眼の中の「ぶどう膜」という部分に炎症が起こるぶどう膜炎。聞き慣れない病気ですが、原因不明とも言われており、失明する可能性もある難病です。現在、充血や強い痛み、かすみ目などの症状がある人は注意が必要です。
そこで今回は、ぶどう膜の詳しい解説から、原因、症状の特徴、検査や治療方法まで、ぶどう膜炎を徹底的にリサーチしたいと思います。
この記事の目次
ぶどう膜炎とは?
眼球の内側に存在する「脈絡膜(みゃくらくまく)」「虹彩(こうさい)」「毛様体(もうようたい)」の3つをまとめて、ぶどう膜と呼んでいます。この3つに炎症を起こすことをぶどう膜炎ということに間違いはありませんが、この3つの部位以外に炎症を起こした場合でも、ぶどう膜炎と診断されます。
眼球は、「角膜」「前房」「虹彩」「水晶体」「硝子体」「網膜」「視神経」で構成されていますが、この中の角膜と視神経以外で炎症を起こした場合でもぶどう膜炎と診断されます。そのため、眼の中で起こった炎症は全て、ぶどう膜炎と診断されることが多いでしょう。
皮膚など体の表面は、再生も早く治りも早いですが、体の内側となるとなかなか治らないのが一般的です。眼の中となると尚更治りにくいでしょう。ぶどう膜炎も原因や進行程度によって様々ですが、治るまでに数か月から数年は要すると言われています。
原因不明のぶどう膜炎だった場合は、持病として一生付き合っていかなくてはいけない可能性もあります。
そもそもぶどう膜とは何?
ぶどう膜炎をはじめ、眼の中で起こった炎症を全てぶどう膜炎とすることは理解したけれど、そもそもぶどう膜の詳しい役割は何なのでしょうか?
前途の通り、ぶどう膜は眼内の「脈絡膜(みゃくらくまく)」「虹彩(こうさい)」「毛様体(もうようたい)」の3つをまとめてぶどう膜と呼んでいます。脈絡膜は、眼球の内側を広い範囲で覆っている部位で、網膜と強膜の間に存在する膜状の組織です。脈絡膜は多くの血管が通っていて、その多量の血液によって網膜に酸素が送られるという、重要な役割を担っている部位です。
虹彩は、見た物や周囲の明るさに合わせて瞳孔の大きさを調整しています。毛様体は、毛様体が持つ筋肉によって水晶体の厚さを変えて目のピントを合わせたり、眼球内を流れている栄養たっぷりの「房水(ぼうすい)」を作って、眼の中に栄養を供給しています。
眼球を覆っているこの3つの組織は、形は球形で、さらに血管で覆われているため色もぶどう色となり、ぶどうの実に似ていることから「ぶどう膜」と呼ばれています。
ぶどう膜は、眼球の他の部位に比べて血管が多いため、炎症の原因がぶどう膜そのものに無く他の臓器で起こった場合でも、血液の流れによってぶどう膜炎を起こす可能性が高くなります。そもそも、炎症を起こす場合、白血球の働きが深く関係しており、血管が多いぶどう膜は非常に炎症を起こしやすい場所なのです。
また、ぶどう膜は網膜と接しているため、炎症を起こすと網膜を傷つけてしまう可能性が高いのも特徴です。網膜を傷つけると視力が低下し、失明することもあります。よって、ぶどう膜の炎症は眼球内で起こりやすく視力にも影響を及ぼすため、細心の注意が必要です。
ぶどう膜炎の症状
ぶどう膜炎は、炎症している部位や程度、何の病気の合併症なのかによって、様々な症状が現れます。片方の眼だけに症状が出るケース、両眼に出るケース、左右交互に症状が現れる場合もあります。
症状の進行も、少しずつ悪くなっていく場合と、治ってはまた再発するといった繰り返すパターンもあります。では、具体的にどのような症状が現れるのでしょうか?主な症状を詳しく見ていきましょう。
