感情失禁の症状って?原因となる病気や治療法、対応の仕方を紹介!

感情失禁という症状名をご存知ですか?感情失禁という字面からは、どうしても失禁という文字のほうに注目してしまう方が、大多数だと思います。

しかしながら、感情失禁はそちら方面の疾患ではありません。人は喜怒哀楽の感情を持ちつつも、その場に応じて感情を抑制したり、解放したりといったことを理性によって適切にコントロールすることができます。この感情のコントロールができなくなることで、感情の起伏が激しくなったり、その場にそぐわない感情を表出したりする状態を感情失禁と言います。

そこで、今回は感情失禁という疾患について、まどめてみましたので参考にしていただければ幸いです。

感情失禁の症状

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そもそも感情失禁とは、どのような疾患なのでしょうか?また、感情失禁になると、どのような症状が現れるのでしょうか?

感情失禁とは?

感情失禁は、些細なことで激怒したり大喜びしたりするなど、喜怒哀楽の感情の起伏が正常な人よりも激しい状態で、場合によっては感情を制御できなくなることを言います。

この場合の失禁は、大便・小便を意に反して漏らすことではなく、意に反して涙を流すことに由来すると言われ、転じて感情が漏れるという意味で捉えられるようになったとされています。

感情失禁は情動失禁とも呼ばれますが、いずれも通称で、本来は情動調節障害と言います。

情動調節障害の定義

ちなみに情動調節障害は、非自発性の情動発作を特徴とする神経性障害と定義されます。

非自発性は自らの意思によらないという意味で、情動は喜怒哀楽の感情と感情に付随する動きを意味し、発作は一時的に変化する病的反応を意味します。

ですから、何らかの原因によって感情変化を自分の意思でコントロールできない状態が情動調節障害であり、感情失禁であると言えます。

感情失禁の症状

感情失禁は、喜怒哀楽の感情の起伏が激しく、その感情をコントロールできない疾患です。したがって、感情失禁の症状には、次のような症状が現れます。

  • 喜怒哀楽が激しい
  • 喜怒哀楽の変化が激しいため感情が読めない
  • 喜怒哀楽の間に表情が無くなることがある
  • 感情を制御できない

喜怒哀楽が激しい

感情失禁になると、喜怒哀楽の現れかたが大きく激しくなります。また、喜怒哀楽の感情を表出する基準が低くなるため、ちょっとした刺激や些細な出来事に対して感情が反応してしまいます。

たとえば、正常な人ならば溜息程度にがっかりする場面で大袈裟に泣き出したり、正常な人ならばイラっとするものの簡単に受け流せる場面で激怒したりといったような症状が現れます。

喜怒哀楽の変化が激しいため感情が読めない

感情失禁では、このように一度感情が反応してしまうと、最初の感情とは全く関係の無い喜怒哀楽が次々と現れます。つまり、一度感情が反応してしまうと、その場にそぐわない感情が繰り返し現れるのです。

たとえば、正常な人ならば悲しいと感じる場面で最初に号泣していたのに、次には笑い出し、さらには怒り出すといったように感情の変化が激しく現れます。

このように感情変化が激しく場にそぐわないため、周囲の人にとっては感情が読めないと感じられます。

喜怒哀楽の間に表情が無くなることがある

感情失禁では、感情失禁による激しい感情変化の間に、ふと感情のない表情や顔つきをすることも見られます。

周囲の人にとっては、感情失禁する人の感情が目まぐるしく変化するだけでも困惑するのに加えて、表情が欠落することで更に理解し難くなってしまいます。

感情を制御できない

感情失禁では、このような感情変化を制御することができないのです。仮に感情を抑制しようという意思があっても、一度感情が反応してしまうとその意思すらも感情失禁の波にかき消されてしまいます。

感情失禁による影響

このような感情失禁の症状は、周囲の人にとっては困惑の対象になり、理解の範囲外となるのが通常です。

周囲の人の理解がないため、感情失禁の患者の社会生活や仕事などに悪影響が及んでしまいます。その結果として、感情失禁の患者の社会生活の質が低下してしまいます。

感情失禁の発症メカニズム

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では、感情失禁はどのようにして発症するのでしょうか?

