私たちの身体に起こる、様々な不調の中でも、「胸」の違和感や痛みは、他の部位の不調に比べ、不安を大きくさせるのではないでしょうか?
胸部には、生きるためのスイッチとも呼べる心臓が存在しており、特に左胸に違和感がある場合、「左胸=心臓」というイメージから、万が一のことを考え、必要以上に不安に煽られます。心臓の病気は命に大きく関わるため、早急な治療が必要になりますが、左胸の違和感について見ていくと、どうも、心臓だけが関係しているわけではなさそうです。
ここでは、左胸に違和感があるときに考えられる原因を、ご紹介いたします。自分に発生しているトラブルの原因を症状から確認してみましょう。
胸部に違和感があるときは…
心臓や胸部に違和感があって、実際に病院で検査を受けた人のうち、本当に心臓の異常が発見されたというケースは、約20%以下だと言われています。これはつまり、残りの80%の人は、心臓には問題がなく、その他の何らかが原因となって、違和感があると訴えていたということです。
さらに、「左胸=心臓」と捉える人が多いようですが、実際には心臓は、胸のほぼ中心に位置しています。だからと言って油断はできませんが、胸に違和感があるときは、以下のことを参考に、症状を確認してみましょう。
どの部分に違和感があるのか?
違和感がある場所が、胸のどの部分にあるのかを確かめると、「はっきりとその場所がわかる場合」と「明確に表現できない場合」の2パターンに分かれます。
一概には言えませんが、「胸の左側のこのあたりが痛い」というように、自分ではっきりとわかる場合は、心臓以外のことが原因となって違和感が現れている場合が多いと言われています。
逆に、明確に示すことができず、「何となくこの辺りが締め付けられる感じがする」など、違和感のある場所が曖昧な場合の方が、心臓に異常が見られるケースが多いようです。
また、左の胸の骨の部分なのかはたまた皮膚なのか、背中に近い部分なのか、胸の乳房部分なのか、身体のどこで痛みや違和感を感じるのかで具体的な症状は変わってきます。
その違和感や痛みについて冷静に感じ取ってみましょう。
症状が出たときの時間の長さ
例えば、心臓疾患の一つである狭心症の場合、実際に左胸にも違和感が出ますが、左胸のみだけではなく、左半身全体に症状が出てきます。
そして、胸部に違和感が出るときは、継続的に症状が出るのではなく、突然、締め付けられるような圧迫感が出て、数分で症状が消えるのも特徴です。
一方、心臓以外の、消化器や筋肉、骨などが原因で左胸に違和感を抱くときは、継続的に症状が続く場合が多いようです。
これもまた、上で述べたのと同様に、一概には言えませんが、胸に違和感があるときは、診察を受ける際、自分がどのような違和感を、どのあたりに、どんなふうにして感じているのかを医師に伝えられるよう、冷静に確認しておく必要があります。
違和感の症状は不整脈?
左胸の心臓に感じる違和感の代表例と言えば不整脈でしょう。心臓に送られる電気信号が乱れてしまい心臓の鼓動が誤作動を発生させてしまうトラブルです。
しかし不整脈の症状のほとんどは治療の必要が無い、期外収縮と呼ばれる症状である事が多いのです。それぞれの病院にもよりますが不整脈で病院に訪れ心電図を取った患者の6割以上はこの治療の必要が無い期外収縮の症状であるといいます。
だからといって検査をしなくてもいいと言うわけではありませんが、この不整脈は良性の不整脈になりますので特に健康被害が発生するものではないので心配はいりません。
脈が飛ぶような感覚、数時間に1回ほどの周期で訪れる、などの症状の場合期外収縮の不整脈や動悸の症状である可能性が高いでしょう。
不整脈以外の症状につながっていない場合には他に健康被害として血管病や血液疾患などを抱えていないのであれば特に神経質になる必要は無いでしょう。
左胸の違和感の原因
心臓は、身体のガソリンとも言われる血液を循環させる、重要な臓器ですが、「胸部」にあるのは、心臓だけではありません。筋肉や骨、肺や胃といった臓器があり、様々な神経も通っています。そして、それらもまた、他の臓器や筋肉、そして骨、神経へとつながっているのです。心臓以外の臓器の異常が、左胸の違和感として現れている可能性は十分にあります。
さて、ここで、左胸の違和感として症状が出た場合、その原因と考えられる病気について、部位ごとに見ていきましょう。
心臓・心筋
左胸の痛みとしてしっかり専門家の先生に見てもらって治療しなくてはいけないのが以下の病気です。症状の特徴などについて紹介します。
<狭心症>
心臓疾患が原因で、左胸に違和感を抱く場合、狭心症という病気の可能性があります。胸の中心から左あたりに、発作的に締め付けられるような圧迫感が出たり、顎や左胸、肩、背中にも痛みが出ることがあります。
症状の出方は、運動をしたときに出る場合と、静かにしている就寝時に出る場合とに分かれます。発作が出ても数分で治まることが多く、見過ごしてしまう人も多いようですが、狭心症の場合、心筋梗塞の前触れとして出ることもあります。
