血の中には様々な成分が流れています。生命活動に必要な栄養などを絶えず流れ、私たちの体を支えています。そして、ある成分が減ってしまうと、体にしばし不調をきたすこともあります。
低カルシウム血症はその名の通り、血液中のカルシウム濃度が低くなっている状態です。しばし、重篤な症状を招くこともあり、病態には注意が必要です。初期症状では、その異常に気付きにくいこともあります。
では、低カルシウム血症とはどんな症状を招くのか。またどういったことが原因で起こり、治療はどうすればいいのか。こういったことについてみていくことにしましょう。
低カルシウム血症とは
冒頭でも述べたように、低カルシウム血症(低Ca血症)とは血液中のカルシウム濃度が低下している状態です。具体的な値として補正Ca濃度が8.5〜10mg/dL、もしくはイオン化Ca濃度が1.15〜1.30mmol/Lです。
カルシウムは骨を作る成分ですが、細胞内や血液(普段はアルブミンと結合している)のなかにも存在します。量が少なくなることで、次のような症状を発症します。
一部筋肉の痙攣
カルシウムは骨を作る成分としてイメージがあるかもしれませんが、役割はそれだけではありません。細胞機能を正常化させたり、筋肉の収縮にも重要な役割を持っています。普段、体・筋を動かせるのもカルシウムのおかげなのです。
低カルシウム血症を発症すると、筋肉の収縮に異常をきたすことがあります。このため、筋肉が痙攣を起こし、思うように動かせないということがあります。この症状は低カルシウム血症が軽度の時にみられます。
具体的な症状としてクボステック徴候があります。これは顔面神経を叩くと、鼻やまぶたなどの顔面筋の一時的な痙攣がみられる症状です。病気の目安として使われます。
また、トルソー徴候という症状もみられることがあります。上腕に圧をかけた時、独特の手の形を示す症状で、1つの診断基準となります。
皮膚の乾燥
低カルシウム血症ではしばし、皮膚の乾燥などが起こります。
また、手の先や唇の痺れというような局所に症状が現れることがあります。どちらのケースも症状としては軽度です。
低カルシウム血症の重症例
血液中のCa濃度があまりに低くなってしまうと、痙攣やしびれ等で症状は治りません。重篤な症状として以下のことがあげられます。
テタニー
あまり聞かない名前ですが、筋肉痙攣の一種です。先ほど筋肉の収縮に異常をきたすとお話をしましたが、その重症例です。手指に特徴的な痙攣がみられます。
詳しくは、テタニーの症状とは?原因や兆候、治療方法を理解しよう!発症したときの対処法は?を参考にしてください。
神経性の症状
長期間、低カルシウムの状態が続くと神経の状態にも影響を及ぼし始めます。神経伝達機能の低下を起こしてしまいます。具体的には記憶力の低下、意識混濁。症状が進行するとうつや幻覚などの症状を発症します。
こういった症状はカルシウムを摂取することで解消されます。症状が進行する前に、しびれや痙攣が出た時点できちんとカルシウムを摂取することが大切でしょう。
不整脈
低カルシウム血症では脈拍のリズムに異変が起こる不整脈を発症することがあります。しばし、致死性に発展することがあり、十分な予防が必要でしょう。
詳しくは、不整脈の原因とは?症状や治療方法も合わせて紹介!を読んでおきましょう。
低カルシウム血症の原因
普段の生活をしている中で、カルシウムが不足してしまうということは非常に稀です。
この状態を招いてしまうのは多くの場合、病や薬物などが考えられます。具体的には以下の原因があげられます。
副甲状腺機能低下症
副甲状腺は甲状腺の裏側にあるとても小さな臓器です。米粒ほどのサイズしかありません。しかし、ここからは副甲状腺ホルモンが分泌され、体の生命維持を行なっています。
副甲状腺ホルモン(PTH)はカルシウムの量をコントロールするホルモンです。ホルモン分泌がされれば、カルシウム量が増えるよう作用し、分泌量が減ればカルシウム量は減るように作用します。
例えばホルモンは腎臓に働きかけることで、尿へのカルシウム流出量を減らすことをしています。その他、骨吸収にも関わっています。骨吸収とは破骨細胞により、骨を分解し、カルシウムを放出する現象のことをいいます。
ちなみに、甲状腺ホルモンは代謝に関係する働きをしています。例えば甲状腺機能亢進が起こると、甲状腺ホルモンが多く分泌されるようになり、骨形成・骨吸収が活発に起こるようになります。甲状腺を摘出してしまうような手術を受けると、低カルシウム血症を招くことがあります。
特発性の副甲状腺機能低下症は遺伝的な要素で発症することがあります。副甲状腺が生まれつきなかったり、サイズが小さく、十分な働きがなされていないケースです。
続発性の副甲状腺機能低下症は低カルシウム血症や、先に述べた高リン血症に伴い、ホルモン分泌が過剰になっているために起こります。副甲状腺ホルモン分泌機能に異常をきたし、腎臓に何かしらの病気が隠れていることもあるので注意が必要でしょう。
