目の前で人が倒れた時、あなたはどうしますか?手を差し伸べてあげることはできますか?もちろん頻繁に起こることではありませんが、こういった場面に遭遇した際に、周囲にいる人間が応急処置の知識が有るか無いかによって、倒れた人の生命の行方は大きく変わってきます。
目の前で倒れた人の命を救うためには、あなたがいかに応急処置の知識を持っているかが重要です。緊急の事態に遭遇した際に適切な処置ができるよう、ここでしっかり学びましょう。
胸骨圧迫の目的
心臓が動いていない、いわゆる心停止に陥っている人に対して行う心臓マッサージを胸骨圧迫といいます。胸骨圧迫は、最も重要と言われる一時救命処置のひとつです。胸骨圧迫による心肺蘇生(しんぱいそせい)を正しく行うことによって、一時は心肺停止に陥った人でも息を吹き返すことができるくらい、救命率は大幅に向上すると言われています。
胸骨圧迫は、心停止に陥った人の呼吸を戻すために、必要最低限の血流を確保することが目的です。中でも、心臓の冠動脈や脳へ、正しく血液が流れるようにすることが重要です。もし目の前で倒れている人がいたら、呼びかけに対して全く応答が無く、さらに普段通りの呼吸が確認できなければ、心停止と判断してすぐに胸骨圧迫を開始してください。
救命処置の大まかな流れ
遭遇した場所や季節、時間帯にもよりますが、一般的な救命処置の大まかな流れを挙げます。救助側が慌てたり気が動転してはいけません。落ち着いて対処できるよう、しっかり流れを把握しましょう。
- 反応を確認する
- 周辺の人に助けを求める。同時に119番通報とAEDの手配
- 気道の確保と呼吸の有無を確認
- 胸骨圧迫30回、人工呼吸2回を1セットとして繰り返し行う
- AED到着後、ただちに使用。電気ショックを与える
- AEDを使用後、胸骨圧迫と人工呼吸を繰り返し行う(目安は5セット程度)
と、このような流れになります。
ただし、反応があったり呼吸をしていたり、わずかに意識があるケースもあります。その都度、倒れた人の状況にあった対処を柔軟に行うようにしましょう。
心肺蘇生法の手順
応急処置にはAEDを用いたり、方法はいくつかあります。ここでは、胸骨圧迫と人工呼吸を合わせて行う心肺蘇生法の正しい手順を紹介していきたいと思います。
1.応答があるか反応を確認する
倒れている人、またそういう場面に遭遇した場合、まず初めに意識の有無を確認します。傷病者の耳元で「大丈夫ですか?」「聞こえますか?」などと大声で呼びかけましょう。また、肩などを軽く揺すって、反応が有るか無いか様子を見ましょう。
この時、呼びかけに対して目を開けたり何かしらの返答がある場合は、傷病者の要求を聞いて、必要な応急手当を行ってください。
2.周囲に助けを求める
傷病者の反応が無かった場合は、大きな声で「人が倒れています。協力してください」などと大声で周囲に助けを要請しましょう。協力者が集まったら、「119番へ通報すること」と「AEDを持ってくること」を協力者に要請してください。
協力者が集まらず、あなた1人で救助をしなければいけない場合は、次の応急処置の手順を行う前に、まず119番に通報しましょう。
3.気道を確保する
別名、「頭部後屈あご先挙上法」と言われる工程で、喉奥を広げて肺に空気が通るように気道の確保を行います。方法は、まず片手を額に当てます。もう一方の手は、人差し指と中指の2本を傷病者のあご先に当て、頭を後ろにのけぞるようにさせてあごを上げます。
この際、あご先のさらに下の柔らかい部分を抑えて、圧迫しないように気を付けましょう。
4.呼吸をしているか確認
正しく呼吸をしているか確認をしましょう。この時、必ず気道を確保した状態で確認することが大切です。
