肺の病気というと肺炎を思い浮かべるように、肺は私たちの呼吸をスムーズにしてくれる生命に関わる大切な臓器ですので、「息が苦しい」症状が出る疾患が多いのが特徴です。
今日のテーマは「肺アスペルギルス」といって、その大切な呼吸器に大きな影響を与える疾患ついてのお話です。また、それと同時に周囲が気をつけることも含めて調べてみましたので、さっそく見ていきましょう。
この記事の目次
アスペルギルス症とは
「アスペルギルス症」という病気は、「アスペルギルス属の真菌(※真菌は、カビのことです)を原因とする種々の真菌症疾病」です。
ひとことで言うと、アスペルギルス症は「カビが原因で起こる感染症」ということです。これらを詳細にお伝えするためにも、初めに原因となるカビ菌についてのお話から見ていきましょう。
真菌(カビ菌)のお話
肺アスペルギルス症を起こしてしまう真菌、つまり「カビ菌」は、一般的な生活圏内に存在している生活常在菌の一つです。そのため毎日、私たちが呼吸として吸っている菌でもあります。
人の体液に混在しているので、健康なら問題はないのですが、例えば喫煙などで肺の粘膜に損傷している箇所があると、その肺粘膜に入り込んでしまいますね。このように気管支~肺に影響を与えることから、気管支炎、肺炎、気管支喘息などの苦しい症状が継続していくと治療は長期にわたることがあります。
疾患の種類
「肺アスペルギルス症」とは「アスペルギルス属の真菌」が肺に感染症を起こした状態です。※一般的に肺アスペルギルス症とは「慢性空洞性肺アスペルギルス症」のことを指しています。
また、「アスペルギルス」に関係する疾患は主に以下に挙げるような種類があります。
- アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
- 肺アスペルギルス腫(肺アスペルギローマ)
- 侵襲性アスペルギルス症(肺アスペルギルス症、アレルギー性気管支肺炎アスペルギルス症)
アスペルギルス症の総称
「アスペルギルス症」は、肺アスペルギローマや慢性壊死性肺アスペルギルス症、侵襲性肺アスペルギルス症という病気の総称であり、侵襲性肺アスペルギルス症には、慢性型と急性型があります。
また、侵襲性アスペルギルス症に含まれる病気は、侵襲性疾患(しんしゅうせい しっかん)として扱われ、その性質は慢性の疾患でもあります。
※侵襲性とは「病気によって生体そのものを傷つけること」という意味で考えるため「肺がアスペルギル属のカビ菌が原因で病気になり肺を傷つける」ということですね。
2014年には、アスペルギルス症の診断と治療についてのガイドラインが改訂されたので、少し触れておきます。
アスペルギルス症の診断と治療のガイドライン2014
先ほどの3つの疾患は似ているような症状が現われますが、体の中で起こる場所や進行の仕方や症状なども少しづつ異なるため、1つずつご説明いたしますね。
慢性進行性肺アスペルギルス症の診断基準
- 基礎疾患を有する患者
- 1ヵ月以上の呼吸器と全身症状
- 胸部画像所見上、新たな陰影の出現の憎悪
- 一般抗菌薬や抗抗酸菌薬の投与に反応しない
- 炎症性マーカーの上昇がある
上記が揃うと、アスペルギルス症であると診断されますが、後に説明する肺アスペルギルス症と慢性壊死性アスペルギルス症の鑑別をするのは臨床的には困難で、治療方法も大きな差がないことが分かっています。
そのため、わが国では「慢性肺アスペルギルス症(CPA)」と「慢性壊死性肺アスペルギルス症(CNPA)」をまとめて「慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA)」という名称(※呼び名のようなもの)を提唱しています。
