後頭神経痛という病気について、ご存知でしょうか?後頭神経痛は頭痛の一種で、後頭部の頭皮にチクチクとした痛みが走り、人によっては激痛を訴える場合もあるようです。このような後頭神経痛を訴える人の数が、近年になって徐々に増えているのだそうです。
そもそも後頭神経痛とは、後頭部に走行している後頭神経が刺激されて生じる神経痛であり頭痛でもあります。それが近年になって増えている背景には、実は携帯電話・スマートフォンや携帯ゲームの普及があるからだとされています。それゆえ、後頭神経痛は別名で「スマホ症候群」と呼ばれることもあるのです。
そこで今回は、後頭神経痛の症状や原因、その治療方法などについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
後頭神経痛の症状
そもそも後頭神経痛とは、どのような症状を呈する病気なのでしょうか?後頭神経痛を訴える人が近年増えているとはいえ、後頭神経痛はまだまだ誰もが知っていると言えるほど有名な病気ではありません。
そこで、まずは後頭神経痛がどのような病気であるのか現れる症状について、ご紹介したいと思います。
後頭神経痛とは?
後頭神経痛とは、後頭部に走行している後頭神経が何らかの要因によって刺激されることにより、後頭部に現れる痛みのことを言います。後頭神経痛は、頭痛の一種であるとともに、神経痛の一種でもあります。
ちなみに、後頭神経は、主に後頭部や後頭側頭部の皮膚感覚を支配する知覚神経です。
後頭神経痛の種類
後頭神経痛は、痛みの現れる部分によって3種類に分類されます。後頭神経痛の3分類は、次の通りです。
大後頭神経痛
大後頭神経痛は、後頭神経痛の中でも特に後頭部から頭頂部にかけて発生する痛みのことです。大後頭神経痛は、頚椎上部を起点に後頭部から頭頂部にかけて走行する大後頭神経が刺激されることで、大後頭神経の支配領域である後頭部から頭頂部にかけて痛みを生じます。
小後頭神経痛
小後頭神経痛は、後頭神経痛の中でも特に両耳の後方あたりの後頭側頭部に発生する痛みのことです。小後頭神経痛は、首の側面を起点に左右両耳の後方あたりの後頭側頭部を上下に走行する小後頭神経が刺激されることで、小後頭神経の支配領域である両耳後方の後頭側頭部にかけて痛みを生じます。
大耳介神経痛
大耳介神経痛は、後頭神経痛の中でも特に両耳の後方付け根あたりに発生する痛みのことです。大耳介神経痛は、首の側面を起点に両耳の後方付け根を耳の上部まで走行する大耳介神経が刺激されることで、大耳介神経の支配領域である両耳後方付け根あたりに痛みを生じます。
後頭神経痛の症状
後頭神経痛の症状は、主に後頭部や後頭側頭部の頭皮にピリピリあるいはチクチクと表現されるような痛みを感じるとされています。
ただし、症状の程度には個人差がありますので、次のような症状を満たすようならば後頭神経痛を疑うことになります。
症状の現れる場所的特徴
後頭神経痛の痛みが現れる場所は、基本的に後頭部や後頭側頭部になります。前述のように後頭神経痛の種類に応じて、痛みの現れる場所が異なります。次のような場所に痛みが現れる場合は、後頭神経痛を疑うことになります。
- 後頭部から頭頂部にかけて発生する痛み(大後頭神経痛)
- 両耳の後方あたりの後頭側頭部に発生する痛み(小後頭神経痛)
- 両耳の後方付け根あたりに発生する痛み(大耳介神経痛)
痛みの特徴
後頭神経痛の痛みは、主に頭皮にピリピリあるいはチクチクと表現されるような痛みを感じるとされますが、その痛みの程度は個人差が非常に大きいとされます。次のような痛みが現れる場合は、後頭神経痛の痛みを疑うことになります。
- 後頭部の頭皮のピリピリあるいはチクチクと表現されるような痛み。
- 後頭部の刺されるような鋭い痛み。
- 後頭部に電気が走り抜けるような激痛。
- 痛みは1回数秒~数分程度で収束するが、その痛み(疼痛発作)が何度も繰り返される。
- 疼痛発作は数日~数週間程度の間、何度も繰り返される。
- 痛みは両側の場合(両側性)と、左右いずれかの場合(片側性)がある。
その他の症状について
後頭神経痛は基本的に後頭部・後頭側頭部に現れる痛みが主症状ですが、それに関連して周辺症状が現れる場合もあります。後頭神経痛の場合に、痛みの他に現れる可能性がある症状としては、次のような症状が挙げられます。
- 後頭部を手で押すと強い痛みが生じる圧痛症状も伴う。
- 頭皮や頭髪の知覚過敏。
- 目の奥側に痛みが現れる場合がある。
- 片頭痛などで見られる吐き気・めまいは基本的に現れない。
後頭神経痛の原因
このように後頭神経痛は、後頭部にある後頭神経が何らかの要因によって刺激されることにより、後頭部に現れる痛みのことを言います。それでは、どのようなことが原因となって後頭神経が刺激され、後頭神経痛が発生するのでしょうか?
