副腎クリーゼ(急性副腎不全)とは?症状・原因・治療法を知ろう!診断基準は?

副腎クリーゼ(急性副腎不全)は、医学的に非常に緊急度の高い状態です。副腎皮質ホルモンの急激な低下によって、全身倦怠感、食欲不振、嘔吐、低血圧、ショックなどの一連の症状が見られ、急速に進行して、死に至ることもあります。

副腎クリーゼは、既にアジソン病や慢性副腎不全と診断がついている患者さんや、副腎皮質ステロイド治療を受けている患者さんに、感染症などのなんらかの身体ストレスが加わり、発症する例が大多数です。しかし、原因不明のショック状態として病院に搬送されてくるケースも少なからずあり、この場合は診断が非常に困難になります。

今回は副腎クリーゼの原因、症状、治療などについて、一緒に見ていきましょう。

副腎クリーゼって何?

救急車

副腎クリーゼでは何が起こっているの?

副腎クリーゼでは、急激に副腎機能が低下し、副腎から分泌されるべきホルモンが低下あるいは、相対的に低下しています。副腎から分泌されるホルモンには、色々な種類がありますが、副腎クリーゼの際に特に問題となるのは、副腎皮質ホルモンの糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドです。

糖質コルチコイドの分泌が急激に低下すると

・低血糖症になります。これは死に直結します。

低血糖になる理由は、血糖値の維持に必要な肝臓での糖新生が十分に行えないからです。糖質コルチコイドは肝臓でタンパク質を糖化(アミノ酸のアミノ基を外して、糖にに変換する)作用があるのですが、これが働きません。

また、低血糖を防ぐために、グルカゴンやアドレナリンも働きますが、糖質コルチコイドがスイッチボタンのような役割を果たしており、糖質コルチコイドがないと、グルカゴンやアドレナリンも働きません。

鉱質コルチコイドの分泌が急激に低下すると

1)血中ナトリウム低下が起こります。

血中ナトリウム値が低下する理由は、腎臓でのナトリウムの再吸収が行われなくなるからです。腎臓に流れ込んだナトリウムが、そのまま尿一緒に排出されてしまいます。

2)脱水になります。

腎臓ではナトリウムに引っ張られる形で、水分の再吸収も行われるため、ナトリウムが再吸収されなければ、水も再吸収されません。体は脱水になっているのに、どんどんナトリウムと水分が尿になって排出されてしまうので、ますます脱水になります。

3)脱水性の低血圧が起こります。これは死と直結します。

低ナトリウム血症と脱水はどちらも低血圧を引き起こしますが、脱水は直接、循環血液量を減らしますので、ショックにつながりやすく、死と直結します。

副腎クリーゼの症状は?

副腎クリーゼでは以下の症状がみられます。

初発症状

  • 全身倦怠感
  • 無気力
  • 食欲不振
  • 悪心・嘔吐

症状が進行すると

  • 腹痛
  • 低血糖
  • 低血圧
  • ショック
  • 意識レベルの低下

上の症状を見てお気づきのように、副腎クリーゼでは、これといって特徴的な症状がありません。風邪で熱があれば食欲不振はあるでしょうし、低血糖の症状で自分でもわかるのは悪心や冷や汗くらいです。意識レベルの低下は劇的な症状ですが、他の病気でもおこり、副腎クリーゼを見つけ出す決め手にはなりません。

副腎クリーゼの検査は?

