血液の循環が悪くなり、全身の組織や臓器に十分な酸素や血液が行き渡らない状態が「ショック」になります。これが大量の出血により生じた状態が「出血性ショック」と呼ばれ、これにより生命に危機が生じる「状態」を指す言葉になります。
病名ではないので注意しましょう。では、この出血性ショックについて説明をしていきます。
出血性ショックの原因
出血性ショックの原因には、外傷によるものから内科疾患から起こりうるもの、内臓系とは異なり子宮の病気が原因で引き起こされるものなど様々です。
下記に詳しく説明していきます。
出血性ショックの要因
まず、出血性ショックは何に分類される状態かを説明します。ショックの原因には、出血や脱水による血液量の減少と心臓のポンプの機能の低下などが挙げられます。
前者には、循環血液量減少性ショックや出血性ショック、熱傷性ショックといったショックの種類があります。
後者は心原性ショックがあります。それぞれ症状や状態が異なります。
顕性と不顕性
怪我による大量出血や胃潰瘍や静脈瘤破裂などの消化管の大きな血管からの大量の出血、大動脈瘤からの出血、子宮外妊娠破裂など様々な体内での大量出血が主な原因となります。出血の仕方は、吐血(口から血を吐く)と下血(肛門から出血する)の2つを含む顕性と、子宮外妊娠破裂などの不顕性の2種類があります。
全身を循環する血液量は体重の約8%と言われていますが、全血液量の約20%以上の血液量が減少するとショック症状が出現します。
出血性ショックの症状
このショックには「ショック5P徴候」と言われるものがあります。「P」はそれぞれを英語に訳した際の頭文字になります。
それが、皮膚の蒼白(pallor)、発汗・冷汗(perspiration)、肉体的・精神的虚脱(prostration)、脈拍蝕知不能・脈拍微弱(pulseless)、呼吸不全(pulmonary Insufficiency)になります。
これらを押さえつつ、初期症状ではどういった症状が出現するのか、出血性ショックが進行した場合にはどうなるのかを見ていきましょう。
初期症状
皮膚症状は、蒼白、冷汗、皮膚の冷感、湿潤が生じます。脈は、頻脈となり脈が速く、弱くなるといった徐脈の状態になります。徐脈は状態の悪化を示しており、更に早期の対応が必要になります。
また、呼吸は早く浅くなり(頻呼吸)、呼吸不全を引き起こします。心拍出量が減少し、血圧が低下していきますが、それを補うように心拍数が増加し、末梢血管が収縮していきます。これらに加え、虚脱もみられます。虚脱とは、脳の血流量が減少することで引き起こされる無欲・無関心・活動量低下などといった肉体的・精神的な落ち込みのことを言います。この虚脱した状態からそのまま意識が消失することもあると言われています。
その他に、CRT(capillary refill time memo1)の遅延も見られます。CRTとは、爪の圧迫により末梢血管再充填時間の事を示し、これが遅延している場合は指先の血流が不良となり、爪の色が白くなるといった循環障害が生じている可能性があります。以上の様な症状は循環血液量の15~30%の出血で見られます。このような循環障害が生じていけば、皮膚は全体的に冷却されて冷感が生じ、蒼白に見えるようになります。
冷汗は、上記で述べたように血圧が変動することに対して血圧を維持するように交感神経が過剰に亢進してしまい発汗量が増える結果、生じる症状です。交感神経が過剰に亢進するほか、循環血液量が減少すると腎蔵内の血液量も減少し、尿量が減少したり、口渇状態にもなります。
ショック状態が進行するとどうなるか
出血性ショックの状態が長く続くということは、全身に循環する血流量が低下してしまうということになります。
これにより、心拍出量が減少して血圧が低下し、脈拍の蝕知も不可能になります。血圧が低下するということは脳へ血流を送る圧力も減り、その血液量も減るということで、脳への血流量も減少してしまうため意識障害をきたして意識朦朧状態となります。
そして、ぐったりとし、自力で動くことが困難な状態にまでなります。意識朦朧となることで不安な状態や不穏状態、攻撃的になったり非協力的になるといった症状が生じます。これがそのまま放置されることになれば、意識レベルは昏睡状態となりますこのような意識障害が生じる前兆として生あくびをすることもあります。
血液の循環不全により、酸素が運搬される量も左右されるため、呼吸状態が不安定となり低酸素血症を引き起こす可能性もあります。更に、酸素を必要としない嫌気性アシドーシスとなり、過呼吸を引き起こします。なぜ、過呼吸になるのか、血中のpHを保持するために二酸化炭素(CO2)の排出を増やそうと過度に酸素を吸い込んでしまうためです。その他、筋組織は低酸素状態になるため、筋力も低下します。
なお、組織が酸欠状態に陥ると、今度は極めて重度な乳酸アシドーシスを引き起こします。これは、酸欠状態になることで体内に過剰に乳酸が産出されることで生じます。この乳酸アシドーシスは、血中の乳酸値が上昇し、代謝性アシドーシスも引き起こします。血液はアルカリ性と酸性の度合いが平衡に保持されている状態なのですが、そもそもこのアシドーシスは、血液の酸性度が非常に高くなって血中のpHが偏っている状態を言います。
