低酸素血症とはその名の通り、血液に酸素が足りなくなってしまう状態を言います。あまり聞きなれない病名ですが、この病気にかかると体のさまざまな不調の原因となり最悪の場合、死亡することもある危険な症状なのです。大きな病気にかかったり、悪化する前に早めに対策をとる必要があります。
では低酸素血症になるとどのような症状が引き起こるのでしょうか?また、その原因と治療法を紹介します。
低酸素血症とは
わたしたちにとって酸素はなくてはならないものですが、その酸素が体の血液中や細胞に行きわたらないと体にさまざまな不調を引き起こす原因となってしまいます。
低酸素血症の原因は一つではなく、環境や慢性的な病気からかかると言われているので今回の記事を読んで対処法や治療法を知っておきましょう!
低酸素血症について
低酸素血症とは動脈に流れる血液中の酸素が不足した状態のことをいいます。「低酸素」の状態とは、酸素を取り込むための呼吸、酸素を運ぶ役割の血液、血液を循環させるポンプの役割を持つ環境の3つのいずれかに何らかの原因によって異常がみられる状態のことです。
健康な方だと動脈に流れる血液中の酸素(PaO2)が88±7mmHg(Torr)の酸素(O2)分圧が保たれていますが、上記の数値以下だと低酸素血症の状態とされています。また、PaO2が60mmHg(Torr)以下の人は呼吸不全と診断されるそうです。60から70mmHg(Torr)以下だと準呼吸不全状態と診断されます。
※「mmHg(Torr)」とは圧力の単位のことを指します。またPaO2とは動脈の血液中の酸素のことで動脈血中酸素分圧と呼ばれます。
低酸素血症の症状
呼吸困難
呼吸困難とは呼吸しにくい状態のことをいい、原因は呼吸器と循環器にあるとされています。主に気道内異物や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺炎、胸膜炎、心不全、弁膜症、先天性心疾患、虚血性心疾患などから呼吸困難を引き起こすとされていますがその一方、低酸素血症は頚動脈小体の刺激を介して換気量を増大することによって息苦しさを感じるようなので直接的に呼吸困難を生じているわけではないようです。
また低酸素血症になると必ず呼吸困難を感じるわけではなくその不快感も小さいと言われています。
言語障害
低酸素血症が原因で声が出にくくなったり、「ラ行」のような声が継続的に出て呂律が回らず正しい発音が出来なくなる場合があります。これは呼吸困難(息苦しさ)から気道の中に体液がたまるからだとされています。
この状態になると心不全を起こしている可能性が高いとされていますし、また言語障害は脳卒中などの難病の場合もあるので早めに病院で検査を受けるようにしましょう。
意識障害
急性低酸素血症になると意識障害が引き起こる可能性があります。対処するのは難しいですが、意識のある時に息苦しかったり言語・視力障害がみられるようであればすぐに病院に行くようにしましょう。
視力障害
低酸素血症により、血液中の酸素濃度が低下すると一時的に視力低下が起こる場合があります。これは網膜などの目の視野を感じる部分にたくさんの毛細血管が通り酸素が支給されているからです。
失明までには至りませんが、気になるようであれば眼科で診断を受けましょう。
チアノーゼ
目に見える分かりやすい症状としてチアノーゼがあげられます。チアノーゼとは血液中の酸素が減少し、二酸化炭素が増加することによって皮膚や粘膜が青紫色に変色します。唇や爪、手足の先などに目立ってあらわれるため、気付いたら病院へ行くのがよいでしょう。
他にも手足の冷感や肝機能障害、腎機能障害があげられており、低酸素血症の症状は一貫しておらずさまざまな不調を引き起こします。軽度であればすぐに回復しますが、脳に低酸素が生じた場合は中枢神経の働きに障害をもたらせたり最悪の場合、死に至るケースもあるので早期発見が重要になってきます。
低酸素血症の原因とは?
