オウム病という病気をご存知ですか。聞いたことはあるかも知れません。オウム病は感染症のひとつで、鳥だけでなく他の獣からも感染することがあるのです。
初期症状が風邪やインフルエンザと似ているため初期治療が適切でない場合などは肺炎に進展してしまうかもしれない、あなどれない病気です。また、妊婦さんには特に気をつけていただきたい病気なので、詳しく見てゆきましょう。
オウム病とは?
オウム病とは、オウム病クラミジアと呼ばれる、人にも獣にも共通の細菌による感染症です。主にオウムなどの鳥からの感染が多いために、こう呼ばれています。潜伏期間が1週間から2週間あるため、感染してもすぐに気付かずに鳥を飼っている家族内で同時に感染してしまうこともあります。
本来は鳥の感染症なのですが、鳥は菌を持っていても見た目は変わらず元気なものです。そして、いつも排菌(フンに菌が混ざって排泄されること)しているわけでもないのです。ただ、弱ったヒナを育てる期間や、混雑や船旅などで鳥がストレスを感じた場合など、排菌しやすいと言われています。
また、感染率はというと、さほど多くはないのです。ただ、可愛い鳥も、飼い方や接し方を間違えると、感染の確率があがってしまうのです。まずは感染経路から見てみましょう。
オウム病の感染経路
一番多いとされるのが、罹患している鳥の排泄物を片付けるときに菌を吸入してしまうケースです。また、可愛さあまりに口うつしで餌をやる飼い主さんもいらっしゃると思いますが、その時に噛まれて感染するという例もあります。では、どんな鳥がオウム病の菌を持っているのでしょうか。
ペットの鳥も要注意
ペットブームで鳥を飼ってらっしゃる方には、可愛い自分の鳥にはそんなことはない、と思いたいところだと思いますが、国内で生産されているセキセイインコなどにも、汚染がみられています。
日本では、オウム病の感染源となった鳥類の調査結果によると、感染源の60%がオウムやインコ類という結果がでており、そのうちのおよそ1/3がセキセイインコなのです。
野生の鳩も要注意
街でよく見かけるドバト(土鳩)は、その保菌率は20%もあります。歩いていてたまにフンが落ちてくることもあると思います。「運が付く」のはいいとしても、フンをふき取るときにはもしもの場合に備えて、吸入しないよう気をつけましょう。
また、ふりはらった手は綺麗に清浄し、うがいをし、ついた服や髪もウェットティッシュや濡らしたハンカチなどで抑えてとるのがよいでしょう。
家禽類も
鶏やアヒル、七面鳥など家禽類の食肉処理工場で、オウム病の患者が集団発生したことがあったそうです。豚や牛など哺乳類である家畜もオウム病に感染するので、そういった哺乳類から感染するケースもまれですがあるようです。
鳥を飼っている人、鳥を扱うペットショップの人、そして獣医さんは鳥との接触の回数が多くなりますから、感染率は高くなります。
オウム病の主な症状
いくつかの症状のタイプがありますが、罹患しても1週間から2週間の潜伏期間があり、その後突然高熱が出て発症するのが主です。
また、インフルエンザのような症状もあり、頭痛や倦怠感や筋肉・関節の痛みなどがあるため、注意が必要です。進展すると、以下のような肺炎とほぼ同じ症状となります。
- 突然高熱が出る
- 咳がひどくなる
- 痰に血が混じる
- ひどい頭痛
- 全身の倦怠感
- 風邪のときのような関節の痛みや筋肉痛が出る
早めに治療をしないと肺炎の症状がすすんでしまうことになります。
クラミジア細菌による他の感染症
オウム病はクラミジア細菌の中でも、クラミジア・シッタシと呼ばれる菌で、もともとは鳥に病気を起こすものが、人にも感染したものです。
このほかに、同じ仲間の細菌から起こる良く似た症状の肺炎がありますので、参考までに紹介しておきますね。
クラミジア・ニューモアによる感染症