そこで、後頭神経痛の原因について、ご紹介したいと思います。
後頭神経痛の発生メカニズム
後頭神経(大後頭神経・小後頭神経・大耳介神経)は、首の付け根の筋肉群や後頭部の筋肉群を内側から外に通り抜けて皮膚に近いところを走行している神経です。それゆえ、首の付け根や後頭部の筋肉群が何らかの要因で収縮することにより、後頭神経が締め付けられるような形で圧迫・刺激され痛みが生じると考えられています。
また、病気や疾患によって後頭神経が損傷することが刺激となって痛みが発生したり、自律神経のバランスを崩すことで後頭神経が過敏となることにより些細なことが刺激となって痛みが発生することもあると考えられています。
後頭神経痛の原因
このように後頭神経痛は、後頭神経が何らかの要因で刺激されることによって発生します。そして、後頭神経痛の原因、すなわち後頭神経を刺激する要因は非常に多岐にわたります。そこで、後頭神経を刺激する要因の中でも、代表的な要因をいくつかご紹介したいと思います。
ストレス
後頭神経を刺激する原因としては、肉体的ストレスや精神的ストレスが最も一般的とされています。
例えば、仕事などで身体に疲労が溜まっていたり、風邪をひいて体調不良になると、身体の節々や首筋が痛くなることがあります。これは疲労などにより筋肉や血管が収縮した状態となるためで、特に首や肩の筋肉が収縮・緊張すると首や後頭部の筋肉群が連動して収縮・緊張することにより、後頭神経を圧迫する可能性があります。
また、精神的ストレスに長く晒されると自律神経のバランスが崩れることで、全身に様々な不調が現れることがありますが、その影響の一つとして後頭神経が過敏になり大気の気圧変化といった些細なことが後頭神経を刺激することも考えられるのです。それゆえ、会社や学校での人間関係や仕事のプレッシャーなどといった精神的ストレスも、後頭神経痛の原因となりうるのです。
姿勢の悪さ
後頭神経を刺激する原因として近年増えているのが、姿勢の悪さです。
というのも、会社などの仕事でパソコンを使用することが当たり前となって前かがみの姿勢でパソコンモニターを見続けたり、スマートフォンの普及によって日常的に首を前に曲げる姿勢を取り続けることが多くなっているからです。このような姿勢の悪さは、首の筋肉や肩の僧帽筋などの収縮・緊張を招き、首の痛みや肩こりを引き起こします。そして、このような首や肩の筋肉の収縮・緊張が首や後頭部の筋肉群に連動して、後頭神経を圧迫する可能性があるのです。
後頭神経痛は別名で「スマホ症候群」と呼ばれることもありますが、その由来はこのようにスマホ使用時などの姿勢の悪さに由来するのですね。
緊張型頭痛
このような姿勢の悪さは、首の筋肉や肩の僧帽筋などの収縮・緊張を招き、首の痛みや肩こりを引き起こすことにより緊張型頭痛を引き起こすことがあります。
緊張型頭痛とは、姿勢の悪さや同じ姿勢を長時間続けることにより、首や肩の筋肉が強張り血行不良となることで、頭部全体に締め付けられるような鈍痛が現れる頭痛のタイプです。緊張型頭痛は、痛みが反復的に現れたり、慢性化して毎日鈍痛が現れたりするのが特徴で、首の痛みや肩こりを併発することが多いとされます。
このような緊張型頭痛と肩こりなどから、後頭神経の神経領域の筋肉に収縮・緊張が広がると、後頭神経痛につながる可能性も指摘されています。
頚部(首)の異常・怪我・外科手術
頚部・首に発症する異常・疾患、あるいは頚部に負った怪我などが、後頭神経を刺激する原因になることもあります。
