前日までは身体に何ら異常もなく普通に生活していたのにもかかわらず、一晩寝て次の日に目覚めると首に痛みが走り、首を普段通りに動かすことができなかったという経験をしたことがある人は少なくないのではないでしょうか?
このような「寝違え」という症状が現れると、いつものような日常の何気ない行動で身体を動かすたびに首に痛みが走ることで、身体を動かすことに臆病にならざるをえず、日常生活にも支障をきたす場合があります。
そして、寝違えを早く治そうと、多くの人が首の可動域を広げようと痛みを我慢しながら無理に動かしたり、手でマッサージをしたりすることがあるようです。しかしながら、そのような対処法は、実は寝違えを更に悪化させてしまう危険性が高いのです。
そこで今回は、首の寝違えの原因やその治し方・対処方法などについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
首の寝違えとは?
そもそも首の寝違えとは、どのような症状・状態のことなのでしょうか?首の寝違えの原因や対処方法について理解する前提となる寝違えの基本的な症状・状態について知っておく必要があります。
そこで、まずは首の寝違えにおける基本的な症状や状態について、再確認しておきたいと思います。
首の寝違えとは?
首の寝違えとは、寝起きの際に首に痛みが生じる状態・症状のことを言いますが、正式な病名ではありません。
つまり、首の「寝違え」という言葉は、たしかに一般に浸透しており良く用いられる言葉ですが、あくまでも首に痛みが走る状態を示したものに過ぎず、医学的な専門用語というわけではないのです。
寝違えの症状
首の寝違えの症状は、主に首に生じる筋肉の強張りと首を動かす時に走る痛みです。そして、首を動かす際に走る痛みは、筋肉痛のような痛みの場合もあれば、激痛が走る場合もあり様々です。場合によっては、筋肉の強張りや首を動かす時の痛みが、首から肩や背中にまで生じることもあります。
また、このような首を動かす際に走る痛みによって、身体を動かすことに臆病にならざるをえないので、首の動きに制限がかかり日常生活にも支障をきたす場合があります。
このような首の寝違えは、首の左右いずれか片方に現れる場合が多いものの、左右同時に現れて首をほとんど動かすことができない場合も稀にあるようです。
首の寝違えの症状の程度も、数時間から1日程度で回復する首コリに近いような軽度の場合もあれば、回復までに1週間程度を要する重度の場合もあります。
首の寝違えの原因
首の寝違えの多くの場合で、前日までは身体に何ら異常もなく普通に生活していたのにもかかわらず、一晩寝て次の日に目覚めると首に違和感や痛みが走るようになっています。
この一晩の間に、何が起きているのでしょうか?そこで、首の寝違えが生じる原因について、ご紹介したいと思います。
寝違えの発症メカニズム
首の寝違えが発症するのは、睡眠中に何らかの不自然な力が加わることによって、首の筋肉に炎症が生じる、あるいは神経が圧迫されることで一時的な麻痺になるものと考えられています。
筋肉などの炎症
まず、睡眠中に寝相が悪くなり、本来の睡眠中には無いような強い負荷・負担が首などに加わると、首の筋肉組織や関節周りの組織を損傷させてしまいます。すると、患部では血管収縮や筋肉の緊張が発生して、血行不良となって痛みを起こす炎症性物質が発生します。
この痛みを引き起こす炎症性物質が、痛みの原因になるのだと考えられます。筋肉組織に血流が不足する筋虚血の場合は痛みも軽度となりますが、首の靭帯を損傷して炎症となる場合は痛みも重度になる傾向があります。
神経の圧迫
一方で、睡眠時の寝相が悪くなり、腋窩神経(えきかしんけい)が圧迫されることで、一時的な神経の麻痺が起こり、寝違えが発症するという見解が近年急速に広がっています。
腋窩神経とは、脊髄から分岐して鎖骨から上腕方面に向かう腕神経叢(わんしんけいそう)という神経の束から、更に分岐して腋の下(脇の下)を走行する末梢神経のことです。この腋窩神経は主に肩にある三角筋の動きを支配して、腕を伸ばす役割を担っています。