この細菌による肺炎は、人から人へと移ります。症状は肺炎で、オウム病と違い高齢の人に多く発症するのが特徴です。オウム病の発生頻度に比べると、その数は10倍以上で、まれに学校や家庭内で集団感染することもあります。
高齢者の場合は肺炎が重症化するケースもありますので、早めに呼吸器科などで診察を受けることをおすすめします。症状としては以下のように
- 高熱が出るのではなく、微熱がつづくことがおおい
- 乾いた咳が長く続くことが多い
- ほかの肺炎にくらべて痰が少ない
- 聴診器で胸の音を聞いても雑音が聞こえないことが多い
のが特徴です。健常者の場合、多くの確率でこの菌に一度は感染し発症せずに抗体を持っているケースがあり、およそ60%の人がこの菌に対する抗体を持っているといわれています。
クラミジア・トラコマティスによる感染症
この菌による肺炎は、新生児期や乳児期に起きるものです。赤ちゃんがお母さんの産道をとおってくる時に感染するのですが、肺炎になる前には、赤ちゃんに結膜炎や鼻炎のような症状がみられることが多いです。その他にも以下の特徴があります。
- 生後4週から12週に発症する
- 痰の多い咳が出る
- 呼吸の回数が多くなる
- 炎症はあるのに、発熱がないことがほとんど
- レントゲンを撮ると特徴的な影が映るので分かる
などです。クラミジアによる肺炎は発見と特定に血液検査と経過検査が必要となり、わかりにくいのも特徴です。オウム病をはじめとして、初期で適切な判断・治療が行われないと、重症化することもありますので、状況をしっかり把握して、細かいことでも医師に伝えるようにしましょう。
放っておくと怖いオウム病
軽いうちに気づけばよいのですが、初期の治療をインフルエンザなどと間違ってしまうと、症状は悪化してしまう恐れがあります。悪化すると肺炎になることがほとんどで、重症になると重症肺炎や髄膜炎、さらには臓器の障害などに進展することもまれではなく、ひどい場合にはショック症状が出て死に至ることもあるのです。
オウム病特有の症状というものがないため、患者自らが、鳥との接触がなかったかを自己申告することが、最も重要となってきます。インフルエンザの時に投薬される抗生物質は、オウム病には効きません。医師は患者の申告がなければ、インフルエンザをまず疑うでしょうから、初期の処置の間違いにつながります。
妊婦さんは気をつけてください
オウム病はクラミジア細菌の感染症だといいましたが、クラミジア細菌の中でも、クラミジア・シッタシと呼ばれる菌により発症します。妊娠中に妊婦さんがクラミジア・シッタシによる感染症にかかると、妊婦オウム病となる可能性があり、肺炎や肝炎、敗血症や胎盤不全などにつながり、それが早産や流産を引き起こすこともあるのです。
ひどい場合には胎児が死亡してしまうこともあります。妊婦さんは定期健診に行っていると思いますが、軽い咳の症状なども安直に考えず、あらゆる可能性を疑ってかかったほうがよさそうです。
鳥が悪者なわけではありません
ここまで聞くと、街で鳩を見たら蹴飛ばしたくなったりしてしまう人もいるかも知れません。しかし、鳥が悪いわけではありません。鳥がこの菌を持っていることは、鳥にとってはあたりまえのことなのです。菌を持っていても、鳥は元気なままです。
接触する側、つまり人間が適切な対応を知って、心がければよいわけです。どうか、鳥もわたしたちと同じ生き物ですから、同じように大切にしてくださいね。
鳥を飼っている人は
鳥は保菌していても健常な状態であることがほとんどですので、気付かないのが普通です。けれども、フンが乾燥し空気中に浮遊するとそれを吸い込んでしまい、感染の危険性が高まりますので、飼育環境は清潔に保ち、どんなに可愛くても口うつしで餌をやるなどは控えたほうがよいでしょう。
また、できれば屋外で飼うほうがよいでしょう。屋内の場合でも、鳥かごを食卓のそばに置かないなどの配慮も必要です。
鳥の病状
