私たちの身の回りには目に見えない細菌やウイルスが存在します。こういったものに感染すると、体に重篤な症状を招くことがあり、それが一生涯に渡って後遺症を残すこともあります。
ポリオは危険性は低いものの、稀に重篤な後遺症を招くウイルス感染症です。時として命を奪ってしまうこともあります。では、そんなポリオについて詳しくみていくことにしましょう。
ポリオとは
ポリオとはポリオウイルスにウイルス感染することで発症します。急性灰白髄炎や小児麻痺(小児まひ)ともいいます。主な感染経路は口からです。体内に入ったウイルスはその後、腸で数を増やします。そして、排泄された便が感染源となり、次の感染へ繋がります。
ポリオはVPD(Vaccine Preventable Diseases)と呼ばれる、ワクチンで予防可能なウイルス感染症です。幼少期にワクチン接種を受けることで、発症を防げることができます。一方、発症後の治療については有効な方法がありません。
ポリオの症状
ポリオに感染しても多くの人は症状を発症しません。感染者の約90〜95%の人が無症状のままポリオに対して免疫を持つといわれています。一方で症状を発症するケースもあります。
ポリオウイルスの潜伏期間は3〜35日程度で、その間に風邪に似た症状を発症する人もいます。具体的には発熱や頭痛、腹痛、下痢などです。風邪症状と判断して、特に何もしないという人もいるかもしれません。
深刻なケースでは、麻痺があります。腸内で増殖したウイルスが脊髄へ入り込むことで、運動ニューロンを侵食、手足の麻痺を発症させることがあります。弛緩性麻痺と呼び、手足に力が入らず、だらんとした麻痺を招きます。麻痺は一生残ることもあります。
ポリオの感染
現在、日本では1980年の症例を最後にポリオ麻痺の発症はありません。2000年にWHO(世界保健機関)が西太平洋地域の根絶宣言したこともあります。他方、以下の地域では予防接種の接種率が低く、現在もポリオの感染・発症が確認され、流行国として患者数が一定数いることもあります。
- アフガニスタン
- ナイジェリア
- パキスタン
このため、上記3カ国へ渡航の際はワクチン接種等が推奨されていることがあります。ウイルスが国内へ持ち込まれても、抗体を持っているため、流行の恐れはないとされています。
ポリオは成人に感染することもありますが、抵抗力の弱い乳幼児や年齢の低い小児に感染・発症しやすい病気です。これら子供の感染には十分気をつける必要があるでしょう。
ポリオの危険な症状
先に述べたようにポリオに感染しても、症状を発症する人はほとんどいません。多くは免疫を獲得し、そのまま何事もなく生活するケースがほとんどです。
しかし、一方で重篤な症状を招いてしまうことがあります。では、ポリオの症状について詳しくみていきましょう。
ほとんどが無症状である
ポリオに感染したとしても90〜95%の人は無症状です。これを不顕性感染と呼びます。その後、免疫を獲得します。ただ、不顕性感染状態であっても、他者にウイルスを感染させてしまうことがあります。これは先に述べた便からの感染です。
明確な症状がないため、自身がウイルスを持っていてもそれに気づくことはありません。先ほど述べた国へ渡航し、衛生状態の悪い場所へ行き、ポリオに感染。そのまま帰国してウイルスを持ち込んでしまうということも十分考えられます。
風邪症状
残りの数%の患者はポリオ感染後、風邪症状を発症することがあります。具体的な症状として以下があげられます。
- 頭痛
- 発熱
- 喉の痛み
- 嘔吐
- 吐き気
- 倦怠感
一見して風邪の症状と同じですが、体内ではポリオウイルスが増殖し、体を蝕んでいる状況であり注意が必要です。これら症状だけをみてポリオだと診断するのは困難でしょう。症状が続いている場合は注意が必要です。
麻痺症状(球麻痺)
200人に1人の割合で麻痺症状を発症します。腸管で増殖したウイルスが脊髄内の細胞へ侵入し、手足に麻痺を起こします。麻痺の症状は弛緩性麻痺と呼ばれる、力が抜けたような麻痺状態を発症します。
麻痺が起こる前には風邪症状ののち、背中の痛みを発症することがあります。その後、翌朝になってみたら四肢が麻痺を起こしていることがあります。急性の麻痺で、風邪症状から1〜2日程度で麻痺症状が現れます。
灰白髄は運動神経の集まった部位のことをいいます。ポリオウイルスはこの灰白髄に侵入し、神経細胞・中枢神経系を侵し、様々な症状を発症させてしまうのです。麻痺も神経が侵されることで起こります。
麻痺の後遺症
ごくわずかか確率で麻痺を発症してしまうと、その後は後遺症として残ってしまうことがあります。運動機能が低下してしまったり、筋拘縮といって筋肉が固まってしまう状態がみられます。
その他、嚥下障害や呼吸器障害などを発症することがあります。特に呼吸器の障害は旧姓の呼吸器不全(呼吸麻痺)を招くことがあります。呼吸そのものに異常をきたし、それが死亡の原因につながることもあります。麻痺を発症させるウイルスはその他存在するため、ポリオかどうかの判断は便を採取し、検査する必要があります。
