酸欠症状は正式には酸素欠乏症と呼ばれ、酸素濃度が18%未満の環境に置かれた際、人に現れる症状を指します。高い山に登った時や深い地下室に下りた時、なんとなく息が吸いづらく頭が重いな、と感じた経験はありませんか。
このような外的空気環境の変化だけではなく、私たちの心身の変調に呼応した体の内的環境の変化によって、酸素の欠乏状態が生じる事があります。重症化すると命さえ脅かしかねない、この酸欠状態についてここで確認していきましょう。
人の体と酸素の関係
私たちの体は呼吸を介して絶えず空気中の酸素を取り入れ、それを血液にのせて生命活動を行う全身の細胞に送り出しています。しかし空気中の酸素濃度の低下や、日頃からの浅い呼吸や貧血状態による体内への酸素供給不足があると、さまざまな症状を引き起こします。
ここで注意すべきは、酸素はわずかな供給不足であっても、時に致命的・不可逆的(元に戻らない)なダメージを体にもたらすという点です。 酸素不足に対し最も影響を受けやすいのは、脳の大脳皮質です。これは脳がその機能を維持するために、実に全身の約25%にも及ぶ大量の酸素を必要とするためです。
したがって人体に必要な酸素供給が成されない環境下では、酸素濃度レベルの低下に応じ、脳に壊滅的な機能障害が生じる恐れがあります。適切な対応が遅れると、脳は機能低下から機能喪失を経て、最終的には脳細胞の破壊をきたしてしまいます。道で倒れた人に必死の救命措置を行うのは、一刻も早く体に必要な酸素を供給するためなのです。
酸素欠乏が生じやすい環境
では私たちをとりまくどのような環境が、酸素欠乏を招くおそれがあるのでしょうか。
一般に以下の場所では、酸欠の起こるリスクをがあることを知っておかれるとよいでしょう。
・バス、満員電車
バスや電車など他の空間でもそうですが、狭い締め切った空間に大勢の人数がいる場合酸欠が引き起こりやすくなります。特に深夜バスや都会の満員電車などは、酸欠になってしまう人が発生しやすくなります。
満員の状態で電車が長時間ストップしてしまうこともありますので立っている姿勢の人は余計に酸欠の症状になりやすくなります。バスや電車は途中で自分でドアを開けて外の空気を自由に吸うことも出来ませんし、精神的にもストレスを強く感じてしまいパニック障害につながりやすいことでも酸欠の症状が現れやすくなります。
一度満員電車などでパニックになってしまうと、そのストレスで電車やバスになかなか乗れない体質になってしまう人も少なくありません。ストレスを感じてしまうことで自律神経が崩れてしまうので体調を崩しやすくなってしまいます。精神状態により通常に呼吸が行えなくなるので結果的に酸欠の症状が発生します。
・キッチン、締め切った室内
日常的には閉め切った空間で大勢が過ごす、あるいは火を使うなどの状況で酸素不足が生じることが考えられます。
窓のない部屋での長時間の会議や換気効率の悪い場所での調理などは、あくびや頭痛が起きる前にこまめな空気の入れ替えを心掛けたいものです。
特殊業務に従事する方や旅先で未知の自然環境に足を踏み入れる方の場合は、非日常的な以下の環境についても意識しておかれる必要があるかもしれません。自宅でのキッチンなどの空間では基本的には普段から使用する空間なので換気不足になってしまう事は少ないかと思います。
しかし、慣れない場所や普段とは違う場所での料理などの場合は換気不足になってしまうことがあります。コテージや会社の給湯室など換気をし忘れることで酸欠につながってしまう事が考えられます。
特に火を使う場合や夏場は気温の影響で酸欠になりやすいので注意しましょう。
・井戸、洞窟、窪地
井戸・地下室・窪地などの低地では、充満していたガスに知らぬうちにさらされたり、自然界で生じる予測できない化学反応に遭ったりするおそれがあります。
元々酸素の薄いことに加えてその間環境下での作業やガスの吸い込みで中毒症状を起こしてしまう事もあります。しっかり換気を行うための風などを送り込みながら作業を行うようにしましょう。
基本的に周囲の地面よりも下に沈んでいるところの空気は酸素よりも重い気体が沈んで溜まっている可能性が高いので酸素が薄くなってしまうことを知っておきましょう。
・タンク、マンホール
例えば沼地でのメタンガス湧出や、マンホール内での微生物の酸素消費による酸素不足など、思いもよらぬところで酸素濃度が低下している場合があります。
窪地や井戸などよりも高いの濃度のガスが発生しやすく、酸素よりもガスが重いので足元などの下の部分は更に酸素は薄くなります。
・高山など高いところ
逆に標高が高いところでも気圧が低くなり空気が薄くなってしまうことで酸欠になりますくなります。富士山などの3000mを超える標高の山の登山では、頂上の空気の濃度は平地の地上の60%程の量に低下します。