症状でもこれといった特徴のない副腎クリーゼですが、病院に搬送され、緊急時に最初に行うような検査でも、大した特徴がありません。しかも、これらが全部出揃うわけでもありません。

緊急時に最初に行う検査で見られるかもしれない所見

  • 血沈亢進
  • CRP陽性
  • 低ナトリウム血症
  • 高カリウム血症
  • 血中尿素窒素の上昇
  • 低血糖

教科書通りですと、副腎クリーゼでは、「低ナトリウム血症+高カリウム血症+血中尿素窒素の上昇+低血糖」が1セットでみられることになっています。しかし、実際には、副腎クリーゼでは比較的頻度の高い低ナトリウム血症でも、副腎クリーゼの70%程度でしか見ることができず、正常の血中ナトリウム値の患者さんも30%はいます。高カリウム血症に至っては、10%くらいの副腎クリーゼの患者さんでしか見られません。残りの90%は正常です。

さらに、わずかな手がかりから、副腎クリーゼを疑い、副腎クリーゼに特異的な検査をしても、異常と出るわけではないのがやっかいです。しかも、血中副腎皮質刺激ホルモン値(ACTH)や血中コルチゾール値は、結果が出るのに時間がかかり、結果がわかってから治療を開始するのでは手遅れになります。

副腎クリーゼに特異的な検査をすると見られるかもしれない所見

  • 血中ACTH値の低下
  • 血中コルチゾール値の低下

血中ACTH値は低下していることが多いのですが、ACTHは患者さんにもともと下垂体や副腎の病気があるかないかで低かったり高かったりします。例えば、アジソン病や慢性副腎不全があれば高く出ますが、アジソン病や慢性副腎不全の治療中なら低く出ます。視床下部や下垂体の病気による二次性の副腎不全を持っている場合には低くなります。つまり、副腎クリーゼがあったとしても、原疾患によって高くなったり低くなったりするので、あまりあてになりません。

血中コルチゾール値は低下していることが多いのですが、患者さんの副腎はコルチゾールを作っているのに、身体ストレスに対して「相対的な不足」だった場合は、血中コルチゾール値も基準範囲だったり、基準をやや上回るくらいに出ていたりします。

なお、血中ACTH値や血中コルチゾール値は、副腎クリーゼの治療を開始してしまうと、血中濃度が変化してしまうので、先に採血して冷却し検査室まで運んでから、副腎クリーゼの治療を始めるのが普通です。先に採血しておかないと、後から診断をつけるのがほぼ不可能になるからです。

副腎クリーゼの治療

風邪点滴

副腎クリーゼの患者さんが救急車で運ばれてくる場合、

  1. 慢性副腎不全などの診断がついていて治療中→身体ストレスで副腎クリーゼ
  2. 副腎皮質ホルモンでの治療中→なんらかの理由で中断して副腎クリーゼ
  3. 副腎の病気の有無や、治療薬物の有無が不明→原因不明のショック状態

というケースが考えられます。

1.2.の場合は、副腎クリーゼであることが予想しやすいのですが、3の場合は、特徴的な症状がないのに重症という状態です。この場合、副腎クリーゼを念頭に入れつつ、診断がつく前からショックの治療を開始します。幸い、副腎クリーゼの治療と、原因不明のショック(循環血液量減少性でも、心原性でも、神経原性でもないショック)に対する治療は共通点が多いので、ショック状態を是正しつつ、診断を確定します。

副腎クリーゼの際、医療機関でのだいたいの手順は以下のとおりです。

1)治療開始前に、採血だけは済ませる

副腎クリーゼの可能性が少しでもある場合は、ACTHとコルチゾールを測定するために採血しておきます。治療が始まるとACTHもコルチゾールも血中濃度が変わってしまうためです。また、特にACTHは、血液は冷却してすぐに検査室まで運ばないと、分解されて測定できなくなってしまいます。

2)低血糖と脱水の治療

低血糖は死に直結するので、すぐに治療開始します。次に、生理食塩水で水分とナトリウムを補充します。

3)糖質コルチコイド+カリウムの投与

即効性のあるタイプの糖質コルチコイドを投与します。副腎クリーゼでは鉱質コルチコイドにも低下していることが多いですが、生理食塩水で水分とナトリウムを補い、薬理量の糖質コルチコイドを投与するので、鉱質コルチコイドの投与は不要です。