飼っている鳥が、元気がなくなってきたら、注意して観察しましょう。運動量が低下したり、餌や水を取らなくなりやせてきたら、すぐに獣医さんにつれてゆきましょう。何らかの理由でストレスがあったり、体力が弱まると鳥も下痢や呼吸困難を起こすこともあり、その際はフンにクラミジアが混ざって排泄、つまり排菌されることになります。そのまま治療をしないと、1~2週間で死亡してしまいます。
もしも飼っている鳥の様子がおかしいなと思ったら、すぐに動物病院に連れてゆくのではなく、まずは電話などで相談してください。鳥用の抗生物質などの投与で治療することができるでしょう。動物病院には他の動物や人もいます。連れてゆく際は、医師の判断をあおぎ、どのようなケージに入れどういう処置をしたらよいかを聞いて、しっかり守ってください。
ふんが大量に落ちていたら
道端や家の前にふんが大量に落ちていたら・・・万が一の可能性を考え、できれば水をまいて綺麗にしましょう。乾燥で空気中に菌を漂わせないためには、水で流すのが一番です。風下かの離れたところからホースやバケツで水をまきましょう。風上に立たないほうが無難です。
弱っている野生の鳥を持ちかえらない
傷ついて弱った小鳥を見かけたら、助けてあげたくなるのが人情です。しかし、鳥は弱ったりストレスを感じると、排菌する確率が高くなります。
助けてあげる自信があっても、本当に適切な方法をとれない場合以外は、運ぶ間に自身が感染したり、他人に感染させてしまう可能性もゼロではありません。むやみに近づいたり素手で触ったりせずに、ここは、心を鬼にしてでも立ち去るしかないでしょう。野生の鳥にとっては、きっと人との接触は大変なストレスになるでしょうから。
山などで死んだ鳥を見かけたら
野鳥にも当然寿命があり、いつかは死にますが、その原因はさまざまです。オウム病で死んだかもしれませんし、鳥インフルエンザで死んだかも知れません。また、餌を摂ることが出来ずに死んだのかも知れませんし、ただの老衰かも知れません。
ただ、野鳥の場合は、様々な細菌や寄生虫を持っていたりすることがあります。その中には人に感染する可能性のあるものもあるので、素手で触ったりは絶対にしないでください。ビニル袋などにいれ密閉して、廃棄物として処分することも可能ですから、後の感染を防ぐためにも、山歩きなどされる方は処理法を知っておくとよいかも知れません。
オウム病かなと思ったら
すぐに、迷わず病院へ行ってください。そして、鳥との接触歴を必ず伝えてください。オウム病は感染症法によって、4類感染症に定められています。診断した医師は、すぐに保健所に届け出ることが義務付けられています。医師が保健所に届け出たからといって、保健所の人が鳥を抹殺しにくることはありません。適切な飼い方をしていれば、普通はまず感染しないのです。
オウム病の治療法
オウム病は感染症のひとつですから、それに合った抗生物質の投与が治療法となります。前述したことの繰り返しになりますが、初期症状がインフルエンザと似ているため、風邪だと思って医者にかかり抗生物質をもらっても熱が下がりきらない、咳がとまらないなどの場合は、注意が必要です。
鳥を飼っている、あるいはオウム病の可能性がある鳥との接触が合った場合には、それをきちんと医師に伝えることが重要です。
インフルエンザと違い、予防接種のようなワクチンは開発されていませんが、初期の適切な抗生物質の投与で、個人差はありますが2週間ほどで回復します。オウム病の治療には、テトラサイクリン系統の抗生物質投与がなされますが、まれに副作用もありますので、必ず医師の指導のもと、服用するようにしてください。
まとめ
街で鳩が死んでいて、埋葬してあげたい・・・などと思っても、防塵マスクと密閉できるビニル袋を持って危険に挑むよりも、保健所へ連絡してくださいね。
このような場合に直ちに相談していただく必要はないと考えられますが、不安な場合には、市町村、獣医師、家畜保健衛生所又は保健所にご連絡下さい。