骨の感染症と聞くと、とても怖いイメージですよね。骨髄炎という病気がありますが、この病気はその名の通り、細菌やカビが骨に感染することで、炎症を起こした状態を言います。骨にカビや細菌が感染するだけでも恐ろしいですが、感染により、発熱や骨の痛みを始め、筋肉や脂肪が壊死してしまうこともあるので、非常に恐ろしい病気と言えます。
では、なぜ骨髄炎は起こってしまうのでしょうか?そのメカニズムや原因、治療法などについて、詳しくご紹介しましょう。
この記事の目次
骨髄炎はなぜ起こるか?
冒頭でご紹介した通り、骨髄炎はカビや細菌が骨に感染することで起こります。骨の内部にある骨髄は、血流が豊富で、骨に細菌が感染すると、まず炎症を起こす場所です。そのため、骨髄炎と呼ばれているのですね。
また、骨髄炎には、急激に症状が現れる急性骨髄と、慢性骨髄炎があります。慢性骨髄炎の場合、急性骨髄炎が治らないまま慢性化した場合と、初めから慢性骨髄炎として現れるものの2種類があります。
また、細菌が骨に入り込む経路は3つあります。それぞれご紹介しましょう。
血液を介して感染
この場合、すでに体内に扁桃腺や尿路などの感染巣があり、そこから細菌が血液の流れに乗って骨髄に感染します。
病巣が近くにあった場合
もともと感染している病巣が骨髄のそばにあり、そこから波及して骨髄炎になる場合もあります。
骨折や手術などによる直接感染
骨折やその他の要因により手術を受けた際、細菌が直接骨髄に感染したことによるものです。
また、原因菌としては、黄色ブドウ球菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の他、緑膿菌、表皮ブドウ球菌などが挙げられます。中でも、黄色ブドウ球菌が最も多くの割合を占めています。
急性骨髄炎
急激に症状の現れる急性骨髄炎は、子供によく見られます。その原因としては、子供は成長過程にあり、大腿骨や上腕骨は血流が豊富なため、感染しやすいためです。
骨髄に感染した細菌が増殖すると、膿瘍といって膿が溜まったり、骨の表面にも波及したりする他、感染によって骨の血流が妨げられ、骨壊死や腐骨を引き起こしたり、骨が吸収されてしまい、結果的に破壊されてしまったりすることもあるのです。このような状況になると、抗生物質の効きにくい状態になってしまうため、治療が難しくなります。
また、大腿骨や上腕骨に骨髄炎を発症すると、感染が関節内にまで及ぶ、化膿性関節炎になるリスクが高まるため、早期の治療が大切です。
急性骨髄炎の症状
急性骨髄炎の場合、炎症を起こした個所は激しく痛み、赤く腫れたり、むくんだりすることがあります。急性骨髄炎は子供に多いため、この症状が起こると子供はなかなか泣き止まず、不機嫌になります。また、だるさや発熱もあるため、食欲が落ち、体重が減少する場合もあります。もしも子供が痛がって泣き止まず、赤く腫れている個所があったら、急性骨髄炎の可能性があります。
慢性骨髄炎
慢性骨髄炎の場合、腐骨を起こした個所の周りに新しく骨が形成されるので、感染が拡大することはありません。ただし、同じ場所に細菌が居座ることにより、慢性化が一層進みやすくなります。
気を付けなければならないのは、糖尿病や血液透析、副腎皮質ステロイド・免疫抑制剤などを使った薬物療法を受けている人は、抵抗力が落ちていることにより、化膿性関節炎にかかりやすくなっているということです。これにより、さらに骨髄炎が慢性化するリスクが高まります。
慢性骨髄炎の症状
慢性骨髄炎の場合、同じ場所に菌が居座ることにより炎症が進み、血液の流れが途絶えてしまいます。このため、血液の流れの途絶えた個所の骨は、「腐骨」という、骨が死んだ状態になってしまいます。腐骨の周りには新しい骨が作られ、腐骨を取り囲むため、感染が広がることはありませんが、感染部位の骨には痛みがあり、腫れる場合もあります。
場合によっては、扁平上皮がんを引き起こすこともあり、非常にリスクが高くなります。骨は通常、無菌状態ですが、慢性骨髄炎によって長期間菌にさらされていると、完全に菌を取り除くことが難しくなります。手術をする場合は、早い段階で行ったほうがよいでしょう。
扁平上皮がんとは
扁平上皮がんとは、体の表面や口、気管や肛門など、臓器の内側の粘膜や組織から発生するがんのことです。扁平上皮がんとしては、皮膚がん・口腔がん・舌がん・食道がん・肺がん・子宮頸部がんなどが挙げられます。
がんの組織には、「腺がん」と「未分化がん」の2種類があり、腺がんは、形状としてはぷくぷくとして丸みのある形をしています。がんのタイプとしては、乳腺や前立腺、唾液腺など、分泌液を出す上皮から発生するという特徴があります。一方、未分化がんは、まだ腺がんになるか、扁平上皮がんになるかの区別がつけられないがん細胞のことを言います。がんの組織型がどちらになるかによって、そのがんの治療方針が変わってくるため、この分類は非常に大切なものなのです。
