血が少ないと貧血を起こすことは非常に良く知られている身近な症状ですが、実は血は多すぎても良くありません。何事もちょうどいいバランスを保つことが大切と言えます。
血が多くなる病気の中には命に関わる病気もあり、さらに赤血球が増えることで血液がどろどろになり血栓ができやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞など重い病気のリスクとなる場合があります。
血が多過ぎる場合に考えられる病気と、自分で分かる症状や赤血球が増えてしまう原因についてまとめました。
赤血球とその働き
赤血球は血液中に含まれる成分の一つで、赤い色素を持った物体です。直径が7、8ナノメートル(1ナノメートルは1メートルの10億分の1を表しています)といわれており、血液の成分の中では血小板よりも大きく、白血球よりも小さい成分です。
厚さ8ナノメートルに対して高さが2ナノメートルの円盤状で中小が窪んでおり、弾力に富んだ性質を持つのが特徴です。これほど小さい物質なので、効率よく細かい毛細血管まで酸素を供給することが出来ます。
赤血球の主な働きは酸素の運搬と供給、二酸化炭素の排出です。赤血球の内部には鉄を含むヘモグロビンという成分があり、これが酸素を取り込んで血管内を運搬することで体中に酸素が行き渡ることが出来ているのです。
赤血球の適正値とは
赤血球の適正な値は血液検査を行うことで判断できます。
- 男性の場合400~539万/ナノリットル
- 女性の場合360~489万/ナノリットル
とされています。
赤血球の量は、健康な状態なら一定に保たれていますが、体調を崩したり病気に罹っている場合には数が変化します。多すぎも少なすぎも良くないとされており、健康状態を測る指標の一つです。
赤血球の数が増減することで、様々な体調不良が起こります。
基準値より低いと、体に酸素を運ぶ能力が下がってしまい、前人で酸素不足が起こります。少し歩いたり階段を登ったりするだけで疲れを感じたり、頭痛やめまい、倦怠感などを感じるようになります。
逆に、基準値よりも多くなると血栓ができやすくなり、皮膚のかゆみが現れることがあります。
男性よりも女性に貧血などの症状が発症しやすいのは女性には生理があることも理由の一つですが、女性の方が赤血球の量が少ないことも理由の一つに挙げられます。さらに妊娠になると赤ちゃんにさらに血液が取られるのでさらに貧血になりやすくなります。
女性は血液検査が出来ないことが多いので、これらの問題は判明しにくい問題もあります。
貧血とその原因
赤血球が少なくなっている状態を貧血と呼びます。
体全体に十分に酸素が行き届かなくなり、それを補おうとして心臓や肺が働きすぎることで息切れやつかれやすさ、頭が重い感じなどが症状として現れるものです。簡単に貧血の種類について紹介します。血液検査を行わなくても症状などでも判断することが出来るのでそれらの症状についても紹介します。
鉄欠乏性貧血
偏食や出血により、体内の鉄分が不足し、赤血球一つ一つに含まれるヘモグロビン値が少なくなって起こります。単純な鉄分の摂取不足に加え、月経過多や消化器の腫瘍が原因となる場合もあります。
最も一般的な貧血の症状です。しばらく安静にし、栄養のある食事を心がければ簡単に症状は改善します。
再生不良性貧血
血液中の赤血球、白血球、血小板がいずれも減少する病気です。骨髄中の造血幹細胞が傷ついて起こる病気で、自己免疫によって起こるものです。
的確に治療されれば70%の患者さんが改善する病気ですが、重症化すると感染症に罹りやすくなる、度重なる赤血球の輸血により糖尿病など鉄過剰が起こるなどの問題が起こりうる病気です。
より専門的な治療が必要で、免疫抑制治療や移植や輸血などの処置が必要になります。重症化すると半年以内に死亡するケースが多かった病気ですが、近年では早期発見で7割以上の患者が治療の必要のない状態にまで回復しています。
溶血性貧血
自己免疫に関わる病気で、赤血球に結合する抗体ができてしまい赤血球が破壊されてしまう病気です。
