私たちの身の回りには目に見えないけども、たくさんの細菌が存在します。それこそ、口の中、腸管。そして、床や椅子、机などの家具。そしてスマホの画面にもたくさん存在します。
もちろん、それら細菌は大抵悪さをしないものです。種類によっては体に良い作用を起こしたり、存在しなければ健康を害する細菌も存在します。
さて、そんな細菌の種類の1つに嫌気性菌があります。この嫌気性菌はとても身近な細菌で、私たちの体内にも存在します。では、この細菌の特徴はどのようなものなのでしょうか。詳しく見ていくことにしましょう。
嫌気性菌とは?
嫌気性菌とはその名の通り、空気を嫌う細菌のことです。
さらに具体的に言えば、大気中では全く発育しない、もしくは発育が緩慢になる細菌です。その種類は大きく2つに分けられます。
編性嫌気性菌
大気中では全く発育しない種類の細菌です。酸素ではなく、発酵作用や光合成によってエネルギーを産生し、活動することが特長です。
通性嫌気性細菌
大気中でもある程度、発育する種類の細菌です。酸素がある環境下では好気的呼吸(呼吸による活動)を行い、酸素がない環境では発酵等でエネルギーを産生します。
嫌気性菌は具体的にどんな種類があるの?
嫌気性菌といえども、その種類は膨大な数に上ります。その中でも代表的な細菌は以下の通りです。
編性嫌気性菌
ウェルシュ菌
ウェルシュ菌という名前を聞いた事がある人は多いかもしれません。ウェスシュ菌は腸内や肉食品にも存在する非常に身近な菌ですが、かつ食中毒の原因となる細菌です。
ウェルシュ菌は熱に強いという特長があり、1時間以上煮沸処理をしても死滅しません。そのため、夏場の調理等でしばし食中毒を起こします。
食中毒の例をあげれば、カレーが多いといいます。カレーの中は酸素が少なく、ウェルシュ菌が繁殖しやすい環境です。十分に温めたカレーであっても、時間が経っていればウェルシュ菌が繁殖している可能性があり、注意が必要です。
詳しくは、ウェルシュ菌とは?症状・特徴・治療法・予防法を紹介!を参考にしてください。
ボツリヌス菌
ボツリヌス菌も嫌気性菌の一種です。川や湖といった自然界にも多く存在します。酸素が少ない環境下で繁殖し、ボツリヌス毒素という毒素を産生します。
ボツリヌス毒素もしばし食中毒を引き起こします。汚染された食べ物を食べると、半日から1日程度で症状を発症します。吐き気、嘔吐、感覚障害などの症状がみられます。
ボツリヌス菌は自家製の缶詰や瓶詰め等で繁殖しやすいことがわかっています長期保存された、殺菌されていない食品には注意するようにしましょう。
破傷風菌
破傷風は今でこそ予防接種が広がり、過去の病気になりつつありますが、そう昔ではない日本では重篤な症状を招いた恐ろしい病気でした。破傷風菌が原因となって発病します。
症状としては全身の痙攣、局所的な痙攣、顔面麻痺などがあります。進行が進み、処置が遅れると命の危険もあります。致死率も30%と非常に高い数値となっています。
バクテロイデス
ここまで体に何かしらの深刻な症状を招く細菌についてお話ししてきました。一方で体に良い作用をもたらす細菌もあります。それがバクテロイデスです。
バクテロイデスは別名「痩せ菌」と呼ばれ、痩せている人が多く持っている腸内細菌といわれています。脂肪の吸収を抑え、分解する力があります。
通性嫌気性菌
大腸菌
その名の通り、大腸に存在する細菌です。その種類もまた膨大な数になります。基本的に無害ですが、腸以外の内臓に侵入すると深刻な症状を招くことがあります。
例えば、たまに話題に上がる「O-157」も大腸菌の一種です。ひどい下痢や腹痛、発熱、血便を生じます。 重症化すると命の危険もあるため、非常に注意が必要な細菌です。
肺炎桿菌
肺炎桿菌(はいえんかんきん)とは腸内に存在する細菌です。しかし、抵抗力が下がり、細菌に対して十分な免疫がない人が感染すると肺炎を始め、敗血症などの症状を起こします。
その他、尿路感染症を招くことが知られています。最近どうもトイレの回数が多い、もしくは排尿時に痛みを感じる。だけど、膀胱炎ではないと診断された。そんなときは肺炎桿菌の疑いがあるかもしれません。
インフルエンザ菌
インフルエンザという名前が付いていますが、冬場に爆発的に感染者が増えるインフルエンザとは全くの別物です。後者はインフルエンザウィルスによって発症します。
インフルエンザ菌は髄膜炎や肺炎といった危険な炎症症状を発症させます。5歳未満の児童に好発し、治療が遅れると重症化し、時として命の危険もあるため注意が必要です。
その他、中耳炎や気管支炎と言った耳鼻咽喉系の病気も招きます。これら器官に関する症状が出たときはインフルエンザ菌を疑ってもいいかもしれません。
赤痢菌
赤痢菌は非常に毒性の強い細菌です。感染し、発症すると血便を伴う下痢を発症します。日本ではそれほど感染者数は多くありませんが、衛生状態の悪い国へ行くと感染することがあります。
血便のほか、倦怠感、寒気、高熱症状がみられます。赤痢菌はそれほど重症化することは少ないですが、小児や高齢者では重症化しやすいため注意が必要でしょう。
コレラ菌
コレラ菌も赤痢菌と同様、激しい下痢症状を発症します。衛生状態の悪い国で水や食品を食べる時、特に注意が必要です。発展途上国を中心に死者もでるほど強い毒性があります。
激しい下痢のほか、伴って脱水症状、体温の低下がみられます。コレラの感染が確認された場合、水分補給と抗生物質によりコレラ菌の殺菌治療を行っていきます。
体に良い嫌気性菌とは?