ポリオの治療
ポリオは現時点で発症後に有効な治療法は確立されていません。そのため、基本的にはワクチンによる予防することしかできません。
ジョナス・ソークによりワクチン開発・研究がされ、多くの患者を救うことになりました。では、発症後はどのような治療をするのか。このことについてみていきましょう。
リハビリテーション
ポリオでは麻痺を発症し、深刻な後遺症を残し、障害者となってしまうことがあります。こういったことに関してはリハビリテーションを行い、身体機能を少しずつ回復させていくということが行われます。
麻痺が続いている間は安静が必要とされます。その間は運動を避け、血行を良くするマッサージなどが行われます。精神的なリラックスを得ることもでき、治療に効果的です。
症状が引いてくると、リハビリテーションを開始します。簡単な体操から散歩といった、体を動かしつつ、精神的にも気持ちが軽くなるような行動をしていくことで、体の機能を取り戻していきます。
麻痺患者は体の機能が低下しているので、無理のない範囲でリハビリをすることが大切です。翌日に疲れが長引かない程度の運動を続けていきます。継続することで身体機能が向上していくでしょう。
ポリオの予防
先に述べたように、ポリオの治療法は確立されていません。そのため、病気を予防することが最大限できることです。
では、予防のためにはどういったことができるのか。このことについてみていきましょう。
渡航先に注意を
日本では野生株のポリオ発生がみられないものの、世界ではまだ発生している地域があります。それは先に述べた3国です。
これら国へ渡航する際は、ワクチン接種を受け、対策をする必要があるでしょう。
衛生状態に気を配る
ポリオは人から人へ感染します。ウイルスは口から入り込み、増殖し、症状を発症します。
このため、普段口にするものに注意を払ったり、渡航先での衛生状態に十分気をつける必要があります。
予防接種を受ける
治療法は確立されていないものの、ポリオは予防接種によって予防できる病気の1つです。このため、きちんとした予防接種を受けることが大切です。
自身が予防接種を受けたかどうかも、海外へ渡航の際には確認するようにしましょう。
ポリオと予防接種
ポリオは予防接種で防ぐことができるウイルス感染症です。感染・発症してしまうとその後の治療法は確立されておらず、予防接種が最大の治療となります。
では、ポリオと予防接種についてみていくことにしましょう。
生ポリオワクチン
ポリオに対する抗体を得るために、病原性を弱めたワクチンウイルス(弱毒ワクチン)を接種することがあります(経口で投与)。これを生ポリオワクチンといいます。ポリオに感染したときと同じ生理反応が起こり、免疫を獲得することができます。
一方でごく稀に副作用、麻痺例があります。それはポリオウイルスの毒性が復活し、ワクチン接種者に症状を発症させてしまうワクチン由来の発症ケースです(ワクチン関連麻痺)。ワクチンウイルスに感染することも非常に稀ですがあります。
日本では平成24年より、経口生ワクチンの接種を中止。それに変わって後述する、不活化ポリオワクチン(活化ワクチン切り替え)が定期予防接種されるようになりました。
不活化ポリオワクチン
不活化ポリオワクチンは機能を完全に停止、病原性を取り除いた(不活化)ウイルスから免疫を作る成分を取り出し作成した、安全性の高いワクチンです。生ポリオワクチンのように副反応がないことが特徴です。また、感染性もありません。定期摂取することで免疫を獲得していきます。
不活性化ワクチンの接種回数は合計で4回です。生後3ヶ月目以降に1回目。それ以降は半年から1年の周期で2,3回目。最後の4回目は3回目から1年後に接種していきます。4回目の追加接種は4歳以降行われます。詳しい接種方法・予防接種情報については近くの病院に問い合わせるようにしましょう。
四種混合ワクチン
ワクチン接種はポリオワクチンだけではなく、ジフテリア、百日咳、破傷風の三種混合ワクチンと併用し、ポリオワクチンを合わせた四種混合ワクチンを接種することもできます。
三種混合、ポリオワクチン、4つのワクチン製剤のワクチン投与の予定(段階ごと接種済みの方はその進め方等)について、かかりつけの医師と相談の上、進めていくようにしましょう。
その他の感染症について
ワクチン接種の中でポリオの他、ジフテリア、百日咳、破傷風という名前がでてきました。これらの感染症についても少々みておくことにしましょう。
ジフテリア
ジフテリアはその名の通り、ジフテリア菌によって起こる感染症です。上気道粘膜疾患の1つで、喉や鼻、咽頭部に症状を発症します。症状として咽頭痛、発熱などが初期症状にみられます。その後、血液の混じった鼻水やリンパ節炎などがみられます。
偽膜と呼ばれる組織が気道で形成されると、呼吸困難を招くことがあります。その他、菌が産生する毒素が心筋炎を招く原因となることがあり、それが死亡に繋がることもあります。死亡率は約10%といわれています。
