脇の下に痛みが走ると「乳がんかもしれない」と心配される女性は多いでしょう。脇の下にはリンパ節があるため、異変が生じると敏感になってしまうと思います。でも、そういう場合は悩んでいないで、医者にかかりましょう。
というのも、「乳がん」とはまったく別の病気である「乳腺症」が、脇の下の痛みの原因かもしれないからです。
また乳がんの場合も無いとは限りません。年齢を重ねるに連れて乳がんを発症する確率は増加していきます。女性12人に一人は乳がんにかかると言われています。
不安に思うほどストレスは溜まっていきますし、気分は曇りがちになってしまいます。まずは病院に行く前に軽く予備知識をつけておきましょう。
乳腺症による脇の下の痛みについて
脇の下が痛むので、乳がんを心配して医療機関を受診した方が、医師から「乳腺症」と言われるケースは多いようです。医師としては「乳がんではなく、乳腺症です」と説明しているのですが、患者の方では「乳腺症って、乳がんの前兆でしょ」と理解してしまいます。
この2つはまったく別の病気です。そこでまず、乳腺症をみてみましょう。
乳腺症とは?
「乳腺」は、母乳を作り、母乳を体の外に出す臓器です。母乳は「乳腺」から「乳頭」に届きます。赤ちゃんは「乳頭」を吸って、母乳を飲むことができるのです。
その「乳腺」に異常が起きる病変を総称して「乳腺症」といいます。
30代から50代の女性に多くみられ、乳腺の線維化によりしこりや硬化などの症状が見られます。女性ホルモンの変化によって起こりやすくなる症状で胸に起こった症状のことを言います。病気というほどに危険度があるわけではなく、生理でのホルモンバランスの崩れで乳腺が張ったり、痛みが出ると言うような症状が出ます。
痛みは、脇の下や胸に起こります。この痛みの症状は一時的なものでホルモンバランスが戻ると症状は和らぎます。良性の疾患ですので危険度は低いですが、悪性疾患の場合では乳がんの可能性もありますので、年に1回の検査は行ったほうが良いでしょう。
「嚢胞」や「乳管乳頭腫症」も乳腺症である
乳腺症に含まれる病気のひとつに「嚢胞(のうほう)」があります。これは、乳腺に液体が詰まった袋状のものができてしまう病気です。「嚢」は「ふくろ」という意味です。
また「乳管乳頭腫症(にゅうかんにゅうとうしゅしょう)」は、細胞が過剰に増えてしまい、それが乳頭から漏れ出てくる症状を引き起こします。
そのほか、乳腺症に含まれる病気は10種類近くあります。
乳がんではない
乳がんも、乳腺に異常を起こしますが、「乳がん」は「乳腺症」には含まれないのです。乳がんが疑われた場合も乳腺が疑われた場合も、同じように乳腺の細胞を採取して、顕微鏡で、がん細胞が含まれていないかどうか調べます。
このとき、がん細胞が1個でも見つかったら、もう「乳腺症」とは呼ばずに、「乳がん」と診断されるのです。
また同様に胸に起こる炎症の病気に乳腺炎と言う病気があります。この病気も乳管や乳腺に起こる不具合が原因で起こる病気で、授乳を行っている女性の2割ほどに発症すると言われています。
乳腺症の症状は?
