病気を患ってしまうきっかけというのは、多岐に渡ります。例えば感染症によるものや生活習慣の乱れによって起こるものがありますよね。これら病気は比較的予防可能なものです。
一方で、遺伝子に生まれつき異常があるために、病気を発病してしまうということがあります。この場合はなかなか予防することが難しく、病気との付き合い方がQOLを高めるポイントになります。
オスラー病はそんな遺伝性の病気の1つです。親から子へ受け継がれる病気の中でもひときわ、確率が高いといわれています。では、このオスラー病はどういった病気なのでしょうか。詳しくみていくことにしましょう。
オスラー病とは
オスラー病は「遺伝性出血性末梢血管拡張症」もしくは「遺伝性出血性毛細血管拡張症 」ともいわれます。その名の通り、遺伝子の異常を原因として発病し、全身の血管に異常をきたす病気です。
血管の異常とは具体的に奇形のことで、これがきっかけとなって出血症状を発症します。出血の程度は人それぞれで、鼻血といった小さなものから、脳出血といった重篤なものまであります。日本の患者数は10,000人ともいわれています。
血管症状は全身の各部位に見られるため、体の一部のみをみて診断することは難しいとされています。いくつかの診断基準があり、これを満たし、継続的に症状が出る場合は注意が必要です。
オスラー病と遺伝子
遺伝子は私たちの体を構成するために必要な設計図ともいわれます。細胞分裂をするとき、遺伝子情報を元に細胞はコピーされ、日々新しい細胞を作り出しています。
遺伝子はらせん状の構造をしていて、それが連なった染色体という構造をしています。染色体は全体で23対、46本から成ります。そのうち1対は性別を決める染色体で性染色体と呼びます。残りの22対を常染色体と呼びます。
オスラー病はこの常染色体の異常で起こる病気で、優勢遺伝します。つまり、親が病気を発病した時、その子供に遺伝する確率は50%です。これは他の遺伝病の中でも最も高い確率です。ただ、すべての人が発病するわけではありません。
具体的な原因として「ENG」と「ALK-1」、「SMAD4」という遺伝子がオスラー病の発病に関わっていることがわかっています。その他の遺伝子も発病に関わっていると推定されていますが、詳しいことはわかっていません。
日本でこの原因遺伝子を持っている人の頻度は5,000人から8,000人に1人といわれて、稀な病気ではありますが、誰しも発症のリスクがあるといえるでしょう。
オスラー病の症状
オスラー病は血管に異常や奇形を発症する病気です。血管は全身に張り巡らされていますから、症状は全身に起こります。代表的な症状として、以下を発症します。
繰り返す鼻出血
オスラー病で最もみられる症状です。血管が脆弱なための、健常者と比べて出血しやすい傾向があります。鼻の粘膜は特に脆弱なため、出血が多くなります。
普通に生活していて、鼻出血はなかなか起こりませんよね。しかし、オスラー病患者の場合、症状が頻発します。症状は20歳までに80%の患者さんにみられます。
毛細血管の拡張
オスラー病では毛細血管の拡張がみられます。
皮膚や粘膜を主とし、その他、唇、口の中、指や鼻にも起こります。赤く毛細血管を目で確認することができるほど太くなります。毛細血管の拡張は思春期に発見されることが多いといいます
臓器の動静脈瘻
血管には心臓から血液を送る血管である動脈と、心臓へ帰る血液を送る血管である静脈があります。これらは独立した血管で、血液が交わることはありません。
動静脈瘻とは、この動脈・静脈の2つの間で異常な連絡通路ができてしまう状態です。動静脈奇形ともいいます。まさに血管に奇形が生じてしまっているのですね。
通常、動脈を通った血液は毛細血管を経て、細胞に行き着きます。しかし動静脈瘻があると毛細血管を通らず、そのまま静脈に血液が流れます。オスラー病ではこの動静脈瘻が消化管や肺、脳、脊髄、肝臓といった重要器官に発症します。これら部位に発症することでさらなる合併症を発症することもあります。
その他の症状
オスラー病ではその他、消化器官からの出血、頭痛、腹痛、倦怠感なども起こります。また、症状の進行によって痙攣も起こることがあります。
オスラー病の合併症
先に述べた動静脈瘻が重要器官に発症している場合、さらなる合併症を招くことがあります。それは時として命の危険もあるため、慎重な治療が必要とされるでしょう。具体的には以下の合併症があげられます。
脳出血
脳出血とはその名の通り、脳内の血管が破れることで血液が流出してしまう病気です。脳細胞への血液供給機能が低下し、重篤な症状を発症します。
具体的な症状としては意識障害、運動・感覚機能の低下などがあげられます。つよいめまい、頭痛、嘔吐といった症状を発症することもあります。
脳出血を発症すると、脳内に血液がたまり、脳を圧迫していきます。放置してしまうと症状が悪化し、最悪の場合、死に至ることもあるため、注意が必要でしょう。
詳しくは、脳出血の前兆とは?頭痛やしびれなどの症状に注意!を参考にしてください!
