中性脂肪は数値が低いほどいい、と考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
確かに中性脂肪が多すぎると、肥満や動脈硬化、善玉コレステロールの低下を招いてしまいます。様々な病気の遠因にもなるため、健康診断でもチェックされることの多い項目です。
一般には悪役にされがちですが、中性脂肪にも適正な値があり、それを著しく下回る場合には病気が隠れている可能性もあります。今回は、中性脂肪のなりたちや、低いために起こる問題、改善方法などについてまとめてみました。
中性脂肪ってなに?
まずは、中性脂肪について簡単に説明していきます。
中性脂肪のなりたち
中性脂肪のもとになるのは、主に脂質、糖質、タンパク質です。
脂質は脂肪酸とグリセロールに分解され、小腸から吸収されてエネルギー源となり、体内で消費されます。そして使い切れずに余ったグリセロールが、中性脂肪として蓄えられるのです。
炭水化物は消化されるとブドウ糖として脳や筋肉のエネルギー源となります。その際、余ったブドウ糖はグリコーゲン(糖原)となって肝臓に蓄えられます。グリコーゲンが肝臓で合成されて、中性脂肪になるのです。
タンパク質は、一旦アミノ酸に分解されます。アミノ酸はグルコース(糖質)となり、肝臓で中性脂肪として蓄えられます。
また、アルコールを摂取することも中性脂肪をつくる原因になります。アルコールは肝臓で分解されますが、その過程で中性脂肪の合成を促進させる酵素が発生するのです。
脂質に限らず、糖質やタンパク質といった食事から得られるエネルギーを余分に蓄えたものが、中性脂肪になるんですね。
中性脂肪の役割
生命を維持する上でブドウ糖が不足すると、体は中性脂肪を遊離脂肪酸に分解してエネルギー源にします。
1gの中性脂肪で、9キロカロリー分のエネルギーになるので、1gで4キロカロリー分になる糖よりも効率よくエネルギーになることが分かります。
中性脂肪は、いざという時のために体が用意した、エネルギーの貯蔵庫です。
また、脂肪分で内臓を守ったり、体温を一定に保ったりという役割も担っています。中性脂肪もある程度は体に必要です。少ないほどいいというわけではないのです。
中性脂肪が低いと病気になる可能性も
では次に、中性脂肪が低いとどんな問題が起こるのか紹介していきます。
意外!動脈硬化の危険性
中性脂肪がエネルギーの貯蔵庫であることはご説明しましたね。では、この貯蔵庫が空っぽになったら、体はどうなるでしょうか。
エネルギーがなければ、新しく細胞をつくることができません。細胞の代謝ができないということは、体全体が老化していくということです。
また、新しく摂り入れた栄養素は、脳や心臓など生命の維持に必要な部分に優先的に供給されるので、血管は古く、硬くなっていきます。その状態が長期間続くと、動脈硬化という病態になるのです。
動脈硬化は、心筋梗塞や脳出血、腎不全などの病気を引き起こします。どれも、命に関わる危険な病気です。あまり知られていませんが、栄養不足が原因で動脈硬化になることもあるのです。
中性脂肪の不足でビタミン欠乏症になる?
ビタミンDなど脂溶性のビタミンは、中性脂肪とくっつくことによって血管内を流れ、各臓器に届けられます。
つまり、中性脂肪が極端に少なくなると、せっかく摂取したビタミンが使われず、ビタミン不足に陥ることがあるのです。
脂溶性のビタミンには主にビタミンA、D、E、Kがあります。
ビタミンAは網膜の働きに必要不可欠なビタミンです。不足すると、目が見えにくくなることがあります。
ビタミンDは免疫力を高めたり、骨を強くしたりする働きがあります。不足すると、骨粗鬆症や、自己免疫疾患などを引き起こすことがあります。
ビタミンEは、抗酸化物質として細胞を守ります。また赤血球の溶血を防ぐので、不足すると貧血になることがあります。
ビタミンKは血を凝固させたり、骨を作りやすくする作用があります。これが不足すると、出血したときに血が止まりにくくなったり、骨粗鬆症になったりします。
このように、脂溶性のビタミンが不足することで、体には様々な問題が引き起こされます。ビタミンの運搬役である中性脂肪は、なくてはならないものなのです。
病気によって起る中性脂肪の低下
きちんと栄養を摂っているのに中性脂肪が病的に少ない、という場合があります。
例えば、肝臓が正常に機能しなくなると、栄養を蓄えることができず、結果的に中性脂肪をつくれなくなります。アルコールや炎症などで肝細胞が壊されることによって起こる病気ですので、早期発見が大変重要になります。
また、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)を発症している可能性もあります。甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが異常に多く分泌されることで、全身の代謝が高まる症状です。代謝が高いというと良いことのように聞こえますが、休むことなく代謝を続けるので、実際には体がとても疲れてしまいます。脳の働きも活発になりますが、思考にまとまりがなく気分が不安定になることがあります。
また、代謝が高まることによりエネルギーを多く使うので、中性脂肪を使い切ってしまうことがあります。すると、ビタミンなどの栄養が不足して、体の様々な機能に障害が起こるのです。
食欲があり、食べているのに体重が減る、疲れやすい、動悸やイライラがあって中性脂肪が極端に低いという場合には、これらの病気も疑ってみましょう。
中性脂肪を適正に保つには
それでは、中性脂肪を適正に保つにはどうすればいいのでしょうか。
バランスのよい食事が一番
これまでご説明した通り、中性脂肪が少なすぎると様々な問題を引き起こす恐れがあります。
中性脂肪のもとになるのは、脂質・糖質・タンパク質などの必須栄養素です。これらをバランスよく摂ることで、中性脂肪の値を適正に保つことができます。
無理な食事制限や偏食は代謝のバランスを崩し、かえって老化を招くことになります。特に極端なオイルカットの食事はビタミンの吸収を妨げ、体に害をもたらすことさえあります。
健康を維持するためには適度な中性脂肪が必要であることを覚えておきましょう。
過食しても痩せてしまうときは
食べ過ぎているのに痩せる、活発で暑がりになる、といったときは甲状腺機能亢進症を発症している可能性があります。甲状腺機能亢進症は女性の100人に1人が発症しているといわれるほど、メジャーな症状です。
直ちに命に関わるわけではありませんが、症状が進行すると手の震えにより字を書くことが難しくなったり、全身が震えて上手く歩けなくなったりします。放置すると悪化する恐れがありますので、医師の診察のもと、薬物治療や手術などで改善しましょう。
思い当たる症状があるときは、早めに内分泌・代謝科に相談することをおすすめします。
まとめ
中性脂肪は、体に必要不可欠なエネルギー貯蔵庫です。エネルギーが不足したときに活躍し、臓器を守ったり、体温を一定に保ったりします。また、血液中の中性脂肪にはビタミンを運ぶ役割があります。
病的に中性脂肪の値が低い原因は、肝機能不全や、甲状腺機能亢進症などの病気である可能性もあります。体調が優れず、痩せすぎるというときは医師に相談しましょう。
多すぎても少なすぎても困る中性脂肪。適正な値を保って、健康に過ごしたいですね。
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