次に紹介する文章は、30代後半の女性が、最初に受診した医師に不信感を持ち、セカンドオピニオンを求め、別の医師に相談した内容です。一部要約しています。
「右胸の乳首を含む乳房全体が、チクチクと痛みました。生理が近くなると痛みが強くなります。生理後は、痛みが弱くなりますが、痛みは続きます。大学病院でマンモグラフィーとエコーの検査を受けましたが『異常なし』とのこと。医師に『痛みの原因はなんですか』と尋ねると、医師は『原因不明で乳房が痛くなることはよくある』と回答でした。しかし、その後も、右乳房は痛み続け、次第に、脇の下、肩なども痛み始めました。この症状で『乳がんのリンパ節転移』という可能性はないものなのでしょうか」
この相談を受けた医師の回答は「実際に診察しないと断言できませんが」と断った上で、「この症状であれば乳腺症でしょう」という内容でした。
- マンモグラフィーやエコーでがんのようなものが見られない
- 30代から閉経期の方の乳腺症でよくみられる症状
というのが根拠のようです。
さらに、患者が、乳房に続いて脇の下などが痛くなったと訴えていることについては、この医師はこう答えています。「患者が、事務業務などでパソコンを頻繁に使っている場合、乳腺症に加えて、首や腕などのコリが重なった可能性が考えられます」。つまりこの医師は、この症状と、最初の病院での診断で、乳がんを否定しているのです。
別の医師の見解も紹介しておきます。こちらの医師は、乳腺症の症状として、次の項目を紹介しています。
- 乳房のしこり
- 鈍い痛み
- 脇の下が腫れる
- 脇の下が引きつる
- 肩こりのような痛み
- 乳房から乳首に抜けるような激痛
乳腺症の原因
乳腺は生殖器官のひとつですので、女性ホルモンが乳腺の働きを調整しています。また、乳腺は乳房の中に収まっていますが、その乳房の容積は、生理の前後で30~40%も増減します。さらに乳房は、妊娠や授乳によっても変化を受けるのです。
つまり乳房や乳腺は、極めて微妙なバランスが保たれて初めて、正常に機能しているのです。ところが女性は30歳を過ぎたあたりから、ホルモンバランスが崩れ始めます。50代ごろに閉経となると、更年期障害という症状が出ます。
そして乳腺症も、こうした女性特有の体の変化の中で発症するとされています。
乳がんによる脇の下の痛みについて
母乳を作る「乳腺」は、「乳管」と「小葉」という器官で構成されています。
いわゆる「乳がん」は、「乳管がん」と「小葉がん」のことをいいます。ですので、一般の人が医師から「あなたは乳腺症です」と言われたら、「乳がんに進行するかも」と心配するのは当然のことともいえるのです。
乳がんでも乳腺症でも、「脇の下のリンパ節が腫れる」といった症状は同じです。違いは、乳腺症の場合は脇の下が痛むのに対し、乳がんの場合、初期では一般的には、痛みがないということです。ただ、乳がんでも進行すると、脇の下に痛みが現れます。
初期症状として現れる
乳がんの場合、最初は乳房にしこりとして現れ、進行するとリンパに転移します。それで、乳房に最も近いリンパ節がある脇の下に違和感が現れるのです。
その他の症状では、腕がしびれたり、腕がむくんだりします。
乳がんの検査と治療は?
乳腺症と乳がんの検査は、同じ内容になります。それは、乳腺症が強く疑われても「乳がんではない」ことを明らかにする検査をしなければならないからです。
「乳がんではない」検査は、「乳がんを見つける」検査と同じです。
体に負担が少ない検査から
検査は医師による問診、視診、触診から始まります。続いて、マンモグラフィー検査と超音波検査を行います。これは、体に負担が少ない検査から始めるという原則があるからです。
マンモグラフィー検査は、乳房専用にX線撮影検査です。機械を使って乳房を押しつぶして、できるだけ「平らに」して撮影するので、通常のX線撮影検査では、見つけることが難しい小さながんを見つけることができる可能性があるのです。