脳梗塞
脳梗塞とは脳の血管が詰まる病気です。主に血栓と呼ばれる血の塊が血管に詰まります。脳出血同様、脳細胞への血液供給が閉ざされ、重篤な症状を発症します。
血栓は、肺動静脈瘻(肺動静脈奇形)による塞栓症が原因で発生します。血栓が血管を流れ、脳まで到達し、脳梗塞を発症してしまうのですね。命の危険まるため、早急な対応が必要です。
詳しくは、脳梗塞の初期症状とは?めまいや上手く喋れない状態に注意!を読んでおきましょう。
頭痛にご注意
オスラー病患者さんの多くに頭痛症状がみられます。この場合、脳内の血管に何かしらの異常が起きていることがあります。放置せず、きちんとした検査を受けるようにしましょう。
オスラー病で起こる動静脈瘻とは
オスラー病の特徴的症状である動静脈瘻についてもう少し詳しくみていきましょう。先に述べたように、この症状は動脈と静脈間で異常な連絡通路ができてしまう症状です。
動脈を通る血液は毛細血管へと分かれ、細胞に栄養を届けます。その後、静脈へ流れ、心臓へと戻っていきます。動静脈瘻は脳や肺、消化器官、脊髄に起こり、それぞれ特徴的な症状を発症します。それぞれの症状については以下の通りです。
脳動静脈瘻(脳動静脈奇形)
脳内の血管に動静脈瘻ができている病態です。動脈を流れる血液の血圧によって静脈が拡張し、それが元となって脳出血を招くことがあります。
毛細血管は動脈の血圧を下げ、静脈に血液を安全に引き渡す役割もありますが、動静脈瘻は毛細血管を経由しないため、出血症状に注意しなければなりません。
また、毛細血管は細胞に栄養を届ける構造になっていますが、瘻ができてしまうと栄養が十分に行き渡らない現象が起こります。このため痙攣、感覚麻痺、知覚障害などの脳機能障害を発症することがあります。
肺動静脈瘻(肺動静脈奇形)
動静脈瘻が肺にできると、血液に酸素が供給されにくくなります。このため、体は低酸素状態となります。全身の倦怠感、呼吸困難などの症状を発症します。重症例では肺からの出血による喀血、脳の虚血発作、脳梗塞を発症します。
特に脳梗塞は深刻な病気の1つです。血管内で血栓ができたとしても、肺自身がフィルターとなって静脈へ流れ出ることはありません。しかし、瘻によって静脈側へ流れ、脳へ到達すると脳梗塞を発症します。
脊髄動静脈瘻(脊髄動静脈奇形)
脊髄内の血管に瘻がみられます。脊髄は運動機能を司る神経が密集していますから、それに関連する症状を発症します。具体的には四肢の痺れ、運動機能の低下。その他、排便・排尿障害なども起こります。
また、脊髄内で出血することもあります。この場合、前述した症状が突発的に起こります。突然、四肢が動かなくなるのですね。早急な治療が必要でしょう。
肝動静脈瘻(肝動静脈奇形)
肝臓に瘻ができることで起こる合併症は主に3つあります。それは「心不全」、「胆道閉塞」、「肝硬変」です。これらは非常に緊急性の高い症状といえるでしょう。
心不全は瘻の出現により、血液量が増えることで発症します。心臓の負担が大きくなり、やがて機能不全に陥ってしまうのですね。瘻が多発することで発症率が高くなります。
胆道閉塞は肝臓から胆のうへつながる道が塞がれてしまう状態です。自覚症状では腹痛を発症し、検査においても、肝臓の異常が確認できます。
肝硬変は肝機能の低下に伴い発症します。肝臓の細胞が硬質化し、機能不全に陥ります。
消化器官の動静脈瘻
消化器官に瘻ができると出血や血腫などを発症します。血液が腸管を下り、下血症状を発症することもあります。大量の出血は稀です。
オスラー病の診断
オスラー病は主に4つの診断基準があります。これらに該当する場合は病気の可能性があります。具体的には以下の通りです。
1:反復する鼻出血がある
鼻出血はオスラー病の最も分かりやすい症状の1つです。子供であれば鼻をほじってしまう、なんてことが出血の原因になるかもしれませんが、そういったことがなく、全く自然に出血するようであれば注意が必要です。
もちろん、鼻出血だけでオスラー病と診断するには早計です。しかし、「刺激を与えていないのに出血する」「鼻出血の頻度が多い」。この2点に心当たりがあるようであれば、一度検査を受けてみてもいいかもしれません。
2:血管拡張
オスラー病では抹消血管の拡張がみられます。唇や口の中。そして四肢や鼻です。これら部位に目で見て分かるほどの血管拡張が見られます。もちろん、体質的な部分もありますから、きちんとした検査が必要です。
体の表面に見える血管が太かったり、その数が多い。このような症状に心当たりがあるようであれば、反復性の鼻出血と合わせて、注意を払ってみましょう。
3:動静脈瘻(動静脈奇形)
動脈と静脈に奇形がみられる。これは具体的な検査をしなければわからないことですが、オスラー病の診断基準です。検査をしなくても、頻繁に貧血症状や頭痛、倦怠感があるようであれば注意です。
