「コレステロール」や「中性脂肪」が多いと定期健康診断の際に指摘されたことがある人は、少なくないのではないでしょうか。そして、特に身体に大きな変化や症状が現れているわけでもないので、治療や改善をすることなく放置しがちになることも多くの人に見られる傾向と言えるでしょう。
コレステロール値や中性脂肪値が高いということは、目立った症状が無くとも脂質異常症という疾患・病気の可能性があります。しかも、脂質異常症を放置していると重篤な病気につながる危険性があるのです。
そこで今回は、脂質異常症の症状やリスク、原因、治療方法などについて、ご紹介したいと思います。
脂質異常症とは?
そもそも脂質異常症とは、どのような病気のことなのでしょうか?まずは、脂質異常症についての基礎的な事項を確認しておきたいと思います。
脂質異常症とは?
脂質異常症とは、血液の中に含まれる中性脂肪(トリグリセリド)やLDLコレステロールの量が増加して基準値よりも高い数値を示している状態、あるいはHDLコレステロールの量が減少して基準値よりも低い数値を示している状態のいずれかの状態にあることを言います。
つまり、脂質異常症は、高トリグリセリド血症と高LDLコレステロール血症、あるいは低HDLコレステロール血症という3つの症状の総称なのです。
以前は高脂血症と呼ばれていましたが、2007年より脂質異常症という疾患名に改められています。
コレステロールの役割
このように脂質異常症の定義を確認すると、コレステロールは人体に悪影響を及ぼす有害なものと思われるかもしれません。
しかしながら、コレステロールは人間の体内に存在する油分・脂質の一種で、人間が生命を維持するにあたり、必要かつ重要な役目を持っています。
コレステロールは、主に体内の細胞の細胞膜の材料、胆汁酸の材料、ホルモンの材料、ビタミンDの材料となる役割を持っているのです。
細胞膜の材料としての役割
人間の身体は極論すると細胞の集合体で、各細胞の最も外側の層が細胞膜です。細胞膜は脂質とタンパク質で構成されますが、脂質の材料となるのがコレステロールです。
細胞膜は、各細胞が栄養の取り込みや老廃物の排出をするにあたり、それらの出入りをコントロールする役割を担っています。
胆汁酸の材料としての役割
胆汁酸は、人が食事として摂取した脂肪を分解・消化・吸収するための消化液である胆汁の主成分のことです。胆汁は、肝臓で産生されると胆嚢(胆のう)に貯蔵されて、食事の際に胆管を通じて十二指腸に分泌されます。胆汁酸は、肝臓でコレステロールが酸化されることで合成されます。
ホルモンの材料としての役割
ホルモンは、人間の生命維持に必要不可欠な生理活性物質のことです。そして、副腎皮質ホルモン・男性ホルモン・女性ホルモンなどの合成に必要な前駆体、つまり主要な材料となるのがコレステロールです。
ビタミンDの材料としての役割
ビタミンDは、カルシウムの体内への吸収や体外への排出に関わるビタミンで、皮膚が紫外線を受けることで皮膚で合成されます。その合成の際に、主要な材料となるのがコレステロールです。
LDLコレステロールとHDLコレステロール
コレステロールは、主にLDLコレステロール(悪玉コレステロール)とHDLコレステロール(善玉コレステロール)に分類されます。
そもそもLDLコレステロールもHDLコレステロールは、いずれも完全同一のコレステロールであって本質的な違いはありません。
しかしながら、コレステロールは血液に溶けないので、血管を通じて各細胞に輸送される際に、リポ蛋白と呼ばれるタンパク質と複合体を構成します。この複合体を構成するリポ蛋白の種類の違いがLDLコレステロールとHDLコレステロールの違いを生み出し、血液中での機能・作用の違いが生じるのです。
LDLコレステロールの機能
LDLコレステロールは、コレステロールを体内の各細胞まで運ぶ機能をもったリポ蛋白と結合したコレステロールのことです。つまり、LDLコレステロールは体内の各細胞にコレステロールを供給する機能を有しています。
