まずおさえておきたいのは、「急な吐き気」を引き起こす病気は「20以上ある」ということです。医師ですら「吐き気を起こす病気は特定が難しい」と話すほどです。
しかも、胃がんや、くも膜下出血といった、生死にかかわる病気が原因のこともあるので決して軽視できない症状の一つになります。危険な病気ほど初期症状が現れたときには既に手遅れという場合が多くありますので、吐き気の症状がそれらの病気とつながらないことを知る手がかりとしても健康診断などでそれらの病気の可能性を早期に発見しておくことが重要でもあります。
また「吐き気」の理解を深めて、患者自身の口で医師に詳しい症状を説明できることが、的確な治療につながります。合わせて引き起こると危険な症状や、吐き気の症状が発生している場合に考えられる病気などについて知っておきましょう。
同時に自分で行える対処法や改善法についても紹介します。合わせて参考にしてみてください。もし、対処法を行っても症状が緩和しない場合は病院での詳しい検査や治療を行っていきましょう。
吐き気は体を守る機能
嘔吐と下痢は、ある共通点があります。それは「体を守る」ことです。例えば、胃に腐った食材が送り込まれると、胃と脳は「これは消化してはダメ!」と判断して、吐き出そうとします。
しかし胃は、すべての「NG食材」を嘔吐するわけではありません。それは、胃には「胃酸」という強力な武器があるからです。胃に入ってきた食材の毒性が弱いと、胃酸をかけて腸に送ってしまうのです。
下痢も同じ目的
しかし腸は、食材からじかに栄養や水分を吸収する器官です。それで、胃が送ってきた食材でも、独自に判断してNGを出します。それが下痢です。食材から吸収することを拒絶して、「NG食材」をそのまま肛門に送るのです。
体の悲鳴
また、逆も考えられます。体の方が弱っていて「いまは食べ物を受け付けられない」と悲鳴を上げているときです。食べるということは、消化して吸収することです。この行為は、意外に重労働なのです。
それで体が「いま消化と吸収をするのはしんどい」と判断すると、口に入れた食品の品質に問題がなくても、拒絶します。それが嘔吐であり、嘔吐を事前に知らせる吐き気なのです。
吐き気+αで病気を確認!
食べ物を受け入れらないほどの体調不良は、よほどの事態です。 しかし、冒頭で申し上げた通り、吐き気をもよおす病気は20もあるのです。病気によって、使う薬はまったく異なりますし、病名が決まらないと、手術が必要なのかどうかの判断もできません。
「どのような吐き気なのか」という情報と、「吐き気+アルファ」の症状の情報は、診断に欠かせない情報です。そして、これらの情報が充実していると、余計な検査をしなくて済むというメリットもあります。
そこで次に「+アルファ」をみてみましょう。「吐き気+腹痛」と「吐き気+下痢または便秘」と「吐き気+頭痛」といった症状を起こす代表的な病気を紹介します。
吐き気+腹痛
吐き気に腹痛が伴う場合、胃や腸といった消化器と、腎臓や尿道などの泌尿器が原因の場合が多いです。次の病気は、すべて「急な吐き気+腹痛」の症状を伴います。
・胃炎・胃腸炎(感染性胃腸炎)
患者から「吐き気と腹痛がします」と聞いて、医師が真っ先に思い浮かべる病気は「胃炎」だそうです。よく聞く病名だと思いますが、「ありきたりの病気」とあなどらないでください。急性胃炎の場合、立っていられなくなるくらいの痛みが生じることがあります。もちろん、救急車搬送となります。
ウイルス性胃腸炎を引き起こすのはロタウイルス(ロタウイルス感染症)やノロウイルス(ノロウイルス感染症)などのウイルスへの感染により発生します。非常に感染力が強いウイルスが原因となっているので集団感染などに注意する必要があります。
治療法としては胃内視鏡などの検査を行い、「胃炎」の診断がくだれば、あとは薬による治療になります。胃酸を抑える薬や、胃の粘膜を保護する薬が処方されます。
胃酸を減らす薬としては「ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)」があります。「ヒスタミン」と「H2 受容体」が合体することによって胃酸が出てくるので、この2つを合体させないよう「ブロック」するのが、この薬です。
「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」という薬も似たような働きをします。胃酸は、プロトポンプと呼ばれる場所から出てくるのですが、この薬はプロトポンプを動かないようにしてしまうのです。胃腸炎については、胃腸炎になる原因はストレス!?予防や治療の方法はこれ!の記事を参考にしてください。
