怖い病気というイメージのある腎不全ですが、一口に腎不全といっても急性や慢性があり、原因となる病気や症状、治療法もさまざまです。
急性の場合は、治療により完治することが多いものですが、慢性になると完治は難しく、薬物療法のほかに、食事療法、透析療法などにより対処するという方法がとられます。
しかし突然、慢性腎不全になるといったことはめずらしく、原因となる糖尿病や高血圧などの生活習慣病のコントロールや、早めの治療によって慢性化するのを防ぐことができます。
腎臓の主な4つの働き
そら豆のような形で、大人のこぶし大の大きさ、腰の上の部分の背中側に左右に2個ある腎臓は、私たちの体の中で非常に大切な働きをしています。
特に重要なのが以下の4つの働きです。まずは腎臓の役割を知りましょう。
有害物質、老廃物の排出
腎臓には動脈から常に大量の血液が流れ込み、血流の中にある有害物質をろ過し、尿として排泄するという役割があります。
有害物質とは、食事から摂る栄養素が体内で代謝された後に残るものです。例えば、肉や魚などのたんぱく質は、体内で代謝されると尿素や尿酸、クレアチニンといったものに分解されます。
こうしたものが対外に排出されず血液中にたまると、尿毒症などの病気の原因となります。そこで、腎臓が絶え間なく血液をろ過、有害物質を含んだ尿を生産し、膀胱へと運んでいるのです。
体内イオンの調節
私たちの体液には、ナトリウムやカリウム、カルシウムといったイオンが常に一定の割合で存在しています。
体液に含まれる各イオンの割合は、細胞が生きいくのに常に最適なバランスである必要がありますが、腎臓はこの割合を調整する役割を果たしています。
腎臓がこれらの排出量を調整することで、イオンバランスが最適な状態に保たれています。
血圧の調節
血液が常に円滑に循環するように、血圧の調整をしています。
血圧が下がり腎臓への血流が減少すると、レニンというホルモンを分泌し、これが血圧を上げる役割を果たします。
ホルモンの生産、ビタミンの活性化
造血を促すホルモンを生産し、血液を作る骨髄に働きかけます。
また、カルシウムを体内に吸収させるために必要なビタミンDを活性化させてくれます。どちらも、常に健康で丈夫な体でありつづけるために、必要な働きです。
腎不全は大きく2種類に分けられます
腎不全は、大きく急性腎不全と慢性腎不全の2種類に分けられます。
急性腎不全は、急激に腎臓の働きが低下して尿が少なくなる、まったく出なくなるなどの症状が起こりますが、治療により治癒する可能性が大きいものです。
一方で慢性腎不全は、ゆっくりと進行するもので、初期のうちは自覚症状が少なく、末期にになるまで症状が出ないのが特徴ですが、多くの場合、むくみや疲労感、食欲不振、吐き気といった症状なので、見過ごされてしまう場合もあります。
慢性腎不全になると治療により治癒することは難しく、薬や食事療法でできる限り進行を遅らせてから、透析療法へ移行するという対処が行われます。
急性腎不全の原因と治療
急性腎不全は、障害の起こる場所や原因により、さらに以下の3つの種類に分けられます。尿が出なくなるほかに、むくみや吐き気、疲労感などの症状が出ます。
腎前性と腎後性の急性腎不全は、原因となった疾患を除くことで治療することができますが、腎性の場合は慢性腎不全にならないよう、しっかりと直すことが大切です。
腎前性
腎臓自体に病気があるわけでなく、外傷による大量出血や心筋梗塞などで心臓の機能が低下し、腎臓に血液が流れ込んでこなくなったため、一時的に起こるものです。
原因となった外傷などを治療することで治りますが、心筋梗塞などの場合は、それ自体で命を落とすこともあります。
腎後性
腫瘍や前立腺の肥大などにより、尿管が圧迫されて腎臓で作った尿を体外へ排出することができなくなったときに起こります。
原因となった腫瘍などを取り除き、尿管の圧迫をなくすことで治療できます。
腎性
抗がん剤や抗生剤などの薬によるアレルギーや、過激で急激な運動などが原因で、腎臓にある尿細管という組織が壊死を起こした場合に起こります。
薬や食事療法、重症の場合は一時的に透析療法などを行うことによって完治を目指します。慢性腎不全に移行しないように、時間をかけて慎重に治療をすることが大切で、数か月は安静にする必要がある場合もあります。
慢性腎不全とは?
