肝性脳症ってなに?症状や原因、治療法を理解しよう!状態で変わる危険度とは?

最近では物言わぬ臓器である肝臓のこともいろいろと知られてきて、肝臓は大事な臓器なのだと皆が認識するまでになりました。

肝臓の病気と言えば肝硬変、肝炎などがよく知られますが、肝性脳症という病気をご存知ですか。実は初期症状は躁鬱症と似たところもあるのです。少し気になりますか?それでは、詳しく見てみましょう。

肝性脳症(かんせいのうしょう)とは

循環 女性

肝性昏睡(かんせいこんすい)とも門脈体循環性脳障害(もんみゃくたいじゅんかんせいのうしょうがい)とも呼ばれます。

何らかの原因によって肝臓の機能が低下してしまい、体の代謝機能がうまく働かなくなった結果、アンモニアなどをはじめとする、神経に有害な物質が体内から除去されず溜まってしまうことで、脳に障害をあたえてしまい起こるのが肝性脳症です。

肝性脳症は症状によって段階が定められています。症状から見てゆきましょう。

肝性脳症の主な症状

昏睡

主な症状としては意識障害があり、重症になると昏睡状態になってしまうこともあります。症状は段階的に現れ、昏睡度で示されるので、順に見てみましょう。

昏睡度I 睡眠リズムがくずれるなど

この段階では、医師でもまだ判断がつきにくいようです。

睡眠リズム障害

睡眠には周期(リズム)があるのですが、このリズムが崩れてしまい、または逆転してしまい、自分では修正ができない状態になります。海外旅行などで時差ぼけになっても、幾日かすると通常のリズムに戻るものです。

これは、ホルモンやさまざまなものが関わって、もとの周期に戻そうとする働きがあるからなのですが、これがうまく働かなくなる状態です。

多幸感

幸せいっぱいの気分です。とても強い幸福感を感じ、信じられないほどの満足感を感じます。脳内の快楽などを司っているセロトニンが大量に放出されているような状態です。

抑うつ

多幸感とは逆に、落ち込んだ状態になります。うつ病の場合にもこの抑うつ状態はありますが、うつ病の場合は脳の異常からくるものだけでなく、心理的ストレスから起こるものも含まれますが、肝性脳症の場合は、脳の異常からくるものです。

落ち込んだり、イライラしたり、急に泣きたくなったり、食事をしたくなくなったりとさまざまな抑うつによるうつ状態が起こります。

だらしなくなる

生活面ではだらしなくなり、細かいことを気にとめない態度が見られるようになります。

昏睡度II  見当識に障害が出始める

指南力、見当識力の低下

時と場所を間違えたり(指南力の障害)、物を取り違えたりといった見当識力の低下が見られます。

異常行動

通常では考えられない行動を起こすこともあります(異常行動)。たとえば、お金を捨ててしまうなどですが、この時点ではまだ興奮状態は見られません。

アステリクシス(羽ばたき振戦)

肝性脳症のとても特徴的な症状です。羽ばたきという名がついているため、手が小刻みに震えたり、激しく腕をばたばたさせる動きだと思っている人もいるようですが、違います。

どういう動きかというと、患者さんにまっすぐ前に腕を伸ばしてもらい、掌(てのひら)をぎゅっと反りかえすようにしてもらったとき、1~2秒のゆっくりしたリズムで、挙げた掌がパタン、パタンと動いてしまう状態をいいます。

筋肉の緊張が突然、一時的ではありますが失われることで起こるのでは、と言われています。アステリクシスといい、動きが鳥の羽ばたきにも似ていることから、羽ばたき振戦と呼ばれます。これは、肝性脳症だけでなく、腎不全や代謝異常からくる脳症(脳障害)によっても起こります。

傾眠(けいみん)状態

傾眠(けいみん)といわれる意識障害(混濁した状態)も見られます。この傾眠状態は、声をかけられたり肩をたたかれたりなどの外部からの刺激で覚醒(気がつく)しますが、またすぐに意識が混濁します。直前の出来ごとの記憶がないこともあります。