ここまで嫌気性菌についてご紹介してきましたが、どれも体にとって悪い影響を及ぼすものばかりでした。しかし、もちろん悪い細菌はそれだけではありません。
体に良い影響をもたらしてくれる細菌も多数存在しますし、私たちの体を守ってくれたり、腸内環境を整えてくれる細菌も存在します。次はそんな体に良い細菌についてみていきましょう。
ビフィズス菌
ヨーグルトを買う時、よく聞く細菌の名前がビフィズス菌かと思います。これは腸内細菌の一種で、腸内に住む善玉菌の99.9%を占めます。
ビフィズス菌は腸内に入ってきた糖を分解し、乳酸を作り出します。その他、酢酸、ビタミン、葉酸といった物質も産生します。
特に酢酸は殺菌作用があり、腸内にある悪玉菌を殺菌する効果があります。腸内の環境があまり良くない時にヨーグルトを食べるとお通じが良くなる。これはビフィズス菌のおかげなのです。
腸内環境は食生活で決まる
善玉菌の一種であるビフィズス菌は腸内の環境を整えていることをお伝えしました。腸内環境は常に入れ替わっていて、その原因は食生活にあります。
例えば、毎日快便で便秘になったことがないという人がいたとします。このような状態は腸にとって良い食べ物を食べていることが理由としてあげられます。
反対に便秘が続いていて、お腹の張りなんかも感じる。このような人は腸にとって悪い食べ物を食べている可能性があります。それは食品添加物や栄養の少ない加工食品があげられます。
腸内環境を整えるビフィズス菌を始めとした善玉菌。そのエサになるのは食物繊維です。これらの摂取量が少なければ、腸内環境は悪くなります。
お腹の調子でいつも悩んでいる人は、食生活を改善してみてください。特に食物繊維を意識して食べてみることをオススメします。
嫌気性菌の感染予防のために
嫌気性菌にはたくさんの種類があることをご紹介しました。腸内ではビフィズス菌が腸内環境を整えるという良い効果をもたらしてくれます。
しかし、一方で体に悪さをする嫌気性菌もあります。感染すれば辛い症状を発症し、時として命の危険もあるほどです。このような菌に対してどのような対策が取れるのでしょうか。
海外へ渡航する時は要注意
重度の症状を発症させる嫌気性菌は、多くは衛生状態の悪い環境下で繁殖・感染します。特に発展途上国が代表的でしょう。
発展途上国から帰国した人が何かしらの細菌に感染し、入院をしたという話はよく聞きます。水や食べ物など飲食する時は細心の注意を払うようにしましょう。
気温の変化がある時期の食べ物には注意
細菌はそれぞれ気温によって繁殖スピードが異なります。特に夏場の気温は繁殖が早まることがあり、長時間常温で置いている食べ物には注意が必要でしょう。
ちょっとぐらい置いておいても大丈夫と思っていたら、細菌が繁殖していた。そんなこともあります。また、煮沸しても死滅しない細菌もありますから、用心する必要があります。
小児・高齢者にも配慮
細菌に感染しても、抵抗力が高ければ重症化することは少ないことがあります。仮に発症したとしても、すぐに回復することもあるでしょう。
一方で抵抗力の弱い小児や高齢者は些細な細菌感染でも命取りになります。合併症のリスクもあるでしょう。このような方が身近にいるようであれば、衛生環境を整えるようにしましょう。
まとめ
嫌気性菌と聞くとなかなか馴染みがありませんが、具体的な名前をあげられると聞いたことがある、と思うかもしれません。細菌は目に見えないですが、非常に身近な存在です。
例えば、ご紹介したビフィズス菌は腸内にはたくさんの細菌が存在し、私たちの体の健康を守ってくれています。しかし、一方で体に悪さをする細菌も存在します。
特に最近では腸内フローラという言葉が流行っています。これは腸内の細菌の環境を指します。様々な研究から細菌が体に及ぼす影響がわかってきていて、ガンなどの病気、肥満、そして性格までも細菌が関係しているといわれています。
体内に存在する菌は重さに換算すると1.5キロともいわれています。私たちは菌と共存しているともいえるでしょう。
体に良いことをする菌とはうまく付き合い、病気を引き起こす菌は遠ざける。そのためにはきちんとした知識が必要でしょう。体の健康のためにも、うまく付き合っていくようにしましょう。