頚椎症という疾患をご存知でしょうか?比較的若い世代の方は、知らない方が多いかもしれません。一方で、中高年の方には、メジャーな疾患の一つと言えるかもしれませんね。
頚椎症は、首の骨が老化によって変形してしまうことで引き起こされる病気です。首の骨が変形することによって、近くの神経を刺激してしまうので、手足に痛みやしびれが現れます。手足に痛みやしびれが生じると、日常生活にも影響を及ぼしてしまいますよね。
そこで今回は、頚椎症の概要についてまとめてみましたので、参考にしていただければ幸いです。
頚椎症とは?
そもそも頚椎症とは、どのような病気なのでしょうか?
頚椎とは?
頚椎は、椎骨の一部であって、頭部を支えるための骨のことを言います。簡単に言ってしまいますと、頸椎は首の骨と言うことができます。
頚椎は、7個の椎骨で構成されていて、上から順に第一頚椎から第七頚椎と呼ばれます。
ちなみに、頚椎と頸椎は、漢字が異なりますが同じ意味です。
椎骨
椎骨は脊椎骨とも呼ばれ、一般的に背骨と呼ばれる脊椎を構成する個々の骨のことです。そして、個々の椎骨の円柱状の部分を椎体(ついたい)あるいは椎体骨と呼びます。
椎骨は、首にあたる頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、骨盤の真ん中に位置する仙椎5個、尾椎4個の合計33個で構成されます。ちなみに仙椎は癒合して仙骨となり、尾椎も癒合して尾骨となります。
また、椎骨と椎骨は、靭帯と椎間関節で連結されています。
椎間板
椎骨と椎骨(椎体と椎体)の間には、椎骨に対する衝撃緩和などのクッションの役割をもつ椎間板が存在しています。椎間板は、椎骨と椎骨の間にある円形の軟骨で、コラーゲンや水分を含んでいるため弾力性に富んでいます。
そして、頚椎にある椎間板のことを、特に頚椎椎間板と呼びます。
椎孔(ついこう)と脊柱管(せきちゅうかん)
椎骨(椎体)には、椎孔という空間が存在しています。前述のように、椎骨は沢山連結することで脊椎を構成していますから、椎孔も連結されることで管になります。この管のことを、脊柱管と呼びます。
脊柱管には脊髄が通っていて、脊髄から神経が分岐していきます。この分岐していく神経の根元部分のことを神経根と言い、分岐する神経の脊柱管からの出口のことを椎間孔と言います。
頚椎症とは?
頚椎症は、加齢による頚椎椎間板と椎骨(第一頚椎~第七頚椎)の変性によって、首の脊髄や神経根が圧迫される病気です。言い換えると、頚椎症は、老化現象によって首の骨が変形して、首の脊髄や神経根が圧迫されることによって、様々な症状や障害が現れる疾患と言えます。
頚椎症は、頚部脊椎症や変形性頚椎症とも呼ばれます。そして、頚椎椎間板ヘルニア(頚椎ヘルニア)も広い意味では、頚椎症に含めて考えられることもあります。
そして、圧迫される部位が脊髄の場合を頚椎症性脊髄症と呼び、圧迫される部位が神経根の場合を頚椎症性神経根症と呼び、これらの総称が頚椎症なのです。したがって、頚椎症は、脊髄が障害される脊髄疾患の場合と、脊髄から分岐した神経が障害される神経疾患の場合があるのです。
頚椎症の原因と発生メカニズム
頚椎症は、どのような原因によって引き起こされ、どのようなメカニズムで発生するのでしょうか?