ですから、LDLコレステロールが多すぎるとコレステロールが余剰となりやすく、コレステロールが余剰になると様々な悪影響が人体に現れることから、悪玉コレステロールと呼ばれるのです。
HDLコレステロールの機能
HDLコレステロールは、逆に体内の余剰なコレステロールを回収して肝臓に運ぶ機能をもったリポ蛋白と結合したコレステロールのことです。つまり、HDLコレステロールは体内で使われずに余ったコレステロールを集める機能を有しています。
ですから、HDLコレステロールは善玉コレステロールと呼ばれ、善玉コレステロールが少なくなると余剰なコレステロールが回収されずにコレステロールが体内に蓄積してしまうのです。
中性脂肪の役割
脂質異常症の定義からは、中性脂肪もコレステロールと同様に人体へ悪影響をもたらす有害なものと思われるかもしれませんが、中性脂肪は糖質と並ぶエネルギー源としての役割があるのです。
また、エネルギーとして使われなかった血液中の糖質や中性脂肪は、皮下や内臓の近くの細胞に皮下脂肪や内臓脂肪という形で蓄えられます。このように蓄積された脂肪細胞は、衝撃や温度変化から内臓を保護する緩衝材や断熱材としての役目をするとともに、いざという時のエネルギー貯蔵という役目もしています。
脂質異常症の診断基準
このように脂質異常症は、高トリグリセリド血症・高LDLコレステロール血症・低HDLコレステロール血症の総称ですが、具体的にどのような状態になると脂質異常症となるのでしょうか?
そこで、脂質異常症の診断基準について、ご紹介したいと思います。
高LDLコレステロール血症
高LDLコレステロール血症は、脂質異常症の中でも特に血液中にLDLコレステロールが多く存在するタイプです。
日本動脈硬化学会が策定した動脈硬化性疾患予防ガイドラインにおける診断基準によると、血液検査において血液中のLDLコレステロール値(悪玉コレステロール値)が140㎎/dl以上あると、高LDLコレステロール血症と判断されます。
低HDLコレステロール血症
低LDLコレステロール血症は、脂質異常症の中でも特に血液中にHDLコレステロールが少なくなるタイプです。
日本動脈硬化学会による同様の診断基準によると、血液中のHDLコレステロール値(善玉コレステロール値)が40㎎/dl未満となると、低HDLコレステロール血症と判断されます。
高トリグリセリド血症
高トリグリセリド血症は、脂質異常症の中でも特に血液中に中性脂肪が多く存在するタイプです。
日本動脈硬化学会による同様の診断基準によると、血液中の中性脂肪値(トリグリセリド値)が150㎎/dl以上あると、高トリグリセリド血症と判断されます。
脂質異常症の危険因子
このような血液検査による数値を基準としながらも、医師による診断にあたっては脂質異常症の発症可能性を高める危険因子の存在についても考慮されます。
具体的には、喫煙の有無、肥満・高血圧・糖尿病といった生活習慣病の既往歴、家族に心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患の既往歴がある場合は、基準数値を超えていなくても治療対象とされる場合があります。
LH比
また、医師による診断にあたっては、LH比の値も重要視されます。LH比は、LDLコレステロール値をHDLコレステロール値で除して(割算して)求められる数値のことです。
LDLコレステロール値やHDLコレステロール値が正常値であっても、LDLコレステロール量とHDLコレステロール量のバランスが悪いと、様々な病気の危険性・リスクが高まることが判明しています。
ですから、LH比が2.5以上となる場合は、個々の数値が正常であっても注意を要することになります。
脂質異常症の症状とリスク
このような診断基準・危険因子・LH比などから、医師によって脂質異常症と診断された場合に、具体的にはどのような症状が現れるのでしょうか?また、脂質異常症となることで、どのような危険性・リスクが生じるのでしょうか?
