アテローム血栓性脳梗塞という病気をご存じですか?脳梗塞という病名をご存じの方は多いと思います。しかし、脳梗塞自体が、どのような病気かとなると答えることが難しいですよね。
しかも、アテロームという言葉がついて余計にややこしいです。そこで、アテローム血栓性脳梗塞について、簡単にまとめてみたいと思います。
この記事の目次
脳梗塞について
まずは、脳梗塞についての分類から、脳梗塞がどのような病気なのか見ていきます。
脳卒中と脳梗塞
脳卒中と脳梗塞。いずれも良く聞く病名ですが、どのような違いがあるのでしょうか?
脳卒中は、大きく2種類に分類できます。
- 脳の血管が詰まってしまう「脳梗塞」
- 脳の血管が破れて出血してしまう「脳出血」
したがって、脳卒中とは一つの病気ではなく、脳の血管に障害が生じることによっておこる病気の総称です。ですから、分類上は脳卒中が上位概念で、脳梗塞は脳卒中の一類型ということができます。
詳しくは、脳梗塞の前兆をチェック!しびれやめまいに要注意?の記事と脳出血の前兆とは?頭痛やしびれなどの症状に注意!の記事をそれぞれ参考にしてください!
脳梗塞の発生メカニズム(機序)による分類
脳梗塞は、脳に酸素や栄養を供給する動脈が詰まってしまうことで、脳組織が酸素不足や栄養不足に陥り、その結果として脳組織が壊死してしまう病気です。
脳梗塞は、脳梗塞発生のメカニズムによって血栓性、塞栓性、血行力学性に分類できます。
①血栓性機序は、脳内の動脈に血栓ができることにより脳血管が詰まってしまうものです。
②塞栓性機序は、他の血管で生じた血栓が剥がれて血液中を移動し、脳の動脈を塞ぐことにより脳血管が詰まってしまうものです。
③血行力学性機序は、脳内の動脈に血栓ができ詰まりつつあるが、普段は症状が出ない程度の血流がある場合に、血圧低下や貧血などが生じると虚血(血流が減少)となり、血流の届きににくい部位が壊死してしまうものです。
脳梗塞の臨床病型による分類
また、脳梗塞の治療法の違いから、大きく3つに分類できます。
- アテローム血栓性脳梗塞
- ラクナ脳梗塞
- 心原性脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞は、脳内の太い動脈や首から脳に通じる頸動脈に血栓ができることにより脳血管が詰まってしまい、その結果として脳組織が壊死する病気です。
アテローム血栓性脳梗塞の原因は、動脈硬化の中でも特にアテローム硬化と呼ばれる動脈硬化です。発生メカニズムとしては、血栓性、塞栓性、血行力学性のいずれの機序でも発生します。
アテローム血栓性脳梗塞は、血管の詰まった場所によって様々な症状がでます。また症状は、睡眠中から起床時に起こることが多いようです。
アテローム血栓性脳梗塞は、欧米人に多く見られる脳梗塞です。日本でも食生活の欧米化による生活習慣病の増加で、日本の脳梗塞発症者全体の約30%超にまで比率が高くなってきました。詳しくは、次項以降で説明していきたいと思います。
ラクナ脳梗塞
ラクナ脳梗塞は、脳内の細い動脈に血栓ができることにより脳血管が詰まってしまい、その結果として脳組織が壊死する病気です。ラクナとは、ラテン語で「小さなくぼみ、空洞」という意味で、ラクナ脳梗塞は直径15㎜以下の小さな脳梗塞です。
ラクナ脳梗塞の原因のほとんどは、高血圧による動脈硬化といわれています。発生メカニズムとしては、血栓性、塞栓性、血行力学性のいずれの機序でも発生しうるとされています。
ラクナ脳梗塞では、梗塞部分すなわち壊死する部位が小さいので症状が出ないこともあります。また、症状が出ても、それは段階的に少しずつ表われます。
ラクナ脳梗塞は、日本の脳梗塞発症者全体の約40%を占め、最も多いとされます。以前は約50%を占めていましたが、アテローム血栓性脳梗塞と心原性脳梗塞が増えたことにより相対的に比率は下がりました。これは、もともとの日本人の遺伝的要素や旧来の漬物など塩分の濃い食生活に起因する高血圧の人の多さが影響していたようです。
詳しくは、ラクナ梗塞とは?症状・原因・治療法を知ろう!認知症との関係や予後も紹介!を参考にしてください!