一般的な貧血の症状に加えて黄疸が出るのが特徴で、重症化すると脾臓が腫れる場合があります。
基本的には投薬によって治療が行われます。副腎皮質ステロイドホルモン薬や免疫抑制剤などの薬を投与することが多く多くの患者が投薬での治療で回復します。先天性のものの場合は脾臓の摘出手術などを行う場合もあります。
悪性貧血
こちらも自己免疫疾患性の病気です。かつて原因が分からなかった時代に病名が付いたため悪性という名前が付いているものの、現在ではビタミンB12の欠乏により起こっていることが解明されています。一般的な貧血と症状が変わらず見分けが難しい事が特徴です。
治療ではビタミンB12か葉酸を補うことで治すことが出来るので、投薬か注射によってこれらの栄養を補給していきます。しかし胃の中にビタミンB12を吸収するための内因子が存在していない場合は吸収が出来ないので、錠剤での投薬は意味をなしません。なのでこの場合はビタミンB12の注射を続けなければいけません。
詳しくは、悪性貧血の症状とは?原因や治療方法も知っておこう!を参考にしてください。
多血症とは
赤血球が増える大きな原因が多血症と呼ばれる病気です。貧血とは逆に血が多くなる病気で、血液が詰まりやすくなり血栓ができやすくなるという問題が起こります。また、血圧の増加があり、出血しやすい傾向になることから胃潰瘍の原因となることがあります。
多血症には様々な種類があります。
相対的多血症
相対的に赤血球が増えている状態を相対的多血症と呼びます。病名がついているように見えますが疾患ではなく、水分を摂取しなかった場合や嘔吐や下痢によって脱水症状をおこし血漿が減少することで起こる場合が多いものです。
相対性多血症の場合は、原因を取り除くことが治療の一つとなります。下痢や嘔吐や大量に汗をかいているなどの水分を失っている原因である行為や症状を取り除くことが症状の解決になります。
脱水症状を起こしている時は水を飲むようにし、塩分を控えることが重要です。基本的には水分補給すれば多血症状態を脱することが出来ます。
ストレス性赤血球増加症
相対的性多血症はストレスや喫煙によって引き起こされる場合もあり、それらをストレス性赤血球増加症と呼びます。
この場合も赤血球の絶対数自体は増加しておらず、ストレスをためないことしか治療方法がありません。喫煙習慣があり肥満傾向のある中年の男性に非常に多い症状です。
顔の赤らみや倦怠感、感覚異常、呼吸困難、腹部痛、めまいなどの症状が引き起こります。神経質な人や、肥満の人、喫煙者、高血圧などの人に発症しやすいもので、狭心症や血栓症などの命に関わる病気に発展する可能性もあります。
治療法
ストレス性多血症の治療法としては血を繰り返し抜くことで赤血球の値を正常値にまで戻していきます。さらにこれだけでは、また繰り返し症状を繰り返してしまうので、骨髄に化学療法剤で働きかけ、血を作り出す働きを抑制する治療法もあります。
これらの治療に加えて、生活習慣を改善することやストレスを避けることが重要になります。さらに体重を正常な数値に戻し、高血圧の症状を治す必要もあります。
症状が初期の段階である場合は専門的な治療は行わず生活習慣の指導、改善で治療が完了する場合もあります。
真性赤血球増加症(真性多血症)
真性赤血球増加症は、骨髄増殖性疾患の一つです。骨髄の働きが病的に強まり、骨髄の中にある造血細胞の成長、再生が過剰になり、造血細胞が骨髄の外に押し出される病気で、多くは癌になることはないものの、白血病のような症状を起こすことがあるので注意が必要です。
真性赤血球増加症は、赤血球の数が増える病気で、多くの場合血小板、白血球の数も共に増加します。固形の成分が増えるため血栓のリスクが高くなり、赤血球の寿命が縮んでやがて赤血球が不足するという症状が起きたり、骨髄の線維化が起こり造血ができなくなるなどの症状につながる場合があります。
治療を受けなかった場合、症状のある人の50%が18ヶ月以内に死亡するといわれており予後はよくありませんが、治療を行うことで改善できます。