慢性空洞性肺アスペルギルス症(CCPA)
肺アスペルギルス症は侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)のことですが、他のアスペルギルス症に比べると頻度というのは低いとされています。
しかし侵襲性が高いことから、病気の勢力が強くなってくると急速に肺中に拡散してしまいます。このことからも「進行性肺アスペルギルス症」ともいいます。
検査と画像診断
胸部X線以外では、CT検査で画像を撮ることもあり、喀痰の培養や感染組織を採取して調べることもあります。
検査のデータでは、血清アスペルギルス沈降抗体の陽性率が80%であることや、皮膚の検査で陽性を示したときなどがあります。喀痰の培養だとアスペルギルス属の菌が発見されることは80%以上と高確率で見つかります。これは組織の侵襲を伴うことがないです。
治療方法
根本的な治療方法がないことから難治性の高い疾患であることを考え、重篤化しないような症状管理を徹底したり、対症療法が主な治療となってきます。
具体的には、菌に対する免疫反応を抑えることで気管支の状態を改善するために副腎皮質ホルモンを服用します。※症状が強い時には、ステロイドを多めに摂取します。
症状によっては、確定診断を待たずに抗真菌薬を投与することもあります。この薬は、適応する真菌の種類が幅広いので使用するのです。
慢性空洞性肺アスペルギルス発症のリスク
CCPAの患者は、下記のように感染リスクを伴う治療を受けていることから発症します。
- 抗がん化学療法では、遷延性好中球減少したとき
- 造血幹細胞移植(急性白血病などの血液疾患)、AIDSのとき
- 臓器移植患者の場合には、免疫抑制薬の投与のとき
- 膠原病の人は、大量且つ長期にわたる副腎皮質ステロイド薬の投与しているとき
このように免疫力低下や機能の低下が起こってしまう急性呼吸器感染症でもあります。その他の症状としては、発熱や咳等の呼吸器症状が現れます。また、免疫力の低下が重度の患者においては致死的といえます。(※発症から死に至るまでが短期です)
リスクの共通性
先ほどの例を見てみると分かりますが、発症のリスクは「自己免疫」が大きく関わっていますね。どの治療も基礎疾患を治療するために免疫を抑制している、つまり「免疫力が落ちている」のです。
また、気管支喘息や嚢胞性繊維症の治療中の人も「アスペルギルス属のカビ菌」に感染してしまうと発症をしやすくなるといわれています。
全身に感染するアスペルギルスの真菌
肺アスペルギルス属のカビ菌は人間の体内に流れている血管に侵入した後、血流に乗って全身を侵していきながら進行していきます。
その勢いは、血管から血流に乗って脳や心臓、また肝臓や腎臓にまで及ぶこともあり、生命に関わる感染の仕方をする可能性が高いことが分かっています。このような勢いのある加速の仕方をしてしまうのは、主に患者の免疫機能が低下している人に多いとされます。
免疫不全抑制者の合併
肺アスペルギルス症は、普通は健康な人には発症することはほとんどないのですが、免疫を抑制する治療をしている人や何かの病気で免疫力が落ちている人には、下記の合併を起こすことがあるので注意が必要になります。
- 血管侵襲性肺アスペルギルス症
- 気管の気管支炎
- 細気管支炎
- 肺炎
- 気道侵襲性肺アスペルギルス症(きどう しんしゅうせい はい)
また、患者の免疫状態や既存の肺の状態など、個人差や現在の疾患によっても異なることがあります。このような免疫不完全な患者のおよそ60%は真菌性のアスペルギルス症だというデータもあるようです。ただ、確定診断の基準が確立していないので、正確な数字には若干の誤差がありそうですね。
気管支や肺に入るとどうなる?