この時点で、「乳がんではなく乳腺症である」と診断できることもあります。
細胞を見る
マンモグラフィー検査や超音波検査で、乳がんが疑われると、乳房の細胞や組織を切り取って調べます。細胞は一般の注射器を指して採取し、組織は局所麻酔を打って切り取ります。これは乳房を傷つけるため、体への負担が大きい検査といえますが、これで腫瘍が良性なのか悪性なのかが分かります。
ただ、ここまでの検査をしても良性なのか悪性なのか分からないことが、まれにあるそうです。その場合、乳房をさらに大きく切除して検査します。
乳がんの基礎知識
乳がんは「転移しやすいがん」といわれています。転移先は、骨、肺、肝臓などの人の生死に関わる臓器なので深刻です。ある病院は、「乳がんの手術でがんを切除しても、3割ほどは再発や転移することがある」と指摘しています。
乳がんの治療は、「そこにあるがん」との戦いと、「転移したがん」との戦いの、2つの戦いに挑むことになるのです。
生活環境が関係している
乳がんを発症する人は、年間3万人以上で、死亡者は年間1万人以上といわれています。しかも、乳がんの患者は増加傾向にあります。遺伝の可能性もあるそうですが、「現在も増えている」という現象から、食生活やストレスといったライフスタイルの影響が大きいだろうと考えられています。
遺伝の原因を取り除くことはとても難しいですが、食生活を良好なものに変えることは不可能ではありません。肥満も、乳がんの危険因子のひとつといわれています。
女性ホルモン
そしてもうひとつ、乳がんの原因として指摘されているのが、女性ホルモンです。妊娠、出産、生理などを正常に保つ女性ホルモンは、複雑な働きをしています。
乳がんを発症しやすい方として、生理が不順な方や、独身女性や妊娠したことがない方などが挙げられます。
その他の脇の下の痛みが出る病気
脇の下の痛みが発症しやすいのは乳腺が大きく発達している女性に現れやすい症状ですが、乳腺症や乳がんや乳腺炎の他にも考えられる原因が幾つかあります。
男性にも女性にも関係する病気について紹介しますので、詳しい症状などについて見ていきまそう。
肋間神経痛
肋間神経痛は肺や心臓を守っている肋骨にそって走っている神経に痛みが生じる病気です。主に胸や脇の下や背中やみぞおちなどに痛みの症状を訴える患者が居ます。
肋間神経痛の症状
肋骨に沿っている神経に突然激痛が走ります。多くの場合が右か左のどちらか一方にだけ痛みが発生します。なんの前触れもなく痛みが突然あらわれるので、命に関わる病気なのではないかと心配する人も少なくありません。
痛みの症状には3つの種類がります。一つは非器質性疼痛(ひきしつせいとうつう)です。これはうつ症状や精神的ストレスや不安感など精神的心因的な要因によって起こる痛みです。身体検査では異常が確認できない場合にこの可能性が出てきます。心因的なものにより脳が痛みを認識する神経障害で、何かしらに集中している時は痛みの症状が和らぎます。
二つ目は神経障害性疼痛(しんけいしょうがいせいとうつう)です。外傷などによって神経が痛むことが原因で、外傷が治った後も神経に痛みが残る症状です。
三つ目は侵害受容性疼痛(しんがいじゅようせいとうつう)です。これは、神経の終末に存在する侵害受容器が熱や機械刺激によって刺激されることで痛みの症状を発症するものです。
肋間神経痛の原因
肋間神経痛の詳しい原因はまだはっきりしていません。おおよそ、関係していると考えられるものが幾つかあります。
大きな原因としてはストレスが考えられます。人間関係や会社でのストレスが影響し神経に異常が発生し痛みが発症します。さらに、この原因との関係性としてもう一つの原因、筋肉の硬直が挙げられます。長時間の緊張状態やストレスにより筋肉が緊張し血行が悪くなることや肩凝り、背中の凝りが起こり、同時に背中、背骨、骨盤に歪みが生じて神経に痛みの症状が現れます。
これらの事が肋間神経痛の原因と言われています。現時点では、骨盤や骨の歪みを治すことや、体操、運動、整骨、ストレスの発散などの方法で治療が行われています。
