先天性の生まれつきであったり、後天性の骨折の治癒後に関節部や骨の一部が変形し、腕や足などの身体の一部一部がいびつな変形を起こしていることはありませんか?もし、そういった症状が見られる場合は、「偽関節」の可能性が考えられます。
では、この偽関節とは一体どういったものなのか、症状や原因、治療法や予防法等について説明をしていきます。
偽関節とは?その症状
偽関節とは、先天性のものもありますが、多くは交通事故や転倒時、スポーツ事故など何らかの外力によって骨折した後に、骨折部に形成されるものです。
遷延性治癒骨折とも言われ、偽関節の形成後に感染を引き起こすものもあれば、他に問題が生じないという場合もあります。
偽関節の状態
最初に述べたように、何らの原因によって折れた骨と骨との間には、軟部組織の損傷や炎症、腫瘍が生じるなどの反応が起きることがあります。これらによって、きれいに骨癒合されず、不完全となった状態となります。
つまり、骨折後の後遺症として偽関節が形成されるということです。こういったことから、偽関節は難治性骨折や遷延性治癒骨折とも呼ばれています。
骨が癒合していなくても動く
骨折後は、骨と骨が癒合しておらず、その骨折部が関節の様に動きます。それが偽関節の症状の特徴です。関節に腫脹が生じたり、介在するものが生じると動きが鈍くなることもあります。
つまり、関節がないというのに、関節の様な可動性をもって動くということで、「偽」関節と言われるのです。
骨折部位の変形による痛み
骨折部を完全に安定させていないと、骨折した部位が変形する可能性があります。骨折した部分の関節に変形が悪化すると、その部分に炎症や痛みが生じます。人間は、痛みによって力が入りにくくなり、動きも制限されます。むしろ、「力を入れる」という意欲が減退して行動に制限がでてきてしまい、歩行や日常生活に大きな影響がでます。
特に、舟状骨(しゅうじょうこつ)の骨折では偽関節になる可能性が高いため、骨折後は注意が必要です。舟状骨は、手関節に属する手根骨と言われる8つの骨の内、親指側に存在する骨であり、手根骨の中ではとても重要とされる骨です。なるべく偽関節にならないように、予防法を押えておきましょう。
一方、鎖骨骨折時の偽関節は、形成されても痛みは生じにくく、可動域自体も影響されにくいため、偽関節が形成されたとしても保存療法で良いでしょう。気になる方は、整形外科医に相談しましょう。
感染や麻痺
以上の症状を生じることで、そこに何らかの対処をせずにそのまま放置していると、損傷部位が細菌などに感染する可能性があります。
この状態によっては、更に偽関節の症状が悪化したり、最悪、関節の麻痺や骨髄炎を引き起こすリスクもあります。偽関節(難治性骨折、遷延性治癒骨折)と、この感染症や骨髄炎を合併した場合、感染性偽関節と言われます。
足の短縮
足の骨折で偽関節が生じると、足の長さが短くなります。偽関節が生じずとも、骨折をした時点で、骨片が散るため、その分、足が短くなることがあります。
よって、足の長さに左右差が生じ、歩行障害に繋がる可能性があります。状態によっては、リハビリテーションでの治療が必要となります。
偽関節の好発部位
偽関節にも形成されやすい部位があります。一体、どういった部位が形成されやすいのかをチェックし、偽関節が形成されにくいように注意していきましょう。
骨癒合が完了する期間は骨折部位や年齢、性別、その人の全身状態によって左右されますが、平均期間は長い部位で約12週間つまり、おおよそ3ヶ月となります。
もし、その期間が過ぎても骨折した部位に関節の様な動きが出てしまったり、動かなかった骨が動く場合や、違和感、いびつな形が見られた際には、整形外科の医師に相談しましょう。もしかすると、偽関節の可能性があります。
長管骨(ちょうかんこつ)