まず、自分の頬を傷病者の口や鼻につけながら、息が感じられるか、息の音は聞こえるか、胸や腹部が呼吸と共に上がったり下がったりしているかを確認してください。呼吸音が聞こえなかったり、しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸をしている場合は、正常な呼吸をしていないと判断して良いでしょう。この途切れ途切れの呼吸というのは、「死戦期呼吸」といい、心停止を起こした直後に起こる呼吸です。
5.人工呼吸
傷病者が息をしていないのを確認したら、人工呼吸で息を吹き込みます。3の方法で気道を確保したまま、傷病者の鼻をギュッとつまみます。あなた自身、傷病者の口を覆うくらい口を大きく開けて、空気が漏れないように息を1秒程度かけながら吹き込んでください。この際、息を吹き込みながら傷病者の胸が持ち上がるのを確認しましょう。息を吹き込み終えたら口を離し、再度同じように息を吹き込んでください。
人工呼吸は2回までです。もし、2回人工呼吸を行っても胸が上がらなかった場合は、胸骨圧迫に進みましょう。また、万が一傷病者に出血や嘔吐症状などが見られる場合、簡易型の感染防護具を持っていれば使用して、持っていない場合は人工呼吸を省略して胸骨圧迫を行いましょう。
6.胸骨圧迫
人工呼吸を2度行った後、すぐに胸骨圧迫を行います。
胸骨圧迫の正しい方法は、まず両方の乳頭を結ぶ真ん中に、片手の付け根を置きます。その手の上にもう一方の手を重ねて、強く、絶え間なく、1分間に100回の速いテンポで圧迫してください。肘を伸ばして手の付け根にしっかりと体重をかけ、傷病者の胸元が5㎝程度沈むほど強く圧迫しましょう。
圧迫を緩めているときは、沈んだ胸元が戻るまで圧迫を解除してください。
7.心肺蘇生法を行う
胸骨圧迫を30回行い、その後に2回人工呼吸を行うという心肺蘇生法を実施します。救急隊が来るまでは、基本的にこの胸骨圧迫と人工呼吸を30:2のサイクルで絶え間なく続けましょう。
心肺蘇生法は、想像している以上に救助者の体力が消耗します。あなた以外に救助者がいる場合は、2~3分を目安に交代しながら救助してください。体力が無いまま胸骨圧迫を続けても、圧迫が弱かったり速さが十分でない可能性が出てきます。絶え間なく続けることに意味があるため、可能な限り周囲に助けを求めてください。心肺蘇生法を行っている時に、傷病者がうめき声を出したり、普段通りの息をする場合があります。その時は、すぐに中止してください。救急隊がいれば指示をあおぎましょう。
心肺蘇生法の際に、反応は見られないけれど呼吸をしているケースがあります。その際は、気道の確保を行って救急隊の到着を待ちましょう。待っている間、吐き戻しによる窒息が不安です。吐き戻す可能性がある場合には、傷病者を「回復体位」に寝かせることが必要です。回復体位とは、気道を確保するため下あごを前に突き出し、上側に来る手の甲に顔をのせます。さらに、上側の膝を90度に曲げましょう。この状態で、救急隊の到着を待つといいでしょう。
小児の心肺蘇生法
大人同様、まだ体も小さい小児が、突然心不全に陥るケースもあります。その場合、大人と同じ心肺蘇生法を行ってもいいのでしょうか?ここでは、傷病者が小児の場合の正しい心肺蘇生法を伝授します。
まず、傷病者の小児に遭遇したら、成人の場合と同様に意識があるかどうか反応を確認し、周囲に救助を要請しましょう。自分以外に救助者がいる場合は、1人が心肺蘇生法を開始し、もう1人は119番通報。さらに、AEDを持ってきましょう。救助者があなた1人の場合は、何よりも優先して119番通報をして、すぐに心肺蘇生法を行います。
