皆さんイタイイタイ病を知っていますか?学校の歴史の教科書などで聞き覚えのある方も多いかと思います。イタイイタイ病は1910年~1970年代にかけて、富山県の神通川(じんづうがわ)流域で起きた公日本発の公害病です。
この病気にかかった患者さんはわずかな外力でも骨が折れてしまい、「イタイイタイ」と言いながら死を迎えることから、イタイイタイ病と呼ばれるようになりました。
この病気を風化させない為にも、病気の歴史や症状、原因、治療方法についてご紹介したいと思います。
イタイイタイ病について
ここでは、イタイイタイ病の概要、原因と公害認定から問題解決までの歴史をご紹介します。
イタイイタイ病とは?
日本では高度経済成長期の時期(1950年~1970年代)にかけて、産業活動により排出された有害物により、人体に影響をおぼよす被害が多数発生しました。今では組織が整ってきており、規定がある為、このような公害病が発症することは少ないと思いますが、この時代は公害への関心も低かった為、多くの有害物質が自然界に放出されていました。
これらの多数発生した公害のうち被害の大きいものは、イタイイタイ病、水俣病、第二水俣病、四日市ぜんそくの4つでこれらを4大公害病と呼びます。今回詳しくご紹介するイタイイタイ病は、富山県の神通川流域で起きた公害病の1つです。
神通川の上流に位置していた神岡鉱山から排出されたカドミウムという金属が水に溶け込み、その水を直接摂取したり、農作物に利用したりしていた、熊野地域住民の方を中心に被害が広がりました。
更年期(35歳以上)以降に出産した経験のある女性に多く症状が起こり、全身の痛みに苦しむものも、初めは原因不明の奇病として考えられていました。このことを公にすることで、この土地に嫁が来なくなるのではないか、農作物が売れなくなるかもしれないなどの理由から長い期間、被害者や住民の間で留められていました。
しかし、疑いをかけていた原因が明らかになるにつれ、訴訟を起こそうと住民が動き出し、1955年に初めて報告され新聞を通して公に知られるようになりました。現在、イタイイタイ病に認定されている患者数は200人で、そのうちの6人は生存しており、今でも新規患者の認定は続いています。
しかし、認定はされていないもののこの病状にかかった患者人数は推定で合計1000人にも及ぶと言われており、大規模な被害を及ぼしたことは言うまでもありません。
イタイイタイ病の原因とは?
イタイイタイ病は、神通川の上流に位置していた神岡鉱山から排出されたカドミウムという金属が原因で発症した病気です。イタイイタイ病は別名慢性カドミウム中毒とも呼ばれており、体内に大量に蓄積されたカドミウムが原因となり、腎臓や尿細管に障害を起こし様々な症状を起こします。
カドミウムは亜鉛や鉛を精錬過程する過程で出来る副産物の1つで、水や農作物の汚染を引き起こします。原因不明の奇病が発生したことがきっかけとなり、調査を開始したところ、神岡鉱山から生産されていた亜鉛鉱石には不純物として1%ほどのカドミウムが含まれていることが分かりました。
神通川の上流では江戸時代から銅・銀・鉛を生産することで有名でしたが、戦後の高度経済成長を期に生産する量が増大し、一気に大量の汚染物が放出され、周囲の住民に人体に被害が及んだと考えられています。
神通川以外に水が取れない地域ではカドミウムの溶出した水をそのまま摂取したり、農作物に使用していました。カドミウムは農作物に蓄積するという特徴があるので、この農作物を毎日摂取した農民に大きな被害を及ぼしました。
カドミウムは自然界にも人体にも少しは存在しているものですが、神通川流域で作られた農作物の中からは高濃度のカドミウムが確認されたり、被害者からは基準の数十倍から数千倍に及ぶ濃度が検出されました。神岡鉱山から排出されたカドミウムが体内に蓄積される濃度が限界値を超え、人体に様々な影響を与えたと調査結果より裏付けられました。
イタイイタイ病の公害認定から問題解決まで
イタイイタイ病は町の医師や住民が声を上げたことで新聞などで紹介されて、奇病として公に知られるようになりました。この事がきっかけとなり国や医師、研究者らが、原因調査をはじめ、1968年に神岡鉱山から排出されたカドミウムが明らかな原因であることを発表し、日本で初めて公害病として指定されました。
原因が明らかになると、長い間苦しめられていた地域住民は、神岡鉱山を経営していた三井金属鉱業に対して裁判を起こしました。この裁判では住民側が判決を勝ち取り、この判決で企業側は損害賠償金の合計1億4,819万余円を支払う旨を合意しました。
また、その他に企業側はイタイイタイ病には認定されないものの、カドミウムの公害により腎臓障害を起こしている方に1人60万円の一時金の支払いと謝罪を行い、最初の患者から約100年の時を経て、住民と企業の間で全面解決の合意がなされました。
イタイイタイ病の症状
カドミウムが含まれた水や食物を摂取し急性中毒を起こすと、吐き気・嘔吐・腹痛や下痢などの症状が一時的に現れますが、すぐに回復します。
しかし、イタイイタイ病のように、長期的にカドミウムを摂取していた場合は慢性中毒と呼ばれ、腎臓が影響を受け、様々な症状を引き起こします。ここでは腎臓と尿細管の役割、またイタイイタイ病の初期症状から危篤症状までをご紹介します。
腎臓と尿細管役割
カドミウムが体内に取り込まれると、腎皮質に溜まります。その蓄積されたカドミウムの濃度が200~300ppmを越えると、腎臓や尿細管に様々な障害が起こると言われています。
まずは、腎臓と尿細管の役割を紹介します。
■腎臓の役割とは?