詳しくは、ジフテリアとはどんな菌?症状や感染経路を知ろう!治療法と予防接種についてを紹介!を読んでおきましょう。
百日咳
百日咳菌によって発症する感染症です。その名の通り、強い咳症状を発症します。咳に特徴があり、呼吸を吸い込む時にヒューという独特の音がします。咳症状は數十分と長く続くことがあり、患者を苦しめてしまいます。咳以外では目立った症状はみられません。
反対に高熱等がみられるようであれば肺炎を合併している可能性があるため注意が必要でしょう。咳の継続により、私生活に影響することもあり、用心する必要があります。
詳しくは、百日咳の症状について!大人の患者が増えている原因とは?を参考にしてください。
破傷風
破傷風菌によって発症する感染症です。その名の通り、傷口から侵入した菌が体に様々な症状を発症させます。細菌から放出される毒素は神経を侵します。
そのため、全身もしくは顔面の痙攣がみられます。その他、嚥下障害、発語障害。症状が進行すると、呼吸困難などを発症し、死亡することもあります。
詳しくは、破傷風の症状とは?原因や治療法、予防方法について紹介!を参考にしてください。
ワクチンの重要性
ポリオは長い年月、人類を恐怖に落としていました。感染・発症すれば治療する手立てがなく、麻痺が残ってしまえばその後の人生に大きな影響を与える可能性があります。ワクチンはそういった感染症の後遺症を予防する重要な治療であり、もしもの時に大きな役割を果たすものです。
何気なく受けているワクチンも、それを開発した人がいて、なみなみならぬ努力の上に成り立っています。医学というのはある意味ではそういった感染症との戦いでもあり、数々の戦いに人類が勝ってきたのです。大きな功績が治療背景にあることを忘れてはならないのかもしれませんね。
ワクチンで防げる病気
ポリオを始め、ワクチンで防げる病気をVPDと呼ぶということをお話ししました。こういった感染症は予防をしてしまえば恐ることはありません。
反対に予防摂取がきちんとなされていなければ、重篤な症状を招くケースがあるので用心しなければなりません。VPDにはポリオやジフテリア、百日咳、破傷風などがありますが、それだけではありません。その他、以下の病気もあります。
結核
ほんの昔の日本では不治の病として恐れられた結核も、今では薬を飲むだけで治るようになりました。結核菌に感染することで発症する病気です。肺に炎症を発症させ、強い咳症状や微熱を招きます。症状が非常に長く続き、徐々に体力が低下していきます。今でも結核を発症する人がいて、年間で2万人程度といわれています。
風邪症状と似ているため、結核と診断することは難しいです。しかし、風邪症状が長く続いていたり、伴って体重減少や食欲減衰などの症状があるようであれば、一度検査を受けてみることをおすすめします。
日本脳炎
蚊を媒体として日本脳炎ウイルスに感染することで発症します。その名の通り、脳炎症状が見られます。具体的には高熱、頭痛、痙攣症状などです。
蚊に刺されて数日から1週間程度で症状が表れます。脳症を発症する割合は1%〜0.1%程度ですが、発症してしまうと死亡率が20%〜40%ともいわれています。また後遺症が残る可能性もあり、非常に危険な病気といえるでしょう。
詳しくは、日本脳炎の予防接種について!副作用や注意点はなに?症状や治療方法も知っておこう!を読んでおきましょう。
麻疹
麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。空気感染、飛沫感染などで感染し、感染力の強いことが特徴です。咳症状のほか高熱が何日も続き、患者を苦しめます。口内にコプリック斑と呼ばれる白い発疹がみられ、これが麻疹の診断の決め手となります。発疹は全身へと広がり、次第に回復していきます。
麻疹は子供の頃にワクチンを受けたとしても、年を重ねるごとに抗体が減少していくことがあります。成人後、麻疹を発症するケースも少なくありません。調べてみたら抗体がほとんどなかったというケースもあります。このため、定期的な抗体検査をする必要があるでしょう。
また、妊娠中の女性は特に注意したい病気でもあります。抗体がなければそれだけ胎児に影響をあたえる可能性もありますから、子供を作る計画を考える段階で、抗体検査を受けることをおすすめします。
まとめ
日本ではポリオは馴染みのないウイルス感染症です。近年では発症者そのものがいませんから、それほど大きな心配する必要がないでしょう。ただ、ワクチン接種を受けて用心する必要はあります。
発症者がいないのは、抗体を持っている人が多いからといわれていて、自然感染はありません。そのため、ワクチンを受けない人が増えればそれだけポリオは流行してしまう可能性があります。
ワクチンの接種はポリオに限らず、様々なものを受けておくことが大切です。それがもしもの時、体を守ってくれる役割があるのです。
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