長管骨は、円筒状の長い骨です。肩から肘に位置する上腕骨、肘から手首に位置する尺骨(しゃっこつ)と橈骨(とうこつ)、股関節から膝に位置する大腿骨、膝から足首に位置する脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)があります。
よって、前腕骨骨幹部骨折や上腕骨遠位端骨折・近位端骨折、鎖骨骨折、手にある舟状骨(しゅうじょうこつ)の骨折、大腿骨骨幹部や遠位端・近位端骨折など、それぞれに関与する骨折には注意が必要です。
足のスネや付け根
足のスネの方の骨折や大腿骨の骨頭の骨折は骨癒合がされにくく、偽関節が形成されやすくなります。
骨幹部(こっかんぶ)は骨の中間ですが、骨の端ともなると、骨折により動脈や静脈の血管が切れてしまうことや、軟部組織が障害を受けて骨と骨の間に介在してしまうためです。
偽関節の原因
偽関節の原因は様々です。「骨折=偽関節」ではありません。骨折自体は、転倒時や交通事故で受けやすい外傷になるため、歩行時や乗り物に乗車している時は特に注意をしましょう。
ちなみに、これは後天性の偽関節になりますが、先天性のものもあるため、これについても説明を加えます。では、何故、偽関節が形成されるのか、原因をみていきましょう。
どういった外傷を受けるかで左右される
骨折の仕方には、粉砕骨折や開放骨折など、様々なパターンがあります。偽関節は、これらの中でも開放骨折をした時に形成されやすいです。
開放骨折では、骨が皮膚から飛び出し、骨が目に見えるような骨折の仕方をします。開放骨折により、折れた骨同士が仮骨形成はされるものの、骨癒合が不完全になりやすいことで、偽関節を形成する原因となります。
それだけではなく、開放骨折の場合は細菌に感染しやすく、術後であっても創部が感染しやすいです。これにより、骨髄炎を引き起こすなど、他の合併症に繋がることもあります。
開放骨折については、開放骨折とは?症状や治療法、応急処置について!を参考にしてください!
骨癒合が不十分である場合
術後に骨の固定が不安定な場合、偽関節が形成されやすいです。
完全骨折や粉砕骨折により骨片の欠損が顕著に多いケースなど、骨の癒合が難しく、骨癒合が不完全な場合にも形成されやすくなります。
その他の局所的要因
血行不良といった血流障害や、軟部組織の介在、内分泌の異常、栄養障害、骨折した当人の体質の他、骨折部の固定期間が短期間であることや治療の経過が不良であるといったものが挙げられます。
これらの要因により、血腫が流出したり、骨折した部位に圧迫力とは別の外力がかかることで、骨癒合の進行が妨げられます。これらが原因となり、骨折部が元の形に戻らず骨が不完全となり、偽関節が形成されます。
先天性の場合
生まれつき、先天性に発症すると言っても、生後しばらく経過した後に発覚することが多いとされています。先天性の病気として、先天性下腿偽関節症があり、これは全体の約10~20万人に1人の確立で発症します。発症する可能性としては、極めて稀です。
では、どういったパターンで発症する可能性が高いのかと言いますと、神経線維腫症や線維性骨異形成症などの疾患を患いながら、それに合併して偽関節を形成されるパターンになります。但し、中には、合併症ではなく偽関節が単独で形成されるという場合もあります。
偽関節の検査・診断
問診、視診、触診と、外観からの検査に加え、内部を視る検査も行います。
では、どういった検査が行われるか、簡単に紹介していきます。
画像検査
単純X線(レントゲン)検査、CT検査、MRI検査といった画像検査にて、骨折の経過を確認し、偽関節が形成されていないかなども診ます。
また、既往歴に他の障害を患っていた場合、そこの確認もするために過去の画像も確認することがあります。これらの情報は、検査や治療を開始するに当たって重要な情報となり得ます。
骨スキャン
骨スキャンは、骨折した部位が癒合する能力はどの程度、残存しているのかを調べるための検査になります。
