ただ歩いているだけなのに、数日前から脛(すね)に痛みを感じるようになったとか、走っていると決まって脛が痛むという症状に悩まされている方がいます。もしもこういった症状が出た場合には、軽少なものから重度のものまで、いくつかの原因が考えられます。
またここに挙げる脛の痛みは、鈍痛であり一カ所が集中的に痛むわけではなく、脛の筋肉や骨のラインに沿って痛みが走るのが特徴です。
脛の主な痛みの原因として考えられるのは、骨と筋肉が原因となって起こる痛みです。脛の痛みの原因の過半数はこの両者にあります。即命に関わるような重症なものはありませんが、放っておくと骨折に至るなど、良いことはありません。
すねの痛みは骨の問題?
ではまず骨についてみてみましょう。脛骨に対して歪な負荷がかかってしまったことでダメージが蓄積し、脛の痛みとなって現れます。
すねの骨に問題がある場合
慣れない運動を長時間続けたり、同じ動作を繰り返し、かつ高負荷で行った場合に起こります。これを「過労性脛部痛(かろうせいけいぶつう)」などと呼びます。
この状態のまま、なんらケアをせずに運動を続けた場合、骨の疲労が慢性化し、最悪の場合には脛骨が骨折してしまうこともあります。
次に高齢者や女性に多いのが「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」による痛みです。骨粗鬆症は脛だけに現れるわけではなく、体全体の骨に関わってきますが、とくに日常的に負荷がかりやすい下肢などで症状が見られます。
すねの骨に問題がある場合の対処方法
まずは何より下肢に負荷をかけないように、もしも痛みや炎症が生じた場合には、痛みが緩和するまで安静にすることです。可能なら横になって、長時間足を休ませるようにします。また暖かいお風呂に入るとか、軽めのマッサージを受けるのもいいでしょう。
骨粗鬆症については、骨密度が低下することで発症します。よく言われているのが、ステロイド剤などを長期間服用した副作用や後遺症として、骨密度が減るとされています。
もちろん食事の偏りも大きな影響があります。なるべく骨を丈夫に作るような、カルシウム分などの栄養を含んだ食事を摂取するように心がけましょう。また骨を作るという意味では、新鮮な血を送り出す肝臓を健康に保つことも大切なポイントになります。肝臓が弱ってくると、十分に新鮮な血を用意できないため、次第に骨の生産もなされなくなってしまい弱くなります。
ダイエットは要注意!
この観点からすれば、過度のダイエットも骨の健康に対しては悪影響だと言えます。食べ物を摂取制限すると、人間の体は生まれながらにして蓄えられている骨や随などから、足りない分の栄養を補充する仕組みになっています。
ですから、日常的に食べ物の偏りがある人や、頻繁にダイエットをする傾向がある人は、他の人よりも骨が脆くなりやすいと認識するといいでしょう。
また最近では、男性でもホルモンバランスの極端な低下によって女性と同様に骨粗鬆症が起こりやすいことが分かってきました。男性だからといって無縁ではいられません。
さて次に考えられるのは、筋肉へのダメージです。筋肉は使い方に無理が出るとすぐに炎症を起こしたり、最悪の場合には断裂することもあります。
すねの痛みは筋肉の問題?
では筋肉に問題が起きている場合についてみてみましょう。
すねの筋肉に問題がある場合
すねに痛みや異常を感じて整形外科にかかって診察をしてもらった時に、「この症状はシンスプリントですね」と医師から言われることがあります。これは、これまではやったことのなかったマラソンやエクソサイズ、重たい荷物の上げ下ろし作業、長時間の階段の登り下りなどによって発症します。
とくにこれまで運動らしい運動をほとんどしてこなかったのに、健康のためにと思い立って運動を始めたり、または学校の体育の授業などで強制されて、慣れない長距離走などの運動を始めた場合に起こりがちです。
シンスプリントが起こるそもそもの原因は、筋肉疲労によって筋肉が炎症を起こし硬直して、筋肉と繋がっている骨を強い力で無理に引っ張り続けることにあります。長時間骨への負荷がかかり、ひどくなると骨が耐えきれずに骨折に至る症状なのです。
とくに初期段階では脛の内側に痛みが生じます。次第に外側にも痛みが広がります。脛には「前脛骨筋」をはじめ「はい腹筋」「ヒラメ筋」などがあります。こうした筋肉が、あまり経験のない過度な運動を継続的に行うことによって緊張して、脛の骨膜を引っ張り続けてしまいます。緊張して収縮した筋肉は炎症を起こします。
すねの筋肉に問題がある場合の対処方法
炎症を起こした筋肉は、ほぐしてあげることで炎症が和らぎます。ただ、痛みが走ったからといってすぐに治療を行うのではなく、しばらく運動をせず休息する時間をしっかりとる必要があります。
また、そもそも運動している時に履いている靴に問題がある場合もあります。自分の足の形に合っていない場合、靴の素材や形のために、歩行や走行の時にバランスの悪いフォームを作ってしまうことになり、それが筋肉への負担に繋がっている場合などがあります。
立っているだけの姿勢の時、歩行や走っている姿勢の時をそれぞれ確認してみて、足に余計な負担がかかっていないか、フォームの崩れはないかを確かめましょう。靴を自分に合ったものに替えたとたん、筋肉疲労がぴたりと止まったというケースが多く聞かれます。
筋肉をいたわるつもりが逆効果
できるだけすねの筋肉をいたわって炎症を起こさないように、運動の直後に下肢を冷やすのは逆効果です。まさに今、脛が痛んで内出血や炎症反応が起きている場合には冷やすことは有効な手段です。
しかし、とくにそうした急性症状がなく、疲労回復のために冷やすとするなら、むしろ逆に暖めたほうが血行の流れが良くなって、疲れた筋肉にとって癒しの効果があります。
すねの痛みはリンパ管の疲れの問題?