腎臓の役割は、大きく分けて5つあります。
- 老廃物を尿と一緒に排出する
- 電解質のイオンバランスを保つ
- 血圧の調整をする
- 赤血球を作るように働きかける造血ホルモンを分泌する
- 骨を生成するビタミンDを生成する
腎臓の働きが弱ること、上記の働きが悪くなり、尿に障害がでたり、低血圧症状や骨が弱くなったりします。
■尿細管とは?
尿細管とは、腎臓にある一部の組織で、尿糸球体と腎盂(じんう)を繋いでいる、無数の管です。この尿細管は原尿から、必要な物質を再吸収し、体に非必要なものを排出する働きがあります。
健康状態にある尿細管の場合、原尿からグルコース、アミノ酸、ビタミン、水、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、リン酸イオン、重炭酸イオンほど80%~100%ほど再吸収します。
その為、この尿細管が障害をうけると、再吸収がうまくいかずに、様々な器官に障害を起こします。中でも、カルシウムやリンなどは骨を作るのに重要な栄養素です。これらの栄養素が再吸収されずに失われると、強い骨を作ることが出来ず、骨軟化症が起こります。
イタイイタイ病の初期症状
イタイイタイ病の特徴的な症状は、骨軟化症が起こることです。腎臓が影響を受けることで、骨を作るのに必要なビタミンD、カルシウム、リンを吸収したり、生成することができなくなる為、骨が非常にもろくなりはじめ、初めは腰や肩、ひざなどに痛み出します。
また、多尿・頻尿・口渇・多飲・便秘といった、これらの症状が頻繁に起こり、自分でも異変に気付きます。
イタイイタイ病の中期症状
更に症状が悪化すると、骨がもろく柔らかくなり、骨格がどんどんと曲がって変形していく骨改変層(こつかいへんそう)が見られる他、骨折をしやすくなります。また、腎臓の機能が低下することで貧血や低血圧を引き起こし始めます。
イタイイタイ病の危篤症状
危篤症状になると、歩行が困難になり寝たきりの状態になる他、腎不全、貧血、低血圧などの症状も起こります。また、少しの外力でも骨が折れてしまう為に痛みを伴い、患者さんがイタイイタイと言い続けながら死に向かうといわれています。この痛みは体が引き裂かれるように痛いと表現された方もいて、通常では考えられないような痛みを伴うことが推測できます。
イタイイタイ病の治療方法とは?