症状
扁平上皮がんの特徴として、症状が出ないというものがあります。非常にやっかいですが、初期は無症状で、画像で確認できるようになるまでに、数年から数十年かかるとも言われています。そのため、症状が現れた頃には、ずいぶん大きくなってしまっていることが多いのです。
局所的には症状が出る
扁平上皮がんはゆっくりとしたスピードで大きくなるため、全体的には無症状です。しかし、局所的には症状が出るので、そうした症状を見逃さないようにすることが大切です。口の場合には、がんができた部位に発赤や潰瘍ができますし、肺がんなら咳、子宮頸部がんならば不正出血などの症状があります。これらの症状がさらに進行すると、局所に痛みやしこりなどが現れるので、人によっては気づくこともあります。
ただし、仮にがんを見つけても、同じ場所に留まっている保証はないため、すぐに全身検査を受けることをオススメします。
化膿性関節炎とは
関節内に細菌が入り込むことで、関節内が化膿してしまう病気です。関節内に炎症が起きた状態が続くと、関節の表面にある軟骨が破壊され、さらには骨まで破壊されてしまいます。こうなると、関節に障害が残る場合もあるため、早期治療が非常に大切になってきます。
症状
化膿性関節炎になると、関節の痛みや腫れを始め、発赤や発熱、悪寒や食欲不振といった症状が現れます。関節の炎症が長く続くと、関節を包んでいる膜が伸び切ることにより脱臼を引き起こすこともある他、皮膚に穴が空いて膿が出てくることもあります。
子供の股関節に炎症が起きている場合、奥まっているため非常に発見しにくいですが、痛みのために股関節を動かしたがらず、おむつ交換などで動かすと泣き止まなくなるため、こうした症状を判断材料にすることができます。
検査方法
化膿性関節炎の検査は、血液検査によって白血球数が増加しているかどうかの確認、赤血球沈降速度が進んでいるか、C反応性蛋白(CRP)が陽性であるかなどによって調べます。初期段間の検査として有効なものは、エコー検査やMRI、骨シンチグラフィなどの画像検査です。
検査をする上で最も重要なのは、原因菌の特定ですが、これは、原因菌によって使用する薬剤が変わってくるためです。
治療方法
診断がついたら、局所を安静にし、抗生物質を点滴します。もしも症状が進行し、関節に膿が溜まっている場合には、注射器を使い、可能な限り膿を取り出します。もしも膿の吸引と抗生物質の点滴だけでは炎症が収まらない場合には、手術によって関節を切り開き、中に溜まっている膿を取り出す方法を取ります。
術後
手術を終えた後も、膿を取り出せるよう、関節内部にドレーンと呼ばれる管を入れておきます。また、関節内部を定期的に洗浄できるよう、管を置いておく場合もあるようです。
症状が落ち着けば、運動療法でリハビリを始めますが、骨が破壊されている場合などは、関節を固定するための手術を行うこともあります。
詳しくは、化膿性関節炎って?原因や症状、治療方法を知ろう!を参考にしてください!
骨髄炎の検査方法
骨髄炎の検査は、採血・画像検査・細菌培養の3つから成っています。
採血検査
患者の血液から、骨髄炎かどうかを調べる方法です。確認する項目としては、
- 赤血球沈降速度が進んでいるか
- C反応性蛋白(CRP)の上昇
- 白血球数の上昇
の3項目を見ます。ただし、慢性骨髄炎の場合には、採血データが正常である場合もあるため、採血毛かだけで診断を下すことはありません。
画像検査
画像検査では、まずレントゲンを撮ります。ここでは、骨の周りに膿が溜まっていないか、血液などの水分が溜まっていないかを確認します。
ただし、初期段階ではレントゲンには変化が見られない場合もあるため、エコー検査やCT検査、MRI検査の他、骨シンチグラフィと言われる、身体に害のない放射線が出る薬を使用したレントゲン撮影が行われる場合もあります。
細菌培養
炎症が進むと膿が出る場合もありますが、そうした場合には膿を採取し、検査することがあります。膿の中には細菌がいるため、その細菌を使って効果的な抗生剤を決定するために培養します。
原因菌が特定できれば治療方針が決められますが、これだけの検査をしても診断を下せない場合もあります。そんな時には、採決結果や画像検査、そして現れている症状を元に治療を始める場合もありますが、慢性骨髄炎の場合には、骨を直接取り出し、骨肉腫という骨のがんでないかどうか確認する場合もあるようです。
骨髄炎の治療方法
骨髄炎の治療方法としては、抗生剤の投与と手術の2通りがあります。まずは抗生剤の投与で、これは骨髄炎を治療する上で外せない治療法です。
抗生物質の投与
投与する期間としては4~8週間という長期にわたり行います。点滴から始めるのが一般的で、菌が特定されている場合には、その菌に有効な抗生物質を使用します。ただし、検査で原因菌が特定できなかった場合には、黄色ブドウ球菌に有効な薬剤を使用したり、多くの細菌に効果のある抗生物質を使用したりすることもあります。