頚椎症の原因
頚椎症の原因は、主に加齢による頚椎の変性です。個人差はありますが、40才頃を過ぎて中高年になると、頚椎の変化が明確になってきます。そのため、頚椎症は中高年の人に発症することが多いとされています。
また、事故などの外傷によっても頚椎の変性が生じることがあります。
頚椎症の発生メカニズム
頚椎の椎骨と椎骨の間には、衝撃緩和などのクッションの役割をもつ頚椎椎間板が存在しています。
この頚椎椎間板は、成人になると加齢によって徐々に水分などが失われていき、弾力性が失われていきます。また、頚椎には、運動による負荷や頭の荷重がかかっています。そして、人が年齢を重ねるに連れて、その負荷や荷重が頚椎椎間板にダメージを与えます。
椎間板が弾力性を失い、ダメージを受けることによって、椎間板にヒビが入ったり、椎間板が潰れるといった椎間板変性が生じます。
さらには、椎間関節の靭帯が、加齢によって石灰化・骨化することもあります。このような靭帯の骨化や頚椎椎間板の変化自体は、いわゆる老化現象なので、年齢を重ねる中で誰にでも生じる可能性があり、病気でもありません。
しかしながら、変形した椎間板が椎骨と椎骨の間から飛び出したり(頚椎椎間板ヘルニア)、椎間板が潰れたことで椎骨と椎骨が擦れて骨棘(こっきょく)という骨の棘(トゲ)状の突起が生じたりすると、椎骨の近くを通る脊髄や神経根を刺激してしまいます。
このように頚椎椎間板ヘルニア、骨棘形成、靭帯の骨化などによる脊髄や神経根に対する圧迫や刺激が、様々な症状を引き起こします。それが、頚椎症なのです。
頚椎症の症状
では、頚椎症の症状として、どのような症状が現れるのでしょうか?
頚椎症の症状
頚椎症は、前述のように頚椎の変性によって、脊髄や神経根が圧迫・刺激される疾患です。脊髄は脳と合わせて中枢神経を構成していますし、神経根は各末梢神経へ分岐する根元部分です。ですから、これらが圧迫や刺激をされると、その影響は全身に及ぶ可能性があります。
そこで、頚椎症性脊髄症と頚椎症性神経根症に分けて、現れる症状をご紹介します。
頚椎症性脊髄症の症状
頚椎症性脊髄症は、脊髄自体を圧迫するために、その症状は上肢だけでなく下肢にも現れることがあります。頚椎症性脊髄症で現れる症状には、次のようなものがあります。
- 頚部の痛み(首の痛み)
- 手足のしびれ、感覚異常
- 手足の知覚障害
- 手指の巧緻性障害
- 歩行障害
- 膀胱直腸障害
頚部の痛み
まず、頚部すなわち首に痛みや違和感が現れます。首でも、頚椎が通る後方の部分に痛みが現れるとされています。首の痛みなどによって、首や肩の筋肉が緊張して肩こりといった症状も現れます。
また、首を前屈させたり、後ろに反らす動きをすると、脊髄が刺激されて後頚部や肩にかけて痛みを生じます。
手足のしびれ・感覚異常
頚部の痛みとともに、中枢神経の脊髄を圧迫や刺激されることで、手だけでなく、足にも影響が及びます。手足に現れる初期症状としては、手足のしびれ、脱力感、感覚異常などが現れます。これらは、左右の両方の手足に症状が現れる両側性であることが多いとされています。
手足の知覚異常
手足のしびれや感覚異常から症状が進むと、手足の知覚障害・感覚障害が現れます。これは、手指や足で何かを触っているにも関わらず、正常に知覚できなかったりする状態です。逆に、手で何も触っていないにも関わらず、痛みを感じるといった症状も現れることがあります。
手指の巧緻性障害
さらに症状が進むと、手指を使う動作が難しくなります。たとえば、洋服のボタンをかける動作、食事の際の箸の使用、文字を書くなどの動作がスムーズに出来なくなります。このように手先が不器用になることを、手指の巧緻性障害あるいは巧緻運動障害と言います。
歩行障害