まず、胸と腹部の動きから、通常の呼吸をしているかどうかを確認します。呼吸が確認できなかったり普段通りの呼吸と異なる場合は、胸骨圧迫を開始します。方法は成人と同様、胸の真ん中を1分間に100回の高速テンポで圧迫し続けます。圧迫の深さは、1/3程度胸の厚みが沈む程度が目安です。子供のため体が小さく、圧迫する力が弱くなってしまうことが多いですが、それでは効果が得られません。圧迫の深さを目安にしっかり行いましょう。
成人の救助方法と同様、胸骨圧迫を30回行い、その後に2回人工呼吸を行います。救急隊の到着まで、胸骨圧迫と人工呼吸を30:2のサイクルで絶え間なく続けましょう。
乳児の心肺蘇生法
乳児の心肺蘇生法は、基本的には成人や小児と変わりません。しかし、小児よりもさらに体が小さく臓器も未熟となるため、胸骨圧迫と人工呼吸の方法に多少違いが出てきます。
反応が無く呼吸もしていない、または通常通りの呼吸ではない場合は、救助の応援を要請して心肺蘇生法を行います。まず胸骨圧迫では、基本的な手順は成人や小児と同じです。しかし、胸を押して圧迫する際には、乳児の場合は中指と薬指の指2本で圧迫しましょう。また、圧迫位置は、成人が胸の真ん中を圧迫するのに対して、乳児は左右の乳首を結ぶ線が交わった部分から、指2本分足側のところを圧迫しましょう。圧迫の強さとテンポは小児と同じです。
人口呼吸の方法も成人と小児同様、1秒かけてゆっくり息を吹き込み、胸が上がるのを確認する流れを2回行います。ここで乳児の場合は、口対口人工呼吸ではなく、口対口鼻人工呼吸を行います。傷病者の乳児の口と鼻を、あなたの口で同時に覆います。成人や小児同様、救急隊の到着まで、胸骨圧迫と人工呼吸を30:2のサイクルで行いましょう。
AEDを使用した救命処置の方法
「自動体外式除細動器」のことをAEDといいます。心停止には、電気ショックを行った方が良い「心室細動」という心臓が小さく震えることで血液の流れを止めてしまう不整脈と、電気ショックを与えない方が良いとされるものと2種類あります。AEDはその時の心臓の状態を確認して、電気ショックが必要かどうかを機械が判断します。電気ショックが必要な場合、心室細動を抑えて正しい心臓のリズムに戻してくれます。これが、AEDの役割です。
心停止などの傷病者に遭遇するなど、AEDを使用する可能性は全ての人にあります。そんなシーンに遭遇した場合に、AEDを使用できるだけの知識を持ち合わせていますか? ここでは、AEDを使用した救命処置の方法と手順を伝授します。
1.AEDを使う準備
AEDには何種類かありますが、どの機種も手順は同じです。電源を入れると音声メッセージやランプが点灯して、救助者がやるべきことを機械が指示してくれるので、落ち着いて対応しましょう。
まず、心肺蘇生法を行っている際にAEDが届いたら、一刻も早くAEDを使う準備をしてください。AEDを傷病者の横に置き、ケースから本体を取り出します。そして、AEDの電源を付けて、音声メッセージとランプに従って操作をしましょう。ここで注意したいのは、AEDの使用対象年齢です。成人はもちろん8歳未満の小児も使用できます。しかし、1歳未満の乳児に関しては使用できないので注意しましょう。
2.電極パッドの装着
傷病者の着ている上着を脱がせ、胸をはだけさせましょう。電極パッドに絵で貼り付ける位置が記載されているので、それに従って粘着面を傷病者の胸部に貼り付けます。ちなみに貼り付ける位置は、右鎖骨の下で胸骨の右部分と、脇の5cm下左側胸部です。電流を流す前に、機種によっては電極パッドのケーブルをAED本体に差し込まなければいけないものもあるので、点灯や絵などによって機械が出す指示に従いましょう。
