人から「あなた、滑舌が悪いね」と言われたことがありますか。とても傷つく指摘です。直接言われなくても、テレビ番組で滑舌の悪いお笑い芸人がからかわれているシーンを目にしただけで、自分の話し方が気になって、会社や学校で発言を控えてしまいたくなります。
「滑舌」はこのように、あたかも「障害のようなもの」のように世間に広まっていますが、実は「定義」はあやふやです。
また「滑舌の悪さ」の裏に、深刻な病気が隠れているかもしれません。「滑舌が悪い」レベルを通り越して、「ろれつが回っていない」状態は、脳に異変が起きているかもしれません。
滑舌とは
NHKのホームページにある「滑舌」の解説がとても興味深いです。「滑舌」は国語辞典に掲載されていない用語なのだそうです。ではこの言葉はなんなのかというと、「言葉を仕事にする人たちの間で使われてきた専門用語」なのです。
滑舌の発祥
専門用語としての「滑舌」の定義は、「舌の回りがよいこと」となります。また「アナウンサーや俳優が口の動きを滑らかにする発音の練習」という説明もあります。この定義は理解しやすいです。アナウンサーは「滑舌が良い」人、口ごもってしまう人は「滑舌が悪い」人、ということなんですね。
国内で「滑舌」という言葉が初めて使われたのは1954年です。アナウンサーの新人研修で使われたという記録があるのだそうです。終戦が1945年ですから、かなり新しい言葉なんですね。
滑舌の良い、悪い
滑舌のユニークな点は、良いと悪いがあることです。どうしてこれがユニークかというと、言葉を発する目的は、ある内容を他人に伝えることです。つまり滑舌が悪くても、内容は他人に伝わります。滑舌の良し悪しは「内容を伝える」という目的になんら関係しないのです。
では滑舌とはなんなのでしょうか。それは「聞く人」の問題なのです。
再びNHKのホームページを引用しますと、次の5条件がそろったときに「良い滑舌」というのです。
- 日本語の音として1拍1拍が明瞭に聞き分けられる
- 一般的な会話のテンポより軽快
- テンポが一定、遅くなることも速くなることもない
- 言いよどみがない
- 言い直しがない
「なるほど」と思いませんか。NHKのアナウンサーは、この5条件を見事に満たしているような気がします。
悪い滑舌の症状
「滑舌が悪い」といっても、さまざまな症状があります。
特定の「文字」が発音できない
滑舌が悪い人は、特定の「文字」が発音できないことがあります。大まかに3つのタイプに分かれます。
1つめのタイプは、「サ行」と「タ行」が同時に苦手な場合です。2つめのタイプは「ラ行」が苦手な人です。この2つは、分かれることが多いのです。つまり「サ行タ行苦手」と「ラ行苦手」が同じ人に同時に生じることは少ないということです。
また「サ行タ行苦手」だった人が、サ行とタ行を言えるようになったら、急に「ラ行苦手」になるというケースも報告されています。
3つめのタイプは「全般的に発音が苦手」な人です。
ろれつが回らない
「悪い滑舌」と「ろれつが回らない状態」の区別は難しいのですが、単純化すると、「アルコールに酔った状態」が「ろれつが回らない状態」と考えてよいでしょう。
「ろれつが回らない状態」とは、話す気持ちと話す能力があるにもかかわらず、うまく言葉にできない症状をいいます。アルコールの過剰摂取の場合は、脳の「話す機能」が障害され、「舌」や「あご」などの連携が乱れ、言葉を作れなくなるのです。
ですので、アルコールを飲んでいないのに突然「舌」や「あご」などの連携が乱れた場合、それは危険信号かもしれないのです。
滑舌が悪くなる原因①「舌小帯短縮症」
滑舌が悪い人の原因として真っ先に疑われるのが、舌の病気である「舌小帯短縮症」(ぜつしょうたいたんしゅくしょう)です。「舌小帯」とは、舌の裏側の真ん中に走っている「筋(すじ)」のことです。この筋が短いと、舌の可動域が制限されて、それで滑舌が悪くなるのです。