この甲状腺機能が低下すると、PTH分泌のコントロールが難しくなります。伴って体のカルシウム量のコントロールも難しくなります。その結果、低カルシウム血症を招いてしまうのです。副甲状腺ホルモンはインタクトPTH等を測定し、正常かどうかを探ります。
偽性副甲状腺機能低下症
副甲状腺機能低下症とは少々内容が異なるのが、偽性副甲状腺機能低下症です。これは副甲状腺ホルモン分泌は正常なのだけども、骨や腎といった部位での作用が弱いために、症状を発症してしまう偽性の病気です。
非常に稀な疾患で、日本全体でも患者の数は数百人程度といわれています。病気の発病原因としては家族性、つまり遺伝的な要素が大きいと言われています。家族内に病気を発病している人がいれば、検査を受けた方がいいでしょう。その他、偽性突発性の副甲状腺機能低下症もあります。
偽性偽性副甲状腺機能低下症という症状もあります。偽性偽性という名の通り、一見して偽性甲状腺機能低下症のような症状を発症するものの、カルシウム値や副甲状腺ホルモンの量が正常というケースです。
低マグネシウム血症
その名の通り、血液中のマグネシウム濃度が低下している状態です。マグネシウムは先述べた副甲状腺ホルモンの分泌を促す成分です。不足することで、ホルモンの分泌量が減り、結果として低カルシウム血症を招くことがあります。
そのほか、低マグネシウム血症の症状としてテタニー、不整脈などがみられます。マグネシウムは生命維持に欠かせない成分であるため、普段からきちんと摂取する必要があります。
腎不全
腎機能が低下すると、低カルシウム血症を招くことがあります。腎臓は酵素によってビタミンDが活性した状態である活性型ビタミンDという成分に変化させる役割があります。活性型ビタミンDとは体内のカルシウム量をコントロールする成分です。
具体的には、食事から摂取されたカルシウムを腸管で吸収するのをサポートします。また、活性型は腎臓にある尿細管に作用し、カルシウムの再吸収をサポートします。
慢性腎不全などの腎疾患によって、活性型ビタミンDの産生量が減ると、Ca吸収が減少します。吸収障害を招いてしまうのですね。その結果、低カルシウム血症を招いてしまうのです。
また、糸球体という部分でリンを十分に排出できなくなり、高リン血症を招くことがあります。高リン血症の状態もまた、活性型ビタミンDの産生を妨げてしまいます。
リンが多くなると、体内のカルシウムと結合し、リン酸カルシウムを形成します。これにより、さらにカルシウム量が減り、低カルシウム血症を悪化させてしまいます。
詳しくは、腎不全とは?原因や症状、治療方法を知っておこう!を読んでおきましょう。
ビタミンDの欠乏
先に述べたようにビタミンDは腎臓の働きによって活性型ビタミンDになります。そして、カルシウムの吸収をサポートし、体内のカルシウム量を調整します。その元となるビタミンDの欠乏が起こると低カルシウム血症を招くことがあります。
ビタミンDの欠乏は例えば日光に当たらないなどがあげられます。私たちの皮膚は日光に当たることでビタミンDを産生します。寝たきりの高齢者などは、ビタミンDの欠乏を起こしやすいといえます。
低カルシウム血症の治療
低カルシウム血症ではそれほど深刻な症状になるケースは少なく、なったとしても、予後は良好です。なので、症状が出た時はきちんと治療を受けることが大切です。
治療では次のようなことを行います。
基礎疾患がない場合
先に紹介した低カルシウム血症を招く病気がなく、ただ単にカルシウムが不足していることで症状が起きているようであれば、日常生活からカルシウムを摂取することで症状を治療していきます。
カルシウムのサプリメントを飲んだり、食事から摂取するというのが一般的です。病院でもCa剤・Ca製剤を処方され、それを飲むことで治療していきます。
テタニーがある場合
手先の特有の痙攣があるようであれば、グルコン酸カルシウムというものを静脈注射し、症状を解消していきます。
効果が短いため、半日から1日程度時間をかけて行っていきます。
マグネシウムが不足している場合
低マグネシウム血症を発症すると、低カルシウム血症を招くことがありました。このようなケースでは積極的なマグネシウムの摂取が必要です。
また、きちんと日光にあたるというのも重要な治療法です。
副甲状腺機能低下症を発症している場合
病気により、副甲状腺の機能が低下し、副甲状腺ホルモンの分泌量が少なくなってしまっている場合、活性型ビタミンD製剤の投与をする活性型ビタミンD治療を行うことで、症状を改善していきます。
活性型ビタミンD製剤を投与することで、ビタミンD濃度を上昇させ、血液中のカルシウム濃度の上昇効果が期待できます。医師の指導のもとビタミンD製剤を投与していきます。
また、尿Ca/クレアチニンの比に注意を配る必要があるでしょう。これは腎臓の状態が悪くならないように、また、結石を予防する目的があります。基本的には維持治療となります。
腎不全を発症している場合
