五感の中でも視覚は特に重要な感覚機能です。感覚情報のうち約7割は視覚情報といわれていますから、日常生活をしていく中で必要不可欠な機能といえるでしょう。
視野狭窄はその名の通り、視野が狭くなる状態です。見え方にも色々な種類があり、またその背後に重篤な病気が隠れていることもあります。では、視野狭窄とは具体的にどのような病気なのか。みていくことにしましょう。
視野狭窄とは
普段見える視野が狭くなったり、ぼやけてしまう状態を視野狭窄といいます。完全に見えなくなる失明とは異なり、見えづらいことが特徴といえるでしょう。
視野狭窄には大きく分けて2つの「見えにくい症状」があります。単に目に見える範囲が狭くなり、視力低下が起こるだけではないのですね。具体的には以下の症状があります。
求心性視野狭窄
目で見ている視野のうち、中心から周辺部に向けて見えにくくなる症状です。症状の進行は比較的遅く、中心部は視野がぼやけることなく、正常通り見えることが多いです。
この症状の原因は網膜色素変性症や緑内障があげられます。緑内障に関しては末期に視野狭窄がみられます。どちらにしても症状が出た段階で治療を開始する必要があります。
不規則狭窄
求心性視野狭窄とは異なり、視野の一部分が見えにくくなる症状です。見えにくい部分の形も決まった形をとるわけではなく、個人によって異なります。
こちらの症状は網膜剥離、網膜の出血などがきっかけとなって発症します。視野の急激な異常を感じ、放置すると失明の危険性もあるため、早めの治療が必要です。
視野狭窄で起こる日常生活への影響
視野が狭くなり、モノが見にくくなる。これは想像以上に困ったことを招きます。特に高齢者に好発しますから、ちょっとしたことが怪我に繋がるなんてこともあるでしょう。視野狭窄が生活に及ぼす影響として次のようなことがあります。
- 足元が見えにくくなり、よくつまづくようになる
- 道路を横断する際、危険察知が遅れる
- 注意力の低下
特に横断歩道を歩く際にはかなり注意が必要です。また歩道を歩いている時でも自転車や歩行者に気づかないなんてこともあります。外を歩くときに不自由を感じてしまうことが病気の特徴です。
視野狭窄と年齢
視野狭窄を始めとする眼の病気は高齢者は好発します。これは単に加齢によるものです。眼の異常を感じた段階で早めに治療を開始することが大切です。
また、最近ではパソコンの使用により、40代の比較的若い人にも発症することがあるようです。眼精疲労が病気の原因になることもあるのですね。
長期間、眼に負担をかけている。あまり眼を休ませることがない。これらのことに心当たりがあるようでしたら、将来目の病気に気をつける必要があるでしょう。
視野狭窄の原因とは?
視野狭窄には2つの症状、「求心性視野狭窄」と「不規則狭窄」があると述べました。そして、それぞれの症状は別々の病気から発症します。具体的には以下の病気が原因となっています。
網膜色素性変性症
求心性視野狭窄を招く病気です。この病気はその名の通り、網膜に異常を発症します。網膜とは目に入った光を受け取る膜組織です。この膜で光を電気信号へ変換し、視神経へ伝達します。
網膜には大きく2つの細胞があります。1つは杆体細胞と呼ばれる細胞。これは網膜の中心部以外に分布し、主に暗い環境下での目の働きを司ります。
もう1つが錐体細胞と呼ばれる細胞。こちらは視力や色の情報を司っています。網膜色素性変性症では、主に杆体細胞に異常が起こり、視野狭窄を始めとする症状を発症します。
網膜色素性変性症は夜盲症という症状から発症します。これは夜間などの暗い環境でモノが見えなくなる症状です。夜盲症を鳥目と呼ぶこともあります。その後、症状の進行に伴って視野狭窄が起こります。
網膜色素性変性症は遺伝性の病気であると考えられています。また、現在でも確立された治療法はありません。ただ、対症療法として遮光眼鏡を使用したり、症状を遅らせる薬を飲むことが一般的です。
緑内障
同じく求心性視野狭窄を招く病気です。視神経に異常が起こることで症状を発症します。視神経は網膜で受信・変換された光情報を脳へ伝達する神経です。
どちらか一方の目のみ症状が現れることが一般的で、両目が緑内障になることは稀です。進行も遅く、自覚症状も少ないため、最初のうちは視覚異常に気づかないこともあります。ただ、緑内障は失明原因の第一位であり、決して他人事ではない病気といえます。40歳以上の発症率は5%であり、比較的高いようにも思えます。
緑内障が起こる原因は眼圧の上昇です。私たちの眼球は水を入れたビーチボールのように、水で満たされています。しかし、何らかの原因で内側からの圧力(眼圧)が上昇すると、視神経を圧迫し、症状を発症します。
また、眼圧が正常内であっても、視神経乳頭(視神経と網膜のつなぎ目)の構造が弱いと、異常をきたすことがあります。これを正常眼圧緑内障といいます。
詳しくは、緑内障は治るのか?原因や症状、治療方法について!を参考にしてください!
