瞼裂斑の頻度や原因、予防方法は?
あまり、その存在が知られていませんが、瞼裂斑の頻度は実に成人の6割。なりやすい人は、太陽の下にいる人、なりにくい人は室内にいる人、メガネを常用している人です。
金沢医科大学の眼科学講座では、2004年から現在に至るまで、紫外線が眼に与える影響について研究しており、紫外線影響の1つとしての瞼裂斑についても、まとまった報告を行っています。
したがって、こちらに挙げるものも原則として全て、同講座の研究成果をお借りしたものです。
なお、他の医学部でも似たような研究をしていないかどうか、科学研究費助成事業データベース(我が国における全分野の最新の研究情報について検索することができます)を利用して、検索をかけましたが、少なくとも2004年以降、瞼裂斑についての研究は同講座からのものが質・量ともに他を圧倒しています。
瞼裂斑の頻度は大人で6割、紫外線が影響
中学生では4割、野球部では6割、メガネ常用の生徒は1割
金沢医科大学眼科学講座で中学生312人に特殊な光を用いて検診を行ったところ、中学1年生で25.9%、2年生で41.4%、3年生で41.9%、全体で約4割に瞼裂斑の初期変化が認められました。さらに、所属している部活動ごとに瞼裂斑初期変化を持つ生徒を比較すると、野球部が61.5%、ソフトボール部が54.5%、サッカー部では42.9%となり、屋外で長時間スポーツを行う生徒ほど、瞼裂斑を持つ生徒の比率が高くなっています。また、メガネ常用者では12.1%、時々使用者で35.6%、メガネ非使用者40.1%が瞼裂斑初期変化を持っていました。
小学生6年生では16.8%、小学3年生から初期変化が現れ始める
同講座では小学生493人に対しても、特殊な光を用いた同じ方法で検診を行っており、小学4年生で6.8%、5年生で6.8%、6年生では16.8%に瞼裂斑初期変化を認めています。なお、瞼裂斑の初期変化は小学3年生で早くも現れ始めるのですが、その前の年齢では稀なようです。
オフィスワーカーでも約6割
さらに、同講座ではジョンソン・エンド・ジョンソンのオフィスワーカー298人を対象に、眼科検診を行っています。先の2つの学童・生徒を対象とした検診とは異なり、オフィスワーカー対象のこの検診では特殊な光を用いず、肉眼で判定できるレベルまで成長した瞼裂斑について調べています。
その結果、20代で42.3%、30代で56.5%、40代では61.1%、全体では57.4%に瞼裂斑が発症していました。
つまり、太陽の下にいることが少なく、紫外線を浴びることも他の職業に比べると少ないはずのオフィスワーカーですら、約6割の肉眼でわかるレベルの瞼裂斑があるということです。
UVカットコンタクレンズが覆っている部分は、瞼裂斑ができにくい
瞼裂斑は通常、角膜(黒目)に隣接した部分に発症します。この部分が紫外線の影響を受けやすいからなのですが、瞼裂斑が角膜近くにできると、角膜が歪んだり、瞼に引っかかって異物感を感じたりすることが多くなります。もちろん、瞼裂斑はないに越したことはありませんが、瞼裂斑ができるのが避けられないのなら、角膜から遠ければ遠いほど良いということになります。
UVカットコンタクトレンズは角膜よりもやや大きく作られているため、このコンタクトレンズを装着している人では、最も紫外線の影響を受けやすい角膜に隣接した部分が保護され、角膜からやや離れた部分に瞼裂斑ができる傾向があります。
瞼裂斑の原因は結局、何?