更にそこでの激しい運動により普段よりも多くの酸素を必要としています。その結果酸欠の症状が色濃く発生してしまい、素早い対処を必要とする高山病を発症します。
元々貧血気味の人や血中のヘモグロビンの量が少ない人は高山病になりやすいと言われています。また高地の環境に順応していない状態でいきなり登る弾丸登山やオーバーペースでの行動で余計に酸欠が起きやすくなります。
また、朝日を山頂で眺めるために山小屋などで宿泊する場合は狭い空間にぎゅうぎゅう詰めに宿泊者がいる場合もあります。この環境での宿泊に慣れない人はこの状況にストレスを感じてしまい、身体や神経が休まらず酸欠の症状が起きてしまうこともあります。
・野菜・穀物・木材などの貯蔵庫や倉庫
また野菜や穀物・木材の貯蔵庫暗室では、光合成による酸素の生成より植物の呼吸による酸素消費が上回るため、相対的な酸素不足が庫内に生じていることがあります。
基本的に貯蔵庫などは日光が差さない日陰になっているので涼しいこともあり酸欠になかなか気づかない事もあります。在庫管理など長時間滞在してしまうこともある場所でもありますので、いつの間にか酸欠になってしまわないように注意しましょう。
・サウナ、お風呂
お風呂なども熱気により酸素が薄く酸欠になってしまうことが多くなっています。特にサウナや入浴中などは水蒸気が非常に多いことと、血行が良くなっていて酸素を普段よりも多く必要としているのに酸素が通常よりも少ないために酸欠になりやすくなっています。
サウナでは我慢比べなどがよく行われますが、長時間のサウナでの滞在は汗も大量にかき酸素も不足してしまい血液がドロドロになってしまう事で酸欠と合わせて脱水症状も発症し頭痛が引き起こったりします。
特に肉体の疲労時や飲酒後は失神してしまう危険性も高くなっています。十分注意しましょう。実際サウナや入浴は長時間すれば効果が高いわけではありません。温泉でも泉質によって湯あたりを起こしてしまうこともありますし、サウナも10〜15分の時間での利用が最も効果的とされています。長時間の利用は逆効果にもつながりますので注意しましょう。
知らぬ間に起きている体内の酸素欠乏
前述の外的環境における酸素濃度の低下とは別に、私たちの体の酸素の取り入れ・運搬能力の問題や生活習慣による影響で、必要な酸素を十分に供給できていない状態があります。
浅い呼吸
学業や家事・仕事で余裕のない毎日を送っていたり、日頃からストレスが高く休んでも緊張をほぐせないといった状況はありませんか。ストレスにさらされることの多い現代人の呼吸はとかく浅く速くなりがちです。
パソコンを使ってのデスクワークが続くと、どうしても猫背になり口呼吸が中心となることが多いようです。十分な酸素を効率よく体に取りこむという点では、気がついた時に腹式呼吸を意識なさるとよいでしょう。
心肺機能が影響し、体内の酸素吸収率が少ないと酸欠になりやすくなります。心肺機能が弱く浅い呼吸でも酸欠にはなりやすくなるので、運動不足等の場合は軽い運動を行って肺活量を増やしていきましょう。
貧血
貧血にはさまざまな種類がありますが、その多くは体内で鉄分が不足して起こる鉄欠乏性貧血だといわれます。
酸素運搬を担う赤血球中のヘモグロビンはその生成過程で鉄分を必要とするため、鉄不足は全身への十分な酸素供給を妨げてしまいます。結果として肺や心臓が不足分の酸素を補おうと過剰に働き、息切れ、動悸、めまい、疲れやすさが現れるのです。
とりわけ女性は男性に比べて月経による出血、妊娠、出産、児への授乳など個々のライフステージにおいて鉄需要を増す時期があるうえ、ダイエットを試みる方も多く鉄不足に陥りやすいことがわかっています。
食事から鉄分を補給する際に注意したいのは食材に鉄分が含まれていたとしてもヘム鉄と非ヘム鉄の2種類の鉄分があるために、非ヘム鉄を摂取してしまった場合は殆ど身体に吸収されない事がある点です。お肉や醤油などの食材には吸収されるヘム鉄が含まれていますが野菜ななどに含まれているのは非ヘム鉄でそのままでは身体に吸収されません。
ダイエットなどで野菜から意識して鉄分を摂取する場合は、ビタミンCをあわせて摂ることで体内でヘム鉄に変換することが出来ますので、食べ合わせも意識していいましょう。
喫煙
喫煙者が吸い込むたばこの煙には、一酸化炭素が4%程度含まれています。
この一酸化炭素は血中でヘモグロビンと結合する性質がきわめて強く、一酸化炭素ヘモグロビンを形成し、身体をめぐるとやがて肺から排出されます。
このため本来行われるべき酸素とヘモグロビンの結合が妨げられ、喫煙者は慢性的な酸欠状態を起こしてしまうのです。
酸欠による症状