視力の低下
眼球内部には、「硝子体」というゼリー状の組織があり、この部位は眼球内部を無色透明に保つ役割を担っています。しかし、ぶどう膜炎が生じるとこの硝子体に炎症性細胞が浸潤するため、眼球内部が濁り、霧がかかったように霞んだり、異常に眩しかったりするため、視力が低下します。
硝子体だけでなく、炎症が網膜に及び網膜剥離を起こした場合や、白内障、緑内障によっても視力低下を起こす場合もあります。
充血や鈍い痛み
炎症が「虹彩」や「毛様体」に強く出た場合は、胸膜や結膜(白目)に充血が見られます。さらに充血を伴った後、進行によっては高眼圧など眼圧異常で違和感が出始め、頭痛や眼痛など鈍い痛みを感じることもあるでしょう。
飛蚊症(ひぶんしょう)
視力低下と同様、とても厄介な症状が飛蚊症です。飛蚊症とは、炎症によって生じた硝子体の濁りや浮遊物により、視界の中にゴミや虫が飛んでいるように見えてしまう症状です。
一度発症してしまうと、完治させるにはたくさんの時間を要するほど、なかなか消えない厄介な症状と言われています。
ぶどう膜炎を発症する原因
ぶどう膜炎の原因疾患は、「サルコイドーシス」「原田病」「ベーチェット病」の3つが、日本における三大ぶどう膜炎と言われています。
これらの三大疾患は原因不明の自己免疫性疾患であり、サルコイドーシスとベーチェット病に関しては国の指定難病にも認定されているが、詳しい検査によって診断が確定すれば、発症後の治療方針を立てることは可能と言われています。
サルコイドーシス、原田病、ベーチェット病の三大ぶどう膜炎以外にも、糖尿病や脳神経疾患、腸や皮膚の疾患、関節炎、膠原病、外傷や悪性腫瘍も要因となります。さらに、細菌性眼内炎やヘルペス性虹彩毛様体炎のようにウイルスや細菌の感染、真菌、寄生虫などによる感染が要因となることもあります。
一方で、色々な角度からあらゆる検査を行っても、3人に1人は原因が分からないと診断されることがあるのもこの病気の特徴です。不安な場合は、ひとつの病院だけでなく、違う病院でも検査を受けて確かめてみるのもいいでしょう。
三大ぶどう膜炎といわれる「サルコイドーシス」「原田病」「ベーチェット病」の3つの疾患の、詳しい症状を見ていきましょう。
サルコイドーシス
サルコイドーシスは、慢性的な炎症刺激によって発生するおできのような腫瘤病変「肉下種(にくげしゅ)」ができる、原因不明の慢性的な病気です。肉下種自体が炎症を引き起こした場合に発症します。ぶどう膜炎だけではなく、リンパ節や脳、肺や心臓などあらゆる臓器に症状が現れます。
サルコイドーシスを発症した場合、虹彩に肉芽腫ができ、ぶどう膜炎を発症します。症状は炎症の程度にもよりますが、軽くなったり強くなったりを繰り返しながら慢性的に長期間続くのが特徴です。また、緑内障や白内障、飛蚊症を引き起こすケースが多く、場合によっては視力障害を招くこともあります。治療の開始が極めて遅かったり、長期間に渡り放置してしまったなどの問題がなければ、通常の治療でも失明に至ることはほとんど無いと言われています。
サルコイドーシスは慢性的な病気なので、一度や二度の通院で完治する病気ではありません。気長に通院し、医師の指示のもと治療を行いましょう。肉下種が肺や心臓など多臓器に及んだ場合、呼吸困難などの重篤な病気に発展する可能性もあるため、一度発症した場合は、症状が落ち着いても定期的な検査が必要不可欠です。
詳しくは、サルコイドーシスとは?症状や治療法を知って対処しよう!を参考にしてください!