慢性腎不全とは、慢性腎不全という名前の病気があるわけではありません。
数か月から数年をかけて進行したいろいろな腎臓病が慢性化し、血液をろ過し、有害物質を尿として排出するという腎臓本来の機能が著しく低下した状態を指します。
おおむね腎臓の機能が通常の1/3程度になると、慢性腎不全と診断されます。
慢性腎不全では、投薬、食事療法、運動療法などで可能な限り進行を遅らせて、透析療法を始めるまでの時間をできるだけ長くするということがひとつの目標になります。
透析療法は、一度始めると腎移植などを受けない限り、やめることはできません。
慢性腎不全の原因
慢性腎不全に至る可能性が高い主な腎臓病には、糖尿病性腎症、腎硬化、慢性糸球体腎炎などがあります。
このうち、糖尿病性腎症はその名の通り、糖尿病がそもそもの原因となって合併症として腎臓病になるもので、同様に腎硬化症は高血圧が原因となります。
健康診断などで、これらが見つかった人はきちんと治すことで、慢性腎不全の予防を心がけましょう。
慢性糸球体腎炎は、原因がまだあまり解明されておらず自覚症状もないので、健康診断で見つかることの多い病気です。以下、それぞれについて原因と治療法を詳しく見ていきましょう。
糖尿病性腎症の原因と症状
慢性腎不全となり透析療法を受ける人の中で、糖尿病性腎症がそもそもの原因である人が、もっとも多い割合を占めています。
糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度が慢性的に高い状態にある病気で、原因として遺伝的にブドウ糖の濃度を下げるインスリンの働きが悪い場合になる1型糖尿病と、肥満や飲酒、運動不足などの生活習慣が原因で起こる2型糖尿病があります。
どちらの場合も、食事療法やインスリン注射により血糖値をコントロールすることが大切ですが、血糖値のコントロールがうまくいかず、高い状態が長期間続くことで、血管が硬くなり、合併症として糖尿病性腎症へと移行します。
初期の場合は自覚症状がないことが多く、病状が進行してから、むくみ、胸苦しさ、食欲不振、吐き気などの症状があらわれます。
慢性腎不全になる前に治療ができるだけに、できる限り糖尿病のコントロールを行い、慢性腎不全を予防したいものです。
糖尿病性腎症の治療
まずは血糖のコントロールが必要です。糖尿病の治療と同じように、食事療法、運動療法で生活習慣を改善し、原因となった血糖のコントロールを行います。
糖尿病の食事療法に、慢性腎不全の食事療法も加わるので、食事療法が複雑で難しいものになる場合もあります。
適度な運動も血糖のコントロールに効果的ですが、腎臓への影響も考慮して、症状に合わせた運動療法が勧められます。主治医とよく相談しながら 治療を継続することが大切です。
腎硬化症の原因と症状
高血圧が原因で起こる腎不全ですが、良性と悪性の2種類があります。
冒頭でも述べたように、腎臓は血液のろ過が主な役割のため、動脈から毛細血管まで多くの血管が存在し、大量の血液が流れ込んでいます。
したがって血圧との関係は非常に密接で、長期間高血圧が続くことで、腎臓の毛細血管が硬くなり腎臓の働きが低下し、腎不全へと移行します。
これが良性腎硬化症と呼ばれるもので、腎硬化症の多くはこのタイプです。自覚症状がない場合も多くありますが、初期には肩こりや頭痛、症状が進行するとむくみや食欲不振、貧血といった症状が起こります。
これに対し、悪性腎硬化症は急激な高血圧により起こるもので、頭痛や吐き気、けいれんなどが起こり、腎不全のみならずくも膜下出血や心不全を伴い、大変危険な状態になることが多いものです。
腎硬化症の治療
まずは、血圧を下げることが大切です。
糖尿病性腎症と同じように、食事療法、運動療法で生活習慣の改善をし、血圧が下がらない場合には降圧剤などの薬を用いる場合もあります。
慢性糸球体腎炎の原因と症状
溶血性連鎖球菌などの感染によって扁桃腺やのどの腫れを発端とした急性糸球体腎炎が慢性に移行したものと、健康診断の尿検査などで尿たんぱくや血尿が発見され、1年以上続くものが慢性糸球体腎炎と診断されます。
どちらも詳しい原因がわかっていません。
一般的に病原体などが体に侵入した場合、体が病原体を攻撃するために抗体を作ります。侵入した病原体は抗原と呼ばれますが、抗原と抗体が何らかの理由で複合体となって糸球体にとりつき、炎症を起こすのではないかとされています。
現在、慢性糸球体腎炎を起こす抗原としてわかっているものはわずかで、症状などにより様々なタイプに分けられます。
どれも自覚症状がない場合が多いようですが、むくみや関節痛、吐き気などがある場合もあります。
慢性糸球体腎炎の治療
タイプや病状に合わせて、投薬、生活指導、食事療法などが行われます。
慢性糸球体腎炎では、腎臓にできる限り負担をかけないようにすることが大切で、生活の中でも仕事量やストレスを減らすように努力することが求められます。
まとめ
腎不全には、急性腎不全と慢性腎不全の2種類があります。急性腎不全は治る見込みがありますが、慢性腎不全になると完治は望めません。
急性腎不全は、原因となった疾患を治療するなどして、慢性腎不全に至らないように、しっかりと治療することが何より大切です。
慢性腎不全は、生活習慣病の合併症として起こることが多いので、そもそもの原因となった糖尿病や高血圧の治療をしっかりと行い、生活習慣を改善して、できる限り腎臓に負担をかけないようにします。
原因となった病気や病状により、ひとりひとり治療法が異なるので、主治医とよく相談することが大切です。