酸素濃度レベルの低下に応じて、軽症から致死的なものまでさまざまな症状が現れます。血中では、酸素濃度の低下、二酸化炭素濃度の上昇、酸性度(PH)の変化が見られます。
不調に気づいたら早急な対応が必要です。
軽度の初期症状について
・あくび、頭痛、だるさ、めまい、吐き気、息切れ、動悸、集中力の低下、眠気
初期の症状では単体ではなかなか酸欠の症状とは感じにくい症状でもあります。少し体調が悪いのかな?と感じる程度の症状になります。少し休むと回復する事が多く、また問題となっているその環境から脱すればすぐに回復するものでもあります。
特に治療などを必要とする必要はなく、しっかり新鮮な酸素を吸うことで十分です。長期的にこの症状を放置しているとさらに重度の症状に繋がっていきます。
危険度の高い重度の症状
・筋力低下、顔面蒼白、チアノーゼ、嘔吐、意識消失、昏睡、けいれん、呼吸停止
酸素が欠乏した状態が長期間続くと、めまい、息切れ、肩こり、冷え、むくみ、疲れやすさなどの症状が慢性化するおそれがあります。また眼疾患、脳梗塞などのリスクを高める場合があるので、放置せず適切な治療を受けましょう。
応急処置の方法としては、まず安静にすること、締め付けを無くすこと、温めることの3点を行うことが必要になります。新鮮な空気が吸えて安心して休める環境に一時身を置きましょう。
次に身体を締め付けているベルトやゴム製の締め付けの強い着衣を緩めて血行を良くしていきます。最後に洋服やあれば毛布などをかぶせてあげて、身体を温めて血行を促進させていきます。上着などをかけてあげることは安心感を持たせてリラックスさせてあげる効果もあります。
もし具合が悪い場合はそばに誰かが居てあげると、更に安心して回復に向かうことが出来ます。
酸欠を防ぐ対処法
体に必要な酸素を十分にとりこめるよう、環境整備と生活習慣の改善に努めましょう。
- こまめに換気を行う
- 作業中の姿勢に留意し腹式呼吸を意識する
- リラックスできる運動・ストレッチを行う
- 鉄分・ビタミンCが豊富な食事を摂る
- 節煙・禁煙に努める
ゆっくり鼻から息を吸いながら腹をふくらませ、口から吐きながら腹をへこませる腹式呼吸は酸素を効率的に取り入れられるだけでなく、緊張状態を和らげる効果も期待できます。可能であれば休み時間などに、静かな場所でそっと目を閉じて10回程度行ってみてください。
また好きな曲にあわせ身体をゆらす、両腕を軽く曲げ後方にそらし胸郭を開くなど、ほんのわずかな動きが凝り固まった体を解きほぐす助けになります。ご自分に合った気持ち良いリラックス法を探してみてください。
適正な姿勢を保ち深い呼吸を行うには、横隔膜や種々の背筋・腹筋群の協働が必要です。屋内外を問わず1日15分程度のストレッチや軽い筋肉トレーニングを行う事は、姿勢・呼吸の改善いずれに対しても効果が期待できます。体力や体調に応じ、無理のないものから取り入れてみてはいかがでしょうか。
鉄分不足は採血データなどで明らかにならない限り、自分ではなかなか把握できないものです。したがって普段から鉄分が豊富な食品を、吸収を高めるビタミンCや動物性たんぱく質とともに意識的に摂ることが大切です。
また、造血効果のあるビタミンB12,ビタミンB6、葉酸も必要な栄養素です。日常生活のなかで吸収の良いヘム鉄が豊富な動物性食品をはじめ、一品に偏らぬ多種類の食材をあわせて摂ることがバランスの良い食生活の基本となります。
貧血の改善によい食品
- レバー(牛・豚・鶏)豚もも肉 卵 あさり まぐろ かつお いわし 鮭 牛乳
- ひじき 大豆 いちご 菜の花 小松菜 キャベツ ほうれん草 ブロッコリー
喫煙や過度な飲酒はビタミンを破壊する
せっかくバランスのいい食事を摂っていても、喫煙をしてしまうと非ヘム鉄をヘム鉄に変換するための大事なビタミンCが大量に消費されてしまいます。さらに喫煙は血管を収縮させるので、血行が悪くなり酸素が十分に身体を循環せずに酸欠や貧血になりやすくなります。
飲酒は適度に飲む分にはストレスの発散にもなり有効なものではありますが、飲みすぎてしまった場合には、逆に体内に入ったアルコールやアセトアルデヒドを無毒化するために大量のビタミンが必要となります。
特に肌の健康や粘膜の修復、免疫力などを高めるビタミンBを消費するので注意しましょう。飲酒前にビタミンB1を補給することなどを行うといいでしょう。
まとめ
・体に必要な酸素供給が行われないとさまざまな酸欠症状が生じ
重症化すると命を脅かす場合があります。
・酸素の少ない環境では、こまめな換気を心がけましょう。
・浅い呼吸や貧血、喫煙は、慢性的な酸欠状態をまねくため
生活習慣の改善が必要です。
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