原田病
原田病は、両眼に網膜剥離の症状が出て、眼が見えにくくなる疾患です。症状は眼だけに限らず、難聴や髄膜炎、白髪、皮膚の白斑など全身に及びます。
原因は、メラニン色素細胞に対する自己免疫疾患と言われています。人間の体に備わっている通常の免疫反応は、細菌やウイルスなど体に害を及ぼす異物の侵入を防ぐために備わっている防御反応で、健康体を維持するためには必要不可欠なものです。しかし、自己免疫疾患とは、自分の体に備わっている正常な物質であるにも関わらず、異物と勘違いをして免疫反応を起こし、その地点で過剰な炎症を起こしてしまうのです。
原田病の場合、発症したらすぐに治療を開始して、慢性化するのを防ぐことが何よりも重要です。放置したり発見が遅れて再発を繰り返すほど重症化した場合は、失明する可能性もあるため注意が必要です。
詳しくは、原田病について!症状や原因、検査方法や治療方法を知ろう!正式名称は?を参考にしてください!
ベーチェット病
原因が分かっていないと言われるベーチェット病ですが、発症すると皮膚や粘膜に炎症を繰り返す慢性の病気です。
詳しいことは解明できていない病ですが、体内にある異物を除去する働きのある白血球が、異物が存在しないにも関わらず発作的に多発して炎症を起こすとされています。ベーチェット病は、ぶどう膜炎のほかに、口内炎や外陰部の潰瘍、全身の皮膚に赤い斑点などが現れたりします。患者は、地中海沿岸東部から日本にかけて、シルクロード沿いに多いと言われています。
ベーチェット病が原因疾患となるぶどう膜炎の場合、突然視力が低下するといった発作が現れ、繰り返します。発作は長引かずにすぐに治りますが、繰り返すことで眼球内の組織を傷め、視力が低下し、最悪の場合失明に至るケースもあります。しかし、近年では症状に対して効果の高い薬が開発され、失明するケースが少なくなっていると言われています。
ベーチェット病が発症した場合は、炎症を短期間で抑えることが何よりも大切です。視力低下や眼に違和感を感じたら、すぐに受診するようにしましょう。病気の程度や進行具合にもよりますが、発症して5年間が最も発作がひどく、10年経過した頃には落ち着くと言われています。発症後10年間で、どの程度視力を低下させずに維持できるかが重要なのです。
詳しくは、ベーチェット病ってなに?症状や原因、治療方法を知ろう!ただの口内炎に要注意?を参考にしてください!
ぶどう膜炎の検査と診断方法
ぶどう膜炎の診断は、ぶどう膜炎患者の3人に1人は原因不明と言われており、ぶどう膜炎を引き起こした原因疾患が特定できず、診断するのが難しい眼の病気のひとつです。しかし、原因さえ特定できれば、難病とはいえ適切な治療を受けられる病でもあります。
まず、考えられる検査方法としては、一般的な眼科検査に加え、網膜断面構造解析などの眼科特殊検査、血液検査などの全身検査、ツベルクリン反応検査などが主に行われます。サルコイドーシスや原田病のような免疫異常が原因だと分かった場合は、どのような症状が確認できているのか詳細な問診が必要不可欠となるでしょう。
このように、ぶどう膜炎の疑いがある場合は、問診、眼科検査所見、全身検査所見の結果から診断していきます。
ぶどう膜炎の治療方法
ぶどう膜炎の多くは、原因となる疾患が分かっていたとしても根治療法は難しいと言われており、できるだけ炎症を抑え、視力低下などの障害を極限まで抑えるために、合併症を予防することが治療の目的となります。
症状の程度や、どの部位に発症したのかによって治療法は様々ですが、基本的には薬による内科的治療です。炎症の発症が一部の部位に及ぶ局所療法の場合は、炎症を抑える「副腎皮質ステロイド点眼薬」や炎症によって虹彩後癒着を予防する「散瞳薬点眼」が処方されます。炎症が強く痛みなどを伴う場合は、眼の周囲に注射をするケースもあります。
一方で、局所療法だけでは効果が期待できない場合や、眼球の奥に炎症が及ぶ場合は、「副腎皮質ステロイド薬」や「免疫抑制薬」の全身への投与が行われることもあります。治療過程で徐々に症状が改善していった場合、ステロイド剤など少しずつ量を減らしていきますが、自己判断で減量したり中止するのは危険です。
