こちらは、後縦靭帯骨化症という複雑な名前が付いています。主な症状としては、脊髄に位置する椎体の部分の靭帯がいわゆる骨化するということで、固くなり、動きが悪くなり、神経を圧迫することです。それが元で、身体の動きが思うようにならなかったりと日常生活に支障を来します。
遺伝的な要素が強いということで、ある意味治療法もまったくないか、その対処療法としての方法は複雑になります。ですが、完全にない訳ではなく、その状態を解消するには、さまざまな方法が取られることになります。
この病気は特殊なため、難病指定をされており、完治するには非常に難しいのはそのためです。
今回はその後縦靭帯骨化症についてお伝えいたします。
この記事の目次
靭帯骨化症の種類
骨化する場所により、それぞれ名称が変わってきます。
原因は先に述べたように、遺伝的なものの他、糖尿病などが影響しているとも疑われています。
後縦靭帯骨化症
後縦靱帯は脊髄の前の方に縦に位置しており、ここにある靱帯の細胞部分が骨化してしまうことです。それほど多く発症する病気ではなく、成人の3%程度です。
尚、この数字は骨化した人の数であり、実際には症状が出る人はその数字の内の、さらに小数になります。つまり、進行性ではありますが骨化しても症状が出ない人もかなりいるということです。
ちなみに「骨化」するということは、どういうことかといいますと、元々は、骨ではないのにその変質により骨になってしまうということです。つまり、この場合はあまり信じられないと思いますが、靱帯の部位が骨と化してしまうのです。それも通常の骨となります。
どの症状も一般的に50歳前後で発症するケースがほとんどで、男性のほうが比率は高くなっています。
黄色靭帯骨化症
上記の後縦靭帯と同様、骨化することですが、場所が違うということでの名称が違います。黄色というのは、脊髄の後ろ側の靭帯でありここが圧迫されていることが原因となります。
プロ野球の選手など、この病気にかかり治療に専念して復活した、という人はかなりいます。
頚椎後縦靭帯骨化症
この症状もかなり多いようで、頚椎という首の後ろの部分の靭帯が骨化します。
神経の圧迫が理由でしびれなど、他の靭帯骨化症と同様の症状を引き起こすほか、場所が首のところということもあり、首を動かすことがかなり大変になります。
後縦靭帯骨化症の症状
症状の起こり始めは判断が非常に難しいようです。脳の障害や脊髄の別の病気が原因とも考えられるからです。また、当人も気のせいとばかり思うようで、中々診察にまで及びません。
知覚障害
状態が悪化すると、感覚がなくなります。部分的に指の先の感覚がなくなったり、足が思うように動かない、しびれているなどです。これらは総称して脊髄障害と呼び、他にもボタンのかけはずしができない、文字が書けない、箸がうまく使えないなどの障害がでます。
このような状態になるとなんらかの異常があるのでは…と思ってくるのも当然ですが、この後縦靭帯骨化症とまでの判断にまでは至りません。
頚椎に起きる頚椎後縦靭帯骨化症の場合は、痛みやしびれは首筋とか肩甲骨の回りに起こります。他は後縦靭帯骨化症同様、足などにも広がっていきますので、注意を要します。
これらの症状は医師の診断も非常に判断に苦しむのが一般的で、当初から専門医に見立てが必要と考えられます。
骨化が進行し、神経を圧迫する度合いが大きくなると、初期の頃から比べてなんら不自然でもないのですが、段々とその障害がひどくなっていきます。
運動障害
神経の圧迫により、手足などの部分的に動かしづらくなってきます。これは、痺れと同様な仕組みで起きることで、他にも思うように歩けないことなどの症状となります。
脳の症状なら、リハビリなどを根気よく行えば、改善するのですが、この後縦靭帯骨化症では、リハビリなどでは改善しません。よって、神経圧迫による障害はきちんとした治療が必要となります。
排尿障害
上記に述べたような日常的なことに障害が起きるのと同様に、尿を出すという行為の状態にも影響が出ることが多くなります。これは、尿が出にくくなる、または尿漏れが起きます。
また、ある程度尿が出たはずなのにまた尿意を催すといったことも起きます。
女性では更年期障害などと思い込む人もいたり、男性では前立腺の問題と思う人もいるようです。症状が重くなると、この障害は結構辛いものとなるので、早い対応が望ましいと思われます。
これらの症状も神経が圧迫されることによるもので、症状は人によりまちまちとなります。鎮痛剤の使用により一時的によくなったり、時には別の症状が出たりと、とても不安定な状態が続きます
後縦靭帯骨化症の原因
今現在でも、その原因は明らかになっていません。
患者は特定疾患に指定されることからもわかるように、治療法も確立していないのが現状です。
遺伝的要素
この病気はある意味遺伝的な要素が強いと解釈されています。これを疾患感受性遺伝子といい、その遺伝子の発現量により強弱があり、さらに親子や兄弟姉妹ではその感染率は30%程にも上昇してしまうことからも解かります。