例えば、頚椎椎間板ヘルニアや変形性頚椎症などは、頚椎(首の骨)の変形によって神経が圧迫されて、主に頚部・肩・背中・上腕・手先などに痛みや痺れ(しびれ)などが主症状として現れる疾患です。このような頚部の異常が発生する場所によっては、後頭神経を圧迫することがあり、後頭神経痛が現れる原因となる可能性があります。
また、交通事故などで良く見られ、俗名で「むち打ち症」と呼ばれる頚椎捻挫などの頚部の怪我を負うと、その痛みから患部の周辺筋肉群が収縮・緊張します。そのために、後頭神経が圧迫されて、後頭神経痛を併発することがあるのです。
さらには、頚部や頭部の異常や疾患を治療するために実施される外科手術後にも、切開した場所の周辺筋肉群が収縮・緊張して、後頭神経を圧迫・刺激する場合があります。
その他の原因
ここまでご紹介したような原因の他にも、後頭神経を刺激する原因は存在します。例えば、単純ヘルペスや帯状疱疹などのウイルス感染症によっても、後頭神経が刺激され後頭神経痛が現れる場合があるので注意が必要です。
また、非常に稀だとされていますが、脳梗塞や脳腫瘍の発生する場所によっては、後頭神経が刺激されて後頭神経痛が現れる可能性もあります。ただし、脳梗塞や脳腫瘍などの脳疾患の場合は、基本的に後頭神経痛のような神経性の痛みとは異なる痛みであることが多いとされます。
後頭神経痛の診断と治療方法
このように後頭神経痛の原因は、非常に多岐にわたります。それでは、後頭部や後頭側頭部に後頭神経痛を疑うべき痛みが現れた場合に、どのようにして診断や治療が行われるのでしょうか?
そこで、後頭神経痛の診断と治療法について、ご紹介したいと思います。
後頭神経痛の診断と検査
後頭神経痛の診断にあたっては、病院で医師による問診や様々な検査を行います。特に後頭神経痛の診断では、他の疾患との区別・鑑別が大切となりますので、多くの検査が実施されることもあります。
ちなみに受診すべき診療科は、頭痛外来・神経内科・脳神経外科などになります。
ウイルス感染症との区別
前述したように後頭神経痛は、単純ヘルペスや帯状疱疹などのウイルス感染症によっても現れることがあります。また、ウイルス性髄膜炎によっても頭痛が現れますので、後頭神経痛との区別が必要になります。
そのため、ウイルス感染症への罹患の有無を確認するため、皮膚の観察や血液検査などが実施されます。ウイルス性髄膜炎も疑われる場合は、脳脊髄液を採取する髄液検査で髄液圧や細菌・ウイルスの有無も検査します。
脳疾患との区別
前述したように後頭神経痛は、稀に脳疾患によっても現れることがあります。しかしながら、後頭神経痛と脳疾患とでは基本的には痛みの質が異なりますし、その後の治療法も異なってきますので、その区別・鑑別が必要になります。
特に区別・鑑別が必要な脳疾患としては、脳梗塞・脳腫瘍・くも膜下出血・解離性動脈瘤(解離性脳動脈瘤)などがあります。これらの疾患と後頭神経痛の区別は、主にレントゲン検査・CT検査・MRI検査などの画像検査で行われます。
後頭神経痛の診断基準
後頭神経痛の診断基準は、国際頭痛分類第三版に基づく診断基準に準拠します。具体的には、次のような基準となります。
A:片側性または両側性の痛みであり、基準B~Eを満たす。
B:痛みは大後頭神経、小後頭神経または第3後頭神経のいずれか1つ以上の支配領域に分布する。
C:痛みは以下の3つの特徴のうち少なくとも2項目を満たす。
・数秒から数分間持続する疼痛発作を繰り返す。
・激痛。
・ズキンとするような、刺すような、または鋭い痛み。
D:痛みは次の両者を伴う。
・頭皮または頭髪(あるいはその両方)への非侵害刺激によって、異常感覚またはアロディニア(あるいはその両方)が出現する。
