長時間立っている時や、運動の後に足に極度の疲労感や違和感を感じたり、夜中に足が痛むことはありませんか?
こういった場合は、変形性股関節症が疑われます。もちろん、これだけでは確実な判断はしかねるので、他の疾患である場合もあります。しっかり医師の診断を受けるようにしましょう。
変形性股関節症の原因
変形性股関節症は関節軟骨の変性、磨耗により関節の破壊が生じ、これに対する反応性の骨の増殖(骨硬化、骨棘)を特徴とする疾患です。
何らかの有効的な治療が行われない限り、関節は荒廃の一途をたどり、予後も良いものとはなりません。現疾患の原因には、原因が明確化されていない一次性と、何らかの疾患に続発することが原因となる二次性の2つに分類されます。
一次性股関節症
一次性は原因不明となります。日本での発症率は低く、全体の約15%とされています。
アメリカでの発症率は日本よりも比較的多いですが、日本と同様、一次性股関節症の発症率は低いものとなっています。一次性股関節症を発症する方の多くが、幼少期に大腿骨の骨頭滑り症や股関節の臼蓋不全症を発症していたケースがあります。
二次性股関節症
二次性股関節症は先行して何らかの疾患を呈している上で発症するものになります。その先行疾患として最も多いとされている疾患が、臼蓋形成不全症です。次いで、先天性股関節脱臼やペルテス病などがあります。
臼蓋形成不全症を呈している場合は、大腿骨の骨頭からの垂直分圧を受ける荷重面積が少なくなるため、荷重を受ける関節面の垂直分圧が一部の面積に集中してしまいます。このため、関節荷重部の関節軟骨が破壊され、骨同士で荷重をします。そして、クッションをなくした関節面は硬化していきます。
また、股関節の臼蓋の荷重面が傾斜しているため、骨頭を外側上方へ変位させてしまいます。この骨頭の外側上方変位は、骨頭の内側に不安定な空間をつくり、力学的な不安定感を与えます。そのため、骨頭はこの内側の不安定な空間を埋め合わせようとして、骨頭の内側面に骨の形成を促進させて関節辺縁部に、いわゆる骨提を形成させます。よって、骨頭の形態にゆがみが生じます。こういった状態になってしまうため、変形性股関節症へと進行してしまいます。
原因のほとんどが二次性のもの
何らの障害の後遺症や股関節の発育不足による形成不全が原因になるというわけです。これらが原因となる変形性股関節症は、この股関節症の全体の約80%と言われます。
変形性股関節症の症状
変形性股関節症の症状には三大症状というものがあり、「疼痛(とうつう/痛み)」、「跛行(はこう)」、「可動域障害」が挙げられます。
これら以外にも、様々な症状が生じます。それぞれについて説明をしていきます。
疼痛が生じる原因
疼痛が生じる原因は、股関節の不適合による軟骨の破壊や骨棘(こつきょく)の形成、骨嚢腫(こつのうしゅ)の形成が挙げられます。
股関節の円滑な運動が阻害され、関節包の伸展性の減少や骨内の循環不全、滑膜の炎症、関節軟骨の炎症、臼蓋唇(きゅうがいしん/股関節の関節部の凹みの縁)の断裂や炎症などの症状が生じます。これらによって疼痛が生じます。
疼痛が生じる時間
変形性股関節症の初期の症状として、疼痛は長時間立っている時や、運動の後に起こるとされています。足に極端な疲労感や違和感が生じ、休憩の間は安静にしていると短時間で疼痛が消失することが特徴です。安静時にも動作時にも疼痛が生じます。
病状が進行すると、疼痛は持続的(常時)になります。体重がかかっている間以外にも、夜間痛や自発痛が自覚できるぐらいまでに疼痛がより強くなります。ここまでになると、体重を支えるといった意味での股関節の機能性が障害されてしまいます。
疼痛が生じる部位
変形性股関節症の疼痛は、4点あります。それは、①股関節のスカルパ三角領域と言われる前面部、➁股関節前面の深部、➂股関節内側の恥骨付近、④上前腸骨棘の直下での圧痛に分けられます。
①は鼠径部の内部組織が摩擦することで生じる疼痛、➁は腸腰筋による疼痛、➂は長内転筋、薄筋、恥骨筋の疼痛、④は大腿筋膜張筋による疼痛と、それぞれ疼痛が生じる筋肉も異なります。
簡単に言ってしまうと、股関節の鼠径部(足の股の付け根)に痛みが生じるわけです。
腰から膝への関連痛も生じ、腰痛もちの方であれば、変形性股関節症により腰痛が悪化する可能性があります。
跛行(はこう)
立ち上がる時や歩行時、長時間立っている時など、体重が足にかかることがあります。これを「荷重」と言います。この荷重をしている間に跛行がみられます。跛行とは、「疼痛によって逃避する」という意味になります。
例えば、右の股関節に変形性股関節症を生じている場合、右足に荷重することで疼痛が生じるため、体重がかからないように右足を軽く上げてしまうことや、体重を乗せきらないといった場合に、「右足に跛行がみられる」と判断します。
可動域障害