・胃潰瘍と十二指腸潰瘍
お腹全体ではなく、特に「みぞおち」が痛むと、胃潰瘍か十二指腸潰瘍が疑われます。吐き気も伴います。
胃炎を長く放置していると、胃や十二指腸が部分的に壊されます。壊された状態を「潰瘍」といいます。潰瘍を放置すると、胃や十二指腸に穴が開きます。それを「穿孔(せんこう)」といい、最悪死に至ります。
潰瘍の痛みはとても苦しいものなのですが、痛みがない潰瘍もあります。実は、そちらの方が厄介なのです。痛みがないので、放置されてしまうからです。
痛みは「病気の信号」ととらえ、大切に扱ってください。「大切に扱う」とは、その状態をきちんと把握し、医師に伝えるということです。くれぐれも、「痛み発生」→「我慢」→「鎮静化」→「乗り切った!と喜ぶ」なんてことにならないようにしてください。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍は、かつては手術になるケースが多かったのですが、最近は、医師は極力手術を避けるようになっています。自律神経失調症や精神疾患でも胃潰瘍などは発生するケースがありますので注意してください。
胃潰瘍の場合は食後すぐに吐き気や痛みが起こり、十二指腸潰瘍は空腹時に痛みが出るといわれています。
胃潰瘍については、胃潰瘍の症状をチェック!治療するための方法は?の記事を参考にしてください。
・盲腸
正式病名は「虫垂炎(ちゅうすいえん)」といいます。これも、最近は手術ではなく、薬で治す傾向が強まっているようです。
盲腸の場合は吐き気よりも腹痛が強く出る傾向があります。腹痛の特徴としては下腹部ではなく上腹部の痛みを感じることが多いでしょう。へそ周辺に痛みが発生する場合が盲腸の症状に該当します。
盲腸により発生しやすい症状は腹痛、吐き気、発熱の3つの症状になります。発熱は37度ほどの微熱がほとんどですが、稀に症状が重症化している場合は腹膜炎にまで発展し、38度以上の発熱を発生させる事もあります。
盲腸については、盲腸の原因とは?ストレスなの?痛みが強い場合は要注意!の記事を参考にしてください。
・膵炎(すいえん)
アルコールや「石」によって、膵臓が炎症を起こすことがあります。これは「のたうち回る痛み」「お腹から背中を突き刺す痛み」といわれるほど、激しい痛みが生じます。当然、救急搬送となります。
吐き気は、吐くものがなくなってもしばらく続くといわれています。オピオイドという「麻薬系」の強い痛みどめを処方しても、症状が治まらないことがあります。
「石」については、「尿路結石」のところで詳しく解説します。
・胃がん
「吐き気+腹痛」が胃がんのサインかもしれない、ということはぜひ記憶しておいてください。というのも、現代医療では、早期の胃がんは、内視鏡で切除しただけで治癒できる病気だからです。いわゆる「治るがん」「恐くないがん」とされているのです。
医師によっては胃がんを早期に発見するため、40歳を過ぎたら年に1度か2年に1度は、胃内視鏡検査を受けるよう指導しています。
ですので、40歳以上の方で、まだ1度も胃内視鏡を受けたことがない方は、「軽めの吐き気+軽めの腹痛」ぐらいでも、胃内視鏡検査を受けてみてはいかがでしょうか。医師には「症状は軽いのですが、心配なので内視鏡検査をしていただきたいのですが」と伝えると、保険適用されるでしょう。
・尿路結石
突然の腹痛と、突然の吐き気を引き起こすのが、尿路結石です。尿路に「石」が詰まる病気です。尿路は「腎臓→尿管→膀胱→尿道」の総称です。つまり「尿の通路」全体の名称です。なぜ尿路に「石」ができるかというと、尿は「石の材料」が豊富だからです。
尿は排泄物です。排泄物の中には、カルシウム、蓚酸(しゅうさん)、尿酸(にょうさん)、燐酸(りんさん)という、結晶をつくりやすい物質が含まれています。これらが「石」を結成してしまうのです。
吐き気+下痢または便秘
では次に、吐き気に加えて下痢や便秘を感じる場合に考えられる病気について紹介します。
・食中毒・食あたり
吐き気と同時に下痢に見舞われたら、食中毒の可能性があります。食中毒を引き起こす食材の代表は、「生」の「肉、魚、卵」です。また、加熱していない加工品も注意が必要なものがあります。
吐き気と下痢の原因が食中毒であると特定するには、「何を食べたか」だけでなく、「どのような状況で食べたか」も必要な情報となります。そこで、「食中毒の発生の仕方」3タイプを解説します。
①「感染型」は、肉や生乳、飲料水に含まれる「カンピロバクター」や、魚の刺身に含まれる「腸炎ビブリオ」が引き起こします。これらの原因菌に感染された食材を食べることで食中毒が起きます。
