脊椎カリエスってどんな症状なの?検査方法と治療方法を知ろう!結核菌との関係って?

脊椎カリエスとは、脊椎が結核菌に感染して起こる病気です。肺結核や腎結核など結核性の病気にかかった後で発症します。20代の若者に発症しやすいと言われます。

「結核」という病気は、ストレプトマイシンの発達により、急激に減少しましたが、古代から昭和40年代までは、死亡率の高い恐ろしい病気でした。「癌を発症する前に結核にかかって死ぬことが多かったから、癌で死ぬ人が少なかった」と、言われるほどです。

新選組の沖田総司も、明治の俳人・歌人の正岡子規も、作家の樋口一葉も、結核を患って亡くなりました。結核患者が多いということは、脊椎カリエス患者も多かったということです。

日本では、1度は激減した「結核」ですが、全滅したわけではありません。再び、結核患者が増えています。抗結核薬に耐性のある結核菌も現れているので、現在でも結核で死亡する人が少なくありません。時々、結核の集団感染も発生しています。脊椎カリエスが発症する危険が多いのです。

脊椎カリエスとは、どのような病気か?原因・症状・治療法について、お伝えします。

脊椎カリエスとは?

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脊椎カリエスとは、脊椎が結核菌に感染して起こる「結核性脊椎炎」のことです。

「カリエス」とは、「骨が腐る」という意味です。脊椎カリエスとは「脊椎の骨が腐る病気」ということですが、結核菌が感染して脊椎の組織を破壊することが多いので、「結核性脊椎炎」を「脊椎カリエス」と言うようになりました。

[脊椎カリエスは、どのような病気か?」

脊椎は、椎骨という骨が連結してできています。頭の方から、頸椎・胸椎・腰椎となり、腰椎の下に仙椎と尾骨がつながります。頚椎は7個、胸椎は12個、腰椎は5個あります。

結核菌に感染しやすい部位は、一番が腰椎で、次が胸椎、それから腰胸椎となります。頸椎が結核菌に感染することは、あまりありません。

結核菌は肺から血液によって運ばれて、脊椎に感染することが多いようです。なぜなら、結核菌は空気感染するので、肺に病巣ができやすいのです。「肺結核」です。また、腎臓に結核菌が病巣をつくると、「腎結核」といい、膀胱や尿路など泌尿器系が感染します。この泌尿器系から脊椎に結核菌が移行することもあります。

結核菌に感染すると、まず椎体が破壊されます。椎体とは、椎骨の円筒形の部分のことです。次に、椎間板に病巣が広がり、さらに隣の椎骨が結核菌に侵されます。椎間板は、椎骨と椎骨の間にある組織で、椎骨にかかる負担を和らげるクッションの役目をしたり、脊椎が動きやすくしたりしています。

病気が進行すると、椎体の中に「乾酪壊死(かんらくえし)」という病巣(壊死巣)が生じます。チーズが腐ったような病巣です。椎体の周りに「膿瘍(のうよう)」ができます。膿瘍とは、組織が融けて、中に膿(うみ)がたまって腫瘤状になっていることです。冷腫瘍ともいいます。

腰椎が結核菌に感染すると、腰椎の椎体の周囲だけでなく、腸腰筋にも膿瘍ができます。腰椎の椎体周囲にできた膿瘍も、腸腰筋膿瘍も、重力の影響を受けて臀部や鼠蹊部に下がってきます。そこで、流注膿瘍となります。このような膿瘍ができると、神経麻痺を生じることがあります。

脊椎カリエスの病状がさらに進行すると、椎体がつぶれてしまいます。そのため、脊椎に後弯変形(こうわんへんけい)が生じます。

脊椎は真っ直ぐなものではありません。頸椎は前方に弯曲し、胸椎は後方に弯曲し、腰椎は前方に弯曲して、S字状になっています。後弯変形とは、胸椎の部分が極端に大きく後ろに曲がったり、腰椎の部分の前弯が消えて後弯したりすることです。

後弯変形が起きると、脊髄麻痺や心肺機能の障害が起こりやすくなります。

脊椎カリエスが進行するととともに、結核菌は身体のあちこちに広がって病巣をつくります。明治の俳人・歌人である正岡子規は、脊椎カリエスのため亡くなりました。進行すると、死に至る恐ろしい病気です。

[脊椎カリエスの症状]

微熱が出て、全身がだるく、倦怠感があります。食欲がなくなります。赤血球の沈降が速くなります。これらは、結核を発症した患者さんに共通な症状です。

脊椎カリエス特有の初期症状は、背中や腰の痛みです。腰や背中にコリや鈍痛、違和感があります。感染部位の背骨を叩くと、痛みを感じます。病気が進行するにつれて、脊椎が硬直して動きにくくなります。動いたり、呼吸したりする時に、背中や腰に痛みが生じます。