そうすると気管支に痰が詰まることから血中酸素飽和度が下がるので全身症状につながっていくことが心配なところです。全身状態に異常が現れるのは、主に「めまい」「消化器障害」「倦怠感」といった不定愁訴に似たような「あいまいな症状」なので気付きにくいことが欠点となります。
そんなことからも「風邪」や「気管支喘息」として片づけられることがあるというのは分かる気がしますね。本人も辛いのですが、医師が専門医以外の場合には見逃されたり、対応が遅れたりすることもあることが、治療の開始を遅らせてしまいます。
慢性壊死性アスペルギルス症(CNPA)
壊死性のアスペルギルス症では空洞性とは反対に、組織侵襲を伴ってきますので、少しずつ進行していきながら、肺を破壊していく病態です。また、進行性なので少しずつ症状が進んでいきます。
また、空洞性と壊死性ともに更に悪化していきながら進行していくと、慢性繊維性肺アスペルギルス症(CFPA)という肺の線維化が起こり、破壊も2葉以上の広い範囲へと病態が変化していきます。
このような空洞性(CCPA)と壊死性(CNPA)の違いを厳密に見極めるのは、病理学的所見が必要であり、とても困難で治療法も大きな差がないので、この2つを合わせて(包括)「慢性進行性肺アスペルギルス症」と呼んでいるのですね。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
アレルギー性の場合は、アスペルギルス属のカビが気管支炎の原因となるなど、アレルギー症状が引き起こされるアスペルギルス症です。アレルギー性気管支肺真菌症の一つです。(※アレルギー性は、自己免疫が問題となって起こるので、自己免疫肺疾患ともいいます)
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は喘息の症状があり、胸部X線を撮影すると肺炎のような影が見られる病態をいいます。この影のようなものを「浸潤陰影(しんじゅん いんえい)」といいますが、肺が傷つけられておこってしまう影のことです。
症状と診断
気管支喘息と似たような症状を始めとする様々な体の異常を挙げてみますね。
- 喘息の症状のように、ゼーゼーという呼吸音
- 呼吸が苦しく感じられる呼吸不全
- 咳が出る
- 気管支壁の模様は不明瞭
- 抹消部には陰影がある
- 肺に組織の崩壊がある
- 中央部では、気管支拡張症の症状がみられる
このように、よく似ている症状を引き起こすため気管支喘息と間違えそうですが、検査をしてみると違うことがすぐに分かります。
その理由は、気管支喘息の場合は炎症が肺にまでは達していないことから「気管支炎症のため胸部X線を撮影しても、肺に異常な影が移ることはない」のですが、アレルギー性のアスペルギルス症の場合には影が見えることから、その違いを容易に判断することができるのです。
血液中の好酸球
肺炎でもないし、喘息の症状が出るんだけど、肺に影が映らないようなら医師はアレルギー性アスペルギルス症を疑います。すると血液検査では、好酸球が常時10%を越えたりするとアレルギー性気管支肺アスペルギルス症の可能性が高くなります。
また、アレルギー反応をコントロールする白血球の一つである好酸球は、アレルギー疾患を発症すると増える物質として知られていて、この疾患の場合には患部に集中するといわれています。
副鼻腔のアスペルギルス症
副鼻腔のアスペルギルス症の患者は、鼻づまり、痛み、鼻水を伴うことがあります。アスペルギルス症に罹患したことがある人は、繋がっている副鼻腔へカビ菌が侵入するために、副鼻腔のアスペルギルス症を起こしてしまうのですね。
外耳道のアスペルギルス症
外耳道、つまり外側から見える範囲に、痒みや痛みを生じることがあります。ひどくなると、夜間の睡眠中に耳から浸出液が滲んで枕につくことがあります。朝、起きた時に色がついた液体が付いているときには、耳鼻科の診察を受けると安心ですね。
また、副鼻腔を始め、耳は鼻と繋がっており細菌感染も同時になることが多いので、少しでもおかしいと思ったら早めに専門医の診察にいくことが大切です。
肺アスペルギルス腫(SPA)