低酸素血症の原因は環境とさまざまな病気によって引き起こるとされています。気付いた時には重症化しやすいため、早めの対処が必要です。ここでは4つの原因を紹介します。
環境によって引き起こる
低酸素血症が引き起こる原因の一つが低酸素環境下があげられます。例えば高地などの空気の薄い場所、閉め切った部屋でストーブを焚いている状況などでこのような環境下にならないよう、登山やストーブが必要な寒い時期では体調の変化に注意が必要です。
特に高山病にかかった方は低酸素血症の症状が現れる可能性が高いので、登山したり高地に行く場合は高山病の対策をするようにしましょう。急性高山病と慢性高山病がありますが、初期症状として頭痛やめまい、食欲不振、ふらつきなどがあり、重度になると吐き気や嘔吐、食欲不振、発熱、下痢、高地脳症、高地肺水腫が引き起こります。
初期症状がみられるようでしたら無理はせず、休憩や下山し症状が改善しないようであれば病院へ行くようにしましょう。
呼吸中枢障害
呼吸中枢とは呼吸運動を調節する中枢のことで延髄の網様体にあります。肺胞内に空気を取り入れる吸息をコントロールする吸息と肺胞内のガスを外に出す呼気を調整する呼気中枢に分かれておりそれらに障害がある場合、低酸素血症を起こす原因となります。
呼吸中枢障害の原因は先天性のものと事故などで脳に大きなダメージを受けた場合に発生しますが先天性のものだと先天性中枢低換気症候群と肺胞低換気症候群の2つがあります。どちらとも難病に指定されているので対処療法をとる必要があります。
呼吸中枢障害の症状は睡眠中に呼吸が浅くなったり、ひどくなると呼吸が止まってしまう場合があります。この場合、酸素がいきわたらず死亡することもあるので息苦しさやいびきに変化があるようでしたらすぐに病院へ行くようにしましょう。
神経筋障害
神経筋障害とは、神経筋疾患とも呼ばれており脊髄の前角に存在する運動神経や神経筋接合部、筋肉細胞のいずれかの異常によって運動障害をもたらす病気です。症状は筋力低下により手足の麻痺や力が入らずダランとしてしまう弛緩性麻痺や筋肉が痩せる筋委縮が起こります。また、代表的な疾患として脊髄小脳変性症や筋委縮性側索硬化症、重症筋無力症、筋ジストロフィー、多発性筋炎、パーキンソン病、ウイルスや菌による神経炎や脊髄炎などといったものがあります。
症状がある場合は早めに神経内科か免疫内科で診断を受けましょう。
慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患はCOPDとも呼ばれ、タバコの煙などの有毒物質を長期間吸い続けることによって肺の血液に酸素を送る肺胞に炎症を引き起こします。生活習慣病の一つとされていますが、慢性閉塞性肺疾患の患者数は年々増加傾向にあり、2020年までに全世界の死亡原因の第3位になると推測されているようです。
発症する原因の約90%は喫煙で残りの10%は大気汚染や粉塵、受動喫煙、蒸気や刺激性物質、煙などの化学物質によるものです。喫煙者の20~30%が慢性閉塞性肺疾患になると言われており、症状として慢性の咳や痰と労作性の息切れ、頭痛などですが進行がとてもゆっくりなため、重症化するまで気付きづらいのが特徴です。
悪化すると呼吸不全や気管支炎、低酸素血症が起こる場合があるので不調を感じたら早めに検査するようにしましょう。
低酸素血症の検査方法と治療方法
低酸素血症は症状によってさまざまな治療方法があります。ここでは一般的に行われる検査方法と、4つの治療方法を紹介します。
低酸素血症の検査方法
低酸素血症の検査には動脈血ガス分析方法があり、動脈血中に含まれる酸素分圧(PaO2)や二酸化炭素分圧(PaCO2)、水素イオン濃度(pH)などを測定します。この方法により、低酸素血症や高炭酸ガス血症、呼吸不全、アシドーシス、アルカローシスなどの病気を検査することができます。
動脈血ガス分析の検査方法は手首の撓骨動脈や鼡径部の大腿静脈、上腕動脈などから細い注射針を使って動脈血液を採取し、血液ガス自動分析装置にかけて分析します。この検査により、PaO2が88±7mmHg(Torr)以下だと低酸素血症、60mmHg(Torr)以下だと呼吸不全、pHが7.45以上だとアルカローシス、pHが7.35以下だとアシドーシスと診断されます。
低酸素血症の治療方法
・酸素吸入
酸素吸入は吸入酸素濃度(FiO2)を増加させて動脈血中に含まれる酸素分圧(PaO2)を正常に保つことを目的としているため高地などの酸素の薄い場所や、閉め切った部屋でストーブを焚いている状況などの環境が原因で低酸素血症になった場合、酸素を吸入することがとても効果的です。
慢性的な症状がある場合は、自宅に酸素供給機を設置し24時間いつでも酸素供給することのできる在宅酸素療法という治療方法もあります。
・十分な睡眠を取り、安静にする
必要な酸素量の減少を抑えるため、自宅で座ったり横になったりするなど安静にすることが大切です。水分も補給し、十分な睡眠を取るようにしましょう。
・腹式呼吸
背筋を伸ばしてお腹を膨らませるイメージで鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹をへこましながら口からゆっくり息を吐き出す腹式呼吸で症状が改善されることがあります。日ごろから意識して行ってみましょう。
・アスピリンの服用
アスピリンは血液をさらさらにする効果があると言われていますが、低酸素血症の症状によってはアスピリンを処方される場合があります。副作用もあるので、使用する際は医師の指示に従い用法、容量をまもりましょう。
まとめ
低酸素血症は症状が軽い場合、適切な対処をすれば治る病気ですがその軽い症状から気付かず放置すると重症化し、最悪な場合死亡するケースもある危険な病気です。特に登山が趣味で高い所に長時間いることの多い方は注意が必要です。
心臓や脳神経自体が不調を起こしている場合もあるので少しでも今回紹介した症状があるようでしたら病院で診察するようにしましょう。重症化する前に早めに気付き、早期治療することが何よりも大切です。