当時は今より医療が進んでいないことや、原因の発見が遅れたせいもあり、多くの方々がこの病気で苦しみ命を落としました。
しかし、今では医療の発達もあり、症状を緩和させ生活の質を上げる治療方法があるのでご紹介します。
ビタミンD2やビタミンD3の投与で骨軟化症を緩和
イタイイタイ病の特徴の1つ骨軟化症に対しては、近年では薬物の発達により改善できるようになりました。ビタミンD2剤の大量投与や活性型ビタミンD3による治療を行うことで、長期的に改善傾向に向かうといわれています
。イタイイタイ病により寝たきりの生活を余儀なくされた方も、今ではかろうじて歩行ができるようにまでなったという報告もあります。
血液透析、腹膜透析、腎移植で腎障害を緩和
腎障害に関しては、血液透析、腹膜透析、腎移植などのいずれかの治療方法を取り入れます。これらを行うことで、生活の質を向上させ日常生活を送ることができ、延命治療が可能です。
それぞれの方法にはメリットデメリットがあるので、よく理解した上で治療方法を選ぶ必要があります。
■血液透析
血液透析は、腎臓で行われている働きを人工的に作り出す役割をしています。機械に血液を通してろ過を行い血液中の不要物の排除を行い、きれいになった血液を体内に戻します。日本では腎障害患者の方の97%もの方がこの治療方法を取り入れています。
血液透析は1週間に2回~3回、1回につき4時間程度の時間をかけて、定期的に行う必要があります。1ヶ月にかかる透析の治療代金は30万~50万程度と言われていますが、高額療養費の特例として保険を利用することが出来、患者さん自体の負担は1ヶ月に最高でも1万円が上限と定められています。
■腹膜透析
カテテールと呼ばれるチューブをお腹の中に埋め込む手術を行い、透析液を入れ自分の腹膜を利用して血液の不要物をろ過します。腹膜透析には、患者さん自身で透析液を交換する方法と、就寝中などに器械を通して行う2種類の方法があります。
毎日緩やかに、安定的に透析を行え、通院も1ヶ月に1回~2回程度で済むので、自分の生活スタイルにあわせて治療が行えます。また、腎臓の働きを少しでも長く保つことも期待できると言われています。
■腎移植
腎移植は機能不全になった腎臓を取り出し、他人の腎臓を体内に移植し、腎機能を回復させる方法です。腎移植を行い、腎機能が回復した場合、透析や食事制限から開放される為、一般の方と同じような生活に戻ることが出来ます。しかし、拒絶反応や副作用が起こる可能性もあることや、ドナー提供が多くないことから、多くの人に機会があるわけではありません。
イタイイタイ病の今
現在イタイイタイ病はどうなっているのでしょうか?
地域の再生
かつて有害物質に汚染された富山県婦中町のおよそ900ヘクタールの地域の土壌は1972年に患者や被害者たち住民が勝訴した後、全面的に改善されました。
30年の月日をかけて土壌復元の事業は行われ、現在では商業施設や企業への誘致活動が行われています。
2012年に完工式が竣工され、現在ではこの地域で作られた米も全国に流通できるまでになっています。かつてカドミウムはそこにある状態から濃度は下がることはない厄介な物質であったが、現在は土壌の入れ替えが終了したおかげで問題なく、その後発病者は出ていません。
今行われているのは農地として利用できなくなった土地に企業を誘致し、街を都市化する計画で。富山県の人口減少に歯止めをかけるためまず企業の誘致を行っています。
インフラ整備を行い高速道路や空港からのアクセスを良くしました。そのかいあって、現在は多くの企業の誘致に成功し多くの従業員が移住してきました。地価も安価であったことが大きく貢献したようです。
1990年には3万人に満たなかった婦中町の人口は2012年には4万人を超え、街に活気が戻っています。
街の取り組み
裁判が行われて以降、被害を受けた婦中町と三井金属鉱業との間での取り組みで毎年工場内に入り、汚染物質が川などに流されていないか検査をする事が決められました。
これにより、毎年住民は川やその他の環境に汚染物質が排出されていないか、裁判が終わってから毎年続けられています。
神岡鉱山の工場では現在、輸入鉱物や廃車のバッテリーから亜鉛や鉛を作っています。この工程で排出されるカドミウムが川に流れ込んでいないかを調査することが行われているようです。
会社側の改善と住民の調査によりその後は汚染されること無く、環境に多く排出された有害物質の濃度は現在では国の定めた濃度基準を大きく下回っています。
未来に豊かな自然と環境を残す取り組みが地元の住民と企業との間で協力して今も継続して行われています。今までの30年の時間と調査と土壌改善のために合計で600億円が使われています。
これまでの犠牲と時間とお金を無駄にしないためにもこれからも住民と企業との協力が必要とされるでしょう。
まとめ
イタイイタイ病は合計1000人の方がこの病気にかかったと推測されている被害の大きい公害病の1つです。多くの患者さんが体が引き裂かれるような痛みを伴い、骨が簡単に折れ「イタイイタイ」と言いながら亡くなっていきました。
この公害病の問題解決には長い時間かかり、当時の患者さんも既に亡くなられている方が多いです。しかし、この公害を風化させずに私たちの中で語りつぎ、このような公害が二度と起きないようにしていかないといけません。
現在、中国や韓国などの鉱山・精錬所周辺でイタイイタイ病の被害が報告され出されています。私たちが経験した歴史を生かして、環境汚染を広げない為、また他国でこのような被害者が出さない為には、私たちはこの歴史を風化させず、語り継がないといけないと思います。
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