進行した脊椎カリエスの3大症状は、➀結核性膿瘍(冷腫瘍) ②脊椎の後弯変形 ③結核性脊髄麻痺です。これをPottの3大徴候といいます。

膿瘍ができると、腹部や臀部、鼠蹊部が重苦しく、突っ張ったような感じになります。膿瘍が神経を圧迫すると、激痛が生じます。

腰椎のカリエスの場合は、腸腰筋膿瘍が神経を圧迫して疼痛が生じるので、股関節を伸ばすことができなくなり、屈曲したままになります。脊椎に後弯変形が生じ、いわゆる「亀背(きはい)」になります。背骨が後方に凸型に突き出した状態で、背中が丸くなります。

結核性肉芽腫(にくがしゅ)や膿瘍、脊椎の後弯変形により神経が圧迫されて、脊髄麻痺が起こります。下肢に脱力感が出たり、しびれや麻痺を生じて歩行が難しくなります。特に、腰椎のカリエスの場合は、下半身が麻痺して、排尿障害が起きやすくなります。結核性の脊髄麻痺をPott麻痺といいます。

脊椎カリエスの症状は、ゆっくりと進みます。単なる背中のコリや筋違い、腰痛だと思っていたのが、なかなか治らず、微熱や倦怠感などの全身症状がだんだん強くなります。脊椎カリエスが発症する時には、すでに肺結核などにかかっているので、他の症状も進行します。

初期症状のうちに気づいて治療すれば、重症に至らず完治できます。脊椎カリエスも早期発見早期治療が何よりも大事です。

脊椎カリエスの診断と治療法

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脊椎カリエスの検査・診断はX線画像の他に、CTやMRIの画像診断が主となります。治療は抗結核剤の投与と安静が中心ですが、手術が必要な場合もあります。

[検査と診断]

まず問診で、患者さんの自覚症状を聞きます。背中や腰の疼痛、背骨が硬直してしなやかに動かせないなどの症状の有無、足のしびれや痛みの有無を確かめます。それから、患者さんの背中の変形具合(亀背)などを観察します。

X写真で脊椎の病変を調べます。椎体の委縮や椎間板腔の狭窄、椎体の破壊、膿瘍の陰影を確認します。椎体が破壊されると、楔(くさび)状になります。胸椎の膿瘍は、脊柱脇に「紡錘形陰影」となって見られます。腰椎の場合は、腸腰筋膿瘍陰影が見られます。

CT検査では、椎体内および椎体周辺の膿瘍の状態と、骨が壊死して石灰化した状態を見ます。

MRI検査で、病巣の拡大と神経系の関係を調べます。乾酪壊死巣を取り巻いている肉芽腫が見られます。

ツベルクリン反応と喀痰検査で結核菌の感染を確認します。

確定診断は、やはり生検です。針で組織や膿瘍の一部を採取して、顕微鏡検査と結核菌の培養検査を行います。

[脊椎カリエスの治療]

脊椎カリエスの治療は、基本的には保存療法です。骨の変形や麻痺が生じている場合は、手術が必要になります。忍耐のいる長期間の治療です。

➀保存療法

抗結核剤の投与が中心です。抗結核剤は、ストレプトマイシンまたはエタンブトール、イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドの4種類を使います。まず2ヶ月間、4種類を併用投与します。その後の4~6ヶ月は、2剤または3剤を組み合わせて、併用します。薬剤の組み合わせは、患者によって異なります。

ただし、抗結核剤は強い薬なので、副作用があります。ピラジナミドは肝機能障害、ストレプトマイシンは聴覚障害、エタンブトールは視覚障害を起こしやすいとされています。

薬剤を服用しながら、安静を保ち、患部をコルセットで固定します。

脊椎の炎症がなかなか収まらない時は、電気やレーザーで炎症部分を焼き固める療法を行うことがあります。

②手術

保存療法の効果がない時や、病気が進行して下半身に麻痺が生じたり、椎骨の破壊がひどくなったりしている時は、手術で病巣を除去します。脊椎の破壊や変形が重症の場合は、骨の移植手術や骨の固定手術を行うこともあります。

保存療法の投薬期間は短くても2~6ヶ月、長ければ6~8ヶ月かかります。手術にしても、術後のリハビリもありますし、とにかく結核菌を根絶しなければなりませんから、治療期間は、長くなります。あせらず、のんびりと療養することが、回復の近道です。

結核菌とは?

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結核菌に感染して起こる「結核」という病気は、死に至る恐ろしい病気です。結核菌は感染力が強いので、江戸時代は「業病」などと呼ばれ、忌み嫌われたこともあります。

ストレプトマイシンなど強力な抗結核剤が開発されたおかげで、日本では、昭和40年代以降、結核患者数が急に減少しました。しかし、世界では、結核を発症する人は多く、年間150万人が結核で死んでいます。エイズに次いで高い死亡率と言えます。

日本でも、1990年代に入ってから、再び結核患者が増加するようになりました。2013年の統計では、20,000人以上の人が結核を発症し、2,000人以上が結核で亡くなっています。昔と違って、20代の若い人よりも高齢者の患者が多くなっています。

抗結核剤に耐性を有する結核菌の出現やHIVウィルスとの関連で、結核は再び猛威をふるいはじめています。

[結核菌の怖さ]