脳の主な構造

脳の主な構造について簡単に説明しますと、主に脳幹、大脳辺縁系、大脳皮質に3つの部分から成り立っています。

脳幹は、多くの神経核で構成された中枢神経系の器官で、呼吸や体温調整など生命維持を担当しています。大脳辺縁系は、主に喜怒哀楽などの感情や恐怖心などの人間の本能に関与しています。そして大脳皮質は、知覚、随意運動、思考、記憶などの脳の高次機能を司っています。これらの間で、非常に多くのニューロンと呼ばれる神経細胞同士が相互密接に働くことで、人間は精神活動を営むことができているのです。

感情失禁の鍵になる小脳

様々な研究で、感情失禁の鍵を握っているのが小脳だということがわかってきています。

そもそも小脳は、後頭部下方に位置していて、随意運動の調節、眼球運動の調節、平衡感覚の調節などを行い、知覚と運動機能を統合していることがわかっています。

具体的には、運動の命令は大脳皮質から出されますが、その命令は以外と大雑把なもので、その大雑把な動きを細かく調整してスムーズに動かしているのが小脳です。そして人間は、最初から精緻な動きをできるわけではなく、繰り返し練習することで大脳皮質からの命令を小脳が細かく調整して効率的な動かし方を小脳が記憶し蓄積していくのです。

したがって、小脳が損傷してしまうと、平衡感覚が無くなり、細かな調整もできなくなるので、歩行などの運動が難しくなってしまいます。

情動調節を担う小脳

このような小脳が、情動調節、すなわち感情のコントロールをする役割を担っていることが徐々にわかってきています。

上記のように大脳皮質から小脳に至る神経回路では、主に随意運動や平衡感覚などの調節を行っていますが、加えて情動反応を細かく調節する機能も持っているというのです。つまり、大脳皮質によって知覚された社会的な文脈、その場の雰囲気、自らの感情などに合わせて細かく情動を抑制したり、解放したりという調節を行っているのが小脳なのです。

したがって有力な見解では、情動調節障害・感動失禁は、小脳の機能不全や小脳の障害によって、大脳皮質と小脳の間の神経回路による制御が働かないことで生じる可能性を指摘しています。

感情失禁はセロトニン不足

ちなみに、この神経回路で中心的な神経伝達物質がセロトニンだと考えられています。

そもそも神経は、神経細胞がたくさんつながったものですが、それぞれの神経細胞と神経細胞の間には、わずかな隙間が存在しています。そして、ニューロンと呼ばれる神経細胞が神経伝達物質を放出することで、次の神経細胞に抑制や興奮といった信号を伝えるのです。

とすると、大脳皮質から小脳に至る神経回路で情動調節がうまく機能しないのは、セロトニンが不足することで、各神経細胞間の信号伝達が上手く伝わっていないと言うこともできます。

感情失禁の原因

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では、このようなメカニズムで発症する感情失禁の直接的な原因は、何なのでしょうか?

感情失禁の原因

感情失禁は、広い範囲の脳疾患・脳障害に付随して発症することがわかっています。ですから、感情失禁の直接的な原因は、脳疾患や脳障害であると言えます。

感情失禁が現れる脳疾患や脳障害には、主に次のような疾患が挙げられます。

  • 脳血管障害(脳出血・脳梗塞などの脳卒中)
  • 交通事故などによる頭部外傷
  • アルツハイマー型認知症
  • 脳血管性認知症
  • 筋萎縮性側索硬化症
  • 仮性球麻痺
  • 統合失調症
  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)

