人一倍汗をかいてしまう、多汗症に悩まされている人は多く、200人に1人は多汗症、とも言われています。「あの人、いつも汗かいてる……」。そんなささやきが周囲から聞こえてくるたび、余計にだくだくと流れる汗。
周囲に体臭で迷惑をかけているのでは、と気になって、ますます汗が出てきてしまう。そんな悪循環に悩まされる人もあるようです。一体、多汗症の原因は何なのでしょうか。また、多汗症の治療法についても紹介していきます。
◆なぜ人間は汗をかくの?
なぜ、人間は汗をかくのでしょうか?
ニワトリなどの鳥類や、蛇、カエルなどの両生類は汗腺を持たず、汗をかきません。
こんなにも発汗するのは、哺乳類の中でも人間かウマくらいで、同じ哺乳類のイヌやネコでも、肉球にしか汗をかかないといいます。
その理由は、主に、体温調節のためです。
汗が蒸発すると、気化熱によって皮膚の表面の熱を放出し、体温が下がります。そのおかげで、上がりすぎた体温を適度に下げ、一定に保っているのです。
この仕組みは、辛いものや刺激のあるものを食べたときにも働きます。辛いものを食べると体温が高くなるため、体温調節のために汗をかきます。
辛口のカレーを食べた時に、額から汗がこぼれ落ちるのは、このためです。
また、緊張が発汗を促すことがあり、主に手の平や足の裏、脇の下に汗をかきます。よく、ハラハラ・ドキドキの状況の時に、「手に汗を握る」という表現をすることがありますが、実際に、汗をかくわけですね。
◆汗をかくメカニズム
汗をかく器官のことを汗腺といい、その汗腺には「エクリン腺」と「アポクリン腺」の2つがあります。
○エクリン腺
200万~500万個あるといわれるエクリン腺は、全身の皮膚に広がっており、これによって効率よく体温を下げることができます。
その数は人種によって違いがあり、寒い国で暮らす人種ほど、エクリン腺の数は少なくなります。フィリピン人だと280万個、日本人なら約230万個なのに対して、ロシア人は180万個だといわれます。
この汗腺は、生まれてから3年以内にその機能が確定するため、子どもの汗腺を発達させて体温調節機能を高めたいなら、冷房の効いた部屋で過ごさせるより、汗をかかせた方がよいようです。「かわいい子には汗をかかせよ」といったところでしょうか?
なお、エクリン腺由来の汗の成分は、99%以上が水分であり、ニオイの元になる成分はわずかです。
○アポクリン腺
「アポクリン腺」は、脇の下・陰部・肛門・耳の中などにのみある汗腺です。毛穴にある皮脂の分泌をする腺ともつながっているため、水分以外にも、脂肪・タンパク質・糖質・アンモニアなどが多く分泌され、ニオイのもととなってしまいます。
これらの汗は、発汗機能をつかさどる交感神経がコントロールしています。
◆多汗症の原因は?
多汗症とは、この交感神経に異常が生じ、汗が止まらなくなってしまった状態を言います。多汗症を引き起こす主な原因を、いくつか紹介しましょう。
○体質
肥満になると、分厚い皮下脂肪が体熱の放出を防ぎ、汗をかく原因になります。
遺伝で太りやすい体質だったり、代謝が活発な場合には、汗をかきやすくなります。
○糖尿病
発汗に加えて、喉がよく乾いたり、頻繁にトイレに行く、などの傾向がある場合には、糖尿病かもしれません。
糖尿病になると、神経障害が生じ、発汗をつかさどる交感神経がダメージを受けてしまうことがあるのです。
○カフェインやニコチンのとりすぎ
コーヒーやチョコレート、緑茶や栄養ドリンクなど、カフェインが多く含まれているものをたくさん摂っていると、体温をコントロールしている交感神経に異常が生じ、多汗症を引き起こしてしまいます。
また、喫煙で体内にニコチンを摂取することも、交感神経を活発にする原因となります。
○不安やストレス
多汗症は精神的な緊張とも深い関係があり、不安になるような未来をイメージしたり、あがり症の人が人前でプレゼンをして緊張したりすると、心拍数が上がります。
血圧の上昇によって、体温が上がったように脳が判断して、汗をかいて体温を下げようとするのです。
これによって交感神経が過敏になると、自律神経失調症と呼ばれる状態になってしまいます。
○更年期障害
加齢にともなって現れる更年期障害は、ホルモンバランスの乱れを引き起こし、交感神経がうまく働かなくなってしまいます。
更年期を迎えた女性の4割から8割は、汗をかきやすくなったと実感しています。
○バセドウ病
バセドウ病とは、体内の細胞の代謝を促す甲状腺ホルモンが分泌過剰に陥り、代謝が異常に高まった状態です。
こうなると、食事の量が増えたり、急激に体重が減ったり、暑がりになって大量に発汗したりします。詳しくは、バセドウ病の初期症状とは?チェックする方法を紹介!を参考にしてください!