<心膜炎>
呼吸をしたり、左胸を押さえると痛みを感じる場合には、心膜炎という病気の可能性もあります。心膜炎はウイルスや結核、膠原病などが原因となり、心臓を包む「心膜」という薄い膜に炎症が起こる病気です。
前かがみになったり、上体を起こすなど、体勢によって痛みが出たり治まったりするのが特徴です。
<心筋梗塞>
心臓の大きな血管が血栓によって塞がってしまい、血流が滞ってしまう病気です。急激に倒れたり、失神してしまうほどの痛みが胸に走ります。みぞおちから背中などにかけて胸、胸部全体に痛みが広がり、30分以上継続します。
冷や汗をかくような痛みで、吐き気や嘔吐などの症状も同時に発生することもあります。すぐに救急車を呼ぶか、適切な処置を施しながら病院へと救急搬送する必要があります。
心筋の筋肉や細胞は血液が循環していない状態だと15分間血流が止まってしまうだけで細胞が壊死してしまいます。
30〜1時間以内の救命処置が命の分かれ目とされていて、2時間以上心筋梗塞の状態が改善されないと死亡してしまいます。
35歳から増加する疾患で、肥満体型、生活習慣病、血管の病気などを患っている人は特に注意が必要な病気になります。
もし患者を発見したら、心臓マッサージやAEDなどを使用しての応急処置が必要です。
肺
胸にある大きな臓器と言えば肺です。この肺にトラブルが発生している事で左胸に痛みや違和感を感じることがあります。肺に痛みを発生させる病気について紹介します。
<突発性自然気胸>
突然胸が痛くなり、苦しくて呼吸がまともにできないという症状が現れた場合、突発性自然気胸の可能性も考えられます。
これは、何らかの原因で肺に穴が開き、空気が胸腔に漏れることで発症し、若い、痩せ型の男性に多く見られるのが特徴です。違和感と言うよりは、明確な息苦しさ、空咳などの症状が出て、ひどい場合には呼吸困難によって、歩行もままならないこともあるようです。
また、左胸のみではなく、右胸であったり多くの場合は背中側に痛みを感じやすい傾向があります。自然気胸の場合何とか我慢できる痛みが1週間ほど続いた後に自然と治っていく事が多く、治療をしなくても痛みは治りますが、再発率が非常に高く、治療をしなかった場合は40%ほどの再発率を誇っています。
詳しくは、肺に穴が空く病気って?原因や治療方法を紹介!を参考にしてください。
<肺炎>
左胸、あるいは右胸の違和感・痛みとともに、さび色の痰や発熱、全身の倦怠感、呼吸をすると苦しいといった症状がある場合は、肺炎の可能性も考えられます。
症状から風邪と勘違いしやすいのですが、肺炎は、病原体が肺胞に感染して、炎症を起こす病気です。上記の症状が3~4日続くようでしたら、早めに受診することをおすすめします。
特に高齢者の場合は肺炎の症状が慢性化したり、肺炎で免疫力が低下している時に他の感染症になってしまったりして重症化してしまい命の危険が危ぶまれるほどに発展してしまう事もあります。
咳や息苦しさの症状も発生している場合は一度検査を受けるようにしましょう。
肺炎については、肺炎はうつるのか?種類によって変わる原因と予防方法を読んでおきましょう。
乳房
女性の場合限定で発生する可能性のある病気になります。初期症状の内は薬などでも治療が行なえますが、重症化してしまうと切除手術など、胸部にメスを入れなくてはいけなくなり増すので、出来るだけ早い段階で検査と治療を開始したい病気でもあります。
<乳腺症>
女性の場合、胸の痛みや違和感があるとき、乳腺症だったというケースが多々あります。乳腺炎や乳がんの場合、「炎症」や「腫瘍」といった明確な病原がありますが、それとは異なり、ホルモンの関係で、乳腺に起こる様々な病変を、乳腺症と呼んでいます。
30代~50代の女性に多く見られ、左胸のみだけではなく、右胸、乳房全体、脇の下、乳首などに痛みやハリを感じ、乳頭から分泌物が出ることもあります。良性疾患なので、乳がんとは関係ありません。
<乳がん>
乳がんによって胸に違和感が出る場合は、乳房にしこりやえくぼ(皮膚の凹み)、脇の下のリンパ節が腫れるといった症状が出てきます。女性は月経周期によって乳房が張ることがありますが、乳がんの場合はこのような月経周期による変化は見られません。
乳がんのしこりは発生しやすい場所があります。最も発生しやすいのは外側の上部、乳房を4つに区切った時に脇の方角に位置する所に発生しやすく、50%近くはこの外側上部の位置で乳がんが発見されています。
乳腺に向かって押した時に固くて動かないしこりがある場合には乳がんの可能性が非常に高くなります。セルフでも簡単に出来る触診での検査を定期的に行って初期の症状の内にがんを発見できるようにしましょう。
消化器系(脾臓・膵臓・胃)
身体の左側にある脾臓や膵臓、胃に疾患がある場合、症状として左胸の違和感や痛みが生じるケースもあります。症状が出る場所は、「左胸」というより「左胸の下辺り」と言った方が良いかもしれません。