脳血管障害

脳血管障害は、脳の血管が何らかの障害を受けることで生じる疾患の総称です。脳血管障害は脳卒中とも呼ばれ、脳出血と脳梗塞に大きく分類されます。

脳出血や脳梗塞などの脳卒中では、脳の血管が破れて出血してしまったり、脳の血管が血栓によって詰まってしまったりすることで、脳細胞に血液による栄養が届かず脳細胞が壊死してしまいます。

脳細胞全体のうち、ニューロンと呼ばれる神経細胞は約10%程度とされていますが、脳細胞が壊死すれば、脳細胞の一つである神経細胞も壊死する可能性があります。そして、脳細胞が壊死した部分が担当していた機能に応じて、機能障害が発生してしまいます。

したがって脳血管障害によって、感情を担当する大脳辺縁系、情動調節を担当する小脳、大脳皮質から小脳に至る神経回路などが障害されると感情失禁が生じる可能性があります。

交通事故などによる頭部外傷

交通事故、転落や転倒、スポーツなどによって頭部に外傷を受けると、脳も損傷を受けることがあります。

頭部外傷によって脳がダメージを受けると、高次脳機能障害になることがあります。高次脳機能障害とは、知覚、思考、記憶、判断などの認知機能と喜怒哀楽などの感情を含めた精神機能の障害のことです。脳血管障害でも脳がダメージを受けるので、高次脳機能障害になることがあります。

ですから、頭部外傷や脳血管障害によって、感情を担当する大脳辺縁系、高次機能を司る大脳皮質などが損傷されると、高次脳機能障害が発症する可能性があります。そして、感情失禁は高次脳機能障害の一症状とも言えるのです。

アルツハイマー型認知症

認知症は、いったんは正常に発達した認知機能が、後天的な脳の器質的障害によって機能低下してしまう認知障害のことです。そして、アルツハイマー型認知症は、認知症の一分類です。

アルツハイマー型認知症では、脳に特殊なたんぱく質が徐々に沈着していき、このたんぱく質が神経細胞を破壊して死滅させることで、知覚、思考、記憶、判断などの認知機能に障害が起こるとされています。

さらにアルツハイマー型認知症では、死滅する神経細胞の場所によっては、感情のコントロールにも影響が現れ、感情失禁が起こる可能性があります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳出血や多発性脳梗塞などの脳血管障害によって脳細胞が壊死することで認知障害に陥る疾患です。また、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の混合型である混合型認知症の場合もあります。

脳血管障害の場合と同様に、脳細胞の壊死する部位によって現れる症状は様々ですが、記憶障害に加えて感情失禁が起こる可能性があります。

筋萎縮性側索硬化症

筋萎縮性側索硬化症は、脳の神経細胞が何らかの原因で死んでしまい、その結果として筋肉の萎縮や筋力低下に陥る疾患です。筋萎縮性側索硬化症、明確な原因は未だ解明されておらず、筋力低下から呼吸筋麻痺に至って死に至ります。

筋萎縮性側索硬化症の主な症状は全身の筋肉の萎縮や筋力低下で、認知機能は正常である患者が多いとされています。

しかしながら、稀に認知症を併発する場合もあり、強制号泣や強制失笑といった感情失禁のような症状が現れることがあります。

仮性球麻痺

仮性球麻痺は、多発性脳梗塞などの脳血管障害や脳腫瘍などが原因となって大脳皮質などの神経細胞に障害が起こることで、舌や声帯などの麻痺が生じる疾患です。

仮性球麻痺でも、筋萎縮性側索硬化症で見られるような強制号泣や強制失笑といった感情失禁のような症状が現れることがあります。

詳しくは、仮性球麻痺ってなに?症状や原因、治療方法、リハビリ方法を知ろう!を参考にしてください!