肋間神経痛に関する詳しい記述は肋間神経痛はストレスが原因なの?治療方法は?こちらの記事を参考にしてみてください。
帯状疱疹
帯状疱疹は神経を通って伝達するウィルスによって引き起こされる皮膚病です。痛みはチクチクと突き刺すような痛みが特徴的です。人生で3割の人に発症する非常に多く発生する病気でもあります。
帯状疱疹の症状
最初に痛みが起こります。痛みは皮膚表面に走るピリピリ、チクチクと言う表現の痛みで、最初はかゆい程度の痛みから始まり痛みがどんどん強くなります。痛みの症状から数日後に皮膚表面に赤い帯状の湿疹などの症状が出始めます。
1週間ほどで痛みのピークを迎え、水疱やただれのような皮膚症状になります。その後次第に症状は治まっていき自然治癒します。しかし、後遺症として神経痛のみがいつまでも残る可能性があります。
特に高齢者での発症では、神経痛が残りやすい傾向があります。
痛みは脇腹や顔や足など皮膚のどこにでも出来ます。右脇、左脇などどちらか片方に非対称に症状が出ます。
帯状疱疹の原因
発症者が若ければ、患部を清潔に保ちながら経過を観察し自然治療で後遺症なく完治を目指すことが出来ます。僅かに1週間近く皮膚症状は治っても痛みが継続する可能性がありますが、次第に治っていきます。
しかし50代を超える患者の場合、神経痛が残りやすい傾向があります。帯状疱疹に有効な市販薬はありませんので、皮膚科で薬を処方してもらう必要があります。皮膚科で処方される薬も皮膚症状の発症から48時間以内に使用しないと十分な効果が得られません。
もし発症した場合は早めに医師に相談する事が重要になります。神経痛の治療にはブロック注射での処置が行われます。麻酔科やペインクリニック、皮膚科、内科などで検査が受けられるのでこれらの病院へ早めにかかりましょう。
帯状疱疹に関する詳しい記事は
こちらの記事を参考にしてみてください。
リンパ節疾患
脇の下はリンパ管が多く通っているところです。脇の下が痛む場合や、腫れなどの症状が出ている場合はリンパ節疾患の可能性があります。
リンパ節疾患の症状
リンパ節炎で最も多いのは、急性化膿性リンパ節炎と言うもので扁桃炎や咽頭炎、中耳炎、外傷などで身体に化膿創ができることによってそこからウィルスがリンパに炎症を起こし、腫れや痛みを発症します。
その他にも発熱を起こす場合もあります。中には痛みなどの症状を伴わない腫れの症状が出ることがあります。その状態で腫れが大きくなったり固い場合は悪性のリンパ腫やがんの可能性もあります。
リンパ節疾患の原因
原因は化膿創が出来ることが大きな原因です。猫の引っかき傷でもそこから細菌感染が起こりリンパが腫れることがあります。
細菌やウィルスがリンパに侵入しリンパ節に達したことで、これらの症状が現れます。脇の下に流れているリンパ節は腋窩リンパ節と言います。
リンパ節には菌やウィルスの感染を全身に広げない役割を持っており、リンパ節中のリンパ液で菌を撃退するためにその付近が大きく腫れるなどの症状が出ます。また、女性ホルモンの影響で血液循環が悪くなりリンパ節が腫れることもあります。
もし、風邪など明確な原因が無いのにリンパが腫れる場合は念のため検査をした方がいいでしょう。
まとめ
脇の下に痛みが生じて、それがしばらく続くようなら、医師は、迷わず乳腺外科を受診するようすすめています。
ただ、「乳がんではなく乳腺症」と診断が下っても、その後しばらくして乳がんを発症することがあるそうです。このケースでは、患者は「最初の『乳腺症という診断』は誤診だったのではないか。乳がんを見落としたのではないか」と疑いたくなります。
しかしこれこそが、「脇の下の痛み」の恐さだといえるでしょう。繰り返しますが、疑わしいときは医師の診察を受けてください。
関連記事として、
・乳房の痛みの原因を紹介!胸の病気やホルモンバランスについて
これらの記事も合わせてお読みください!