電極パッドを貼る際、注意点があります。まず、電極パッドはしっかり貼らなければ効果は半減します。肌と粘着面との間に隙間をつくらないよう注意しましょう。アクセサリーの上から貼ったり、アクセサリーが電極パッドに触れてもいけません。他にも、機種によっては8歳以上の成人用と小児用の2種類の電極パッドが入っているケースがあります。その場合、成人に対して小児用を、小児に対して成人用を使用しないよう注意してください。
このようなことに注意しながら電極パッドの装着を行っている際でも、救助者があなた以外にいる場合はできるだけ胸骨圧迫を継続しましょう。
3.心電図の解析
電極パッドを貼り付けたら、機械から「体に触れないでください」といった音声メッセージが流れます。自動的に心電図の解析が開始するので、救助者全員離れるように注意を促し、傷病者に触れていないかを必ずチェックしてください。
機種によっては、心電図の解析が自動ではなく、解析ボタンを押すタイプのものもあります。その場合は、音声メッセージに従って操作しましょう。
4.電気ショックを与える
心電図解析の結果、AEDが電気ショックをする必要があると判断した場合、「ショックが必要です」といった音声メッセージが流れ、数秒間かけて充電が開始されます。充電が終わると、「ショックボタンを押してください」といった音声メッセージが流れてショックボタンが点灯し、充電完了の音が出ます。充電完了の音を聞いたら、周囲の救助者に離れるよう注意を促し、傷病者に触れていないことを確認したらショックボタンを押しましょう。
電気ショックを受けると、傷病者の体は全身の筋肉が痙攣したように、一瞬だけビクッと動きます。機械の操作方法は機種によって異なるため、音声メッセージや点灯ランプに従って操作しましょう。
5.すぐに心肺蘇生法を行う
電気ショックを与え、傷病者の体がビクッと痙攣したのを確認したら、機械から「胸骨圧迫を開始しましょう」や「心臓マッサージを行ってください」というような音声メッセージが流れるので、直ちに胸骨圧迫を人工呼吸を再開しましょう。これまで行ってきた心肺蘇生法と同様、胸骨圧迫30回、人工呼吸2回です。小児や乳児も、前途と同様です。
AEDで、心電図を解析したり電気ショックを与えている時以外は、基本的に心肺蘇生法は絶え間なく行う必要があります。
6.AEDと心肺蘇生法を繰り返し行う
電気ショックを与えた後、心肺蘇生法を再開して約2分程度(胸骨圧迫30回、人工呼吸2回の組み合わせを5セット行った程度)が経つとAEDが自動的に動き始め、再び心電図の解析を行います。解析が終わると音声メッセージが流れるので、傷病者から離れて、電気ショックを与え、再び心肺蘇生法を行います。救急隊員が到着するまで、または傷病者の心臓の動きが元に戻るまで、この一連の流れを繰り返し行いましょう。
しかし、次の場合は心肺蘇生法を中止する必要があります。まず、救急隊員が到着した時です。救急隊が到着したら、傷病者が倒れていた時の状況や、救助者が行った救急手当(心肺蘇生法やAEDの使用)をできるだけ詳しく伝えましょう。AEDは、心電図の波形や電気ショックを何度与えたかなどを自動的に記録しているので、本体を救急隊に渡してください。
もうひとつは、傷病者が動くなどの反応を見せたり、呼吸が正常に戻った場合です。反応や呼吸が戻っても、気道の確保が必要な場合や、嘔吐などの症状が出ることもあります。救急隊員が到着するまで、どの体勢が良いのかなど傷病者の状況を見ながら慎重に判断をしましょう。この時、再び心臓の動きが止まる可能性もあるため、AEDの電源は切らずに、電極パッドも傷病者の胸に付けたままにします。
まとめ
傷病者に遭遇した際の、胸骨圧迫、人工呼吸、AEDを組み合わせた救命処置の手順は、いかがでしたでしょうか?目の前で倒れた人の命が助かるかどうかは、あなたの知識の有無で大きく変わります。万が一の時に備えて、手順や正しい方法をしっかり記憶しておくことをおすすめします。