血管の奇形は脳、肺、肝臓、消化器にみられます。これら部位の検査を行い、奇形があるようであれば、病気を強く疑うことができるでしょう。同時に合併症の予防に努める必要があります。
また、同時に他の病気との区別をすることが大切です。例えば消化器から出血をしたとしても、それが単なる胃炎ということもあります。一つの症状だけで病気を判断することはできないでしょう。
4:家族歴
オスラー病は遺伝病の1つです。このため、家族内に病気の発病者がいるようであれば、高確率で病気を受け継いでる可能性があります。これも重要な診断基準となります。
オスラー病は優勢遺伝するため、50%の確率で発症します。この数字が高いか低いと判断するかは難しいかもしれません。ただ、病気を発病したとしても、合併症に関しては予防、もしくは治療が可能であり、現代においては過度に心配する必要はないと思います。
診断の注意点
オスラー病と診断するためには上記の4つの事象がポイントです。しかし、一方で病気の症状と似ていても、そうとは限らないケースがあるのも確かです。
例えば鼻出血。子供であれば遊びまわって、なにかのきっかけで出血してしまうことはよくあることですよね。出血が遊んだときの刺激なのかどうか、というのはきちんと見極める必要があります。
また、オスラー病は遺伝病といっても、遺伝しないケースもあります。これこそ、きちんとした検査が必要なのでしょう。遺伝することもありますが、遺伝しないこともある。このことを理解する必要があるでしょう。
オスラー病の治療
オスラー病の治療はそれぞれの症状に対して治療を行う対症療法がメインです。これまでご紹介した症状ごとに治療法をみていくことにしましょう。
鼻出血
オスラー病の主症状である鼻出血の治療は、症状の程度によって異なります。例えば、軽度であれば鼻の圧迫止血や軟膏を塗ることで止血することがあります。
中程度となるとレーザーで粘膜を焼灼し、治療することがあります。重症度では粘膜の皮膚移植を行うことがあります。大腿部から採取した皮膚をそのまま鼻に移植します。
脳・肺の動静脈瘻
症状が進行すると動脈と静脈が繋がり、血液の酸素供給能力が下がる可能性があることから、早急な治療が必要となります。具体的には血管内塞栓術という方法を行います。
この方法は血管にカテーテルを挿入し、目的の血管内でコイルと呼ばれる金属を開きます。これにより、連絡通路を遮断し、正常な血液循環を促します。
カテーテル治療は体に負担がかからず、治療・入院期間が短いというメリットがあります。また、即時効果があるので、症状改善に大きな貢献をしてくれます。
肝臓の動静脈瘻
肝臓の治療は基本的にそれぞれの病態に応じた治療をしていきます。症状が進行し、肝機能の低下がみられる場合、最終的には肝移植も検討することがあります。
消化管からの出血
消化管から大量の出血がみられる場合、内視鏡を用いたレーザー治療を行います。患部にレーザーを照射することで、止血を行います。軽度であれば、鉄剤を服用することで症状を緩和します。
オスラー病の予後
オスラー病を発症しても、血管障害は治療が可能になってきています。このため、予後は良好です。出血等に普段気を配る必要がありますが、過度に心配する必要はありません。
一方で他の合併症を発症しているようであれば、十分気をつける必要があります。特に脳血管障害など、命の危険に直結するような病気には要注意です。
生活で気をつけること
オスラー病により、例えば鼻出血や消化管からの出血が起こると、必然的に体の血液が不足します。これは日常的な貧血症状を発症し、QOLの低下を招くことがあります。そのため、鉄分を意識して摂取することが、生活を維持するために大切です。
細菌感染にも気をつけることが大切です。例えば歯茎の出血をきっかけとして血液内に細菌が侵入すると、それが感染症を引き起こすことがあります。血管に留まり、繁殖してしまうとさらに大きな病気を発症してしまうことがあるのですね。
生活をしている中であまり無理をしないというのも重要なことです。怪我や出血してしまうような危険があれば、なるべくそれを避けるに越したことはないでしょう。
まとめ
遺伝子の異常が原因の病気は非常に稀です。そして、発症してしまうとその後の人生に大きな影響を与えてしまうことがあります。QOLの低下し、周囲のサポートが必要が必要なこともあるでしょう。
しかし、医療の進歩によって合併症を予防し、健康的に長く生きることができるようになっています。いくつかのことに注意する必要はあるかもしれませんが、他の人と同じような生活ができるのです。
聞きなれない病気になってしまった。だからといって、落ち込む必要がなくなってきているのです。前向きに、できることを少しずつしていくと、病気とうまく付き合っていけるのかもしれませんね。
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