抗生物質の点滴で症状が落ち着いてきたら、点滴から飲み薬での投与に変更しますが、治療のためには長期的に抗生剤と付き合う必要があります。
手術による治療
手術は、炎症を起こしている部位を直接洗浄したり、その部位を取り除くための方法として用いられます。慢性骨髄炎の場合に検討されることが多いですが、血流が止まることで壊死してしまった骨を取り除くことを目的としています。また、人工関節を入れている人の場合に、人工関節や金属板などが感染している場合に、それらを新しいものと入れ替えるためにも行われます。
感染範囲が広範囲にわたっている場合には、感染部位に管を入れ、そこに抗生剤入りの生理食塩水を入れます。これによって患部の洗浄を持続的に行うことができるわけです。
なお、手術によって炎症を起こしている骨を切除した場合、欠けてしまった部分に別の部位から骨を移植するので心配ありません。また、移植をしなくても、骨自体が自然治癒力によって盛り上がり、元通りなるのを待つ場合もあります。
虫歯が原因になることも・・・
すでにご紹介したように、骨髄炎は扁桃腺や尿路など、体の中にすでにある感染巣を介して骨髄に炎症を起こすこともあります。
その感染巣は、虫歯でも起こりうることです。虫歯を放置しておくと、虫歯菌がやがて歯を溶かし、顎の周辺の骨肉や血液を介して、骨髄に感染することもあります。
そして、虫歯から骨髄炎を発症する可能性も十分に考えられるのです。虫歯の治療を途中で投げ出したり、中途半端なままで治療期間が空いてしまったりすると、虫歯が進行して骨髄炎になるリスクが高まるということを、きちんと理解しておきましょう。虫歯は完治するまで、きちんと治療することが大切です。
顎骨骨髄炎とは
上記でご紹介した、虫歯による骨髄炎の1つに、顎骨骨髄炎というものがあります。虫歯や歯周病などによる炎症が広がったり、抜糸後の細菌感染などを原因とし、顎骨の内部にある骨髄に細菌が感染し、炎症を起こした状態です。
局所的な症状
顎骨骨髄炎になると、患部に痛みが出る他、口の中の粘膜や皮膚が腫れたり、赤くなったりします。また、周辺の歯がぐらぐらしたり、膿が出たりし、リンパ節が腫れることもあります。
全体的な症状
全体的には、高い熱が出たり、食欲不振、倦怠感などが引き起こされます。虫歯の治療中や抜糸後などに、歯のぐらつきや膿、皮膚の腫れなどの症状が出たら、1度視界に診てもらうようにしましょう。早めの対処が大切になってきますからね。
治療法
顎骨骨髄炎の治療法はいくつかあります。歯科医と相談し、納得のいく治療法をとるようにしましょう。方法としては、以下のようなものがあります。
原因を取り除く方法
歯周治療や抜糸など、原因となっている歯を取り除く方法です。
薬物療法
抗生剤を投与することで、細菌を排除する方法です。
局所洗浄方法
骨髄の中でも、炎症を起こしている部分だけを薬剤で洗浄し、細菌を殺す方法です。
手術療法
炎症を起こしている骨を、手術で取り除くことで治療するという方法です。
いずれの方法を取るにしても、骨髄炎は感染してから時間が経てば経つほど治療が難しくなると言われています。少しでも異変を感じたら、早めに医師に相談し、治療に踏み切りましょう。
背骨の骨髄炎には要注意!?
骨髄炎は骨髄に感染する病気ですから、もちろん背骨に感染することもあります。そして、背骨が骨髄炎になってしまったら・・・要注意です。なぜなら、背骨の骨髄炎は発熱しないため、原因が骨髄炎だと気づきにくいためです。
背中に強い痛みがあり、身体を動かすと痛みはさらに強くなります。さらに悪いことに、鎮痛剤を飲んでも痛みが収まらないこともよくあります。
何科を受診する?
骨髄炎は、治療が遅れると慢性化し、治療が難しくなる、厄介な病気です。異変に気づいたら、早めに整形外科を受診するようにしましょう。早期治療が、早期回復につながります。慢性骨髄炎になってしまってからでは治療も大変になりますから、「気のせいかな」「風邪かな?」などと決めつけず、ひとまず医師に相談しましょう。
まとめ
骨髄炎と聞くと、それだけでも怖い印象がありますよね。細菌はわたしたちの生活のあらゆるところに存在しますし、虫歯やケガなど、思わぬところから感染してしまうこともあります。骨の痛みは、風邪による関節痛と似ていることもあり、冬場は風邪だと思い込んで放置してしまうこともあるかも知れません。
しかし、骨髄炎だった場合、治療が遅れればそれだけ慢性化するリスクが高くなり、治療も難しくなります。大切なことは、少しでも「おかしいな」と感じたら、すぐに病院へかかること。そして、感染源となる虫歯などの治療を中途半端で投げ出さず、最後まできちんと治療することです。小さな努力でリスクを回避することは十分にできます。自分の健康は自分で守りましょう!
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