「脳幹出血」は知らなくても、「脳出血」は聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。脳出血は、死に至ることもある怖い病気というイメージを持つ人が多いでしょう。脳出血自体は、出血の部位により深刻さや症状は様々です。
でも、肢体麻痺などの後遺症が残ったり、致命傷になるものもあります。「脳幹出血」とは、そんな深刻な脳内出血の1つです。脳幹出血に関して、原因から予防方法まで、わかりやすく説明します。
脳幹出血の基礎知識
まずは、脳幹出血について理解するために、必要となる基礎的なことをわかりやすく説明します。
脳幹について
「脳幹(のうかん)」とは、脳の幹をなす部分という意味の言葉です。全神経を統合するような役割を果たしている、中枢神経系を構成する器官の一つです。間脳、中脳、橋(きょう)、延髄から構成されています。
脳幹の上には大脳、下には脊髄、後ろには小脳が位置しています。脳幹とは、脳の様々な部位が密集している中央にあるというイメージです。そんな脳幹には、とても重要な機能がたくさんあります。
脳幹の機能
脳幹は、次のような役割を担っています。
上下にある大脳や脊髄から走行してくる運動神経や感覚神経の通り道
後ろにある小脳から出入りする神経の通り道
脳神経核から脳神経を出す
自律神経反射の中枢(呼吸、循環、対光反射、嚥下、嘔吐など生命維持に不可欠な内蔵機能の中枢)
このように脳幹は、とても多くの神経が経由する場所なのです。生きる上で必要な、体温温覚、感覚、冷覚、聴覚、眠気、食欲、筋力などの様々な情報を分類して大脳に伝え、覚醒、運動、感覚の制御、呼吸のリズムを形成しています。
生命維持や活動のために大きな役割を果たしている脳幹なだけに、損傷して機能しなくなると深刻な問題が生じます。後遺症が残ったり、呼吸が止まったりと、健康な身体を維持するための生命活動に支障を来たすのです。
脳幹出血と症状
人間が生きる上で必要な機能を多く備えた脳幹に出血が起こると、どのようなことが起こるのでしょうか。
脳出血の理解
一般的にもよく聞く機会の多い、「脳出血」とは、脳内の血管が破れて出血が起こる状態をいいます。
多くの場合、激しい頭痛、おう吐、けいれんなどで突然発病して、急速に進行します。意識障害に陥り、重症の場合はそのまま昏睡して死に至ります。軽症の場合は、意識障害や出血による自覚症状のないこともあります。一般的に、昏睡が長く深いもの、高熱、白血球の増加が著しいものは予後が悪いとされます。
脳出血は、脳の循環障害によって急激に意識障害に陥り、運動障害や言語障害を伴う脳卒中の一つです。脳出血は、さらに脳内出血と脳室内出血に分けられます。
脳幹出血について
脳出血は、脳のどこで出血が起こるかによって、皮質下出血、被殻出血、視床出血、脳幹出血、小脳出血などに分類されます。脳内出血の1つで、脳幹に起こる出血のことを「脳幹出血」といいます。「脳幹出血」は、脳内出血の中でも最も重症とされます。
脳幹には、左右の大脳半球と脊椎を結ぶ上行性および下行性連絡路、多数の脳神経核、生存のための基礎的反射中枢の多くが存在します。さらい意識の適正な持続に関与する網様体が脳幹の全レベルに存在します。
そのため、この部分に脳出血が起こると、意識障害を招いて生命に直接危険が及ぶのです。
脳幹出血の症状
脳幹出血のサインは、頭痛から始まることが多いです。脳幹のどこに出血したかによって、めまいや、手足の麻痺やしびれ、物が二重に見えるといった異なる症状が表れます。さらに出血が進むと、呼吸障害を伴い、意識障害に陥ります。大量出血が続くと、大脳も機能を保持できなくなります。いわゆる脳幹死です。こうなると、もはや回復は見込めません。
脳幹は呼吸の中枢でもあるため、大出血の場合は発作から数分で意識がなくなり、そのまま死に至ることも少なくありません。他にも、高熱、両手足がピンと伸びて身体が反り返る、黒目が中心から動かなくなる、瞳孔が小さくなる、などの症状もあり、すべて突然症状が出ることが共通しています。
脳幹出血の特徴と原因
脳幹出血は助かる見込みはあるのでしょうか。治療が困難な理由と、発症する原因についてわかりやすくお伝えします。
治療はできないケースが多い
脳幹出血は、発症後すぐに救急車を呼ぶことが救命の可能性を高めます。生命維持に必要な処置を一刻も早く行うことが必要です。
脳幹には、脳神経が多数集まっています。部位の性質上、外科手術ができないのです。そのため、運良く助かったとしても、言語障害や咀嚼ができないといった、強い後遺症が残ることが多いのです。自分で水分接種さえできない後遺症が残る人も少なくありません。発症から数時間~数日で命を落とす可能性が高いとされています。出血が脳室内にまで及び、脳室拡大が強い場合は、血腫を排出させるため処置が行われます。