また、無礼な言動があったりはしますが、医師の指示には従う態度を見せるのも特徴です。

昏睡度III  興奮状態や反抗的態度など

恐怖

昏睡度Ⅱでは興奮状態はありませんでしたが、病状が進行すると出てくるようになります。っまた、それまでになかった、せん妄などを伴うようになります。

躁性興奮

多幸感で治まっていたものが、悪化すると落ち着きがなくなり、やたらと動き回ったり、喋りつづけたりするなど、高まった感情の抑制が利かない状態になります。

自分で自分をコントロールすることは出来ず、本人も疲労困憊となりますが、巻きこまれた周りの人も疲れ果ててしまいます。

緊張病性興奮

躁性興奮とは違い、行動には感情が伴いません。突然走り出したり、暴力をふるったりと意味も目的もわからない、不可解な行動に出ます。

また、幻覚や妄想からくる行為も多く、自分でとめることは難しくなります。周りの人はその行動の突飛さに恐怖や奇異な感じを受けます。

せん妄

せん妄は、妄想とはやや違います。軽度から中程度の意識混濁がある状態で、幻覚や錯覚、ひどい不安や恐怖を感じたり、興奮が加わった状態をいいます。

多少の意識混濁と夜間の幻覚興奮を伴う「夜間せん妄」や、アルコール離脱症状に似た全身の振戦や混乱、妄想、幻聴、幻視が伴う「振戦せん妄」などがあります。

せん妄については、せん妄とは?症状・原因・治療法、認知症との違いを知ろう!を読んでおきましょう。

嗜眠(しみん)状態

意識混濁(意識障害)の程度のひとつで、昏眠(こんみん)とも呼ばれます。放っておくと、ほとんど眠ってしまうような状態です。外部からの強い刺激で目を開けることは出来ますが、医師の指示には従わない、あるいは従えないなどの症状が出たりします。失禁する場合も多いです。

昏睡度IV 意識消失

昏睡状態になります。いわば、完全に意識を消失してしまう状態です。この段階では、まだ痛みには反応(無意識反応)することもあるようです。また、刺激に対して、払いのける動作をしたり、顔をしかめるなど反射反応は見られます。

昏睡度V  深昏睡の状態に

深昏睡(しんこんすい)は、最も重度な昏睡のレベルです。筋肉は弛緩し、失禁し、眠ったままの状態になります。外部的な刺激に対しても、何の反応もなくなります。痛みなどに反応しないだけでなく、角膜反射などの脳幹反射さえ起きなくなってしまいます。

肝性脳症の主な原因

脳

症状の直接の原因は先に述べた脳の障害なのですが、その脳の障害、つまり脳症を起こす原因となる肝臓の病気や状態はいくつかありますので、順にあげてゆきますね。

病気から進展する場合

主に肝硬変から進展する場合が多いのですが、それ以外の肝臓の病気から進展して肝性脳症になるものもあります。

肝臓の病気による肝機能不全

  • ウィルス性肝炎
  • 肝臓がん
  • 肝硬変

などの病気から、肝機能が低下して、アンモニアなどの有害物質を浄化出来なくなり、肝性脳症に進展することがあります。

門脈体循環(門脈大循環)性脳症によるもの

門脈は、肝門脈のことを指しています。胃などの消化器官を流れた血液を集めて肝臓に注ぎ込む部分の血管です。

この大事な門脈と、全身を循環している静脈の血管がくっついてしまい、閉じてしまうことで、体循環が出来なくなり、肝臓で解毒することができなかったものが脳に毒性を及ぼすことで起こると考えられています。*体循環は、大循環とも言うこともあります。

尿素サイクル酵素欠損症

尿素サイクルとは、肝臓の中の工場のシステムです。体の中で発生する有毒なアンモニアを、無毒な尿素に変える仕組みそのものを尿素サイクルと言います。この尿素サイクル工場には、いくつかの酵素が必需品です。

これらの酵素が欠けてしまい、尿素サイクルがうまく働かないために肝性脳症に進展することがあります。Nアセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、カルバミルリン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、古典型シトルリン血症、アルギニノコハク酸尿症、アルギニン血しょう、高オルニチン高アンモニア血症、ホモシトルリン尿症症候群などが、これにあたります。

遺伝の病気で、発症頻度は欠損酵素によって違いますが、8000人に1人から44000人に1人と考えられています。食生活などが原因でなることはまずありません。

物質による障害

アルコール過剰

薬物などにより肝臓が傷ついてしまうことや、アルコールを大量に摂取し続けることが、既に肝臓病を患っている人には肝性脳症を引き起こすこともあると言われています。

便秘から肝性脳症になる?

便秘によって、大腸でアンモニアが発生して肝性脳症になるという説もありますが、それは少し違います。肝性脳症は、肝臓で浄化されなかった有毒物質が脳の主に大脳皮質にゆくことで脳に障害を及ぼす病気です。この有毒物質にはアンモニアも考えられていますが、現時点では、はっきりとは脳症(脳の障害)を起こす毒物が何かは、わかっていないのが実情です。

ただ、すでに肝性脳症を発症している場合には、便秘は腸内環境を悪くしてしまい、肝性脳症の症状を悪化させる可能性があると考えらえるため、便秘を回避する策がとられることがあります。排便を促進することで、腸内環境がよくなることは分かっていますし、腸内環境が悪いと、肝臓に余計な負担をかけることになってしまいます。こういったことから、便秘から肝性脳症になる、と誤解されたのかも知れませんね。

ですから、短絡的に考えて下剤などを必要以上に多用すると、脱水など他の病気の原因にもなり得ますので、気をつけるようにしたいですね。ただ、ひどい便秘の場合は、これも他の病気や肌荒れの原因にもなります。お通じは、理想の目安は最低1日1回、便の状態は、半分沈み半分浮くくらいがベストだと言われています。

便秘から直接肝性脳症になることはまずありませんが、便秘から肝臓を痛めてしまう、あるいは他の病気を引き起こすことはあります。食生活で改善できない場合には、お薬に頼ることも必要です。特に女性はお肌のためにも、便秘は嫌ですね。