心原性脳梗塞
心原性脳梗塞は、心原性脳塞栓症ともいいます。心原性脳梗塞は、心臓の中で作られた血栓が血液の流れに乗って首から脳に通じる頸動脈を通り、脳の比較的太い動脈を詰まらせてしまい脳組織を壊死させる病気です。
心原性脳梗塞の原因は、急性心筋梗塞、心房細動、心臓弁膜症といった心臓病です。発生メカニズムは全て塞栓性機序となります。心臓の中でできる血栓は大きく、脳の太い動脈を詰まらせるため壊死にいたる脳組織の範囲も広くなります。
心原性脳梗塞の症状は、手足の麻痺(まひ)、感覚障害、意識障害、失語など重いものが多く、しかも日中の活動している時に突然表われることが多いようです。
心原性脳梗塞は、生活習慣病の増加などにより、日本の脳梗塞発症者全体の約30%を占めるまでに増加してきています。
アテローム血栓性脳梗塞とその原因
脳梗塞についてのアウトラインがわかったところで、さっそくアテローム血栓性脳梗塞について詳しく見ていきましょう。
アテローム硬化(アテローム動脈硬化、粥状硬化)
アテローム血栓性脳梗塞の原因は、動脈硬化の中でも特にアテローム硬化と呼ばれる動脈硬化とされますが、アテローム硬化は、どういう現象なのでしょうか?
まず、高血圧や高血糖などの理由によって血管内膜が傷つき、その傷口から血管内膜の下に入りこんだコレステロールが白血球の一種であるマクロファージに捕食され、その死骸が溜まりアテローム状(粥状)の隆起(プラーク)になり、次第に動脈を狭くしていきます。
この隆起(プラーク)は性質的に壊れやすく、血圧の上昇や心拍数の変化などをきっかけに破裂します。この隆起(プラーク)が破裂すると血栓の形成を誘発する物質を放出し、隆起(プラーク)部分に血液が固まった血栓ができます。
その結果、血管のしなやかさが失われた状態をアテローム硬化といいます。粥状硬化(じゅくじょうこうか)とも呼ばれる動脈硬化の一種です。「動脈硬化」といえば、アテローム硬化を指すのが一般的です。
ちなみに、動脈硬化にはアテローム硬化の他に、中膜硬化(メンケベルグ硬化)、細動脈硬化があります。中膜硬化は、動脈血管の中膜にカルシウムが蓄積して骨化が生じることで動脈の弾力性が失われる状態です。細動脈硬化は、主に老化によって動脈血管の弾力性が失われ硬くなる状態です。
発生メカニズム(機序)との関係
発生メカニズムとしては、血栓性、塞栓性、血行力学性のいずれの機序でも発生します。
血栓性機序の場合、アテローム硬化が進行することで脳内にある血管内の血栓が大きくなり、そのまま血管を詰まらせてしまい、脳組織を壊死させてしまいます。
塞栓性機序の場合、アテローム硬化によってできた脳内の血管の血栓が剥がれて、その先の血管を詰まらせてしまい、脳組織を壊死させてしまいます。このような動脈にできた血栓が、その先の血管を詰まらせて生じる脳梗塞を心原性脳梗塞に対比して動脈原性脳梗塞といいます。
血行力学性機序の場合、アテローム硬化によって脳内の血管が閉塞に近い状態になったところに、血圧低下や貧血が生じることで、血管が狭くなった部位から先の血流が悪くなり、血流不足から脳組織を壊死させてしまいます。
さらに、首から脳に通じる頸動脈にアテローム硬化が発生し、その血栓が脳内の血管を詰まらせて脳梗塞に至った場合もアテローム血栓性脳梗塞と診断されます。
アテローム硬化の危険因子
このようにアテローム硬化が原因となり、アテローム血栓性脳梗塞は発症します。では、そのアテローム硬化を生じさせる危険のある因子には、どのようなものがあるのでしょうか?