アシドーシスにもいろいろありますが、ここで言う代謝性アシドーシスは、血液中の過剰な酸や血液中の重炭酸塩の減少が原因で生じるとされており、症状としては、嘔気・嘔吐・易疲労感・呼吸が速く深くなることが挙げられます。
体内の血液量が大量に減ることで更に過度の脱水状態にも陥ります。そして多量の出血が続くと多臓器不全となり、死に至るといった生命に関わるケースもあります。
これらの他に、DIC(全身の血管の中で血が固まる)と呼ばれる病態を引き起こすことや、多臓器不全も生じます。ショックから助かることができた後にも様々な全身の臓器の機能低下などがみられ、集中的な治療をしばらく継続しなければならないことが多いです。
出血性ショックの検査・診断
出血性ショックを診断する医師は救急科専門医となります。
出血性ショックの場合は、特定の病気の名前ではなく、状態を示すものになるため、出血の原因が消化器系であれば消化器科専門医、心疾患系が原因であれば心臓血管外科専門医と連携をとりながら治療を行っていく必要があります。
血圧測定
最初の診断は血圧が低下しているかどうかを見ていきます。
この時、視診と触診も同時に行います。血圧測定以外に、パルスオキシメーター(サチュレイション)や心電図のモニターを装着して脈拍やSpO2(体内の酸素量を測る)、心拍出量なども計測します。
血液検査
出血の程度や全身の臓器の状態を把握するための検査です。
画像検査
出血している部位が把握しきれていない場合に、レントゲン(X線)、CT、内視鏡などの画像検査を行うことがあります。
レントゲン検査は、心疾患、嚥下、胸部・腹部などの他臓器内での出血や吐血・下血・喀血(気管や呼吸器気管の出血)、腹水、腸閉塞(イレウス。吐糞と口から便が出る症状が出現する)を鑑別するために使用されます。
循環血液量が不足したり血圧が変動するため、出血性ショックを引き起こしている間に脳梗塞などの脳血管疾患を呈する可能性があります。そういった場合はCTやMRIを利用した脳画像診断は必須になります。
出血の原因が不明である場合には、胃カメラや大腸カメラなどの内視鏡検査が施行されることが多いですが、これが困難な場合には開腹手術が施行されることがあります。
超音波検査
出血性ショックは緊急を要する状態なので、こういった場合に使用されるFAST(focused assessment with sonography for trauma)を使用します。これにより、体内のどこがどのように出血しているかを検査します。
出血性ショックの治療
治療方法は、ショックの原因により異なります。出血性ショックは、障害が生じて起きるものなので緊急を要する場面で生じます。よって、治療は出血部位の治療とその他の対処が同時に並行して行われます。
主に、最初に出血量を推定して輸液や輸血が施行されます。では、治療内容について述べていきます。
傷口の止血
原因となっている出血をまず止めなければ、出血性ショックの症状は進行してしまいます。と言っても、素人の腕と知識で傷口の処置を行っては間違った事をしてしまう可能性があります。病院に着くまではとりあえず応急処置を施します。
出血部位を布で押し付けるか、または局部の周囲を布や紐などで結んで圧迫し、出血が少しでも止まるようにしましょう。また、少しでも出血が遅延するように出血部位を心臓よりも高い位置に置くようにしましょう。
開腹手術
開腹手術が施行されるケースは、腹腔内出血による出血性ショックの場合です。緊急を要する場合に用いられます。
輸液
ショックと判断された場合に、輸液の前に酸素吸入器を装着して酸素を体内へ投与します。そして、末梢静脈路を確保した上で輸液が行われます。最初の輸液では、臓器や組織の代謝を保持し、失っていた酸素の運搬機能を改善させることで低血圧から引き起こされる最悪の状態を防ぐために行っています。
輸液を施行することで根本的に出血性ショックが改善されるわけではないので、輸液を行いながら出血性ショックの鑑別を行う必要があり、それに応じて早急に対応をしていかなければなりません。
輸液で使用される物は、乳酸リンゲル液などの細胞外液補充液が用いられ、急速輸液が行われます。なぜ、この液体なのかと言いますと、維持する輸液と比較すると血管内に貯留する割合が極めて高く、減少した循環血液量で引き起こされる症状に対応できるからです。これにより、緊急を要する臨床現場で使われる輸液製剤としても最も高頻度に利用されると言われています。
しかし、この輸液処置は成人の場合は容易に可能ですが、小児や高齢者の場合や成人でも心停止している状態では、末梢静脈路の確保が困難となります。そういった際には骨髄内輸液が施されます。
まとめ
これまでの観点からも、検査や治療の専門性や輸血用ストックのことなどを考慮すると、救命救急センターのような高度医療機関などの適切な病院を判断していくことが最適ではあります。
しかし、緊急を要する状態なので救命のためにも、素早く治療を施せるよう救急車も病院も近いところを優先すると良いでしょう。