメカニズムを知ってしまえば、人間が子孫を残していく上で必要不可欠な女性のホルモンリズム・ホルモンバランスの変化によってイライラ感がもたらされていると理解できるのではないでしょうか。
ですから、月経前症候群(PMS)が病気でない以上、女性は工夫して上手く付き合っていくより仕方がありません。男性も、パートナーの女性にさり気なく周期を聞くなどして、その期間は寛大な心持ちでいることが大切です。
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