脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)は、交通事故やスポーツ外傷が原因で起こることが多いです。分かりやすい例では、むちうち症(外傷性頚椎捻挫)が原因となることがあります。
こういった強い外力によって脳の中に強い圧力がかかることで脳脊髄液腔(のうせきずいくう)から脳脊髄液が漏れ出てしまい、脳脊髄液減少症に陥ります。それでは、脳脊髄液減少症について詳しく述べます。
脳脊髄液減少症の原因と症状
脳脊髄液減少症とは強い圧力がかかることにより発症しますが、その原因も様々です。症状も状態により様々なものが挙げられます。簡単に、原因や症状について述べていきます。
脳脊髄液減少症の原因
よく聞く原因では、交通事故やスポーツ外傷でのむち打ち症(外傷性頚椎捻挫)の後遺症があります。その他に、頭蓋底骨折や頭部の手術後の髄液漏れ、腰椎穿刺後、結合織疾患、くも膜嚢胞、脊髄髄膜憩室、出産時などの息みや脱水症が挙げられます。
また、元々は特発性の原因不明であることが最も多い原因ともされてきました。しかし、先ほども述べたように、近年では頭頸部の外傷が原因であることが大きく捉え上げられることが多いです。これらの障害により脳脊髄液が漏れ、脳内の静脈が拡張し、血流が悪くなります。
原因に取り上げたものの中では、むち打ちに症による後遺症に関しては注意が必要です。これは、未だにむち打ち症の後遺症によって脳脊髄液減少症が生じたのかが明確に判断しかねないものとなっています。交通事故やスポーツ障害などでむち打ち症を生じた後に、脳脊髄減少症と診断された方は、必ずしも「むち打ち症」が原因であるとは判断しきれません。
脳脊髄液減少症の症状
項部硬直、視機能障害(光過敏症など)、聴覚過敏症、耳鳴り、聴力低下、光過敏症、悪心、頭部痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発性頭痛)、起立性頭痛、頭重感、めまい、嘔気、倦怠感、疲労感、身体の痛み(特に首)、脳神経症状、自律神経症状、内分泌異常症、免疫異常症、集中力の低下,記憶力の低下、睡眠障害(不眠症など)などが挙げられます。
症状の日内変動
症状は寛解と憎悪がみられる場合があります。これは、天気の加減によるものが考えられています。雨や曇りの日など天気が悪い日や、気圧の変動がある日には、これらにより脳内の圧が変化することや身体の代謝や自律神経に影響が生じて、脳脊髄液減少症の症状にも影響が出る場合があります。
これは、多くの人にみられやすいことです。あまりにも状態が悪くなるようであれば、担当の医師に速やかに相談しましょう。
脳脊髄液減少症の診断・検査
脳脊髄液減少症を診断すべく、これまでに様々な診断基準が挙げられてきていますが、確実なものはなく、脳脊髄液減少症を診断すべく、これまでに様々な診断基準が挙げられてきていますが、確実なものはなく、混乱の原因となっています。
ガイドラインでは2011年版が出ています。
画像検査
脳脊髄液の漏出を確実に診断するための画像診断は、未だに確実な方法が見つかっていません。よって、様々な画像診断を使用されています。
使用される画像診断には、頭部単純MRI、頭部造影MRI、T2強調画像脂肪抑制の脊髄MRI、造営T1強調脂肪抑制の脊髄MRI、CTミエログラフィー、RI脳槽シンチグラフィー、MRIミエログラフィー、ガドリニウム増強MR脳槽造影、髄液圧測定などがあります。
鑑別診断
起立性頭痛に関しては、他にも原因が多く挙げられるため鑑別が必要になります。鑑別すべき疾患は、起立性調節障害、体位性頻脈症候群、一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛頭痛)、慢性疲労症候群、うつ病、睡眠時無呼吸症候群などが挙げられます。
これらを元々もっている方は脳脊髄液減少症とは限らない場合があります。
脳脊髄液減少症の治療・対処
脳脊髄液減少症の治療は保存的治療が原則となります。急性期は必ず必要であり、慢性期であっても一度は実施すべきと言われています。では、いろいろな治療法や対処法を説明していきます。
早期には保存的治療
早期に発症が発覚した場合には、保存的治療が有効的です。保存的治療で行う内容は、まずは身体を安静にすることが大切になります。安静に臥床(がしょう/床に寝る)することと、水分補給もしっかりと行うことです。この水分補給がとても重要となります。
水分補給は、脳脊髄液減少症の保存的治療やブラットパッチ後の治療の効果向上や症状の軽減を図るために必要不可欠となります。
水分補給には2つの方法があり、経口補水液(けいこうほすいえき)などを飲んで対処する「経口摂取」と病院で医師に処方される「点滴」による摂取があります。点滴に関しては、医師の処方箋の元、施行されます。経口摂取は1日当たり1~2L摂取する必要があると言われます。
実際、細かく人体の水分量についていろいろと分析されると、1日に2.4Lの水分量でバランスが取れているそうです。とは言っても、その人その人の全身状態に応じて対応していくと個人差があるので、担当の医師と相談していきましょう。
なぜ水分補給が重要視されるのか?