②人の体の中に入ってから「毒」に変わる食材があり、これを「生体内毒素型」といいます。牛肉やサラダなどに含まれる腸管出血性大腸菌、いわゆる「O157」が有名です。
③「食品内毒素型」は、食材が容器に詰められるなどした後に「毒」に変わる形態です。「ボツリヌス菌」は、酸素のあるところでは増えないのですが、真空パックや缶詰など、酸素が遮断された場所に置かれると増えて食中毒を引き起こします。発酵食品や飯寿司などによく発生します。
細菌による食中毒は夏場などの高温多湿の環境下で発生しやすく、ウイルスによる胃腸炎などは冬場などの乾燥している時期に発生しやすい問題でもあります
時期によってもなんの問題が発生しているのかを診断する手がかりになります。これらも考慮してみて病気を判明させていきましょう。
食中毒については、食中毒の潜伏期間を紹介!菌やウイルスによって変わる?の記事を参考にしてください。
・腸閉塞
腸は、細長い筒の形をしています。腸閉塞は、その筒が閉じてしまう病気です。よって、食べた物や排泄物、消化液などが、「その先」に進まず、いつまでたっても排泄されないのです。「排泄されない」ので「便秘」が生じます。吐き気も引き起こします。
悪化した腸閉塞は手術が必要になります。腸閉塞については、腸閉塞の症状を紹介!悪化すると死亡することも?の記事を参考にしてください。
吐き気+頭痛
脳に異常が起きると、吐き気と頭痛が同時に起きます。「吐き気+頭痛」の病気をみてみましょう。
・くも膜下出血
脳内に血液を送る血管に「こぶ」ができると、血圧が高くなったときなどにその「こぶ」が破裂することがあります。くも膜下出血も、そのようにして発症します。突然、激しい吐き気と頭痛に襲われます。
「突然」といいましたが、前触れがある場合があります。それは「ろれつが回らない」「言いたいことはあるのだが、言葉が出てこない」「右側のみ、または、左側のみの手足の自由がきかない」といった症状です。これらの前触れが起きた後に「急な吐き気+頭痛」が生じたら、すぐに救急車を呼んでください。
・脳腫瘍
脳腫瘍でも吐き気が生じます。しかし、「吐き気がない」ことも、脳腫瘍の特徴です。吐き気がないのに、突然、嘔吐してしまうことがあるのです。噴水のように吐き出すこともあるようです。
また、脳腫瘍による頭痛の特徴は「急」や「突然」ではなく、「じわり」です。これらの症状に加えて、物が二重に見えたり、記憶障害や片足で立てなかったり、めまいなどといった症状が出ていたら、すぐに病院にかかってください。
・緑内障
緑内障は失明の危険がある恐い病気です。眼圧が上がることで、頭痛と吐き気が起きます。これらの症状が出たら、眼科医に診てもらいましょう。
緑内障は目の中の水分量を一定に保つ機能を持つ器官が詰まってしまうことで発生しやすい病気ですが、日本では眼圧が上昇していなくても発生してしてしまう正常眼圧緑内障という症状も多く発生しています。
40歳を過ぎれば誰にでもこの病気になる可能性が高くなるので、視野が欠けるなどの症状が合わせて確認された場合は早期に病院での検査を行うようにしましょう。
その他の吐き気
二日酔いや乗り物酔いで吐き気を催す一方で、薬の副作用でも吐き気を催します。前者は、大概は放置して治していると思います。
しかし薬を飲んだ後の吐き気は、我慢は禁物です。すぐにその薬を処方した医者にかかってください。
吐き気の症状の対処法
吐き気の症状が現れてしまった場合に有効な症状を和らげる方法を紹介します。いずれかの方法を参考に試してみて、効果のあるものを続けて症状を緩和していきましょう。
それぞれの原因によっても有効な症状は変わってきますので、まずは原因を特定してから有効と思われる対処法で症状を改善しましょう。
吐いてしまう
吐き気の症状が発生している場合に考えられるのが、体内に何かしらの異常物質が侵入してしまった可能性です。それを吐き出すために吐き気の症状が発生している事が考えられます。
ウイルスや菌などの異常物質が体内に侵入してしまった場合は吐き出すことが最も有効な手段になります。
また、血圧が一時的に上昇しすぎて血管を拡張させたりして神経を刺激してる頭痛が発生している症状に合わせて吐き気が発生している場合も胃の中の内容物を吐き出すことで症状が和らぐケースもあります。
吐くことが可能な場合は吐いてしまったほうが楽になる事が多いです。1度吐いてしまって症状が落ち着くのであれば、その後様子を見て消化のいいものなどを胃の中に再び入れながら症状の経過を観察してみましょう。再び吐き気が発生してしまう場合は他の対策が必要です。