出血量が少なく、血腫自体が小さい場合には、回復の可能性もあります。この場合には、リハビリでどれだけ元の機能まで回復できるかにかかっています。
脳幹出血の原因
脳幹出血を含む脳内出血の発症は、高血圧の人に多いのが特徴です。長い期間の高血圧が徐々に脳の血管をもろくしてしまうことで、出血が起きると考えられています。脳の表面部分には太めの動脈が走っており、脳内部は細めの動脈が走っています。
高血圧により細い動脈に変化が起こりやすいことが、高血圧による脳内出血が脳の中心部分に起こることが多い理由です。脳幹出血は、根本原因が残っていれば再発の可能性も高いといわれます。
脳幹出血を予防する方法
致死率の高い脳幹出血を予防することはできるのでしょうか。突然発症するといわれていますが、発症する人には前兆症状がみられることもあります。また、脳出血の主要因の一つである高血圧を予防する方法もご紹介します。
前兆を見逃さない
発症してしまうと外科手術もできず、重度の後遺症が残ることの多い脳幹出血ですから、予防を心掛けることが大切です。基本的に脳内出血は、突然発症することが多いです。しかし、次のような前兆症状があることもあります。
- 激しい頭痛
- 手足のしびれ
- めまい
- ふらつき
- 嘔吐
- 気分不快
- 呂律が回らない
- 言葉がうまく出てこない
- 激しい肩こり
- 充血、物が見えない
など、誰にでも起こりそうな症状ですが、上記のような症状が度々出現するようなら注意が必要です。血圧を測ったり、医師を受診する、脳ドックを受けてみるといったことが、重大な病を予防することにつながります。
塩分を控えてカリウムを摂取
脳幹出血を含め脳内出血を発症する人は、高血圧の人が圧倒的に多いです。つまり予防には、最大の危険因子である高血圧の改善が必須ともいえます。高血圧は生活習慣病の一つと言われるように、発症の有無は日常生活に左右されます。
高血圧と食事には密接な関係があります。特に塩分が重要で、塩分の摂取量が多いと高血圧を誘発します。塩の代わりにレモンで味付けしたり、ラーメンの汁をすべて飲まないなど、普段の食生活のささいなことを見直すだけでも効果があります。
塩分を多く摂り過ぎてしまうことは誰しもありますので、余分な塩分を流してくれるカリウムを積極的にとるとよいでしょう。
健康体重を維持する
肥満の人は高血圧になる可能性が高いといわれます。適正カロリーでバランスの取れた食事と適度な運動をして、健康体重の範囲に体重をキープするよう心掛けることが予防につながります。内臓脂肪が多い人ほど血圧が高いので、メタボにならないこと、メタボを改善することも重要です。
朝食や昼食はしっかりと食べ、日中は活発に仕事や家事に打ち込みましょう。夜は寝るだけで、カロリー消費が少ないので、夕食を控えめにすることがポイントです。炭水化物抜きダイエットは即効性のあるダイエット方法ですが、お米が主食の日本人にとって極端で、ストレスも大きくおすすめできません。
ただ、それほどエネルギー摂取を必要としない夕食だけ、炭水化物を控えめにするということは効果的です。
身体と心のストレスを減らす
急性のストレスは、血圧を上げることが知られています。真面目で完璧主義者の人には、高血圧を患う人が多いといわれる所以です。落ち込んだり悩んだりすることも、心に大きな負担となります。自分が心地よいと思えることのリストを作ったり、気持ちがネガティブになりそうなときには好きなことをして気分を明るくする工夫をすると、上手にストレスを解消することができます。
また、身体のストレスを減らすことも高血圧予防になります。交感神経系を興奮させるたばこを吸うと、血圧が上がります。保険適用で禁煙治療を受けることもできますから、検討をおすすめします。習慣的な飲酒も高血圧を招きます。会社の飲み会などでも、ビール中ビン1本、ワイングラス2杯など、適量にとどめましょう。
まとめ
発症すると重症化し、死に至るケースも多い脳幹出血は、脳内出血の中でも稀な出血で、脳内出血全体の10%程度です。生存率は20~30%程度とも言われており、一命をとりとめたとしても意識障害が残ることが多いのです。意識が回復するまでの期間は、医師にも判断できません。そのまま意識が回復しないこともあります。こうなると、家族も医療関係者も、早い回復を祈るしかありません。
意識回復の有無や長短には、発症時の意識レベル、出血量、出血部位、年齢など多くの要因が影響します。突然発症してしまうことが多い病気なだけに難しい面はありますが、日々の生活習慣を整えて、できる限りの予防をすることが一番です。前兆と思しき症状が度々起これば、医療機関の受診をお勧めします。受診の段階で怖いことは何もありません。むしろ、「これくらい大丈夫だろう」と軽く考えて前兆を見過ごしてしまうことが怖いことなのです。
早期発見、早期治療などと様々な病気では言われます。しかし、早期治療があまり望めない病気が、脳幹出血です。予防と早期発見だけが頼みの綱ともいえます。