統合失調症

統合失調症は、特に幻覚や妄想といった症状が特徴的な精神疾患の一つです。統合失調症の原因は未だ解明されていませんが、セロトニンの不足といった神経伝達物質のバランスが崩れていることも一因となっていると考えられています。

統合失調症の症状は、幻覚や妄想が特徴的症状ではあるものの、症状の現れかたは非常に広範に及びます。その広範な症状の中に感情障害があり、感情障害の一症状として感情失禁が現れることがあります。

詳しくは、統合失調症の特徴を紹介!治療するために必要なことは?を読んでおきましょう。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)

注意欠陥・多動性障害は、脳や中枢神経の成長発達の不全により、注意が欠如したり、衝動的に行動したり、じっとしていることができず絶えず活動し続ける(過活動)といった症状が現れる疾患です。

注意欠陥・多動性障害の患者が年齢を重ねると、過活動が比較的治まってくるものの、感情的な衝動性が高まる傾向にあり、注意欠陥・多動性障害の周辺症状として感情失禁が現れることがあります。

詳しくは、ADHDは遺伝するの?実は原因すら解明されていなかったを読んでおきましょう。

感情失禁の治療方法

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では、感情失禁を治療する方法はあるのでしょうか?

感情失禁の治療方法

感情失禁は、様々な精神疾患や脳障害・脳疾患の一症状に過ぎません。ですから、感情失禁のみを治療する方法は、残念ながら存在しません。

そこで感情失禁の原因となる精神疾患や脳障害・脳疾患を特定し、その原因となる疾患を治療する必要があります。

ただし、セロトニンの不足といった神経伝達物質の不均衡を薬剤の投与によって改善することで、感情失禁の症状を緩和することが可能となっています。

したがって、感情失禁そのものを根治することは難しいために、症状の緩和を目的に薬物治療が行われるのです。

受診すべき診療科は?

脳血管障害などの治療は、もちろん脳外科や脳神経外科などで治療する必要があります。しかし、感情失禁という問題行動が現れている場合は、精神科を受診し、専門家である精神科医に相談するのが良いでしょう。

感情失禁の患者への対応方法

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感情失禁の症状は、何も知らない人にとっては、困惑の対象になり、理解の範囲外となるのが通常です。ですから、感情失禁という疾患を理解するとともに、看護や介護するにあたり円滑な対応方法も知っておく必要があります。

患者の話を聞く

感情失禁の患者さんは、統合失調症の場合を除けば、ほとんど患者さん本人が病気であることを理解できています。

ですから、感情失禁の患者さんの心を刺激するような質問などをせずに、なるべく聞き役になることが重要です。患者さんの話を聞くことによって、患者さんの心が安定するようにしましょう。

怒りのポイントをつかむ

喜怒哀楽の感情のうち、最も対応が難しいのが怒りの感情です。

ですから、患者さんがどのような時に怒り出すのか、観察しましょう。患者さんの怒りのポイントをつかむことで、無駄に患者さんを刺激することが少なくなります。

受動的な対応

それでも患者さんが怒っているときは、介護者側から意見することなく寛容な態度で対応しましょう。怒っているときに意見をしてしまうと、余計に患者さんを刺激することになります。

ただし、患者さんの怒りを全て受け入れるというわけではありません。それでは、介護者側のストレスが溜まってしまいます。つまり、患者さんの怒りを受け流しつつ、患者さんの精神状態や気持ちが落ち着くのを待つのです。

まとめ

いかがでしたか?感情失禁という疾患について、ご理解いただけたでしょうか?

人間の脳の中は、まだまだ未解明なことも多いですよね。通常の人から見れば、感情失禁の症状は理解できないことかもしれません。

しかしながら、感情失禁の患者さんも、自ら望んで感情失禁になったわけではありませんし、その感情変化も自らの意思によるものではないのです。心に刺激を受けると、勝手に反応して感情が溢れ出てしまうのですね。

そして、高齢化で認知症高齢者・認知症患者が増えていますから、感情失禁に陥る人は増えてくる可能性があります。とすると、将来的に感情失禁の患者さんに出会う可能性も増えてきます。

ですから、その時に困らないように感情失禁について知っておくことが重要です。

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これらを読んでおきましょう。

  
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