糖質コルチコイドを補充すると、血中カリウムが低下するので、併せてカリウムも補充します。

*通常の副腎クリーゼであれば、1)〜3)を6〜12時間継続すれば、危機的状態は脱します。

3)糖質コルチコイドの経口投与

副腎クリーゼから脱出して、普通の副腎不全まで持ってこれたら、血管は確保したまま、輸液は中止して、食事を開始し、糖質コルチコイドの経口投与に切り替えます。

4)専門医への引き継ぎと、副腎クリーゼを起こした原因の調査

副腎クリ―ゼで、一番多い原因は、糖質コルチコイドをなんらかの理由で中断してしまったケースです。例えば、アジソン病や慢性副腎不全では、自身の副腎が糖質コルチコイドを十分に産生できないので、常に補充する必要があります。また、自己免疫性疾患でも、糖質コルチドイドによる治療が一般的です。

プレドニゾロン7.5mg/日以上、デキサメタゾン0.75mg/日以上の糖質コルチコイドによる治療を3週間以上受けている場合、急な内服の中断で副腎クリーゼを起こす可能性があることが知られています。

また、きちんと内服治療を継続していても、感染症などの身体ストレスがあると、糖質コルチコイドの必要量が増え、相対的な不足がおこり、これが副腎クリーゼにつながります。原因不明の副腎クリーゼの場合は、副腎の出血、副腎の結核、副腎腫瘍、下垂体出血、下垂体壊死、下垂体腫瘍など、副腎不全の原因を改めて探す必要があります。

いずれにしても、ここから先は、救急医療の専門医ではなく、内分泌の専門医の出番になります。

副腎クリーゼの予防と備え

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副腎クリーゼはほとんどの場合、1)アジソン病や慢性副腎不全のある人、2)自己免疫疾患などで長期間糖質コルチコイドを投与されている人で起こります。稀に3)知らないうちに副腎不全になっておりこれが急性増悪した人、または、副腎梗塞などで急性副腎不全を起こした人のケースがあります。

アジソン病や慢性副腎不全の人

専門医と相談しつつ、普段の糖質コルチコイドの量を決めます。糖質コルチコイドは、1日の間で分泌量が変わるので、できるだけ生理的な日内変動と一致するように、朝:昼:夜=3:2:1の割合で内服することが多いようです。これは調子の悪い日をできるだけ減らすために必要なことです。

また、シックディ(病気の日)のルールを専門医に相談しておくと、副腎クリーゼの予防になると言われています。例えば、風邪などで熱が38.5℃を超える時には糖質コルチコイドをいつもの3−4倍内服するなどです。

さらに、緊急時のために緊急時用カードを常に携帯しておく必要があります。このカードには「私が倒れていたら、救急車を呼んでください」などのメッセージと、病名、処置、緊急連絡先などを記載しておきます。緊急時の処置等については、主治医にお願いして記入していただいてください(上の図は見本で、そのまま使えるわけではありません)。

アジソン病については、アジソン病とは?症状や原因、治療方法を詳しく紹介!を参考にしてください!

自己免疫性疾患の人

プレドニゾロン7.5mg/日以上、デキサメタゾン0.75mg/日以上の糖質コルチコイドを3週間以上続けている場合、急な内服の中断で副腎クリーゼを起こす可能性があります。

自分の判断で中断しないように、また、災害や交通などの都合で薬が手に入らない時のために、1週間分くらいの予備があるとよいでしょう。薬は自分の判断で中断しないことは言うまでもありません。

知らないうちに副腎不全になってしまった人、副腎梗塞などで急性副腎不全を起こしてしまった人

この場合の副腎クリーゼの予防はとても難しいです。副腎不全の早期発見が副腎クリーゼの予防につながりますが、いきなり副腎クリーゼで始まる副腎不全も少なからずあります。

副腎不全の自覚症状は、つかれやすい、だるい、体重の減少、食欲不振などで、特徴的な症状が少ないため、初期には全く気づかずに過ごすことも多いのです。慢性副腎不全で、下垂体から放出される副腎皮質刺激ホルモンが高くなっている場合には、色素沈着がおこり、これは数少ない副腎不全の特徴的な症状です。