そこで、脂質異常症の症状と脂質異常症による危険性・リスクについて、ご説明したいと思います。
脂質異常症の症状
結論から申しますと、脂質異常症では特にこれといった症状が現れることはありません。脂質異常症と診断されても、それは健康診断などで実施される血液検査における数値と危険因子などの状況的な要因に基づく医師の判断ですから、脂質異常症に特有の症状は存在しないのです。
しかしながら、自覚症状が無くとも、体内では徐々にではありますが確実に症状が進行しています。具体的には、血液中に脂質が増加することで、いわゆる血液のドロドロ化が進んでいるのです。
脂質異常症から生じる合併症
そして、自覚症状が無いからといって治療や改善をせずに放置していると、様々な合併症を生じる危険性・リスクが高まるのです。
動脈硬化
動脈硬化は、動脈血管が弾力性を失って硬くなることで、動脈血管内に沈着物が付着することにより血管が狭くなって、血流が悪くなる状態のことを言います。
そもそも高血圧・高血糖・高LDLコレステロールなどの状態になると動脈血管は弾力性を失い血管壁が傷つきやすくなります。そして、血管壁に傷が生じると、その傷口からLDLコレステロールが侵入し沈着して酸化します。この酸化LDLコレステロールは異物とみなされ免疫細胞であるマクロファージに捕食されますが、マクロファージは酸化LDLコレステロールを捕食すると死んでしまい血管壁に沈着したまま隆起物(プラーク)となります。
この隆起物は壊れやすい性質で血圧や心拍数の変化で破裂しやすく、実際に破裂してしまうと血管を補修しようと血小板が集まって血液が固まり血栓を作ります。そして、血栓ができると動脈血管が狭くなり、場合によっては血管が詰まってしまい、血流が阻害されるのです。
メタボリック症候群
脂質異常症は、メタボリック症候群を構成する症状の一つでもあります。メタボリック症候群は、肥満・糖尿病・高血圧症・脂質異常症の四症状のうち、複数の症状が同時に現れている状態のことです。
メタボリック症候群の四症状は、お互いに高い相関関係があります。つまり、肥満になると糖尿病になりやすく、糖尿病になると高血圧症や脂質異常症を引き起こします。また、脂質異常症は血液がドロドロになって血流を悪くするため、高血圧症を併発することが多くなります。
そもそも肥満・糖尿病・高血圧症・脂質異常症は、それぞれ単独でも動脈硬化を引き起こす原因となります。ですから、メタボリック症候群になると、四症状が相互に関連することで動脈硬化のリスクを相乗的に高めてしまいます。
脳血管障害
このように脂質異常症あるいは脂質異常症を含むメタボリック症候群によって、動脈硬化が脳血管や脳血管に近いところで生じると、脳梗塞や脳出血といった脳血管障害に至る危険性・リスクがあります。
冠動脈疾患
このように脂質異常症あるいは脂質異常症を含むメタボリック症候群によって、動脈硬化が心臓に血液を供給する冠状動脈で生じると、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患を含む冠動脈疾患に至る危険性・リスクがあります。
腎臓病
脂質異常症あるいは脂質異常症を含むメタボリック症候群によって、動脈硬化が腎臓の血管に生じると、腎機能が低下して慢性腎臓病に至る危険性・リスクがあります。
脂質異常症の原因
このように脂質異常症になると、重篤な病気を合併する危険性・リスクが非常に高まります。それでは、どうして脂質異常症となってしまうのでしょうか?