自覚症状としては顔の赤らみ、目の充血、皮膚のかゆみ、めまい、耳鳴り、頭痛、体重の減少、寝汗、皮下出血、腹部の圧迫感などがあります。合併症状として脳梗塞、心筋梗塞、脳虚血発作、血栓症、消化性潰瘍などの症状を併発することが多いのも特徴です。
治療法
治療法については発症した患者が若い場合と高齢者であった場合で治療法が変わってきます。
若年者の場合では瀉血(しゅけつ)を行い血の量をコントロールする治療が主な治療法になります。しかし合併症で血栓症などの症状を発症している可能性が考えられる場合には経口抗がん薬の投与での治療が行われます。
高齢者での治療の場合は必要に応じて瀉血を行い血を抜くことも行われますが、経口抗がん剤での治療が基本的な治療法なります。高齢者に血栓症の併発が起こってしまうと非常に危険なため同時に抗血小板薬などの投与も行われます。
二次性多血症
赤血球の産生を促進するホルモンの一つであるエリスロポエチンが、何らかの原因で増えて赤血球の量が増加するものです。
体が酸欠状態になるとそれに反応してエリスロポエチンがたくさん作られるようになるため、赤血球が増加します。症状については基本的な他の多血症の症状と変わりません。皮膚のかゆみ、立ちくらみ、めまい、耳鳴り、頭痛、倦怠感、疲れやすいなどの症状が現れます。
原因としては心臓や肺に現れた疾患により低酸素血症が起こっているか悪性腫瘍の発生により周辺組織が赤血球を増やす物質を生産する場合と喫煙や高山病や高所での長期間の滞在などが原因になることもあります。いずれにしても体内中の酸素濃度の不足により症状が現れ、血中エリスロポエチン量が増加している状態が確認されます。
治療法
原因となる喫煙や登山などの行為を控えることが必要になります。さらに必要な場合は血を抜き瀉血を行い、症状を緩和します。
その他症状に応じて、腫瘍や肺、心臓の疾患を取り除く治療が必要になります。エリスロポエチンを生産する細胞を取り除き赤血球の増加を防ぐため、手術を行う必要があります。
酸素欠乏性多血症
二次性多血症の分類に入る多血症です。空気の薄い高度の高い場所での生活によって酸素の欠乏が起こり、その状態が慢性的に続くことによってそれを補うために赤血球がたくさん作られてしまう状態を指します。
この状態をうまく利用して身体機能をあげようとしたのがマラソンの高地トレーニングと言われています。
また、肺の異常や心臓の血管の異常によって酸素が十分に体内を循環しないことなども原因になることもあります。
治療法
多血症の治療法は基本的にはどの場合でも同じことが多いです。必要であれば瀉血を行い血を抜いて緊急的に赤血球の濃度を下げて症状を緩和します。赤血球の寿命は120日と長いので、自然に赤血球の濃度を正常に戻そうとしても時間がかかります。なので、血を抜いてヘモグロビンの値を正常に保つのです。
さらに低酸素症を発症している原因を取り除くために精密な検査を行い、治療を行っていきます。
多血症の原因
まず、脱水や喫煙による血漿量の減少、ストレスなどが相対的多血症を引き起こすことがあります。また、高血圧や高脂血症など生活習慣病を持っている場合、代謝の異常により血漿の量が減少しこれも相対的多血症を起こす原因となります。
また、肥満のため体が必要とする酸素を十分に取り込めなくなった場合や、睡眠時無呼吸症候群により寝ている間に酸素が不足して酸素欠乏性多血症を起こす場合があります。同様に、ヘビースモーカーの場合も慢性的に酸欠に近い状態になるため多血症を起こしやすくなります。
多血症の原因であるエリスロポエチンの算出は、腎臓、肝臓の不調から増えることがあります。また、子宮の腫瘍化した組織がエリスロポエチンに似た物質を出すことがあります。
腎癌や肝癌、水腎症(尿路の閉塞が起こり腎臓が拡張してしまう病気)、子宮筋腫などが原因となっている場合もあるので、きちんと検査を受けて元となる病気の治療を行いましょう。
多血症の場合、血栓症のリスクを低下させるために瀉血という血を抜く治療を行います。また、真性赤血球増加症の場合は骨髄抑制療法と言われる薬で血液細胞の生成を阻害するような治療が行われます。