網膜剥離
次は不規則狭窄を招く原因です。網膜剥離とはその名の通り、光信号を電気信号に変換する網膜が剥がれてしまう病気です。症状の進行が早いという特徴があります。
網膜剥離自体には痛みがありません。しかし、自覚症状として飛蚊症があります。飛蚊症とはその名の通り、視野の中で黒い点が飛んでいるように見える状態です。ちょうど蚊が飛んでいるように見えます。飛蚊症は20代の人でも発症することがあり、注意が必要です。
また、網膜剥離を起こす原因として中心性網膜炎があります。これは網膜の中心にある黄斑部に水が溜まってしまうことで発症します。視野の中心が暗点するなどの症状がみられます。
網膜剥離そのものの原因は加齢。そして糖尿病があげられます。また、外部からの強い衝撃によっても起こることがあります。視野に異常を感じたときはすぐに眼科へ行くようにしましょう。
詳しくは、網膜剥離の原因は?症状や治し方を知っておこう!を読んでおきましょう。
網膜出血
その名の通り、網膜部から出血が起こっている状態です。特徴として視覚症状の急激な進行、視野の欠損、視野の歪みなどが起こります。一方で無自覚なこともあり、しばし注意が必要です。
網膜出血の背景には高血圧や高血糖といった生活習慣病が隠れていることがあります。眼はとても繊細な臓器で血管が張り巡らされています。血液や血管に異常があると眼にも影響が及ぶことがあるため、注意が必要です。
重篤な病気のケース
視野狭窄はしばし、眼球に原因がないこともあります。その原因は実は脳の病気であるケースもあり、この場合はかなり慎重な治療が必要とされます。
視野狭窄が起こる脳の病気としては脳出血と脳腫瘍があげられます。脳出血は脳内の血管が破れ、出血してしまう病気。脳腫瘍は脳内に悪性の腫瘍が発生する病気です
脳出血の場合、視覚を司る脳の部位に影響を与えることがあります。視覚情報を正常に処理ができず、発症してしまいます。また、治療後も視力障害が残ることもあり、注意が必要です
脳腫瘍の場合は大きくなった腫瘍が同様に視覚情報を司る脳の部位を圧迫します。これによって視力障害を発症させます。同時に他の運動・感覚機能の低下も起こることもあります。
視覚障害のメカニズム
脳出血や脳腫瘍などの脳の病気はしばし、視覚障害を発症させます。これは頭の中にできた病巣、もしくは出血で生じた血腫がしばし視神経を圧迫するためです。
目に入った光情報は網膜、視神経、大脳を経て処理されます。この経路を視覚路といいます。視覚路に何かしらの異常を起こしてしまうのが脳の病気というわけですね。
脳に異常があるケースでは、視覚障害のほか頭痛を伴うことがあります。ですが、詳しい検査をしなければ病気を発見することはできませんから、症状が同時に起きていれば、早めに検査を受けるようにしましょう。
脳の病気の前兆症状
脳に何かしらの病気の可能性があるとき、視覚障害だけに症状は治まりません。脳は体の機能をつかさどる重要な臓器ですが、些細な異常でも大きな症状となることがあります。
例えば脳梗塞の一例では、意識混濁が日常的に起こることがあります。気を失うように眠り、周囲の人が声をかけても全く起きないということもあるのです。もちろん、本人に自覚症状はありません。
突発的に脳の血管が詰まり、破裂するイメージがある脳梗塞も小さな症状から始めることがあります。生活の中でそういった異常症状があるときは注意が必要でしょう。
視野狭窄の治療とは
基本的にはそれぞれの症状の原因となる治療をしていくことになります。網膜色素変性症や緑内障、網膜剥離や網膜出血。では、それぞれの治療法についてみていきましょう。
視野狭窄の治療〜網膜色素変性症〜
網膜色素変性症では遺伝病のため、基本的な治療法が確立されていません。このため、症状の進行を遅らせることが治療の目的となります。視野狭窄といった目の症状は生活に深刻な影響を及ぼすことがありますから、なるべく遅らせる必要があります。
具体的な治療としては光を避けることがあげられます。光は眼に負担となることがあります。屋内にいることが多くなりますが、サングラスの着用によって刺激を軽減することもできます。
視野狭窄の治療〜緑内障〜
緑内障の原因は眼圧の上昇でした。このため、治療ではこの眼圧を下げることが第一の方法です。基本的には点眼薬を処方し、それを継続的に使っていくことで治していきます。
人によってどの点眼薬が合うかどうかはわかりません。このため、効果がなかったら、他の点眼薬を試していき、効果のあるものを探していきます。そして効果がある薬が見つかったら、それを継続して点眼していきます。
視野狭窄の治療〜網膜剥離〜
網膜剥離の状態には2つのケースがあります。1つ目は裂け目ができているケース。この場合、光凝固法と呼ばれる治療法を実施します。動向からレーザーを照射し、網膜内を焼き付けることで、網膜と組織をくっつける治療をします。
もう1つが剥がれてしまっているケース。このような場合では網膜を元の位置に戻す手術をします。具体的には硝子体手術と呼ばれる方法で治療をします。
視野狭窄の治療〜網膜出血〜