水分を多く摂る
吐き気が発生している場合に、頻繁に吐くなどしている場合は、水分をしっかり摂らないと脱水症状になってしまう事があります。しっかり水分管理ができる大人であれば特に注意する必要も少ないですが、特に子供やお年寄りなどの人に対しては周囲の人からのサポートが必要な場合もあります。
ただの水ではなく、電解質やミネラルを沢山含んでいる出来るだけ排出、消費される液体に近いポカリや経口補水液などを飲んで効率よく水分補給をしていきましょう。
吐き気抑制薬の使用
市販で売られていたり、漢方でも吐き気抑制剤が売られているので、それらを使用して吐き気を抑えてもいいでしょう。しかし、胃腸薬や吐き気止めの使用は注意して使わなければ症状の悪化を招いてしまう可能性があります。
家で治療する場合は、これらの薬に頼ってしまいがちですが、もし吐き気の原因がウイルスなどであった場合はその菌やウイルスを体内に滞在させてしまう事になり、過剰に増殖させてしまう問題に繋がりかねません。
余計に症状が長引いてしまったり、腹痛が強くなったり、発熱も引き起こる場合もあります。
また、病気の初期症状として現れているサインをみすみす見逃す行為にもなりますので、いっときの吐き気の抑制には有効ですが、その後は必ず病院での検査、診断、治療を行うようにしましょう。
ストレスの緩和
自律神経失調症や精神的な疾患が関係している場合がありますので小まめにストレス発散をしっかり行うことで症状を予防することが出来ます。この手段は予防法として特に有効なものになりますので症状が発生してからは、即効性が少ない対処法になりますが、交感神経を和らげ副交感神経を活発に働かせバランスを取ることで胃腸の働きなどを正常にして、胃液の分泌などを正常に整え、それらが原因になっている吐き気を解消することが目指せます。
精神的なストレスと肉体的なストレスも交感神経を優位にさせ自律神経失調症となってしまう原因になりますので、この精神ストレスと肉体的ストレスの両方を溜めすぎないように対策していきましょう。
ツボ押し
吐き気の症状を抑制させるツボを3つ紹介しますので、緊急時や応急処置時にはこれらのツボを刺激して吐き気を我慢し、窮地を脱しましょう。
関衝(かんしょう)
手の薬指の爪の生え際で小指側にあるツボです。ホルモン分泌や体調を整える効果があります。集中力を高めたり、血行を促進する事ができます。
内関(ないかん)
手首と手のひらのつなぎ目のシワから指3本分下に位置している骨と骨の間に存在しているツボです。乗り物酔いでの気分の悪化や、消化器系の異常を改善してくれる効果が期待できます。
食欲の増進や、不整脈などの問題も解消することが出来ます。
太衝(たいしょう)
足の甲付近に存在するツボです。親指と人差指の骨の丁度接合部付近にあたるツボです。足の指の付け根の間ではなく、足の指の”骨”の付け根であることがポイントですので間違えないようにしてください。
足の冷えの解消効果もあり、二日酔いなどの吐き気にも有効です。
病院での検査を受ける
もし原因不明の吐き気の症状が発生してしまっている場合は、専門家の医師のいる病院での検査を受けることをおすすめします。
吐き気が引き起こる直近の症状や体調の変化などの異常が発生していないかどうかや、体に現在も現れている他の症状の情報からなんの病気なのかの推測をして、有効な検査をしてくれるでしょう。一見素人からはなんの関係もないような症状も吐き気の原因に繋がる事があるので筋肉の症状や関節の痛みなどについても小さなことでも念のために報告するようにしましょう。
特に吐き気のない状態からの急な嘔吐や食後数時間立ってからの一時的でない吐き気や嘔吐などの症状が発生している場合は何かしらの病気が潜んでいる可能性が高くなります。
まずは初診では内科での診断を受けて、その後専門とされる病院への紹介状などを書いてもらうのが最も適当な方法でしょう。
吐き気の治療が出来る専門病院としては、消化器内科や心療内科、内科などの病院があります。状況から見てこれらの病院を選択して受診したり、精密な検査を受けるために大きな総合病院や検診センターなどへ行くようにしましょう。
まとめ
このように、吐き気という症状への対処は、「放置」から「緊急受診」まで、極端なのが特徴です。「危ない吐き気」を知ることで、適切な治療を受けるようにしてください。
なかなか症状が改善されなかったり、他にもひどい症状が見られるときは病院へ行って診察してもらうようにしましょう。
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