では三番目に、下肢を流れるリンパ管が原因となるものについてみてみましょう。
朝からのデスクワークで夕方に下肢がパンパンに腫れる
例えば、机に座りっぱなしの事務仕事や、タクシーや長距離トラックの運転など、同じ姿勢のまま長時間座りっぱなしの人に多い症状です。とくに膝下部分、脛やふくらはぎ周り、足の甲や足底が一周りほど腫れ上がります。歩いたり走ったりすると痛みを感じて、場合によっては足を引きずるように歩くほどです。
これらはリンパ管の疲労によって機能が低下した状態だと考えられます。長時間座ったままの姿勢が続き、疲労が蓄積してくると、体中に血液を送る力も衰えます。それに比例するように、だんだんと下腿にも水が停滞していきます。
その水の停滞が下腿のむくみ(浮腫)となってパンパンに腫れ上がり、脛の痛みやふくらはぎの痛みとなり、ひどい場合には歩くことさえままならなくなります。
リンパ管や血管をケアする
水が下腿に停滞することによって起こるむくみ(浮腫)を解消する方法があります。それは意外にも「歩くこと」です。実は、リンパ管は筋肉が動かずに休んでいる間は自発的に運動をし、筋肉が動いている間には他動的に筋肉に引っ張られて動いています。
ですからリンパ管が疲れている。つまりリンパ管を休めたい場合には、筋肉を動かしてあげることで解決されるわけです。
とても痛みが増した時に歩くのはしんどいわけですから、そうなる前にちょっとずつでも歩いておいて、リンパ管が完全に疲れて機能低下することを未然に防ぐことが、最も大切なケアだと言えるでしょう。
状況が許すなら、一時間に一回は数分間歩いてみる。トイレ休憩やお茶を飲む時間を作るように心がけてみましょう。何よりも同じ姿勢でずっといることは、下腿への影響だけでなく肩こりや腰の痛みを緩和する役割もあります。長距離を車で移動する場合にも、無理せず要所要所で息抜きをしましょう。
すねの痛みは筋膜の問題?
最後に脂肪と筋肉の間、または筋肉と骨の間にある「筋膜(きんまく)」についてみてみましょう。
あまり目立たないが注目してみたい筋膜
すねを皮膚表面から皮下に順番に見ていくと、皮膚、皮下脂肪、筋肉、骨という順番になっています。脂肪と筋肉の間、そして筋肉と骨の間に、筋膜と呼ばれる薄い膜状の組織があります。鶏肉を買ってきた時に、肉の固まりと肉の固まりの間に、白い薄い膜を見つけることができますが、あれが筋膜と呼ばれる部分です。
筋膜はゼラチン質のようなものです。普段は体液などの行き交いがスムーズですが、炎症が起きたり不具合があると、より硬く引き締まって体液の流れなどが滞ってしまいます。そのことによってますます炎症がひどくなり、痛みも増していきます。
筋膜をリリースする
「筋膜リリース」はアメリカで代替療法として発達したストレッチの一種だとされています。凝り固まった筋膜を手の平などで皮膚上から押さえつけ、筋肉組織の走行方向を考えながらゆっくりと引き延ばし、固まったゼラチン質の筋膜をゆるく溶かしていくことで状態を改善させます。
すねの痛みの場合、「前脛骨筋」をはじめ「はい腹筋」「ヒラメ筋」をそれぞれ筋肉の走行に沿って引き延ばすことで、痛みを緩和し改善します。指圧やマッサージのような強い圧力や揉みほぐし感はありませんが、上手にリリースされると、数時間後から一日経過後には、痛みが消失し軽快に動かせることが実感できるはずです。
まとめ
脛の痛みひとつをとってみても、骨、筋肉、リンパ管、筋膜といった具合に、いくつかの原因が考えられます。いずれの場合にも共通しているのが「過度にやり過ぎないこと」だと言えるでしょう。
過度に運動しすぎない、過度に同じ姿勢でいない、つまり適度に休んで、適度に運動することが大切だということが分かります。
またもちろん脛の痛みは即命に関わるような症状ではありませんが、放置をしてしまうと症状が長引いたり重症化することもあるので、普段とは違う痛みや異変を感じた場合や、なかなか改善せず慢性化の傾向がある場合には、近医の整形外科に相談をすることをおすすめします。
過度な負荷のかかる運動は避ける
適度に体を休ませる
骨や筋肉を作る食事を心がける
ストレッチなどをして下肢の血流を改善する
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