<脾腫>
脾臓が2倍以上に膨れ上がり、神経を圧迫する、脾腫という病気があります。脾腫になると、左胸下部や背中に痛みを生じることがありますが、この病気は他の何らかの疾患(感染症や白血病など)の影響で発症する場合がほとんどです。
<急性膵炎>
膵臓内の消化酵素が何らかの原因によって活性化し、自己消化してしまう、急性膵炎という病気が、左胸の痛みとして現れることがあります。その他の症状として、吐き気や発熱、重度の場合は意識障害なども併発し、ほとんどの原因が、大量のアルコール摂取や胆石によるものだと言われています。
<逆流性食道炎>
食べ物を消化する胃に疾患がある場合も同様です。とくに、胃に入った食べ物が逆流し、食道の粘膜を傷付ける、逆流性食道炎の場合は、胸の中央部に痛みを感じたり、胸やけなどの症状も合わせて出てきます。
最近では若い人にも多く見られ、脂っこい食事や便秘などが原因になると言われています。放置すると、食道がんになる可能性もあるので、早めの改善が必要です。
神経
神経で発生している問題が影響して発生しているトラブルになります。
<肋間神経痛>
胸部には、いろいろな神経が集まっています。ストレスの多い状況が続くと、何らかの原因で筋肉が神経を圧迫し、片側の胸部に強烈な痛みを生じる、肋間神経痛という病気になることがあります。
なぜ、ストレスが溜まると、神経を圧迫するかという明確な原因は明らかになっていませんが、呼吸をしたり、背伸び、咳をすると左右どちらかの胸部に刺すような痛みが走ります。
肋骨骨折などの外的要因で、肋間神経を圧迫する場合もありますが、ケガなどをしていないのに、片側の胸部が痛むといった症状がある場合は、肋間神経痛の可能性が高いと言えるでしょう。
詳しくは、肋間神経痛はストレスが原因なの?治療方法は?を読んでおきましょう。
<帯状疱疹>
ウイルス感染によって神経が刺激され、身体の片側に痛みが生じる、帯状疱疹という病気の場合にも、胸部に痛みを伴うことがあります。人によって、チクチクする、ヒリヒリするというように、痛みの具合も異なるようです。
身体の免疫力が低下しているときに発症しやすく、痛みを伴う発疹が水ぶくれに変わり、強い痛みやかゆみを引き起こします。このような場合は、内側からくる胸の違和感と言うより、皮膚から感じる痛みと言った方が良いかもしれません。
帯状疱疹については、帯状疱疹が顔に現れた時の症状は?治療方法も紹介!を読んでおきましょう。
心因性
病院でいろいろな検査をしても異常が見つからないのに、胸部に違和感を抱く場合、心因性による病気の可能性があります。このケースは意外と多く、過度な不安や緊張が、身体に違和感や痛みとなって現れるのです。
<心臓神経症>
胸部の痛みや動機、息切れ、めまいなど、心臓疾患によく似た症状が出るにも関わらず、心電図を用いた検査結果には異常が見られない場合、心臓神経症である可能性があります。
これは、近年、増加傾向にある「心の病気」の一つで、子育てがひと段落し、自分の健康状態を過度に気にしすぎるようになったり、身近な人を心臓疾患で亡くしたことで、「死ぬかもしれない」という強い恐怖や不安を感じることから、このような症状が起こります。
健康上の問題はありませんが、そのままにしておくと、さらに不安を引き起こし、症状が悪化してしまう場合もあるので、専門的な治療が必要です。
<自律神経失調症>
主に精神的なストレスによって、自律神経が乱れると、交感神経が異常に緊張することで、胸が締め付けられるような感じがしたり、ザワザワするといった症状が見られます。
さらに、動悸や息切れ、耳鳴りなども見られ、強いストレスから胃腸や筋肉にまで不調が及ぶこともあるのです。また、ストレス以外にも、食生活の乱れや環境の変化、ホルモンバランスの影響、生活リズムの乱れなども、自律神経を乱す原因になります。
内臓の疾患と異なり具体的なアプローチが難しいため、専門医の指示のもと、ゆっくりと自身の精神バランスや生活習慣を整えていく必要があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。左胸と聞くと、心臓疾患と直結させて不安に思う人も多いようですが、心臓以外にも様々な原因が考えられるようです。
しかし、どちらにせよ、病気が重症化する前に、改善するのが一番です。普段から食生活や生活習慣に気を付けることはもちろん大切ですが、すでに病気になってしまっている場合には、それだけで改善することはできない場合がほとんどです。
胸部に違和感を感じたときは、早めに内科を受診しましょう。もし具体的な症状の特徴がつかめているのでしたら、整形外科、神経内科、心療内科、胃腸科、消化器内科、などの専門家のいる病院での検査を受けるとスムーズに病気を見つけて治療をすることが出来るでしょう。
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