◆多汗症の中でも多い、手掌多汗症の特徴
「手掌多汗症」とは、汗をかきやすい多汗症でも多く、手のひらに汗をかきやすい多汗症です。「しゅしょうたかんしょう」と読みます。
手の平は汗腺が最も多いため、手汗がしたたり落ちるほどになってしまって、タッチパネル式のスマートフォンやタブレット端末が反応しなくなったりします。
手掌多汗症は、思春期に始まる人が多いようですが、もっと幼い時からという人もあります。手汗のすごい人は、足の裏からの汗も同時に出ています。
○手汗の量で3段階
手掌多汗症と一口に言っても、手汗がどれくらい出ているかによって、3つの段階があります。
・しっとり手汗
手の平が湿り気を帯び、触ったら汗ばんでいると分かる。汗玉ができるほどではないが、光が当たると手汗がキラキラと光る。
・びっしょり手汗
手汗が流れるまでにはなっていないが、手の平に、汗の水滴ができているのが見て分かる。
・たらたら手汗
手から汗がしたたり落ちるほど手汗をかく。
びっしょりやたらたらの手汗の人は、多汗症の治療を受けたほうがいいでしょう。
○手以外の多汗症
手の平に汗をかく手掌多汗症以外にも、いろいろなタイプの多汗症があります。
例えば、足の裏にたくさんの汗をかく足底多汗症や、わきの下にたくさんの汗をかく腋窩多汗症、顔面にたくさんの汗をかく顔面多汗症、頭にたくさんの汗をかく頭部多汗症、全身にたくさんの汗をかく全身多汗症などがあります。
◆多汗症を治療するには?
多汗症の治療法にはいろいろな種類があり、薬で症状を抑える方法や、手術で治療する方法などがあります。
いくつか、主なものを紹介していきましょう。
○電気による治療
多汗症に効果があると言われている治療法が、水の入った容器に非常に弱い直流電流を流し、その中に手や足を付けて治療する、「イオントフォレーシス」という治療法です。
電気分解で発生した水素イオンが、汗腺に働きかけます。
この方法で約2週間、続けて治療すれば、ほとんどの患者は多汗症を抑えることができます。
もちろん、根本的な治療ではないため、1~2週間に一度、皮膚科や家庭用の機器で処置を行う必要がありますが、手軽で副作用もない治療法で、安心です。
ただし、おなかに赤ちゃんのいる妊婦やペースメーカーを入れている人などは、この方法を用いることはできませんので、注意が必要です。
○塗り薬による治療
塗り薬で汗腺をふさぐ方法も、多汗症の治療には多く用いられています。
塩化アルミニウムという薬剤が使われます。デオドラントスプレーや木材の防腐剤、写真の定着などに使われており、続けて使えば多汗症を抑えることができます。
薬は、病院で処方してもらったり、美容サロンなどで入手することができ、1回塗れば、3日から5日間、効果が得られるようです。
○飲み薬による治療
多汗症の治療には、「抗コリン薬」が用いられます。
これは、交感神経が発汗を促す際に分泌される「アセチルコリン」の働きを抑える飲み薬で、全身の汗を抑える効果があります。
ただ、副作用もあり、のどが乾いたり、便秘になったり、めがかすんだりすることがあるため、医師の処方が必要です。
また、体質改善効果や精神安定効果が得られる漢方薬もあるため、医師、薬剤師へ相談しましょう。
○注射による治療
アセチルコリンや汗腺の働きを抑制する、ボツリヌス菌を皮膚に注射で注入します。美容クリニックなどで治療を受けることができ、約半年、効果が続くと言われています。
○手術による治療
多汗症の症状がひどい人は、手術による治療を受けることを検討してもよいと思います。
例えば、超音波で、腋の下にあるアポクリン汗腺を破壊したり、腋の下から胸のあたりに内視鏡を挿入し、交感神経を切断したりします。
手術時間は、30分から1時間程度で手術の跡はとても小さく目立ちません。痛みも少なく、その日のうちに退院することができます。
ただ、手術による治療には副作用もあり、手汗などの上半身には発汗が少なくなる一方で、下半身には汗をかきやすくなってしまったり、手の平が乾燥しやすくなったります。
◆まとめ
いかがでしたか?
一口に多汗症と言っても、その原因には色々なものがあることがお分かりいただけたかと思います。
汗は、本来は無臭であっても放置しておくとニオイが発生したり、衣服に汗ジミが付いたりして、不潔に見られがちなため、気になってしまうもの。汗が気になって、人前に出られなくなってしまうという人もあるようです。
ここで紹介しましたように、症状の程度によって様々な多汗症の治療法がありますので、まずは皮膚科を受診して、対処を考えてみてはいかがでしょう。
精神的な原因から来る多汗症もありますので、リラックスした生活を送るよう、心がけるのが良いかもしれませんね!