深部静脈血栓症は、足の血管の病気です。血の塊ができて、それが血管をふさいでしまいます。
恐いのは、足にできた血の塊が肺に移動して、肺の血管が詰まることです。そうなると命に関わる事態になります。「足の段階」で食い止めることができるように、深部静脈血栓症の症状について知っておいてください。
深部静脈血栓症の症状
深部静脈血栓症の症状について紹介します。
無痛
足の静脈に血の塊が詰まっても、痛みはありません。つまり無痛が初期症状となります。この時点で深部静脈血栓症に気付くことはまれです。初期の段階で治療に取り掛かることが難しい病気といえます。
腫れ
無痛から少し悪化すると、ふくらはぎが腫れてきます。足の静脈を流れる血液は、心臓に向かって進むので、つま先と血の塊が詰まっている場所の間に腫れが生じます。ですのでふくらはぎのほか、足首や足の甲、まれに太ももが腫れることもあります。
むくみ
人が立った状態でも、つま先の血液は静脈を経由して心臓まで戻ります。血液が重力に逆らって流れることができるのは、心臓のポンプの力と、そして足の静脈にある「弁」のお蔭です。
しかし深部静脈血栓症が悪化すると、この弁が壊れます。そうなると、足の血液は心臓まで持ち上がりにくくなります。血液が足に溜まりやすくなるのです。これが、深部静脈血栓症によって足がむくむメカニズムです。
むくみは、足首、すね、太ももの順にむくみます。むくみは朝や昼より、夕方や夜の方が症状が重くなります。ただ夜寝るときに横になるとむくみが解消します。これは足の血液が上昇しなくても流れていく済むためです。
痛み
足の腫れやむくみが悪化すると、痛みが生じます。急激で鋭い痛みではなく、長い時間じんわりと痛みます。押すと痛みが増すのも特徴です。痛んでいる場所が熱を持つこともあります。
皮膚の荒れ
深部静脈血栓症は、いわゆる「血の流れが悪くなる病気」です。血流が悪くなると肌が荒れます。乾燥肌になったり、血色が悪くなったりします。皮膚の色が茶色に変色することもあります。詰まったことにより静脈から赤血球が外に染み出しているからです。茶色は赤血球の色です。
皮膚の荒れは美容面を損ねるだけでなく、かゆみや、ときには痛みを起こします。悪化するとちょっとした衝撃で傷になり、その傷は治りにくくなります。
瘤
血流の悪化は、小さな傷でも容易に潰瘍状態にしてしまいます。潰瘍まで進んでしまうと、足に瘤ができます。「瘤」は「りゅう」と読みますが、「こぶ」とも読めます。深部静脈血栓症の重症の人の足は、血管にビー玉がいくつも入っているかのように、ぼこぼこしています。
胸痛、息切れ
深部静脈血栓症は、重症化すると肺の血管を詰まらせます。こうなると病名は肺塞栓症に変わり、胸痛や息切れなどが生じます。肺塞栓症はより重大な病気なので、項をあらためて症状を解説します。
肺塞栓症の症状
肺塞栓症の最悪の症状は死です。ですのでできれば深部静脈血栓症の段階で治療に取り掛かっていただきたいのですが、それが不可能な場合でも、肺塞栓症の初期の段階で病院にかかってください。
息苦しさ、脈拍増
肺塞栓症の息苦しさは、突然訪れます。昨日までなんでもなかった階段の上りが、とても苦しく感じます。途中で休まなければならないほどです。また、平地を少し歩いただけで、脈拍が1分間100回以上になることもあります。肺の血管が詰まると、血液中の酸素濃度が低くなるからです。つまり酸欠状態になるので、息苦しくなるのです。
胸痛
肺塞栓症では胸の痛みも生じます。息を吸ったときに痛むのが特徴です。胸痛の発生場所は心臓であることが多いです。
失神、ショック死
血液の流れが小さくなるということは、低血圧になるということです。著しい低血圧は失神を引き起こします。最悪、ショック症状に陥り亡くなることもあります。
深部静脈血栓の原因
足の静脈
深部静脈血栓の原因を見る前に、深部静脈について解説します。