血液の健康を保つためにできること
赤血球が多い場合、生活習慣で地道に改善することが大切です。また、薬を使う場合もありますがそちらの場合は医師の診断を仰ぎましょう。
食事
赤血球が多過ぎるということは、血液がドロドロになっているとおいうことになります。これを改善するには、血液をさらさらにする食材を食生活に取り入れることがおすすめです。
また、既に多血症の場合も血栓の予防は非常に大切になります。
- たまねぎ、らっきょう…硫化アリルの一種であるアリシンを含み、血小板の凝集抑制、脂質の抑制に効果があります。また、高血圧や動脈硬化の改善にも効果的と言われています。
- ねぎ、わけぎ…硫化アリルを含み、緑の部分にビタミンやカロテンを含んでいます。
- しょうが…ショウガオールを含み、抗酸化作用や血行促進作用を持ちます。
- にんにく…アリシンを含む食材ですが、100度以上で加熱することでこれがアホエンという成分に変化するという特徴があります。血栓の防止に効果があります。
- 大豆…大豆に含まれる大豆サポニンは、血中のコレステロール値を下げるため血栓ができるのを予防することができます。さらに納豆に含まれるナットキナーゼは、血栓を溶かす作用を持っているため非常に有効です。
- 海藻…ビタミンやミネラルを多く含み、腸内のコレステロールの排出を促す作用があります。
運動
軽い運動により体内のエネルギー消費が増えると、血糖値が下がり血管が広がるため血液の流れが良くなります。赤血球が多過ぎる場合この血液の流れが滞っている状態であり、老廃物も排出されづらくなっています。運動により血流の改善を目指すことにより、体内の老廃物も流すことができます。
ただし、運動の際は水分を摂取するのを忘れないようにして下さい。血液は水分不足によってもドロドロになる場合があるため、一気に負荷の強い運動をするよりも、軽いウォーキングや自転車など、日常生活で取り組むことのできる運動を心がけた方が効果的といえます。
禁煙
多血症を引き起こす原因の一つに毎回挙げられるのが喫煙です。タバコを吸うと、ニコチンの作用により血管が収縮してしまいます。それによって血行が悪くなり体内中に酸素が行き渡らなくなります。
さらにタバコを吸うことで体内に取り込まれる一酸化炭素は血中に入りヘモグロビンと結合し酸素の供給を阻害します。結果、十分な酸素を体内に運搬するために、赤血球の量が増えてしまい、血液中に赤血球が増え、血液がドロドロになります。
よって非喫煙者に比べ、喫煙者のほうが多血症になりやすくなるというのは当然の結果です。
また、喫煙によって肺に関係する疾患にかかりやすくなることも要因の一つです。肺機能が低下すると酸素の吸収が鈍くなるのでさらに多血症になる可能性は高くなります。
喫煙により多血症の症状が現れるということは、動脈硬化や呼吸器疾患などの症状がかなり進行している状態であると考えられます。理想で言えば、予防のためにも受動喫煙や喫煙の機会を減らすことが最も望ましいと思われます。
まとめ
血が少なくて困ることは身近な症状として知られていますが、多すぎて困るパターンについてはいまいち実感がない方も多いのではないでしょうか。
これといって大きな症状が出づらいのでなかなか気が付きづらい症状ではありますが、赤ら顔や出血傾向、かゆみなどが現れた場合は多血症である可能性があります。健康診断の血液検査などで異常が見つかった場合は早めに医療機関を受診するようにしましょう。多血症は骨髄に問題がある場合だけでなく、腎臓や肝臓など他の臓器の病気が原因となっている場合があります。そちらの場合も、できるだけ早く病気を発見することがとても重要です。
また、多血症にはストレスや喫煙、肥満などの生活習慣も大きく関わっています。難しい部分もありますが、できるだけストレスを溜めないようにし、規則正しい生活を心がけるようにしてください。
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