紫外線が原因であることは明白なようですが、これだけ証拠のようなものが揃っていても、はっきり言ってよいのは、「眼が長年紫外線にさらされたために起こると”考えられています”」というところまでです。
現時点で瞼裂斑の原因と考えられていることは、紫外線以外にもいくつかあり、その中には、上では予防的役割を果たしているように見えたコンタクトレンズ(ただしハード)も含まれています。
以下に瞼裂斑の原因と考えられているものについて列記します。
- 紫外線
- 風
- 埃
- ハードコンタクトレンズ(結膜を刺激するため)
- 年齢(紫外線影響は”溜まる”と考えられているので、年齢が上がると紫外線影響も”溜まる”)
- 体質(野球部でも瞼裂斑にならない生徒がいる一方、メガネを常用していても瞼裂斑になる生徒もいる)
上の全て、どれも原因だと考えられています。いろいろな種類のものが含まれていますが、まとめると、結膜部分を刺激するものということになります。もちろん同じ刺激の量でもその時間が長ければ長いほど(年をとればとるほど)瞼裂斑がひどくなるというわけです。
ペンだこや、足のかかとなどの皮は分厚くなっています。この現象が結膜に起こったのが瞼裂斑と考えるとわかりやすいのかもしれません。
特に、結膜の鼻側と耳側(3時と6時の方向)は紫外線はもちろん、慢性的に刺激にさらされているので、この場所にできやすいようです。
瞼裂斑は、なぜ、耳側よりも鼻側に多いの?
瞼裂斑が鼻側と耳側に多く、上下に少ない理由は納得できますが、なぜ鼻側の方が耳側よりも多いのでしょうか? 鼻側には鼻があり、紫外線も風も遮っているので、刺激は少なそうです。サングラスの隙間から入ってくる紫外線も鼻側より耳側の方が多そうです。それなのに、より多く紫外線にさらされているはずの耳側ではなくて、なぜ鼻側なのでしょう?
その理由はコロネオ現象にあります。
サングラスの隙間を縫うように横から入ってきた紫外線は、角膜を通過する際に少し屈折し、反対側の角膜や水晶体に集中的にあたる性質があります。このことをコロネオ現象と言います。コロネオ現象によってあたる紫外線は、1箇所に集中し、結果として、その箇所の紫外線曝露の総量が多くなってしまうため、紫外線があたる側の反対側の角膜の方が、紫外線の影響を多く受けることになるのです。
紫外線は耳側から入り込みやすいため、コロネオ現象によって、その反対側である鼻側に集中します。瞼裂斑が耳側より鼻側に多いのはこのためです。
サングラスは正面からの紫外線を防ぎますので、瞼裂斑の予防には効果があります。しかし、耳側から入り込む紫外線を防ぐことはできないため、鼻側の瞼裂斑を防ぐことは難しくなります。
UVカットコンタクトレンズでは、コロネオ現象による角膜辺縁上の紫外線の集中を防ぐことができます。その上、UVカットコンタクトレンズは角膜よりもやや大きく作られているため、最も紫外線の影響を受けやすい角膜に隣接した部分が保護されます。結果として、瞼裂斑ができたとしても、角膜からやや離れた部分に瞼裂斑ができる傾向があります。
瞼裂斑の予防法は?
上に挙げたように、瞼裂斑の原因として考えられているのは、紫外線、風、埃、コンタクトレンズ、年齢、体質です。年齢と体質は変えることができませんが、紫外線や風、埃などから眼を保護することは可能です。コンタクトレンズは、不潔であったり、眼と相性が悪いようですと瞼裂斑の原因になりますが、UVカットコンタクトレンズは、ある程度の予防効果があるようです。
紫外線や風、埃などから眼を保護し、瞼裂斑を予防するためには、メガネ(サングラスならなお良い)、帽子の着用が効果的です。メガネはつるの細いものよりも太いものの方が、紫外線の横からの入り込みを防ぐのに役立つようです。 また、雪山など紫外線が反射するような場所では、横からの紫外線の入り込みを防ぐために、ゴーグルで眼の周りを完全に覆ってしまうのは非常に効果的です。
瞼裂斑だと何か困るの?
成人の6割が持っている割に、騒がれもせず、どうやら大した症状がなさそうな瞼裂斑ですが、一体何か困ることはあるのでしょうか?