上肢に手指の巧緻性障害が現れるのに対して、下肢の症状が進むと歩行障害が現れる場合があります。具体的には、足を前に出しにくくなることで足がもつれたり、足が思い通りに動かないことで階段の昇降に影響が及びます。
膀胱直腸障害
脊髄への圧迫が強い場合は、手指の巧緻性障害や歩行障害に加えて、膀胱直腸障害が現れる場合もあります。膀胱直腸障害は、排泄機能が障害されることで、つまりは排尿や排便が正常にできないことです。
頚椎症性神経根症の症状
頚椎症性神経根症は、脊髄から分岐した神経根を圧迫するために、その症状は上肢(首、肩、腕、手など)に現れます。頚椎症性神経根症で現れる症状には、次のようなものがあります。
- 頚部や上肢の痛み
- 手のしびれ、感覚異常
- 手の知覚障害
頚部や上肢の痛み
頚椎症性神経根症でも、頚椎症性脊髄症と同様に、頚部に痛みや違和感が現れます。首の痛みなどによって、首や肩の筋肉が緊張して肩こりといった症状も現れるのも同様です。
また、首を前方に曲げたり、後方に反らす動きをすると、神経根が刺激されて後頚部や肩にかけて痛みを生じます。さらに、その神経が支配する肩から腕にも強い痛みが走ることがあります。
手のしびれ・感覚異常
頚部から肩や腕の痛みとともに、神経根を圧迫や刺激されることで、手のしびれ、脱力感、感覚異常などが現れます。
これらは、頚椎症性脊髄症と異なり、左右どちらか片方の手に症状が現れる片側性であることが多いとされています。
手の知覚障害
手のしびれや感覚異常から症状が進むと、手の知覚障害・感覚障害が現れます。これも、片側性であることが多いとされています。
頚椎症の診断と検査
では、頚椎症と思われる症状が現れた場合に、どのような検査が行われ、どのように診断されるのでしょうか?
頚椎症の検査
頚椎症の診断にあたっては、問診、診察による身体所見の確認、レントゲンなどの画像検査を行います。
診察による身体所見の確認
身体所見の確認として、次のようなテストが行われます。
- ジャクソン試験
- スパーリング試験
- レルミット徴候
- 10秒テスト
- 筋力試験
ジャクソン試験とスパーリング試験は、いずれも上肢の神経根刺激症状を見る検査です。これらに対して、レルミット徴候は下肢の脊髄刺激症状を見る検査です。さらに、10秒テストでは、手指の巧緻性障害の有無を確認します。
ジャクソン試験
ジャクソン試験は、患者の首を後方に軽く反らせて、医師が患者の頭部を下方に圧迫すると、上腕などに痛みが生じるならば、頚椎症が疑われます。
スパーリング試験
スパーリング試験は、患者の首を痛みの生じる側の横に曲げて、医師が患者の頭部を圧迫すると、上腕などに痛みが生じるならば、頚椎症が疑われます。
レルミット徴候
レルミット徴候は、患者を仰向けの姿勢に寝かせて、医師が患者の頭部を持ち上げると、患者の背中や下肢に神経痛が走るならば、頚椎症が疑われます。
10秒テスト
10秒テストは、じゃんけんのグーとパーを10秒間繰り返し実施させ、20回以下だった場合に巧緻性障害があると判定します。
筋力試験
筋力試験は、抵抗のある中で肘の曲げ伸ばしや手首の背屈を行い、上腕二頭筋や上腕三頭筋の筋力の有無を確認します。これらの筋力低下が、頚椎症性神経根症を示唆すると言えるからです。
画像検査
画像検査では、X線検査(レントゲン検査)やMRI検査が行われます。レントゲン撮影された画像を元に、頚椎の骨の状態、骨棘形成の有無などを確認します。
また、神経症状が現れている場合は、MRIで撮影された画像を元に、頚椎椎間板の状態、脊柱管の狭窄の有無、脊髄圧迫や神経圧迫の有無を確認します。
頚椎症の診断
頚椎症の診断は、このように問診、診察による身体所見の確認、画像検査の結果を踏まえて、医師が総合的に判断することで行われます。
受診すべき診療科は?