その遺伝的要素が、かけ合わさることにより発症するとも考えられています。通常は、普通の靭帯の部分が骨化というようになるのは、本来ではありえない訳であり、ごく自然のこのような現象が起きることは非常に考えにくいからです。
カルシウムの代謝異常
他の原因として考えられているのが、カルシウムの吸収異常、性ホルモンの異常、ビタミンDの代謝異常と考えられています。
骨というのは、主にカルシウムから出来ているので、そのカルシウムがホルモンなどと複雑に絡みあい、異常を起こしているとも考えられます。
糖尿病との影響
この病気は一説によると、糖尿病が影響しているということも考えられています。いわゆる糖尿病は高血糖の状態が長く続いているため、たんぱく質の変性が起こりやすいためです。その変性したたんぱく質がカルシウムと結びつき、骨化すると考えられています。
ただこの原因は、糖尿病患者に発症している比率が高いということからも、関連性が強いと解釈されており、現実的にこの後縦靭帯骨化症にかかる人のほとんどが、糖尿病患者か潜在的な糖尿病予備軍の人が多いということからも頷けます。
医師の診断の流れ
症状が現れてから、その診断を行うには、レントゲンが一般的ですがそれほどの異常を感じるのであれば、MRIやCTスキャンでの確認が望ましいとされています。
このCTスキャンンやMRIの画像ではハッキリとその箇所が写ることで、その後の正確な治療を行うことが可能となります。
問診
どの病気でも病院において問診がありますが、発症した際の状況などを確認いたします。まれに事故がきっかけで、突発的に症状がおきるケースもかなりあります。この場合は、まれなケースなので本人もまさかその事故が元と思っていません。
ですから、医師の問診はそのきっかけとなる事故や衝撃、怪我がなかったかという確認までも行いことになります。
また、当然ですが糖尿病などの既往歴も確認します。先に述べたようにたんぱく質の変性により、発症するケースの可能性を調べるためです。
骨化診断
発症している人には、統計的にカルシウムの取りすぎの人が多いという診断も出ています。今のところ、このことが影響しているかどうかははっきりしていませんが、全身の骨量が異常のない健康な人と比べて多いということです。
今後の研究にもよりますが、先に述べたビタミンDとの関連性も含めて、まだまだ研究段階ということです。
レントゲン、CTスキャン、MRI検査
レントゲンやCTスキャンでは、靭帯の部分が骨化しているかどうかの確認ができます。一方、脊髄や脊髄神経ははレントゲンでは確認できません。この場合は、MRIでどの部分が骨化して神経を圧迫しているかを確認します。
運動機能検査
筋力テスト、感覚や反応などの検査をして体幹の神経の状態を調べます。手の平を開いたり閉じたりする運動から、細かい作業をするために手指の動き方を調べます。
これにより、この病気の進行の度合いなどがわかります。また、今後の治療方法などの確認もすることになります。
後縦靭帯骨化症の治療法
手術療法は、症状が重度の場合に行うケースがほとんどです。軽度の場合は、薬物療法がほとんどです。
重度の場合は、そのままにしておいても改善の余地はなく、保存療法といって手術をしない方法は取られません。
薬物療法
軽度の場合、きちんと後縦靭帯骨化症と診断されたのであれば、鎮痛薬や緊張緩和薬での対処が一般的です。これは痛みを緩和するために方法であり、あくまでも緩和のみです。
つまり、根本的な治療法ではありません。そしてこの場合、骨化の進行を止めることはできないので、その内に効き目もなくなりその先の治療が必要となります。
ただ、骨化も進行はそれほど早くないので、高齢になってからの発症ではほぼ薬での対処で大丈夫であり、その辺は医師の指示に従うことをお勧めします。
脊柱管拡大手術
神経が圧迫されている部分の脊髄を広げる脊柱管拡大術となります。これは脊髄の中心の脊柱管を広げることにより、手術室において神経の圧迫を取り除きます。
進行して重度の状態になった場合は、ほとんどがこの手術方法になります。
前方徐圧固定術
前方固定術ともいい、骨化した靭帯の部分を前方から手術により取ります。その上で自分の骨を移植するというかなり高度で複雑な手術になります。つまり医師にとっては骨を削る時に脊髄の神経を傷つけないようにかなりの神経を使う状況にもなります。
割と術後の管理にも神経を使う手術でもあります。
メリットでいえば、前方から取るということで神経の部分にあまり接触しない方法なので、圧迫する部分を効率的に取ることができ、後々の後遺症も起きにくく有効な手術と言えます。
椎弓形成術
背骨側の骨を削ることにより神経の圧迫を逃がすというもので、脊椎が弱く不安定になるというデメリットがあります。
最近はこの方法を行うことは少なくなりました。
運動療法
かなり危険を伴うため、あまり行われていませんがリハビリなど軽く運動することにより、軽減させる方法です。
無理に行うことでさらに悪化するケースもありうるためにこの治療には慎重に行います。
牽引療法