炎症を再発させるだけでなく、死に至るほどの強いショック症状を起こす危険性もあるので注意が必要です。
ぶどう膜炎の治療に使われる薬について
ぶどう膜炎は、症状が眼だけでなく全身に及ぶことが多いです。そのため、治療で使用する薬には点眼薬だけではなく、内服薬が処方されたり、注射や点滴を受けることもあります。
治療には長期間を要するため、長い間薬と隣り合わせの生活を送ることも少なくありません。使用する可能性のある薬とその効果を、ここでしっかり理解しておきましょう。
ステロイド薬
炎症を抑える強い薬で、即効性に優れ、効果が期待できる薬です。炎症を起こしている部位がどこか、また炎症の程度により、内服や注射、点眼などタイプは様々です。
症状が改善方向に進んでいるからと自己判断をして急に使用を中止した場合、強い副作用が起きたり、激しいショック状態に陥ることもあるため、医師の指示通りに正しく服薬しましょう。
コルヒチン
異常に数が増えた白血球の動きを抑える薬です。
主に、ベーチェット病患者に用いられる薬で、突然の発作を予防したり抑制するために使用されます。妊娠の可能性がある人や妊娠を希望している患者には使用できません。
散瞳薬(さんどうやく)
瞳孔を広げることで、虹彩が水晶体に癒着して瞳が不整円となる虹彩後癒着を予防する点眼薬です。虹彩に炎症があるときに主に使用されます。
インフリキシマブ
炎症発作を抑える薬で、主にベーチェット病を発症した患者に使用されます。炎症を起こすことを指令する異常に発生したタンパク質の働きを抑制し、発作が起きるのを防ぎます。個人差はありますが、約2ヵ月間隔で点滴にて投与されます。
高い効果を期待できる反面、人によってはアレルギー反応など強い副作用が出る場合もあるため、副作用を起こしたときに適切な処置をすぐに行える専門医がいる医療機関で受診するようにしましょう。その他、薬の服薬によって肺炎や上気道炎などの呼吸器感染にかかりやすくなるなどの報告もあるため、主治医にリスクについて詳しく説明を聞き、薬を使用するかどうか検討するといいでしょう。
ぶどう膜炎患者の予後の正しい過ごし方
ぶどう膜炎は、治ったと思っても再発を繰り返す例も多々あります。そのため、再度炎症を起こさないよう予後の過ごし方も重要になってきます。
では、どのように過ごせばいいのでしょうか?注意点や良いとされる過ごし方など、詳しく見ていきましょう。
合併症を予防
ぶどう膜炎の合併症は、緑内障や白内障、硝子体混濁、網膜剥離などがあります。
内科的な治療ではよくならない合併症も多いですが、症状によっては視力が低下してしまうケースもあるため、合併症を起こした場合は早期に発見し、すぐに治療することが何よりも重要とされています。そのためには、専門医による適切な診断と治療法が大切です。
発作や再発を抑える
炎症の発作や再発の繰り返しは、視力を低下させる要因となります。そのため、専門医の適切な診断と正しい治療を受け、未然に防ぐ必要があります。もし、発作が起きてしまった場合は、速やかに対処をして、炎症がひどくならないうちに治さなければいけません。
治ったと思っても、再発や発作は突然起きます。規則正しい生活を心掛け、健康体を維持することが大切です。体への不調を感じ場合は、症状の軽い重いに関わらず、早めに受診しましょう。
治っても安心せず通院し続ける
発作や再発もなく症状が落ち着いている場合、安心して薬の服用や点眼が疎かになったり、定期的な診察を怠りがちになります。
しかし、ぶどう膜炎は合併症や、炎症の発作・再発の可能性が高い病気です。そのため、早期発見や治療を行うため、通院は欠かせません。自己判断で服薬や通院を中止せず、必ず続けましょう。
まとめ
ぶどう膜炎は、失明する可能性もある恐ろしい病気です。症状を自覚したときは速やかに眼科を受診し、できるだけ早く医師の診断と治療を行う必要があります。
発症してしまった場合はしっかりと病気と向き合い、再発を防ぐためにはどのようにすればいいのか、専門医の指示のもと予防と治療を行うことが大切です。
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