つまり、骨の代謝が亢進しているのか減弱しているのかを確認できるということです。それがわかるのは、放射性物質のテクネチウムという物質が、ハイドロキシアバタイトという骨組織表面に存在する活発な物質に集積するためです。
偽関節の治療法
偽関節の治療法には幾つかの方法があります。超音波を用いた音波骨折治療や赤外線を使用する方法があります。
その他、代表的な治療法として自家骨移植やイリザロフ法といった手術があります。基本的には手術が適応されます。では、手術をメインに簡単に紹介をしていきます。
イリザロフ法
低身長の改善のために用いられていました。これは、鋼線(こうせん)を用いて使用する部位を固定するものです。
使用される部位は、偽関節になってしまった部位や、細菌感染を引き起こした部位、細菌感染などにより壊死を引き起こしてしまった部位など、状態が悪くなった骨の部位です。その骨を取り除き、鋼線を通して固定するという方法になります。なお、手術後にはリハビリが必要です。
自家骨移植術
として紹介されています。これは、受傷者自身の身体の骨の一部を取り出し、偽関節の部分に移すという移植手術になります。移植する骨の一部は、正常な骨に限ります。
この際に、仮骨形成を少しでも促すために、血管も移植する場合があります。
新しい骨移植法
骨折治癒促進療法の1つにRIA((Reamer Irrigator Aspirator)systemという新しい骨移植法があります。これは、RIA systemは、手術器具のことを言います。この手術器具は、骨折をした方の健常な方の大腿骨髄腔内(足の太ももの骨の中)に挿入して、髄腔の内側から大量の骨を採取するという新しい器具になります。
これを利用することで、移植に必要な骨が大量に得ることができます。これにより、重度の骨欠損に対しての骨移移植手術の治療結果が改善されていると報告されています。
・日本で最も利用されている病院
この方法は、神戸大学医学部整形外科では日本国内で最も利用されています。日本では2013年に導入され、まだ歴史の浅い治療法になります。2016年7月では、日本全国で18施設が導入しており、まだ利用されている施設はごくわずかとなっています。
神戸大学医学部整形外科では、難治性骨折と骨髄炎を呈しており、大きな骨欠損を伴っている状態を適応対象としており、良い治療成績を残しています。
・なぜ、新しい骨移植法なのか
なぜ、自家骨移植術やその他の手術ではなくこの方法を利用するのか、それについて説明をします。骨折受傷時、難治性骨折や感染性偽関節を呈している時、骨髄炎で感染部の骨の切除を試行した後、いずれにおいても大きな骨欠損を生じます。
ここで、自身の骨盤から骨を採取して骨欠損部に当てるという通常の自家骨移植術を行っても間に合わないです。この時に行う他の術は、骨延長術や血管柄付き骨移植になります。前者は、創外固定術を長期間行うため、長い創外固定の器具を装着することになります。
後者は、足を大幅に切開して、膝から踵の間に伸びる腓骨という細長い骨を取り出して移植する方法です。以前まではこの2つの方法しか対処法はありませんでしたが、新しい音移植法を用いることで、身体への負担が大幅に軽減します。
骨・血管再生療法
この治療法は、骨折後、偽関節も形成し長期間の治療を行っても難治である場合に行われます。
自身の血液中から骨や血管の元となる細胞に分化する能力があるとされる、元々の細胞(CD34陽性細胞)を切り取り、難治している骨に移植するという方法です。これは、現在ではまだ研究段階となっており、神戸大学医学部整形外科の難治骨折治療で様々な研究がされています。
現段階では、安全性も高く、良い研究結果が報告されており、日本骨折治療学会においても、高い評価を得ています。
超音波による音波骨折治療法
超音波による治療は、骨折治癒促進法の1つです。保険が適応されており、日本では最も良く使う治療法です。神戸大学整形外科では、日本に初めてこの超音波骨折治療法を導入したとしています。神戸大学整形外科は、超音波骨折治療法を用いた治療実績も実施症例数も多く、日本では最も歴史が深いです。研究も多く実施されています。