副腎クリーゼに関係する用語集

副腎クリーゼの病気自体の定義「副腎機能が急激に低下して、副腎皮質ホルモン、特に糖質コルチコイドが低下するため、色々な症状が出現し、死に至ることもある」はシンプルなのですが、副腎や副腎に関係する医学用語には、聞きなれないものが多く、困惑されている方もいらっしゃると思います。副腎に関係する用語を集めてみましたので、ご活用いただければ幸いです。

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副腎:腎臓の上にある臓器で、左右に一対(2つ)あります。

副腎皮質:副腎の外側のことです。

副腎髄質:副腎の内側のことです。

副腎皮質ホルモン:副腎皮質から出てくるホルモンのことです。下の3種類があります。

  • 鉱質コルチコイドアルドステロンデスオキシコルチコステロンがあります)
  • 糖質コルチコイドコルチゾールコルチコステロンコルチゾンがあります)
  • 性ホルモン(副腎皮質からは男女ともにアンドロゲンエストロゲンの両方が分泌されます)

この中でも糖質コルチコイドは副腎クリーゼを理解する上で特に重要で、生命維持に不可欠なホルモンです。糖質コルチコイドは、ステロイドホルモンあるいはステロイドと呼ばれることもあります。また、単に副腎皮質ホルモンと言った時には、糖質コルチコイドを指すことがあります。

糖質コルチコイドには、コルチゾール、コルチコステロン、コルチゾンの3種類があり、この中でもコルチゾールは、糖質コルチコイド活性の約95%を占めています。そのため、糖質コルチコイドと同様に、コルチゾールのことを、ステロイドホルモンあるいはステロイドと呼ぶこともあります。また、副腎皮質ホルモンと言った時にコルチゾールのことを指す時もあります。副腎クリーゼの検査の際には、糖質コルチコイドを代表して、血中コルチゾール値を測定します。

副腎髄質ホルモン:副腎髄質から出てくるホルモンのことです。アドレナリン、ノルアドレナリンの2種類があり、まとめてカテコールアミンと呼びます。

  • アドレナリン
  • ノルアドレナリン

カテコールアミンにはその前駆物質であるドパミンやドーパなども含めることがあります。

視床下部ー下垂体ー副腎系:エネルギー代謝、ストレス応答や免疫、摂食、睡眠などを、視床下部、下垂体、副腎の間で調節しながら、制御しています。副腎に関連するホルモンと分泌器官は以下の通りです。

  • 視床下部:副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)
  • 下垂体:副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
  • 副腎皮質:副腎皮質ホルモン

例えば、副腎皮質ホルモンの分泌が足りなければ、視床下部は副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を出します。副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが分泌されると、下垂体は副腎皮質ホルモン(ACTH)を出します。ACTHが分泌されると、副腎皮質は副腎皮質ホルモンを出します。ところが、副腎に異常があり、副腎皮質ホルモンを分泌することができないと、副腎皮質ホルモン(代表してコルチゾール)の値は低いままで、CRHやACTHが高くなります。

また、病気の治療などで、副腎皮質ホルモンを長期間投与すると、CRHやACTHは低くなります。下垂体の病気でACTHが低い場合は、コルチゾールも低く、CRHは高くなります。

まとめ

命の危険のある副腎クリーゼは、もとの病気がわかっている時は、診断はさほど難しくありませんが、原疾患がわからない場合や初発の症状がいきなり副腎クリーゼの場合には、診断に難渋します。

視床下部ー下垂体ー副腎系の病気をお持ちの方や、糖質コルチコイド等で治療中の方は、緊急時用カードを携帯するなどして、速やかに治療がうけられるよう工夫しておくことが、ご自身の命を救います。

また、全身倦怠感、無気力、食欲不振、悪心・嘔吐などの症状が、長引く方は、念のため医療機関を訪れ、検査を受けておくとよいでしょう。副腎不全をはじめ、思わぬ病気が見つかる可能性があります。

  
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