代謝性アシドーシスという病気をご存知ですか?調べてみると、医学的な難しい言葉で説明されていて、結局どんな病気か分からなかった方も多いと思います。代謝性アシドーシスという病気は、体内が酸性に傾いてしまい、二酸化炭素や乳酸などの酸性の物質が排出されずに、体に蓄積されてしまい、様々な症状を起こす病気です。
原因によっては、発症から数時間後に50%の確率で死に至るものもある、とても恐ろしい病気です。この病状になると、どんな症状が起こるのか、また原因や治療方法についてご紹介します。
代謝性アシドーシスについて
代謝性アシドーシスについて紹介します。
代謝性アシドーシスとは?
代謝性アシドーシスとは、呼吸以外の原因で引き起こされる、体の中が酸性に傾いている状態を言います。体の中では酸とアルカリ性の状態をバランスよく保つ働きがあります。
人が生命維持していく中で、一番バランスの取れた水素イオン濃度はpH 7.35~7.45だといわれています。この数値を基準として、PHの数値が低いと酸性が強いことを示し、アシドーシスと呼びます。また、PHが高いとアルカリ性に強いことを示し、アルカローシスと呼びます。
このアシドーシスの状態が起こると、二酸化炭素や乳酸などの酸が体の中に蓄積され、過呼吸などの症状を引き起こします。このような状態になるには、大きく分けて2つあり、1つ目は呼吸困難などで酸素が不足して二酸化炭素が増える呼吸性アシドーシス、2つ目は呼吸性以外が原因となり酸が蓄積される代謝性アシドーシスです。
今回は、この代謝性アシドーシスの症状や原因を詳しくご紹介します。
代謝性アシドーシスが起こるメカニズム
代謝性アシドーシスになる原因は大きくわけて2つあります。体内の機能が低下し正常に処理されず、酸性の物質が体内に増えてしまう状態と、アルカリ性の物質が大量に体外に排出されてしまいバランスが取れないことで起こります。
代謝性アシドーシスになると、体の中にある水素イオン(H+)のバランスが取れずに体内に多くなります。体の中に水素イオンが増えすぎると、水素イオンと重炭酸イオンを組み合わせて、二酸化炭素にして肺などから体外に排出しようとする働きが起こります。
【水素イオンが増えた場合に、体内で起こる働き】
水素イオン + 重炭酸イオン → 炭酸 → 水+二酸化炭素
この水素イオンと重炭酸イオンのバランスはとても重要です。何らかの原因で水素イオンが体の中に大量に増加したり、逆に重炭酸イオンが不足すると、血中のphバランスを崩して、代謝性アシドーシスとなり様々な症状を起こしだします。
代謝性アシドーシスの症状は?
代謝性アシドーシスになった場合、様々な症状が現れますが、軽度と重度の状態で症状が異なります。
【軽度な症状】
代表的な症状としては、二酸化炭素をたくさん作り肺から早く出そうと、呼吸の回数が増え、過呼吸がおこります。しかし、呼吸が速くなった結果、過剰に二酸化炭素をだしてしまい、酸素が多くなり、呼吸がしずらくなります。酸素が多くなると、手足や唇がしびれ、呼吸困難や、めまい、眠気、激しい耳鳴りや悪寒などの症状が現れます。
この状態が起こった場合に、対処法として紙袋を口に当てて二酸化炭素を体内に取り戻す方法が一般的ですが、今ではこの方法は危険だといわれています。酸素と二酸化炭素を取り入れるバランスを間違えしまう可能性があり、二酸化炭素は取り戻せても、酸素が足りていないことに気付かずに窒息死してしまう可能性が出てきます。
その為、過呼吸になった場合は、呼吸のリズムを整えることが大事です。
■過呼吸の場合の呼吸のリズム
- 吸う→吐く→吐くと吐く回数を多くする
- 息を吐き出す前は1,2秒息を止めてから、10秒程度かけて長い間吐き出す
パニックになる可能性があるので、周りの人に背中をさすってもらうなどして、まずは落ち着き、呼吸のリズムを整えてください。
【重症な症状】
症状が悪化しpHが7.10未満の重症な状態になると、二酸化炭素がどんどんと体内に溜まり、強い脱力感や疲れ、眠気を感じはじめます。更に深刻になると、意識がはっきりとせずに、強い吐き気や嘔吐の症状が現れ、最終的に血圧低下、ショック、昏睡状態に陥り、死に至ります。
この代謝性アシドーシスの症状が慢性化すると、くる病,骨軟化症,骨減少症などの骨の病気を引き起こす可能性も出てきます。
代謝性アシドーシスの原因と治療方法
ここでは、上記で紹介した状態が起こる原因と治療方法をご紹介します。
代謝性アシドーシス自体の治療方法は、基本的に輸液を静脈に投与するだけで十分といわれておりますが、原因によって輸液以外の対応が必要になるので、原因に合わせた治療方法をご紹介します。
糖尿病によるケトンの増加
代謝性アシドーシスになる原因の1つとして、糖尿病が上げられます。糖尿病になると、血糖値を下げるホルモン「インスリン」が極度に不足した状態になります。その為、糖の代謝ができなくなり、体はエネルギーが不足し、脳が上手く機能しないなどの障害が出てきます。