偽関節を呈している難治性骨折では、基本的に手術が適応されますが、このような音波骨折治療法を用いることで、骨折治癒が促進され、骨癒合が可能な場合があります。つまり、身体にメスを入れる様な手術を行う必要がなくなるとことです。手術を施行した方も手術後に、より早く、より確実に骨癒合し治癒するように音波骨折治療を行う場合があります。
超音波は、効果的と言われていますが、100%全ての方に効果が見られるものではなく、個人差があります。
炭酸ガス療法
この治療法も骨折治癒促進療法の1つとして、神戸大学医学部整形外科にて臨床での研究が行われています。世界中では、この病院のみ行われています。この方法を用いることで血流の促進を促し、筋活動にプラスの作用を促す効果が期待されています。
骨折後のリハビリテーションの進行を更に良くする方法として考案されており、臨床研究が行われている段階です。今後、期待される治療法であり、骨・血管再生療法と同様、日本骨折治療学会では高く評価されています。
偽関節の予防法
先天性の偽関節は防ぎようがありませんが、骨折後など後天性であれば、難治化する前に予防ができます。
では、どのような事に気をつけると良いのかを紹介していきます。
喫煙をしない!
タバコや有害物質が発生しやすいとされる電子タバコは、身体に有害です。よく耳にするのは、発癌物質が入っており、癌(ガン)を発症しやすいことや、脳血管障害を発症しやすくなるといった点です。
実は、これらだけではなく、骨や関節等の整形外科系の疾患にも大きく関係しています。もちろん、自身が喫煙する能動的喫煙も、他者が吐いた煙を吸ってしまう受動的喫煙も双方ともに、身体へ影響が及びます。特に、副流煙を吸う受動的喫煙の方が害は大きいため、喫煙する側も、しない側も気をつける必要があります。
喫煙に関しては、様々な研究結果が報告されています。中でも、椎体固定術後の癒合不全や偽関節を形成する可能性が、喫煙者が非喫煙者の約3~4倍になると報告されている研究もあります。
自己免疫疾患を保有している場合は要注意!
エイズや蕁麻疹、膠原病や糖尿病などの自己免疫疾患や内分泌機能異常症などを保有している方は特に注意が必要です。こういった方は、自己免疫能力が低下しているため、感染を引き起こしやすい状態になっています。
つまり、骨折部位の治癒がされにくくなる上に、感染を引き起こすことで更に骨癒合が妨げられるということです。この場合、骨折の治療だけでなく、その病気の治療もしっかりと行っていく必要があります。
介護する側にも注意が必要!
偽関節を形成してしまうか、しないかは、骨折後にどういった生活の仕方をするのかが重要となります。骨折後はまだ骨が不安定な状態であり、仮骨形成がされる段階なため、偽関節を形成されやすい段階になります。骨折後、治療に入る前も治療の後も十分に気を付けましょう。
例えば、骨折術後に生活している中で予測不能のタイミングで衝撃を受ける時などです。介護中に骨折者がベッドから移動する時や、立ち上がる時の注意はもちろん、歩行中のつまづきや転倒、物にぶつかる等といった事がないように、介助する事が大切です。一緒に連れ添う方も、骨折部位の症状の変化を確認しながら接していくと良いでしょう。
まとめ
骨折をする人の中には、腫れたり青くなってはいるものの痛みが無くて骨折していることに全く気がつかなかったという方もいます。
骨折時に正しい治療がなされていないと、更に偽関節が形成される可能性が高くなります。偽関節が形成されることで生活に制限が出る場合もあるため、怪我をするような事が起きた場合には、痛み等がなくとも早急に整形外科を受診しましょう。
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