腎不全の治療そのものは食事や薬物、また体を十分に休ませる等で透析にならないよう努めるのが基本的な治療法になります。透析になると生活を営むのに支障をきたすことがあるでしょう。
低カルシウム血症に関しては他の病気と同様、カルシウムやビタミンD剤を摂取していき、症状を抑えることをしていきます。食事や薬から摂取していきます。
低カルシウム血症の予防
私生活にそれほど支障をきたさない低カルシウム血症の症状。しかし、体にとって大切なカルシウムが不足していますから、きちんと摂取し、体調を整えたいものです。
では、予防のためにはどういったことができるのでしょうか。
カルシウムを意識して摂取する
病気予防のために最初にできることはカルシウムを意識して摂取するということです。1日のカルシウムの摂取目安量は650mgといわれていますから、これを意識してみましょう。
カルシウムが豊富に含まれている身近な食材としては、牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品。しらす、小魚などの魚類。味噌、豆腐などの大豆食品があります。
日本食を意識して食べればカルシウムの摂取不足はないかもしれませんね。乳製品はお酒のつまみとしてチーズなんかを食べていれば、十分摂取できるでしょう。
日光に当たる
活性型ビタミンDに必要となるビタミンDは日光に当たることで皮膚から産生されます。室内で生活することが多いかもしれませんが、意識して日光に当たるようにしましょう。目安としては1日5分から30分程度。日差しが比較的強い昼間に当たると良いでしょう。日焼けが気になる時は時間を調整して、当たるようにしてくださいね。
高齢者でよく室内で寝ているという人は注意が必要です。ビタミンDの産生がされず、カルシウムの吸収等が低下することがあります。これは骨粗鬆症などの骨の病気を招くリスクを高めます。少しでもいいので、体を動かすよう習慣付けてみましょう。
バランス良く食べて、日光に当たる
低カルシウム血症は些細な症状ですが、体に異変が起きていることを教えてくれています。カルシウムが不足した状態が続けば、様々な部分で異変を起こしてしまうこともあるかもしれませんね。
予防策の基本はバランスの良い食事を食べて、日光に当たるということでしょう。例えば食事では、好きなものばかり食べているとどうしても栄養が偏るものです。また、家にこもっていては、ビタミンD不足が起こってしまうでしょう。
まずは、ご自身の生活習慣を見つめ直し、改善するところがあったら直していくということが大切だと思います。ぜひ、改善していってみてくださいね。
カルシウム不足で起こる病気
低カルシウム血症は悪い生活習慣や病気をきっかけとして発症することがあります。症状は軽度なことが多いですが、カルシウム不足の状態が長く続けば、体に良いことはありません。
では、カルシウム不足が続くとどのようなことが起こるのでしょうか。
骨粗鬆症
カルシウムは骨の成分ですが、不足すれば当然骨は脆くなります。骨粗鬆症は骨の空洞化や強度が下がる病気で、高齢者に好発します。日常的なカルシウム不足に加え、運動不足や寝たきりが病気の原因になることがあります。
その他、ダイエット等で極度な栄養不足状態となることでも発症することがあります。骨は体を支える重要なものですから、きちんとした運動と栄養摂取が病気予防に繋がるでしょう。
その他、体に様々な影響をあたえる
冒頭でも述べたようにカルシウムの役割は骨の形成以外にもあります。神経や筋肉の活動に必要なものですから、不足してしまうとこれら組織にも影響を与えてしまいます。
骨や歯が弱くなったり、体の発育が十分でなかったり。成長期の子供にはカルシウム不足は体を作る上で深刻な問題になることがあります。
大人でも神経過敏症を招くともいわれています。また、高血圧や動脈硬化など生活習慣病との関係も示唆されており、不足するとその症状は全身に及びます。
普段の食事からカルシウムを摂取することはそれほど難しいことではありません。しかし、なんでもすぐに食べられる現代。栄養素を気にして食べることはあまりないかもしれませんよね。
そういったとき、カルシウムなど必要な栄養素が欠乏してしまい、病気を招くことがあります。日々の栄養管理には少しでもいいので気を配るようにしましょう。
まとめ
低カルシウム血症は多くの場合、病気の合併症や薬物によるものが原因として起こります。純粋にカルシウムが少なくて発症することは、あまりありません。
一方で、低カルシウム血症とはいかなくとも、普段からカルシウムの摂取量が少なければ、骨や歯をはじめとする体の部位や、内臓等に影響をあたえる可能性があるでしょう。
小学生のころから牛乳を飲み、身近なカルシウム。これを普段もきちんと摂取するようにしてみましょう。強固な体を作るためには必要な栄養素なのです。
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