美しくないから困る
瞼裂斑ができると眼にシミのような盛り上がりができ、白目が白くなくなってしまうため、審美的な問題で困ります。ちなみに、筆者も白目がなんとなく黄色くて、ちょっと残念な感じになっています。
眼がコロコロするから困る
瞼裂斑は斑状に盛り上がっているため、まばたきの度にこすってしまいます。つまり、常に異物感を感じたり、慢性的なコロコロ感を症状としてもつことがあります。常に眼に違和感があるのは困ります。
瞼裂斑炎が起きるから困る
瞼裂斑が炎症を起こしたものを瞼裂斑炎と呼びます。瞼裂斑は、盛り上がっていますから、常にまぶたでこすれて、コロコロ異物感がある状態であり、炎症も起こしやすいのです。瞼裂斑炎を起こすと、赤く毛細血管が浮き出て常に充血した状態になります。瞼裂斑炎は充血する(見た目の問題)だけではなく、かゆみや痛みを伴うこともあります。
なお、眼が充血する原因として、アレルギーを真っ先に思いつく方が多いのですが、実は、眼の充血の原因としては、アレルギーよりも瞼裂斑炎の方が多いとのことです。
ドライアイの原因になるから困る
眼の表面は常に程よく涙液が覆っており、これを涙液層と呼びます。ところが、瞼裂斑はの斑状の盛り上がり部分には、涙液が十分に行き渡らないため、涙液層が薄い部分が出てきます。涙液層の薄い部分は、部分的にドライアイとなりますが、眼は乾燥するだけで炎症を起こしてしまうため、慢性的乾燥性の眼の炎症を起こし、それがますますドライアイを増悪させてしまいます。ドライアイと眼の炎症の負のスパイラルが起きてしまいます。
翼状片だったら困る
先にも触れましたように、瞼裂斑と翼状片は別のものですが、瞼裂斑と翼状片の原因がほぼ同じで、予防方法も治療方法もほとんど同じなので、分ける意味もないし、必要もありません。ですが、瞼裂斑と思っていた盛り上がりが、角膜に広がれば、それは翼状片です。
翼状片は角膜の上に侵入し、角膜を変形させ、乱視の原因になります。また、翼状片が中心に伸びて、瞳孔を完全に覆って仕まえば、視力を失うこともあり得ます。
瞼裂斑は治療する必要があるの?
瞼裂斑があると困ることは色々あることは分かりましたが、治療する必要はあるのでしょうか?治療の必要性について、誤解を恐れず単純化すると以下のようになります。
- 瞼裂斑→不要
- 瞼裂斑炎→必要:抗生物質や抗炎症剤の点眼
- 翼状片→必要:手術切除
瞼裂斑が翼状片に発展するケースは少ないため、違和感がひどい場合や、審美的な問題で本人がひどく悩んでいる場合など、一部の例外をのぞいて、手術することは殆どありません。しかし、充血が目立つ時や瞼裂斑炎を起こしている時には、抗炎症剤や抗生物質などの点眼が処方されます。
瞼裂斑ではなくて翼状片の場合は、小さい間の治療は、瞼裂斑と同様、炎症があるときのみ抗炎症剤や抗生物質などの点滴を行います。しかし、翼状片が大きくなり、違和感が増強したり視力への影響が出てきた場合には、手術により切除することもあります。
なお、ハードコンタクトレンズの使用歴が長く、瞼裂斑の原因がハードコンタクトレンズによる可能性も高い場合に限り、3〜6ヶ月間だけソフトコンタクトレンズに変えて様子を見ていると瞼裂斑が目立たなくなることもあることが以前から知られていました。UVカットコンタクトレンズが開発された現在は、普通のソフトコンタクトレンズではなく、UVカットのものに変更して様子を見ることも多いようです。
まとめ
瞼裂斑を4つもつ筆者が渾身の力を振り絞って、瞼裂斑の情報を集めました。筆者の眼は痛くもかゆくもなく、何の問題もないつもりでしたが、よく考えてみると、充血もドライアイも持っており、 これらは瞼裂斑によるものだったのかもしれません。
瞼裂斑は、知られていない割に大人の6割が発症しているほど身近な眼疾患です。瞼裂斑の存在を認識し、質の良いサングラスやUVカットコンタクトレンズ、帽子の着用など、正しい紫外線対策についての知識を持つことが、本人や親はもちろん、幼稚園や小学校の職員にも必要でしょう。
紫外線から眼を守ることは、瞼裂斑だけでなく、白内障など他の眼の病気の予防にもつながります。