アテローム硬化の危険因子には、次のようなことが挙げられます。
- 加齢
- 体質
- 高血圧
- 糖尿病
- 肥満
- 脂質異常症(高脂血症)
- 運動不足
- 喫煙
- ストレス
- 酒類の飲みすぎ
アテローム血栓性脳梗塞の予防
アテローム血栓性脳梗塞を予防できるにこしたことはありません。アテローム硬化を招きかねない危険因子を取り除ければ、予防になりますね。危険因子のほとんどが生活習慣病ですから、生活習慣の改善が予防に直結するのです。危険因子それぞれについて、詳しくみていきましょう。
回避できない危険因子
一般に年齢を重ねるほどアテローム硬化の危険は高まります。また、アテローム硬化を生じやすい体質を遺伝的に受け継いでいる可能性のある方もいるかもしれません。
これらは避けることができませんが、日頃から健診を受けたり、家族の病歴を把握しておくとよいかもしれません。
生活習慣病
高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症などの生活習慣病に罹患している場合、高血圧、血中の過剰な糖分・脂質・コレステロールにより、血管内膜を傷つけやすくなり、アテローム硬化を招きます。
生活習慣病に罹患している場合は、それぞれの症状の改善に努めることがアテローム血栓性脳梗塞の予防になります。
身体に悪い生活習慣
喫煙は、高血圧を招き、悪玉コレステロールを増加させます。運動不足は、肥満を招きかねません。酒類の飲みすぎやストレスは、高血圧につながります。これらの身体に悪い生活習慣は、生活習慣病につながっていくことはもちろん、それ自体の行為でも血管に負担をかけることになります。
身体に悪い生活習慣をもつ場合も、生活習慣の改善をすることがアテローム血栓性脳梗塞の予防につながります。
アテローム血栓性脳梗塞の症状
アテローム血栓性脳梗塞は、血栓が詰まった動脈の位置や動脈の詰まり方の態様によって、様々な症状の表われ方をします。
血栓が詰まった動脈の位置による一般的症状
中大脳動脈(大脳の側頭葉に位置する動脈)が詰まると、失語症、片側の手足や顔面の同時麻痺、皮膚感覚の麻痺、意識障害などが症状として表われます。失語症は、言葉がうまく話せなくなったり、聞いても理解できなくなる症状です。これは、側頭葉が言語、記憶、聴覚に関わっているからと考えられます。
脳底動脈(脳の中心を走る動脈)が詰まると、眼球運動障害、四肢の麻痺、意識障害などが症状として表われます。
内頸動脈(頸動脈から分岐して大脳に血液を送る動脈)が詰まると、片側の感覚障害、失語症、片目が一時的に全く見えなくなるなどの症状が表われます。
椎骨動脈(鎖骨から頸椎の近くを走り脳底動脈につながる動脈)が詰まると、めまい、吐き気、ろれつが回らないなどの症状が表われます。
動脈の詰まり方の態様による症状の違い
アテローム血栓性脳梗塞の症状は、血栓が詰まった動脈の位置によるところが大きいのですが、動脈の詰まり方によっても症状の表れかたも異なってきます。
たとえば、血管が徐々に血栓ができることによって詰まったのか、他の血管の血栓が流れてきて突然血管が閉塞したのかでは、症状の表れかたも異なります。
ちなみに、アテローム血栓性脳梗塞は、睡眠中から起床時に起きやすいといわれます。これは、睡眠中は脱水傾向になりやすく、また、血圧も低下するため血流量が減ることが理由です。
アテローム血栓性脳梗塞の後遺症
アテローム血栓性脳梗塞が発症した場合、その症状は回復するのでしょうか?それとも、何らかの後遺症が残るのでしょうか?