頚椎症で受診すべき病院の診療科は、一般的には整形外科や神経外科・神経内科になるでしょう。ただし、症状が重い場合には、脊椎専門の整形外科あるいは脊椎外科を受診したほうが良いかもしれません。
頚椎症の治療方法
このように頚椎症と診断された場合に、どのような治療法があり、どのような治療が行われるのでしょうか?
頚椎症の治療方法
頚椎症の治療では、次のような治療方法の中から、症状の程度に応じて選択または併用して治療を行います。
- 装具療法
- 薬物療法
- 理学療法
- 神経ブロック療法
- 手術療法
基本的には、歩行障害、手指の巧緻性障害、膀胱直腸障害などの重い症状が現れていなければ、保存的治療(装具療法、薬物療法)が選択されます。保存的治療(保存療法)を選択する場合、理学療法も併用されることが多いようです。
これらの治療方法で痛みがコントロールできない場合は、神経ブロック療法が検討されます。そして、歩行障害などの重い症状の場合には、手術療法が検討されます。
装具療法
首が痛くて動かすこが困難な場合など、患者の首を固定することで患部の安静を保ちます。この患者の首を固定する装具が、頚椎カラーと呼ばれる首用のコルセットです。
薬物療法
薬物療法では、痛み止めとして消炎鎮痛薬、しびれや神経痛には神経障害性疼痛治療薬、痛みによる筋肉の緊張やこわばりの症状には筋弛緩薬などの投与による薬物治療が行われます。痛みが弱い際には、湿布が処方されることもあります。
理学療法
保存的治療の効果で症状が落ち着くと、理学療法を併用することがあります。理学療法には、次のような治療の種類があります。
- 頚椎牽引(牽引療法)
- ストレッチやマッサージ
- 温熱療法
頚椎牽引(牽引療法)
頚椎牽引は、顎にベルトを掛けて引っ張ることで、頚椎にかかっている圧力を軽減させることで、痛みや神経根障害の緩和を図ります。引っ張る方向や強さを間違うと症状を悪化させる危険があるので、医師の指導に従うことが重要です。
ストレッチやマッサージ
ストレッチやマッサージは、いわゆるリハビリ(リハビリテーション)として、体の機能などの改善を目的に行われます。
温熱療法
首などの患部を温めることで、血行が改善されたり、筋肉の緊張がほぐれたりしますので、痛みが緩和されます。
神経ブロック療法
神経ブロック療法は、局所麻酔薬を注射することによって、神経の機能を一時的麻痺状態にして、痛みの伝達を阻止する治療方法です。
神経ブロック療法は、神経根ブロック療法やブロック注射治療などとも呼ばれています。整形外科だけでなく、麻酔科外来やペインクリニックでも行われます。
手術療法
歩行障害、手指の巧緻性障害、膀胱直腸障害などの重い症状が現れている場合は、早期に手術による治療を受ける必要があります。これらの症状は、日常生活に支障を来たすだけでなく、手術治療しないでいると脊髄や神経根がダメージを受けて回復能力が減退してしまうからです。
まとめ
いかがでしたか?頚椎症の概要について、ご理解いただけたでしょうか?
頚椎症の原因は、加齢による頚椎の変性で、いわば老化現象が発端です。老化自体は、人間ならば誰にでも起こることですから、頚椎症も誰にでも起こる可能性のある病気と言えるでしょう。
そこで大切になるのは、頚椎症と思われる症状で痛み、しびれ、感覚異常が現れた場合には、なるべく早く病院を受診するということです。放置していて、脊髄や神経に圧迫が続くと、それだけ脊髄や神経にダメージが残り、治療後に症状が残る可能性も大きくなるからです。
ですから、中年と言えるような年齢に到達したならば、頚椎症についての最低限の知識を身につけ、頚椎症と疑われるような症状が現れたら、すみやかに病院に行くようにして下さいね。
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