そこで、脂質異常症の原因について、ご紹介したいと思います。
乱れた生活習慣
脂質異常症の発症は、生活習慣の乱れに起因することが多いとされています。例えば、バランスの偏った食習慣・過食による肥満・運動不足などの他に、喫煙・大量の飲酒が脂質異常症の発症に関与していると考えられています。また、長期間ストレスに晒されることも、脂質異常症につながることが指摘されています。
高LDLコレステロール血症
高LDLコレステロール血症は、特に肉類や乳製品などの動物性脂肪分を多く含む食品、魚卵やレバーなどのコレステロールを多く含む食品などを多量に摂取する人に現れる傾向があります。
低HDLコレステロール血症
低HDLコレステロール血症は、偏った食習慣・運動不足・喫煙などが主な原因とされています。
高トリグリセリド血症
高トリグリセリド血症は、過食による肥満が最大の原因とされています。つまり、食事による摂取エネルギー量やカロリー摂取量が慢性的に消費量を上回っている人に、高トリグリセリド血症は現れやすい傾向にあります。
遺伝的要因
このような乱れた生活習慣に起因する脂質異常症の他に、遺伝的に脂質異常症となりやすい体質の人がいることも判明しています。
例えば、親・兄弟姉妹・祖父母などの近親者に脂質異常症の既往歴や心筋梗塞などの既往歴がある場合は、そうでない人に比べてLDLコレステロール値が高くなりやすい傾向があります。
このように特に遺伝性の脂質異常症のことを、家族性脂質異常症・家族性高コレステロール血症と呼ぶことがあります。
脂質異常症の治療方法
それでは、血液検査の数値などから医師に脂質異常症と診断されてしまった場合、どのような治療がなされるのでしょうか?脂質異常症の治療法について、ご紹介したいと思います。
脂質異常症の治療法
脂質異常症の治療は、基本的に食事療法と運動療法が治療の両輪となります。この食事療法と運動療法の組み合わせで、コレステロール値や中性脂肪値の目標値に到達できな場合に薬物療法を実施します。
脂質異常症患者の治療目標となるのは、コレステロール値や中性脂肪値が基準値内に戻り、血液が正常化することにあります。
食事療法
食事療法は、栄養バランスのとれた食事をして、カロリー摂取量が多くなりすぎないようにする必要性があります。カロリー摂取量については年齢・体重・体格によっても違いが生じますので、厚生労働省が発行している「日本人の食事摂取基準」などを参考に計算してみてください。
食事内容については、不飽和脂肪酸を含む青魚、食物繊維を含む豆類・海藻類などを意識的に摂取するようにし、動物性脂肪を含む肉類などの動物性タンパク質を減らして豆類などの植物性タンパク質で補うようにすると良いでしょう。
魚に含まれる不飽和脂肪酸は脂質に分類されますが、LDLコレステロールを減少させる機能を有しています。また、海藻類に多く含まれる水溶性食物繊維は、食事で摂取したコレステロールや中性脂肪が腸で吸収されるのを阻害する機能を有しています。さらに、豆類などの植物性タンパク質は、血液中のコレステロールや中性脂肪を減少させる機能を有しているとされます。
運動療法
運動療法は、有酸素運動などの適度な運動をすることで、体内の脂肪をエネルギーとして燃焼させます。有酸素運動には、HDLコレステロール値を上昇させ、中性脂肪値を低下させる作用がありますので、運動習慣をつけることが重要になります。
薬物療法
薬物療法は、食事療法や運動療法で効果が現れない場合や脂質異常症の危険因子に複数該当する場合などに、脂質降下薬を投与してコレステロール値や中性脂肪値を下げる治療法です。脂質降下薬にも様々な種類がありますので、薬物治療にあたっては医師の指示に従うことが大切です。
まとめ
いかがでしたか?脂質異常症の症状やリスク、原因、治療方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、脂質異常症の可能性を指摘されても、特に身体に大きな変化や症状が現れているわけではないこもしれません。しかしながら、脂質異常症を放置していると脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な病気につながる危険性が高いのです。
ですから、「コレステロール」や「中性脂肪」が多いと定期健康診断の際に指摘された場合は、速やかに改善に取り組む必要性があるのです。
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