人間の身体の中の水分は、男性では体重の60%、女性では55%、赤ちゃんは80%、幼児は約70%となっており、水分の占める量が多いです。ちなみに、男女の5%の違いは筋肉量です。
筋肉は水分の保管庫であり、筋肉が活動するためにも水分は十分に必要となります。体重に対する水分量の内、2/3が細胞内液、1/3が細胞外液としてあります。この細胞外液の内の更に約2/3は脳脊髄液(細胞間液)、1/3は血液中の水分となります。この血液中の水分が減少してしまうと脱水症になります。脳脊髄液減少症の場合、この脱水症により健常者の脱水症よりも症状が現れやすく、症状が悪化する可能性があるため水分補給がとても重要視されます。
なお、3%を超える脱水症では、自覚症状が出始め、頭痛や倦怠感、注意が散漫になるといった症状に陥ります。脱水症が2%を超えると運動機能が低下します。身体の水分量が減少することで、身体を循環する血液量も減少するため、血液量を増やそうとする働きが作用して心拍数が上昇します。これによって脈は減少して頻脈になり、時期に皮膚の水分量も減少して日常生活をおくることが困難になります。更に、体重に比して9%を超える脱水症になると命に危険が及びます。
水分の経口摂取の方法
水分の経口摂取は普段飲むような飲料水を飲む方法と、国家の消費者庁が許可している経口補水液で摂取する方法があります。
普通の飲料水では、水やお茶、ソフトドリンク等が挙げられますが、これらで水分補給を行うと体液が薄くなります。これでは、十分な水分補給ができない場合があります。十分な水分補給を検討すると、経口補水液の利用が良いとされる考え方もあります。経口補水液を摂取することで、水や電解質を点滴する場合とは異なり、安全に且つ、吸収速度が早く、簡単に、水分と電解質、糖分をしっかりと補給ができるとされています。
次に、経口補水液について述べます。経口補水液は食品の扱いになります。食品でも、特別用途食品と言って、病者用食品になります。ドラッグストアなどの市販のお店でよく見かける経口補水液では、OS-1(オーエスワン)があります。これは、軽度~中等度の脱水症に対して、水電解質を補給・維持することに適応しています。
点滴
点滴を指個することで、水分と電解質の吸収が可能になり、髄液量も維持されます。
保存的加療に効果が得られない場合
保存的加療の効果が十分に得られない場合は、ブラットパッチ治療を施行します。ブラットパッチ治療とは、硬膜外自家血注入療法(EBP/epidural blood patch)と言い、先進医療で適用されています。これは、脳脊髄液を包む硬膜の外に自身の血液(静脈血)を注入し、脳脊髄液の漏出を止めるという治療方法になります。この有効率は約75%です。
特に思春期に発症する症例では90%以上の治療効果が得られています。思春期のケースは、発症から治療までの期間を5年間以内でみた結果になります。ブラットパッチは非常に治療の有効率の高い治療方法です。
ブラッドパッチ治療の方法
この治療を施行する際は、最初に脳のMRIなどの検査を行います。
脳脊髄液の減少で低髄液圧症候群の症状が認められた場合に、静脈血を20~50mℓ採血します。採血後に、硬膜外針を使用して脂肪組織に注入し、血液が硬膜に薄く広がることで、脳脊髄液が漏れた部位を塞ぎます。血液中の血液凝固因子であるフィブリノゲンが固まってノリの役割をするため、塞ぐことが可能になります。
注入される静脈血の量の目安は、女性では20mℓ、男性では30mℓとされています。処置後、点滴を約3日間施行します。その間は離床できません。退院までに約1~2ヶ月間の安静指示が出されます。安静にすることで脳脊髄液が再び漏れることを防ぎます。
ブラッドパッチ治療のメリット・デメリット
ブラッドパッチ治療のメリットは、自身の静脈血を採取して注入するという方法なので、副作用が生じないという点です。安心且つ、簡単で有効的な治療になります。
デメリットとしては、完全に根治するわけではないという点です。血液の成分もその人その人で異なります。これによって、治療の回数が左右することもあり、治療の経過には個人差があります。また、合併症を誘発する可能性があります。合併症は、腰背部痛や感染症、硬膜外腔への血液の注入に伴う癒着が考えられます。
また、癒着することで、癒着部が引っ張られる際に生じる痛みが生じ、それに伴う神経炎や神経痛が生じる可能性もあります。これが慢性化すると、半永久的にこれらと付き合っていかなければならなくなります。
その他の治療方法
手術療法、第Ⅷ因子の静注、フィブリン硬膜外注入、硬膜外生理食塩水注入療法、アートセレブ髄注療法,低分子デキストラン、人工髄液治療、硬膜外酸素注入(エアーパッチ治療)が挙げられます。よく使用されるものを簡単に紹介します。