アテローム血栓性脳梗塞の後遺症
アテローム血栓性脳梗塞だけでなく他の脳梗塞も含めて、いったん脳梗塞が発症した場合、どんなに適切な処置を施しても、血管が詰まった周囲の脳組織はダメージを受けます。
そして、そのダメージが大きいとダメージを受けた脳組織が担っていた機能を取り戻すことは難しく後遺症が残ることになります。
リハビリなどで機能が多少回復することもありますが、完全に回復して脳梗塞発症以前と同様の生活を取り戻すのは難しいとされています。
そのような意味で、アテローム血栓性脳梗塞に特有の後遺症はなく、脳梗塞の後遺症は脳梗塞が発症した場所とそのダメージの大小によって様々な表われかたをするといえます。
神経障害
運動機能や感覚機能などの司る脳組織が壊死してしまうと、次のような後遺症が表われます。
- 半身不随:体の左右どちらかが麻痺して動かない症状
- 運動障害:手足を自分の意思通りに動かせないなどの症状
- 感覚障害:熱い冷たいといった感覚が鈍ったり、痛みに気づかないなどの症状
- 視覚障害:視野の半分または四分の一が欠けるなどの症状
- 嚥下障害:食べ物や飲み物がうまく飲み込めないなどの症状
- 排尿障害:頻尿になったり、逆に尿が出ないなどの症状
高次機能障害
言語や記憶などを司る脳組織が壊死してしまうと、次のような後遺症が表われます。
- 記憶障害:過去のことが思い出せない、新しいことが覚えられないなどの症状
- 注意障害:集中力が持続しない、複数のことが同時にできないなどの症状
- 言語障害:いわゆる失語症などの症状
- 認知障害:左右上下などの空間が認識できないなどの症状
感情障害
感情を司る脳組織が壊死してしまうと、次のような症状が表われます。
- 夜間譫妄(やかんせんもう):夜になると幻覚や幻聴に襲われ、暴れたりする症状
- うつ病:気分が憂鬱だったり、気力が出ない、不眠などの症状
- 人格や精神面の変化:感情がコントロールできなくなるなどの症状
アテローム血栓性脳梗塞の治療
アテローム血栓性脳梗塞に限らず、脳梗塞を発症した場合は、いかに早く治療を開始するかが重要になります。
急性期の治療方法
脳梗塞の急性期とは、脳梗塞を発症後1~2週間までのことをいいます。血管が詰まり、血流が無くなると、脳細胞が酸素不足や栄養不足に陥り壊死してしまいます。血流が回復しなければ壊死の範囲は拡大していきますので、可能な限り早く血流を回復する必要があります。
急性期の治療では、薬物療法が用いられます。薬物療法には、抗血栓療法、抗浮腫療法、脳保護療法などがあります。そして、抗血栓療法には、血栓溶解療法、抗血小板療法、抗凝固療法があります。これらの治療法が、脳梗塞の臨床病型に応じて行われます。
急性期のアテローム血栓性脳梗塞の治療
急性期の中でも、脳梗塞を発症後3~6時間までを超急性期といいます。アテローム血栓性脳梗塞の超急性期では、血栓溶解療法が用いられます。
血栓溶解療法は、抗血栓療法の一つで、薬(t-PAまたはウロキナーゼ)を投与して血栓を溶かして血流を復活させる治療法です。
アテローム血栓性脳梗塞では、発症から48時間以内であれば、抗血小板療法と抗凝固療法も選択できます。抗血小板療法は、薬(アスピリンまたはオザグレルナトリウム)で血小板の働きを抑制し血栓をできなくする治療法です。
抗凝固療法は、薬(ヘバリンまたはアルガトロバン)によってフィブリン血栓の形成を防止する治療法です。フィブリン血栓は、脳の動脈が詰まり血流が止まることで発生しやすくなる新たな血栓のことです。
これらの抗血栓療法とは別に、発症後24時間以内であれば、脳保護療法も選択できます。脳保護療法は、薬(エダラボン)を投与することで、壊死には至っていないが機能が止まっている脳細胞を救出し壊死拡大を抑える治療法です。
さらに、発症後1~2日経過すると、脳梗塞が起きた部位の周囲がむくみます。むくみが大きくなると正常な脳細胞が圧迫を受け損傷する可能性があるので、薬(グリセロールまたはマンニトール)を投与して、むくみを抑制します。これが抗浮腫療法で、アテローム血栓性脳梗塞でも選択できる治療法です。
慢性期の治療
脳梗塞発症後1ヶ月程度になると、脳梗塞の慢性期となります。脳梗塞は再発しやすいので、注意深く経過観察しなければなりません。
また、再発予防として、アテローム血栓性脳梗塞では、抗血小板薬(アルピリンなど)が処方されます。
まとめ
いかがでしたか?アテローム血栓性脳梗塞についてまとめましたが、参考になりましたか?
アテローム血栓性脳梗塞を発症すると、とても重い症状や後遺症に苦しむことになります。その重い症状や後遺症に比べると、その原因は軽い気持ちや自堕落な気持ちによってはじめた悪い生活習慣や生活習慣病がほとんどです。
いろいろ考えさせられませんか?この記事が、あなたの生活習慣の改善の契機になれば幸いです。