この状態になると、脳内では別の方法でエネルギーを生成しようと、タンパク質や脂質を分解し始めます。このたんぱく質や脂質を分解する時に、一緒にケトン体という物質が発生します。このケトンという物質が増えると、血液のph値が酸性に傾きます。この状態を糖尿病性ケトアシドーシスと呼びます。
■治療方法
主に、輸液と呼ばれる、水分や電解質などを点滴注射する方法と、インスリンなどの投与も補助的に行い、不足したインスリンを補給することで、ケトンの発生を防ぎます。
乳酸が蓄積する
何らかの原因で、乳酸が体の中にたまってしまい、酸の状態に傾くことを、乳酸アシドーシスと呼びます。乳酸アシドーシスの発症は急激に起こり、放っておくと症状が進行して数時間でこん睡状態になり50%の確率で死に至ります。
この乳酸が増えてしまう原因としては、様々な原因が挙げられます。代表的なものとしては、腎機能障害、肝機能障害、ショックや心不全などを引き起こしやすい方に、このように乳酸が蓄積する傾向が見られます。
【肝臓機能障害】
ビグアナイド系薬剤には、血液を下げる効果の期待できる薬があります。糖尿病の患者に投与されやすい、この薬を投与すると、血液を下げる働きをする代わりに、乳酸が増加します。
通常は乳酸が増えると、その分に応じて乳酸の代謝が行われ、乳酸値のバランスは保たれますが、肝臓の機能が低下していて、肝臓で対処できない程、乳酸が増加した場合や、乳酸アシドーシスの症状になるおそれがあります。
【腎臓機能障害】
ビグアナイド系薬剤の中でメトホルミン(メルビン)と呼ばれる血糖値を下げる内服薬は、肝臓であまり対処が行われずに、腎臓から尿として排出されます。
腎臓機能に障害がある方は、このメトホルミン(メルビン)が体内に蓄積しやすくなり、乳酸アシドーシスが発症しやすくなります。
【ショック・心不全】
このような患者さんは、乳酸産生が増加しやすい傾向にあったり、また循環不全により肝での乳酸を処理する能機能が低下することなどで、乳酸が体内に増えて乳酸アシドーシスが発症しやすくなります。
■治療方法
乳酸が増えることによる治療方法は、下記のような方法が挙げられます。
- 血液透析により、溜まった乳酸を除去し、血液の入れ替え
- 輸液を行い、利尿作用を促し、メトホルミンや乳酸を強制的に排出
- ビグアナイド系薬剤の投与を中止
- 炭酸水素ナトリウム静注を行い、アシドーシスの調整
腎不全
腎臓は、血液をろ過して体内に不要なものを尿として外に排出する働きがあります。腎臓の役割の中でで乳酸、リン酸、硫酸などを分解して、水素イオンにして尿として排出し、また腎臓で重炭酸イオンを再吸収して、水素イオンのバランスを保つ働きがあります。
しかし、腎臓の機能が低下すると、このバランスが取れずに水素イオンが排出されずに体内に溜まり、代謝性アシドーシスを引き起こします。
■治療方法
腎不全などの腎臓の機能が低下、停止している場合は、血液透析療法を行います。血液透析療法とは、腎臓の機能を機械によって人工的に行うことです。腎不全の患者さんの場合は、この機械を使って、水素イオンを含む老廃物の除去、電解質維持、水分量の調整を行います。
尿細管の障害
腎臓の尿細管に障害が起こることで、代謝性アシドーシスを引き起こします。
腎臓の尿細管からは、水素イオンを排泄し、水素イオンのバランスを整えますが、この排泄機能が障害を起こすと、水素イオンが体内に溜まり、血液のph値が酸性に傾きます。
■治療方法
アルカリとカリウムの補充を行う治療が主になりますが、根本的な治療が出来ない為、症状を緩和するだけの治療になります。
下痢
アルカリ性の物質が大量に体外に排出されてしまう原因に、下痢が上げられます。腸の消化液はアルカリ性であると言われています。その為、慢性的な下痢が続くと、アルカリ性である消化液も一緒に流れてしまい、体内の状態が酸性が強くなります。慢性的な下痢が続くと、お尻の部分がヒリヒリした状態になってきます。
■治療方法
一時的な下痢で代謝性アシドーシスが発症した場合は、代謝性アシドーシスの一般的な治療方法を行います。軽度の場合には、輸液を静脈に投与するだけで十分といわれており、重度の場合は重炭酸塩も一緒に輸液します。
しかし、これらは一時的な症状を緩和するだけですので、根本となる原因を治療することが最優先です。例えば、消化機能障害による慢性的な下痢が発症している場合は、下痢の原因となっている消化機能の治療が必要です。
まとめ
肝心(肝腎)と言葉の意味があるように、腎臓や肝臓は体にとって、欠くことのできない重要な機能です。代謝性アシドーシスの症状は、肝臓や腎臓の機能が低下するなどの重い原因でおきたり、下痢などの軽い原因で発症します。初期症状の段階では、過呼吸や疲れなどがでる程度なので、軽視しがちで自己判断が難しいと思います。
腎臓や肝臓、消化器官の異常がこのような重大な病気にかかわってくる為、定期的に健康診断をして予防することで早期発見ができる病状だと思います。