疼痛が増強するとともに、股関節の屈曲・内転・外旋への拘縮が見られます。股関節の屈曲とは股関節をお腹の方へ曲げる動作です。股関節の内転とは、股関節を外側から内側へ真っ直ぐ閉じる動作のことです。股関節の外旋は、股関節を外側へ捻じる動作のことを言います。こういった可動域障害によって股関節の運動が制限されます。
可動域制限の症状がさらに進行すると、「強直(きょうちょく)」といった状態になり、更に制限され、人によっては疼痛も増幅します。
筋力低下
股関節の周囲の筋力が低下します。「疼痛が生じる部位」に記述されているような筋肉の筋力が低下します。
下肢長短縮
仮性短縮や真性短縮が生じます。これらにより、患側の足が健側に比べ短くなり、立ち上がり時や立位動作時、歩行時に支障をきたすことがあります。
能力障害
関節の可動域障害や筋力が低下したり、足の長さが変わってしまったり、疼痛が生じ、バランス能力などに障害がみられるなど、様々な症状が、様々な症状に伴って生じます。これらによって、移動能力や、身体の配置を変える動作、日常生活の動作に障害といった能力にも障害が生じます。これらについて具体的な動作を述べ、わかりやすく説明します。
移動能力は、歩行や走行、段差通過、階段昇降です。身体の配置を変える動作の能力は、座位での動作や立ち上がり動作、立位での動作などを言います。日常生活動作の能力とは、トイレや入浴、清拭動作、整容動作(洗顔、歯磨き、手洗い、整髪、髭剃り、化粧)、更衣動作(上の服と下の服、下着、靴下、靴の着脱全て)、食事動作が挙げられます。
もっと細かく具体化すると、その人の生活様式が含まれます。例えば、仕事や趣味、買い物などその人の生活背景に関与します。
変形性股関節症の検査・診断
検査では、問診や視診、触診、聴診の他に、画像検査などが行われます。問診では、これまでにかかったことのある整形疾患やその他の既往(これまでにかかった病気)や、現在抱えている病気や内服しているもの、生活背景など、様々なことを聴取します。
次いで、視診や触診にて、歩行動作の分析や股関節の状態や動き、痛みの程度などを確認します。その上で骨の中を写す画像診断などを行います。
画像検査
画像検査では、単純X線(レントゲン)検査やCT検査、MRI検査、関節造影が施行されます。主にX線検査のみであることが多く、関節の形や骨の状態、変形の有無、隙間の有無の確認と、症状の進行の程度などを判断していきます。
身体機能検査
Thomas(トーマス)テスト、Patric(Faber)(パトリック)テスト、Trendelenburg(トレンデレンブルグ徴候)の検査が行われます。それぞれ、陽性の反応がみられた場合、変形性股関節症が疑われます。もちろん、判断材料となる検査はこれらだけではありません。
これらの検査は、リハビリテーションにて行われることが多いです。そこでは、他に関節の角度や筋力などの計測、生活面の状態など、必要となる様々な検査が行われます。もちろん、退院に向けて治療を進めるため、問診も受け、その上で治療のプログラムと目標を立てて治療を進行させていきます。
変形性股関節症の治療
変形性股関節症の状態によって、治療方法が異なり、治療方法は著しく進歩しています。保存療法から外科的手術まで様々な方法で対応していきます。
外科的手術を施行すると、入院もしなければなりません。また、状態によってはリハビリテーションが必要となる場合もあります。
保存療法
軽症の場合や、80歳以上の高齢者である場合や、年齢問わず全身状態の検査の結果、手術を行うにはリスクが高いと判断された方に関しては、手術は行わず、保存療法が適応されます。
保存療法では、できるだけの安静と、消炎・鎮痛剤の処方、杖や歩行器、状態によっては車椅子などの歩行器具の利用による免荷体重のコントロール、筋力の強化訓練や体重を自己コントロールする練習、関節可動域の維持や拡大を目的として治療が行われます。
これは、主にリハビリテーションにて実施されます。
体重のコントロール
股関節にかかる体重の負担を軽減させることは大きな注意点となります。股関節には、体重1kgの増加に対して約3倍の負担が増加します。よって、BMIはできるだけ22以下を保持するように心がけ、体重の増加を防ぐようにしましょう。
また、BMI数値も高く、体重が重いという肥満傾向の方は、股関節にかかる負担が大きくなるため、ダイエットに励みましょう。股関節だけではなく、膝関節や腰にも負担がかかるため、股関節が変形するだけではなく、他の部位の障害も発症しやすくなります。
手術
Chiari法、寛骨回転骨切術(RAO)、人工股関節置換術(THA、UHA)といった手法があります。各々について簡単に説明をします。
Chiari法
Chiari法は、前期・初期の股関節症に施行されます。術後に、骨盤の変形を起こさせるため、骨盤が捻じれて狭くなり、分娩障害を起こします。そのため、この方法は小学生などの若年患者に適応されます。
寛骨回転骨切術(RAO)