結核菌は、細長い棒状の真正細菌です。酸やアルカリには強く、紫外線に弱いという特徴があります。結核菌は人間の身体のいろいろな臓器や組織に侵入して、病巣をつくります。

➀感染力が強い

人間が感染する結核菌は、ヒト型結核菌とウシ型結核菌があります。

ウシ型結核菌は、よく滅菌されていない牛乳から経口感染します。日本では、牛乳の滅菌が徹底しているので、ウシ型結核菌に経口感染することは、めったにありません。

人に感染するのは、ヒト型結核菌で、空気感染します。結核にかかっている人、あるいは結核菌を保有している人の咳やクシャミなどの飛沫が空気中に漂い、その空気を吸い込むことで感染するのです。正確には、空気感染ではなく、飛沫感染だという人もいます。

肺から肺に結核菌が移行するので、とても感染力が強いのです。結核菌の漂う空気を吸い込むので、肺が感染しやすくなります。

②免疫細胞マクロファージ内で繁殖する

侵入した結核菌がすぐに暴れ出すわけではありません。まず、マクロファージという免疫細胞に取り込まれて閉じこめられてしまいます。たいていの細菌は、マクロファージに取り込まれて死滅しますが、結核菌は、マクロファージの細胞内で冬眠状態になるだけです。免疫力が弱いと、マクロファージ内で繁殖し、病巣をつくるようになります。免疫力が強ければ、冬眠したまま、免疫力が低下する時を待ちます。

結核菌が体内に侵入しても、たいてい免疫細胞に抑え込まれてしまうので、結核が発症することはありません。結核菌に感染しても80~90%の人が発症しないのです。免疫力が衰えなければ、一生発病しないですみます。

高齢による体力の低下や、糖尿病など生活習慣病などで免疫力が低下すると、冬眠していた結核菌が活力を取り戻し、増殖して病巣を形成するようになります。しかも、冬眠中の結核菌には、抗結核剤が効きません。そのため、結核にかかった人は治ったように見えていても、再発しやすいのです。結核菌は、冬眠して再起するチャンスを待つことができるのです。

③多剤耐性菌と超多剤耐性菌の出現

細菌は進化します。最近、結核菌の遺伝子の突然変異により、従来の抗結核剤が効かない強力な結核菌ができています。

通常の結核菌ならば、抗結核剤による治癒率は80%ですが、多剤耐性菌は治癒率50%、超多剤耐性菌は治癒率30%です。結核による死亡率が上がっているのは、このためです。

また、従来の結核菌でも、患者さんが途中で薬剤の服用をやめたり、指示通りに薬を服用しなかったりすると、抗結核剤に対する耐性ができてしまいます。この耐性ができた結核菌に感染すると、抗結核剤の効果が低下して、治りにくくなります。

[HIVと結核菌の呪いの二重唱]

HIVウィルスに感染した人は、潜伏期間の長い短いは違っても、ほぼ全員がHIVを発症します。HIVは免疫障害ですから、免疫機能が働かず、カビ・細菌・ウィルス・原虫などに感染すると、発症しやすくなります。普通の人なら何でもないカビや細菌でも、重篤な症状を発します。

結核菌に感染しても、今まで発症していない人がHIVにかかると、免疫力が極端に低下しますから、たちまち結核菌が増殖して暴れ出します。肺結核や脊椎カリエスを発症して、治癒した人でも、冬眠中の結核菌が残っていれば、「チャンス到来!」と、活動を開始します。これが、「HIVウィルスと結核菌の呪いの二重唱」なのです。

まとめ

肺結核も脊椎カリエスも、「過去の病気」と思っている人が少なくありません。しかし、1990年代以降、結核患者が増加しています。当然、脊椎カリエスの発症も多くなります。

脊椎カリエスは、脊柱と呼ばれるほど身体を支えるために重要な脊椎が結核菌に侵される病気です。脊椎が破壊され、壊死して、背骨が変形して曲がってしまうのです。激しい痛みに悩まされ、下肢など下半身に麻痺が起きて、歩行や排尿が困難になります。最悪の場合、死に至ります。

しかも、治療には長い期間を要します。1年がかりになることもあります。肺結核や腎結核などが先に起きていることが多いので、快復するまでに何年もかかることさえあります。

昔は、「背中が痛い」「腰が痛い」と言えば、脊椎カリエスを疑ったものです。全身に倦怠感があり、微熱が出やすく、食欲が落ちている状態で、背中や腰が痛むのならば、すぐに医師の診察を受けることをオススメします。形成外科でも内科でもかまいません。早期発見・早期治療が大事なのです。

脊椎カリエスと診断されても、決して悲観しないでください。抗結核剤に対する耐性菌が出現していますが、新しい抗結核剤も開発されています。2014年には大塚製薬が開発した新薬が承認されました。医学は日進月歩ですから、脊椎カリエスの治療法も進歩発展しています。あせらず、のんびり、じっくり構えて、脊椎カリエスを退治してください。

  
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