静脈血から生成するフィブリンノリを使用する場合は,脳脊髄液が漏出している部位が狭い範囲である時に適用されます。しかし,漏出している範囲が広い場合は,その部位を修復するための外科的手術が適応されることもあります。
注入する方法として,静脈血ではなく,生理食塩水や低分子デキストランを用いる場合は,静脈血を使用した場合と比較すると効果が落ちると言われています。この方法を用いる場合は,炎症反応がとても強く,血液を再度注入することが難しい場合に適用されることがあります。
薬物療法
頭痛に対して有効な薬はカフェインになります。また,対症療法としてデパスといった安定剤が用いられることもあります。こちらもとても有効的と言われています。
日常生活で注意すること
その後の経過を良いものに改善していくには、十分な睡眠と吸息をとりましょう。また、規則的で栄養バランスのとれた食事を摂り、水分補給も十分に行っていきましょう。
その他、ストレスを溜めないようにするために、適度な運動や自身がリラックスできることをしていくことがオススメです。運動は、処置後2週間を経過した後であれば可能です。特に、有酸素運動は効果的です。例えば、ジョギングやウォーキング、サイクリングや軽いスイミングなどの軽い運動がオススメです。激しく息切れをするような運動や、強い疲れを感じるような運動はストレスがかかり症状が悪化することがあります。逆効果なので避けましょう。リラックスをするため、ストレス発散のための運動です。また、運動を行う際には、十分な水分補給を心がけましょう。
思考をプラス面へ変換しましょう
思考もマイナスな方向へ考えると、脳への酸素量や血流量が減少する可能性があります。これにより、うつ傾向になることがあります。つまり、必然と脳が酸欠状態になってしまい、症状を悪化させる原因となりえます。なるべく考え方を楽観的にしていくことや、プラスにポジティブな方向に考えを転換していくようにしましょう。
乗り物に注意
新幹線や電車、飛行機などの閉鎖的な空間は気を付けましょう。つまり、乗り物だけではなく、常に閉鎖的で空調の効きにくい状態のオフィスで仕事をしている人も気を付ける必要があります。特に、飛行機では機内の気圧が低下して乾燥しやすくなります。
これにより、脱水症になりやすく脳脊髄液減少症の患者の場合は症状が悪化することがあります。髄液が漏れるわけではありませんが、状態の悪化を防ぐためには、十分に水分補給を行いましょう。また、横になって休むことが可能であればこういった対処もしていくと良いです。
気圧の変化や乾燥に気をつけるという点では、平地から高い山へ行く時や、気圧の変化が起きやすい場所でのランニングやトライアスロンなどスポーツをする時といった、様々な場面で注意をしていく必要があります。
天候に左右される
「症状」でも述べたように、症状は日内変動がみられることがあります。
人間は、雨の日や曇っている時など天候が崩れている時に「辛い」、「だるい」、「うつっぽい」と感じやすいことが多いと言われています。これは、気圧の変化や湿度の変化、気温の変化が身体面や精神面に作用して感じさせやすくしているためです。これが近年では、症状の変化は天候に左右されないと述べている文献もでてきていますが、どちらが正しいかは明瞭ではありません。
脳脊髄液減少症の場合は、悪天候で低気圧が続く事で脳脊髄液が入っている空間が拡張するとされています。これにより脳脊髄液の水位が下降して頭蓋内の脳脊髄液が更に減少してしまうことで症状が悪化すると考えられています。天候が崩れる前に症状の悪化がみられるといった状態は、回復に向かって脳脊髄液が増えていっていた為にみられると言われています。しかし、あくまで仮説なのでこれが真実かは明確ではないです。
再発のリスク
上記でも述べたように、ブラッドパッチや他の治療を施して良い経過を追うことや完治ができたとしても、再発するリスクはあります。再発する原因としては、再び強い圧力を受けるようなことがあるケースや症状が悪化することが挙げられます。
予知できないことなので、なるべく圧力がかかりにくいようにして生活をしていく必要があります。
処置後の予後
治療の予後は75%の改善率が得られています。完治される人とそうではない人がいるので、「まさか自分に限ってはそんなことはない」とは思わず用心をしましょう。
まとめ
脳脊髄液減少症の症状と、それに対する対処法として安静臥床と水分補給が重要であることがポイントとして挙げられることが以上の情報からわかります。
一見、自身で考えてできる対処法になりますが、では、どれだけの期間の安静が必要なのか、どういった量、どういった物で、どういった頻度で水分補給をすることが正しいかまではわかりません。その点を自己判断で行ってしまい、間違ったことをしてしまっては大変です。
また、他の病気が発覚する可能性もあり、脳脊髄液減少症ではなく他の疾患である可能性もあります。必ず、専門の医師に診てもらうようにしましょう。