肝性脳症の主な治療法

大腸

治療には、まず第一に原因となるもの、”誘因”を取り除き、血液浄化を助けることが必要となります。

それと同時に、肝臓の働きをよくするためのあらゆる方法が試されます。現在では、主に以下の療法が症状によってとられています。症状が初期である場合には、この誘因を取り除くことで、症状が改善する場合もあります。

重症の場合には、時間をかけて、肝機能をとりもどしてゆくことが必要となります。

血中アンモニアの濃度調整

これまで、血液のアンモニア濃度の低下を目的として、非吸水性合成二糖類(ラクツロースやラクチトール)が投与されることが標準治療とされ、現在もとても重要視されています。しかし、これらは確固たるエビデンスに基づいたものではありませんでしたので、今も研究がつづけられています。

これら合成二糖類の投与により排便回数が増加したことにより腸内環境がよくなることでの脳症の改善作用は認められているものの、残念ながら死亡率が減少するというところまでの結果は得られていないのです。

しかし、ラクツロース浣腸で効果が出なかった患者さんに対し、ポリエチレングリコールの経管投与をしたところ、排便を促進する結果となり、それが血中のアンモニア値を下げ、肝性脳症の改善が得られたという症例が報告されています。

また、ラクチトールは排便回数を増加させることは知られており、これら合成二糖類の投与により腸内環境が改善され、肝性脳症の改善が見られたという結果ははっきりと出ています。消化管出血による肝性脳症の場合は、早急に腸の管内の血液がアンモニア源となりうるので、なるべくはやく排泄させるために、上記の合成二糖類での浣腸などが行われます。

つまり、腸内環境の改善は、アンモニア濃度の調整に有効だということです。ただ、合成二糖類を標準治療として位置付けることには、賛否両論あります。

特殊組成アミノ酸を使用する

特殊組成アミノ酸製剤には、輸血のものと、経腸栄養剤のもの、顆粒剤があります。血液製剤は脳内のアミノ酸の代謝異常を修復する目的で開発されました。

日本の研究では、肝硬変が原因の肝性脳症には、BCAA輸液療法の覚醒効果は、肝性脳症の重症度によって左右されると言う結果が出ています。昏睡度Ⅱレベルまでは、この方法で90%異常の確率で覚醒が得られると言われています。

たんぱく質摂取制限

肝硬変が原因の肝性脳症の場合、その誘因と考えらえるものがたんぱく質の過剰摂取であることや、また、腸管内で発生するアンモニアなどの有害物質の由来が食事でのたんぱく質摂取であることから、門脈体循環性脳症の場合、たんぱく質摂取制限が重要とされます。

いずれにせよ、専門的治療が必要となります。血液検査などで肝機能に不安がある場合は、ほったらかしにせず、自分で経過を見て、何かおかしいと思ったら、直近の健康診断結果表をもって、病院で検査を依頼することをお勧めします。

自分で気をつけられること

よい食事

初期症状は医師でもわからないほどですが、昏睡度2あたりになると、周りもおかしいと思うようになりますね。

まずは、年に1回の健康診断をしっかりうけ、結果をきちんと見ることをおすすめします。なぜなら、現代では、健康診断によって、肝性脳症の原因となる肝機能の異常が簡単にわかるのです。また、規則正しい生活、バランスの取れた食事を、おろそかにしないよう、心がけましょう。

たとえば、たんぱく質制限といっても、中には、たんぱく質を制限してはいけない体質の人もいます。何をするにも、唐突に急激なことをしては、体が驚いてしまいます。

バランスのとれた食事をとるコツ

毎回毎回、野菜と少量のたんぱく質と・・・などと言っていては、神経がまいってしまいます。ビタミンの種類によっては、毎日とらなければならないものもありますが、それ以外のものは、たいてい3日の単位で考えて大丈夫です。

今日は飲み会で飲み過ぎてしまった。食事も脂っこいものばかりで、野菜はほとんど食べなかった。こんな日があっても、翌日と翌々日まで含めて、調整すればいいのです。

昨日野菜をとらなかったのなら、今日とればいいのです。そして、毎日とらなければならないビタミンなどは、サプリメントなどから補填するのも有効な手段です。

疲れやすい、だるい日がつづくようなら検査を

肝機能は低下しても症状になかなか現れてくれません。けれども、疲れがなかなかとれない、やけにだるいなどの症状があるようなら、年一回の健康診断をまたずに、一度検査するのもよいでしょう。まずは医師に相談し、不安を訴えましょう。遠慮はいりません。このとき、過去の健康診断表などあれば、持参すると、より的確な診断を仰ぐことができます。

まとめ

くつろぎ

肝臓は、痛みなどを訴えてこない沈黙の臓器です。もくもくと、わたしたちの体から毒素を排除してくれています。肝機能が衰えてきても、なかなか症状として出てきません。

だからこそ、日頃の健康状態の把握も重要ですし、なるべく肝臓に負担をかけない心がけも必要になってきます。暴飲暴食、アルコールのとりすぎなどがあったら、肝臓にお休みの日を与えてあげましょう。

  
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