肺アスペルギルス腫は、別名を「アスペルギローマ腫」ともいいます。
副鼻腔や肺などのアスペルギルス症や、肺嚢胞、肺結核の既往歴がある場合には、発症していた時に肺の中で空洞(※これを空洞性病変といいます)が出来ています。その空洞性病変内がある人がアスペルギルスのカビ菌を呼吸によって吸い込んでしまったり、寄生をすることで感染症を起こすことがあります。
アスペルギルス菌は肺の空洞性病変内で、カビの菌糸(きんし:カビの体を構成する菌糸状の構造のことです)や血液の塊(かたまり)、また白血球などが絡み合うことにより、球状の塊を形成していきます。この病気を肺アスペルギルス腫といいます。
肺アスペルギルス腫は、少しづつ拡大していき肺の組織を破壊していきますが、他の部位に対しては広がりを見せない確率の方が高いようです。
症状と診断
咳、喀血、喀痰、胸痛、呼吸困難などの症状が出ることが一般的です。喀血や血痰が現れることもあるのですが、無症状だけど別の病気で検査をして見つかることもあります。(※無症状で喀血を経験する人は90%にも上ります。)
仮に無症状だったとしても、喀血が見られる時には致命的な状態になることもあるので、上記のような症状が続く時には、早めに検査を受けるようにしましょう。(※頻度としては無症状の人が多いです。)
行われる検査とは、一般的な胸部X線と血液検査です。胸部のX線では、肺の空洞病変内の空洞壁の肥厚が見られます。胸部X線で典型的な菌球を認めることが出来ると診断が容易になります。
次に、血液検査ですが、アスペルギルス抗原が陽性であることから診断が付きます。症状によっては、喀痰や気管支肺胞の洗浄液を培養をすることがあります。
致命的な喀血(かくたん)
血痰(喀痰)の場合にも同様ですが、特に喀血のある場合には胸部X線で、画像上に大きな血管と繋がっているような症例がありますので、そういった場合の喀血は時に致命的になります。
治療
アスペルギルス症そのものが根本的な治療法がないため、治療は困難です。しかし、アスペルギローマ(アスペルギルス腫)の場合には、患部が局所的なことがありますので、そのような場合には外科切除の治療を選択することが多いです。
間違えられる病気
間違えられるということは、症状が似ていることを意味しています。例えば、咳、発熱、呼吸困難などは、普通の風邪や肺炎、喘息等も同様の症状が見られます。
その中で、間違えられやすい病気に「PIE症候群」というのがあります。この病気は、別名「好酸球性肺炎」ともいいます。
好酸球性肺炎
この好酸球性肺炎も胸部X線では、肺の浸潤影が見られます。そして、症状としては「発熱」「咳」「喘鳴」「呼吸困難」など、一般的な肺炎と似たような症状がでます。
しかし、悪化してしまうと場合により、食欲不振で食べることも困難となり、その結果「体重減少」を引き起こすことがあります。また、症状が全く出ないまま「急速に死に至るような重度の症状」を発症してしまうこともあります。
好酸球性肺炎は、「抹消血での好酸球を随伴することがない」のですが、肺の組織においては「好酸球に起因する炎症細胞」が見られるので、肺アスペルギルス症と間違われることがあるのですね。
まとめ
では、今日の学びを振り返っていきますね。
- 肺アスペルギルスは慢性進行性肺アスペルギルス症のこと
- 進行性肺アスペルギルス症と慢性壊死性肺アスペルギルス症を合わせた病名は、2014年のガイドラインで我が国が提唱したもの
- 肺アスペルギルスは生活圏内に在中しているカビ菌なので、健康な人は呼吸で吸っても問題ないが、免疫力が落ちている人は感染後に発症する
- 根本的な治療法がないために対症療法をしていきながらステロイドを使用することが多い
- 患部が局所的な場合には外科切除をすることが基本となる
- 免疫機能が落ちている人やアスペルギルス症の既往症がある人は注意する
今日は、難しい言葉が多かったですが、身近にあることで感染の可能性があることが分かりました。それをふまえると、お見舞いに行くときには「生花」を持って行かないといった配慮が必要ですね。
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