網膜に出血が確認できる場合、まずは薬物治療を行なっていきます。これは血液の流れをよくする薬を服用することで、血液排出を促します。
薬物治療で改善されない場合は手術を行います。手術ではレーザーを照射し、出血箇所を凝固。出血を抑えることができます。血液の再吸収が認められない場合は、注射や手術によって取り除くことがあります。
視野狭窄の検査法
なんだか視野が狭くなってきた気がするけど、見えないことはないからなんとなく放置している。そういったことを思っているようであれば注意が必要です。
自分自身ではわかりにくい自覚症状がある視野狭窄。では、具体的にどのような検査をしていくのでしょうか。以下の検査法があげられます。
静的視野検査
視野の中でも中心の30度の角度内を検査します。円板状の検査機上に光が転写され、それを確認できた時にブザーを押すという検査法です。眼病の初期から中期の段階の診断ができます。
動的視野検査
ドーム上の検査機上に映し出される光を目で追う検査です。同じように光が光った時にブザーを押し、検査していきます。光が移動するので、視野の広さを調べることができます。
眼底検査
その名の通り、眼の底、つまり血管や網膜を調べる検査です。緑内障や網膜剥離といった病気の有無を検査することができ、病気の早期発見につながります。
詳しくは、眼底検査でわかることは?検査方法や注意点を知っておこう!を読んでおきましょう。
眼圧検査
眼の中を満たしている房水が眼球を押す圧力を測定します。眼圧が高ければ視神経を圧迫し、視覚障害を発症していることがあります。緑内障、網膜剥離の診断に有効です。
視野狭窄の前兆症状とは
視野狭窄は眼球に原因があるケースが多いです。その原因種類によってはほとんど自覚症状がなく、気づきにくいケースもあります。
しかし、小さいながらも前兆症状を発症することがあり、この段階で眼科へ行くことが大切です。では、具体的にどのような前兆症状があるのでしょうか。
飛蚊症
先に述べましたが視野狭窄が起こる前に飛蚊症を発症することがあります。視野の一部に虫が飛んでいるような黒い点が見える症状です。網膜剥離で見られる症状でした。
網膜剥離が原因で飛蚊症を発症することがありますが、それ以外にも硝子体からの出血、糖尿病性の網膜症がきっかけで起こることがあります。基礎疾患の可能性もあるため、詳しく検査する必要があるでしょう。
虹視症
電球や電灯の光が虹色に見える状態です。健康な人でも疲れていたりするときは虹色に見えることがありますが、この状態が続いているようであれば、緑内障を疑うことができます。
光視症
まぶたを閉じているにもかかわらず、視野の中に光を感じる症状です。また、目を開いてモノを見ているときも、一部が眩しく見えることがあります。
この症状も網膜剥離の初期症状としてみられます。
変視症
モノが歪んで見える症状です。加齢黄斑変性という病気によって引き起こされることが一般的です。この病気は網膜の中心にある黄斑部に異常が起こることで発症します。
加齢黄斑変性も進行することで視野狭窄を始めとする視覚障害を発症することがあります。視野の一部が歪んで見えるようになってきたのであれば、早めに治療を受けるようにしましょう。
さまざまな眼球の症状
視野狭窄以外にも目に起こる病気や症状があります。
日常生活にも支障をきたすことがある目の病気。他には一体どのようなものがあるのでしょうか。
複視
モノが2重に見える状態です。複視には2つのタイプがあります。1つ目は両眼性複視。2つの目で見たときにモノが2重に見えます。原因の多くは外眼筋と呼ばれる眼の筋肉の麻痺によるものです。
もう1つが片眼性複視。これは片方の目で見たときにモノが2重に見えます。外傷によるものや、角膜の傷による光の屈折異常などが考えられます。
これら眼複視は知らず知らずのうちに発症・進行していることがあります。ちょっとでも眼に異常を感じたり、症状が長引いているようであれば病院へいくようにしましょう。
詳しくは、複視の治療方法を知ろう!原因や症状はなに?見え方や乱視との違いを紹介!を参考にしてください!
視野欠損
視野の一部が欠損してしまう状態です。見えにくかったり、ぼやけているのではなく、視野そのものが映らなくなってしまうので、視野狭窄とは区別します。
視野欠損では左半分、右半分のどちらかが見えなくなる、または視野の中心部だけが見えなくなるといった症状を発症します。一時的に起こったとしても、十分注意すべき症状です。
まとめ
視野狭窄は誰にでも起こる可能性のある病気です。特に基礎疾患がある人、生活習慣病を抱えている人。また、日常的に目を酷使している人も注意が必要でしょう。
一方で重篤な病気が隠れているケースもあります。それこそ命に関わることもあります。視覚の異常というのはとても重要なサインを発してくれていることがあるのです。
なんだか見え方に異常がある。よくモノにぶつかるようになった。視力が急激に低下してきた。そういったことに心当たりがある人は早めに病院へいくようにしてくださいね。
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