寛骨回転骨切術(RAO)は、20~40歳代の青年女性の進行期によく用いられます。しかし、この方法では内反することで足の骨の長さに短縮が生じ、足の長さが左右非対称となります。なお、保存療法として、間欠的投薬の処方や自主トレーニングの実施、姿勢調節の指導を受けた上で、それでも疼痛が強くどうしようもない時に行われます。寛骨回転骨切術以外にも、外反骨切による関節固定といった方法もあります。
骨切術自体は、自身の骨を利用した手法になり、何種類かの術式がありますが、寛骨回転骨切術の適応が多いです。方法は、どの術式も関節付近の骨を切り、関節の向きの調整や、残存している軟骨に荷重部を移動していきます。
変形が過度に進行している場合には、次に説明をする人工股関節置換術が施行されることが多いです。
人工股関節置換術(THA、UHA)
人工股関節置換術(THA、UHA)は、末期の患者や、40~50歳代の中年患者、60歳以上の高齢者が対象となりやすいです。この方法は、変形性股関節症の治療法としてとても有効的なものですが、デメリットも大きいです。
股関節の関節包を切離するため、術後にはインプラントがゆるみ、破損することもあります。その他、脱臼しやすくなるため、そういった時期には外転枕などを使用して脱臼を防止します。当然、こういった後遺症が生じると、感染症のリスクもあります。
また、消耗品となるため、個人差はありますが、数十年後には人工関節を交換する手術が必要となる可能性もあります。高齢者であれば、そういったことはほとんどありませんが、若年時に人工関節にした場合、一度は交換する時がくるでしょう。
こういった後遺症や小網が最小限に抑えられるように、現代ではさまざまな研究が進んでいるため、将来的には脱臼や感染症といった後遺症のリスクは低減されるでしょう。
中年期の患者に多い対処法
40~50歳代の中年患者に関しては、保存療法として、薬物療法や自主トレー二ングに加え、杖や歩行器などの歩行補助具を使用しての歩行訓練を積極的に行います。
これらを行ってもなお、疼痛が強いと人工関節置換術や外反骨切術といった外科的手術を行います。
高齢者に多い対処法
60歳以上の高齢者も、中年患者と同様の保存療法が行われますが、こちらも、疼痛が強い時には人工関節置換術を行います。
どの保存的治療も限界があるため、観血的療法が基本の治療になります。
術後の疼痛
手術により、メスを入れれば手術の傷跡も残り、その後も抗生剤などの薬を飲み、リハビリテーションを受けるなどの治療をしていかなければなりません。
また、個人差はありますが、急性期(術後1~2週間)、人によっては回復期(1~3ヶ月)の間、創部の疼痛に悩まされる方が多いです。術後の管理次第では、疼痛が慢性化して半永久的に疼痛と付き合っていかなければならないことも多いです。医師やリハビリテーションのセラピストから受ける生活指導などをしっかり聞くようにしましょう。
リハビリテーション
リハビリテーションは、保存療法であっても外科的手術後であっても必要とされることが多いです。退院に向けて可動域訓練や、筋力訓練、日常生活動作能力の訓練、歩行訓練など、その人その人に合わせた検査と治療が行われます。
予防
股関節の変形には、上記で述べたように体重の重さも関係してきますが、体重だけに関わらず姿勢も大切になります。
いざり座りや前傾姿勢(猫背) 、あぐら座り、片足をもう片足の太ももの上に乗せて座るといった、股関節を捻るような座り方は関節に負担をかけます。股関節だけではなく、背骨を曲げてしまったり、膝や足首、内臓などの他の部位にも負担をかけます。なるべく背筋を伸ばして股関節や背中を捻ったり曲げたりすることのないような真っ直ぐな姿勢でいることを心がけましょう。
これにより、完璧に予防ができるというわけではありませんが、発症のリスクを下げたり、症状の悪化を防止することはできます。
セルフトレーニング
プール内などで水中歩行や水泳を行うと、効果的な筋力トレーニングが可能です。陸上で行うのとは異なり、浮遊力を利用するため、あまり関節に負担をかけずに行えるからです。
もし、水泳をする場合は、股関節に負担のかかる平泳ぎは避けましょう。水中内での運動の目安は週に2~3回です。過度な運動を行うと、逆に筋肉や関節に過剰に負担をかけてしまい、疼痛などの症状を悪化させる可能性があります。
まとめ
変形性股関節症は、ほとんどの原因が関節がもろかったり,弱かったりして生じるものであり、世間的には高齢者になりやすいと思われがちなことが多いです。しかし、ここでも述べたように、あらゆる年代に見られる障害になります。
重症化しない場合には薬物療法の利用で治るとも言われていますが、いずれかは重症化し、外科的な手術を行わなければなりません。いろいろな弊害が出てきます。油断はせずに、身体に異変を感じた際には早急に病院へ受診するようにしましょう。
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