これも運動療法と同様、危険を伴います。つまり運動療法も牽引療法も、無理な動きを強要するために悪化の可能性があるのです。
両方とも一過性の対応のみとなり、一時的に良くなっても根本的な解決にはつながらないということになります。
神経ブロック注射
痛みを一時的に緩和するために、神経の当たっている近辺に注射をします。これも薬で緩和する方法と同じで、あくまでも一過性のものとなります。
つまり、後縦靭帯骨化症の進行を抑えるには至らないので、ゆくゆく悪化した場合は手術となることが多いということになります。
後縦靭帯骨化症の予防法
原因がはっきりしていないということで、その予防法は今のところは無いと言えます。
ですが、やはり根本は原因遺伝子と考えられ、その対処法がすみやかに行われるように医療機関において、日々努力をしています。
糖尿病の症状の軽減
糖尿病はあらゆる病気の根源にあることが多いのですが、やはり生活習慣を改めて、改善に尽くすことが、病状を悪化させない、発症させない手段の一つと考えてもいいでしょう。
カルシウムの摂取を控える
ビタミンDとカルシウムの関連性に注目する必要があります。カルシウムの摂取を控えるということで多少なりの予防にはつながります。
難病の指定による対応
この後縦靭帯骨化症は難病指定されています。よって、治療費等の免除や助成を受けることができます。
特定疾患
この病気は厚生労働省が難病にしており、この病にかかると特定疾患とされます。この特定疾患とされますと、特定疾患医療受給者証が発行されます。これを発行されることにより、医療費の自己負担分の一部を国が肩代わりしたり、全額助成が受けられます。
実際にこの病気にかかると、長期の治療が必要となり費用も嵩みます。そのために助成となる訳です。
難病指定
現在、難病と指定されている病気はかなりの数になります。この難病というのは、極めてまれな病気で症例も少なく、そのために治療方法が確定されていません。
厚生労働省は、その病気のために影響を受けている患者を研究対象にしてゲノム領域にまでに踏み込んで研究されており、SNPといってその対象遺伝子のわずかな違いの個所のを見つけ出し、治療法を確立するとともに、その疾患をおこしている疾患感受性の遺伝子や再生細胞となる間葉系幹細胞の発見に努めています。その上で医療施設の充実も計画も行っております。
認定基準
難病指定され、患者も特定疾患とされるには、その基準を満たさなければなりません。その基準は、以下のとおりとなります。
- 四肢や身体に痛みとしびれが発症
- 四肢や身体に感覚異常がある
- 身体に運動障害が起きている
- 排尿障害、膀胱障害がある
- 四肢の腱反射異常がある
- レントゲン、CTスキャン、MRIなどの画像診断で異常がある
となっています。
後縦靭帯骨化症に似た病気
後縦靭帯骨化症と同様、非常に複雑な病気で似たような症状を引き起こす病気があります。
頚椎症性脊髄症状
主に高齢者がかかる病気であり、これは頚椎という首の骨が変形してしまい、それば元で脊髄を圧迫してしまうものです。
姿勢が悪いなど、長い年月をかけて悪化していくので、やはりこれも発症に気づきにくいのが特徴であります。そしてまた、脊髄が圧迫されているということからもわかるように、やはり手足の動きがままならない、歩行障害となる、何気ない動作が自然にできないなどの症状を引き起こします。
この場合は特に高齢ということもあり、転倒には十分な注意が必要となります。この転倒は、例えば大腿骨骨折など、大けがの元にもなりかねません。それば原因で長期的に寝込んでしまい、体力が落ち込むことで、寿命を早めることもあります。
そのほとんどが保存療法で手術などはよほどのことがない限り行わないということです。
頚椎症性神経根症
こちらも加齢による頚椎の変形が原因となります。つまり、その変形した骨が神経根を圧迫して異常を起こすものです。先に説明した脊髄症は、脊髄を圧迫しているものであり、この神経根症は、神経を圧迫したもので症状が出ているものです。
若干その原因が違っており、頚椎症性神経根症の方が症状的に軽いということになります。つまり脊髄症は、メインの中枢神経を圧迫している状態、神経根症はその中枢神経から出ている細かい神経の一部分を圧迫する状態となる訳です。
こちらの神経根症は入院し安静していることで、大体が治癒します。あるいは、ステロイドなどの痛み止めの服用がメインとなっています。
ただ、こちらもやはり神経を圧迫している関係上、軽度のしびれや麻痺、巧緻運動障害が発症しています。
まとめ
いかがでしたか。難病に指定されているということでは、なんともしがたい病気にも思えますが、今の医学では、この後縦靭帯骨化症も治るとまでは行かないまでも、症状をかなりの線で改善できるのです。
極力その病気になると思われている要素を受け入れないようにして、さらには遺伝的な要素が強いからと諦めず、無力を決め込まないことが大事かと思います。
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