血管には、動脈と静脈があります。例外はありますが、多くの動脈には酸素が多く含まれた血液が流れ、多くの静脈には二酸化炭素が多い血液が流れています。片方の足の静脈は大きく分けて3本あります。足首→すね→太ももの前側を流れるのが「大伏在静脈」と呼ばれる「表在静脈」です。足首→ふくらはぎを流れるのが「小伏在静脈」という名称の「表在静脈」です。この2本の表在静脈は、比較的皮膚に近いところを流れるので「表在」と呼ばれています。
3本目の静脈は「深部静脈」といいます。足の深い場所、つまり骨に近い場所を通っています。小伏在静脈は、膝のあたりで深部静脈と合流します。大伏在静脈は、足の付け根あたりで深部静脈と合流します。
3本の静脈とも、つま先から足の付け根に向かって流れていきます。血液は、立っているときは重力に逆らって上昇することになります。
血の塊の詰まり
足の静脈内の血液は、重力に逆らって上昇しているわけですから、足の血管に少しでも異常が起きれば上昇しにくくなります。血液が滞留することになります。血液は流れていないと固まる性質があります。それで静脈の血が上昇しにくくなると血の塊ができて、足の静脈を詰まらせるのです。
その血の塊がなんらかの拍子に移動することがあります。そうなると深部静脈血栓症は解消しますが、肺の血液を詰まらせる肺塞栓症を引き起こします。より悪い事態になるわけです。
高血圧、喫煙
次に「足の血管の異常」や「血の塊」の原因をみてみましょう。高血圧の患者は、動脈も静脈も傷つけます。この傷が、血の塊をつくるきっかけになります。また、血の塊が移動することで、別の場所の静脈を傷つけることがあります。そこからまた血の塊が作られることがあります。このようにして、血の塊は大きくなったり数が増えたりするのです。
また、喫煙も血の塊を作るリスク要因に数えられています。「出産後」や「高齢」もやはりリスク要因です。
深部静脈血栓症の治療
検査
深部静脈血栓症の初期は無痛ですので、初期治療は難しいのが現状です。そこで「出産」「高齢」「高血圧」「喫煙」といったリスク要因を持っている人は、症状がなくても定期的に検査を受けた方がよいかもしれません。この段階で行う「ドップラー超音波検査」は、体への負担が少なく、痛みもありません。
血液検査も行われます。血の塊は「Dダイマー」という物質を出すことから、血液中のDダイマー濃度を計測します。
肺塞栓症の疑いがある場合は、検査が大掛かりになります。CT検査は痛みはありませんが、放射線を使うので「小さな検査」とはいえません。
薬物療法
深部静脈血栓症は、血の塊が原因ですので、血が固まらないようにします。そのための薬は抗凝固薬といいます。「低分子ヘパリン」と「フォンダパリヌクス」という薬は、注射で投与するため、速効性があります。
別名「血液さらさら薬」と呼ばれている「ワルファリン」は、飲み薬です。効果が出るまでに数日かかるので、治療の開始当初は注射とワルファリンを併用し、ワルファリンの効果が現れた段階で注射投与は中止します。
副作用
深部静脈血栓症が悪化すると、薬物療法で一時的に血の塊が解消しても、投与をやめるとすぐに再発するため、ワルファリンを長期間服用しなければなりません。一生飲み続けなければならない人もいます。
しかしワルファリンは血液をさらさらにするので、出血した場合、血が止まりにくくなるという副作用があります。外傷による出血は注意することで避けることができますが、治療のための出血は避けられません。つまり外科手術が受けられなくなるのです。
ワルファリンを服用している人が、例えば胃癌のような手術が必要な病気を発症すると、一時的にワルファリンを飲むのを止めなければなりません。薬の調整や手術のタイミングを計ることは困難を極める場合があります。
特殊な薬
深部静脈血栓症を、血の塊ができてから48時間以内に発見できた場合、「組織プラスミノーゲン活性化因子」という特殊な薬を使うことができます。この薬は、血の塊を溶かしてしまいます。しかし時間がそれ以上経過すると、血の塊がこの薬で溶かせられなくなるほど強固になるので、この治療は受けられません。
特殊なストッキング
「弾性圧迫ストッキング」は深部静脈血栓症の治療具です。見た目は普通のストッキングと変わりありませんが、締め付けが強いのが特徴です。足の静脈の血液を持ち上げる手助けをする効果が期待できます。