・以下のいずれかまたは両方。
①障害神経枝上の圧痛。
②大後頭神経の出口部あるいはC2領域のトリガーポイントがある。
E:痛みは障害神経の局所麻酔薬によるブロックで一時的に改善する。
引用元:国際頭痛分類第三版
後頭神経痛の治療法
このように頭痛を引き起こすウイルス感染症や脳疾患を除外して、後頭神経痛の診断基準に該当する痛みこそが後頭神経痛です。
そして後頭神経痛は、それほど危険性のある頭痛ではありませんので心配する必要はないでしょう。基本的には薬剤を投与する薬物療法による痛みの抑制を行い、それでも改善効果が見られなければ神経ブロック治療を行うのが一般的です。
薬物療法
後頭神経痛の痛みは、特に治療をしなくても自然と痛みの症状が消失することがあります。しかしながら、前述したように痛みの程度には個人差があるため、治療が必要な場合もあります。
後頭神経痛の薬物療法は、市販薬のような一般的な鎮痛薬・鎮痛剤は大して効果がないとされ、基本的にテグレトールという抗てんかん薬が特効薬として患者に処方されることが一般的です。テグレトールは抗てんかん薬とされていますが、てんかんは発作性の疾患なので、同じく発作性の痛みが生じる後頭神経痛や三叉神経痛などにも優れた疼痛抑制効果を発揮します。
また、神経痛や末梢神経障害の治療には、神経修復作用のあるビタミンB12が含まれるメコバラミンが処方されることがあり、後頭神経痛でも処方されることがあります。
ちなみに、三叉神経痛は、顔面の知覚神経である三叉神経が刺激されることにより、顔面に強い痛みを生じる疾患です。三叉神経痛は顔面神経痛と呼ばれることもありますが、顔面神経麻痺は三叉神経痛の症状ではないので、混同しないように注意が必要です。
神経ブロック治療
神経ブロック治療は神経ブロック注射とも呼ばれ、神経ブロック薬と呼ばれる局所麻酔薬を患部に注射して、罹患神経を麻痺させることにより痛みを抑制する治療法です。
ただし、神経ブロック治療の痛みの抑制効果は大きいのですが、この治療を受けるには疼痛治療を専門とするペインクリニックなどを受診する必要があり、どの病院でも受けられる治療法ではないことに留意しておく必要があるでしょう。
日常生活の見直し
薬物療法や神経ブロック治療のような直接的な治療法とは別に、後頭神経痛の改善を図るには日常生活を見直すことも大切になります。
後頭神経痛は、姿勢の悪さを原因とする場合やストレス性の場合も多いので、これらの改善を図ることも治療法の一つと言えますし、また後頭神経痛の予防法とも言えます。特にスマートフォンの使用時間が長い人は、使用時間を限定するなどの対策をとりましょう。
まとめ
いかがでしたか?後頭神経痛の症状や原因、その治療方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
後頭神経痛は、別名で「スマホ症候群」と呼ばれることもあり、近年になって徐々に増えている疾患です。しかしながら、実は後頭神経痛はそれほど重大な頭痛ではなく、痛みが自然と消失する場合があったり、適切な治療を行えば十分に改善を図ることができるタイプの頭痛です。むしろ、脳疾患やウイルス感染症による頭痛との区別・鑑別が重要になると言えるでしょう。
とは言っても、後頭神経痛も頭痛の一つですから、症状が現れないに越したことはありません。スマホの使い過ぎを自覚されている方は、後頭神経痛の予備軍と言えますので、十分に気を付けましょう。
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