滑舌が悪い人に対して「舌が短い」と揶揄することがありますが、この病気が由来と考えられます。「舌が短い」という言葉は、とても差別的な言葉なので、使わないようにしましょう。
舌小帯短縮症の診断
舌の先が上の歯の裏の歯肉を触ることができなかったり、「あっかんべー」をして下を口の先に出したときに、舌の先がすぼまったりすると、舌小帯短縮症と診断されます。
舌小帯短縮症は、生まれつきの症状ですので、診断が下ると手術を検討しますが、授乳期間中であれば、授乳に問題がなければしばらく放置することもあります。
舌小帯短縮症の治療
根本的に治すには、手術が必要です。局部麻酔をして、この舌小帯を切ります。ただ、切った舌小帯が「復活」してしまうことがあります。その場合は、特殊な手術をします。
滑舌が悪くなる原因②「構音障害」
滑舌が悪いのに、舌小帯短縮症ではない人は「構音障害」が疑われます。「構音」とは、言葉を作るまでの過程のことをいいます。
言葉は、「肺」にある「空気」を「声帯」に通過させて、そのとき同時に声帯を「振動」させることでできます。さらに「喉」「口」「鼻」のそれぞれの「空間」と、「あご」を微妙に変化させることで、言葉の種類を作り出します。
つまり「言葉」は、「肺」「空気」「声帯」「振動」「喉」「口」「鼻」「空間」「あご」の器官によってできているのです。構音障害とは、これらの器官に異変が起きて、構音ができなくなって、言葉が発せられなかったり、言葉が乱れたりする状態のことをいいます。
器質性構音障害
言葉を作っている器官の形に異変が生じることで、言葉が出にくくなる構音障害です。
運動障害性構音障害
言葉を作っている器官の形は正常でも、それをうまく動かせなくなって発話しにくくなる状態です。
聴覚性構音障害
言葉を作る器官に問題がなくても、聴覚が失われると、「この言葉はこの器官をこのように働かせて作る」ということが学習できません。それでうまくしゃべれなくなってしまうのです。これを聴覚性構音障害といいます。
生まれつき聴覚障害を負っていても、懸命のリハビリで聴覚性構音障害を乗り切る人もいます。
機能性構音障害
器質性でも運動障害性でも聴覚性でもない場合、機能性構音障害と診断されます。
構音障害の治療法
構音障害の治療は、医師や言語聴覚士たちによるリハビリがメーンになります。
滑舌が悪くなる原因③「脳梗塞」
脳梗塞の可能性について紹介します。
急に発症
症状としては、「悪い滑舌」というより「ろれつが回らなくなる」といった方がいいかもしれません。脳梗塞による「ろれつが回らなくなる」という症状の特徴は、急に発生することです。数分前まで普通に喋っていた人が、急にぐでんぐでんに酔っぱらった人のように話始めたという症状も報告されています。
ろれつが回らない状態の前段階としては、言葉が出なくなることがあります。重い症状だと、言葉を探すための「えーと」すら出てこないことがあります。
「普通に喋っていた」→「急に言葉が出ない」→「言葉を発したと思ったらろれつが回っていない」
これは典型的な脳梗塞の発症パターンです。
脳梗塞とは
脳梗塞とは、脳内に走っている血管が詰まり、詰まった先に血液が届かなくなり、脳細胞が死んでしまった状態を指します。詰まっただけでは、脳梗塞とはいいません。「脳梗塞によってろれつが回っていない」場合、脳の一部が死んでいることを意味します。
救急搬送
脳梗塞の前兆が現れたら、躊躇なく救急車を呼んでください。初期治療の早さは、後遺症の大きさに重大な影響を及ぼします。まさに「1分1秒を争う」病気なのです。
まとめ
滑舌が悪いだけでは、障害と認定されません。そして一般的に、障害でない体の異変は、からかいの対象となりやすいです。
滑舌が悪いことを売りにしているお笑い芸人さんは、自分の意思でそのような扱いを受けていますが、一般の人はそうではありません。滑舌が悪い方の心中を思いやると、からかうことなどできないはずです。
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