この腋窩神経の分岐元となる腕神経叢は、脊髄から分岐して首・顔・頭の方面に向かう頚神経叢(けいしんけいそう)と相互に連結しています。そのため、横向き姿勢で寝続けるような場合に、腋窩神経が強く圧迫されると、その影響が寝違えとして現れると考えられるのです。
寝違えの原因は複数ある
首の寝違えるメカニズムは、基本的に睡眠の最中に首・肩・背中などに不自然な形で力が加わることによって、筋肉が炎症を生じたり、あるいは神経が圧迫されて一時的な麻痺に陥ることにあると考えられています。
そもそも睡眠中は、誰もが無意識的に寝返りをすることによって、身体の一部に体重がかかって、その部分の血行が停滞するのを防止しています。そして、寝返りをすることによって、疲労回復に必要な血流が確保され、結果として質の良い睡眠が可能となっているのです。逆に言えば、睡眠中に寝返りをしなければ、同じ姿勢が続くことになって体重がかかる部分の血行が悪化することから、血流が悪化して疲労がとれず熟睡できないのです。
このような質の良い睡眠に必要不可欠な寝返りが不足するときに、首・肩・背中などに不自然な形で力が加わることによって、首の寝違えが発生しやすいと考えられています。それゆえ、寝返りを不足させるような事情や睡眠時の姿勢を悪くする事情が、首の寝違えの原因と言えるでしょう。その首の寝違えの原因となる寝返りを不足させるような事情や睡眠時の姿勢を悪くする事情としては、次のような事情が挙げられます。
- 寝る前の飲酒
- 枕が合わない
- ベッドや敷布団の硬さが合わない
- 極度の疲労
- 精神的ストレス
寝る前の飲酒
飲酒は、睡眠の質を低下させることが良く知られています。アルコールが睡眠の質を低下させる具体的な理由は、いくつか存在します。
まず、アルコールが肝臓で分解されてできるアルデヒトという物質は、自律神経のうち交感神経を活性化します。本来、睡眠中は副交感神経が優位となるはずですが、交感神経が優位となることにより脳や身体が覚醒状態に近くなり、眠りが浅くなるとともに筋肉が緊張して寝返りをしにくくなります。
また、アルコールには利尿作用があり、入眠してもトイレに行きたくなり目覚めることで、睡眠の質が低下します。
さらには、アルコールには筋弛緩作用があり、筋肉を脱力させてしまうのです。喉の気道に関わる筋肉が弛緩すると呼吸が苦しくなり眠りが浅くなるほか、過度のアルコール摂取をすると全身の筋肉が脱力して寝返りができなくなります。
枕が合わない
枕の高さが身体に合っていなければ、睡眠時の姿勢が不自然な形となりやすく、寝返りもしにくくなります。睡眠時の姿勢が横向きの際に枕が低いと、首の左右どちらかが曲がり、もう一方が伸びる形となり、首の筋肉に負荷がかかります。
また、枕の硬さが合わないと、うつ伏せになりやすく、首が不自然な形となりやすいのです。
ベッドや敷布団の硬さが合わない
睡眠時に身体を横たえるベッドや敷布団が、柔らかすぎても硬すぎても、睡眠時の姿勢に悪影響となります。柔らか過ぎると寝返りがしにくくなりますし、硬すぎると体重が上手く分散されず身体の特定の一部分に体重がかかり過ぎてしまいます。
極度の疲労
身体が極度に疲労していると、脳は深い睡眠に入っても、身体が寝返りを打てないという事態になることがあります。
精神的ストレス
精神的ストレスは、自律神経のバランスを崩す要因となることが知られています。アルコール摂取の場合と同様に、精神的ストレスによって睡眠中に交感神経が優位となれば、筋肉などの身体が緊張してしまい、寝返りをしにくくなる可能性があります。
首の寝違えの治し方・対処方法
このように首の寝違えの原因は複数あり、前日まで身体に異常がなくとも、一晩寝て次の日に目覚めると首に違和感や痛みが走ることがあるのです。
それでは、実際に首の寝違えが発症してしまった場合、どのような対処や治療をすべきなのでしょうか?そこで、首の寝違えの対処法や治療法について、ご紹介したいと思います。
安静にする
首の寝違えは急性症状ですので、症状の程度にもよりますが、早い段階で痛みのピークを迎えて徐々に症状は回復傾向を辿り、1週間程度でほぼ症状は改善されるのが通常です。
ですから、無理に首などの患部を動かそうとせずに、可能な限り安静にしていることが早期回復には大切になります。
無理に動かしてはダメ
たしかに、首の動きが寝違えの痛みによって制限されると、仕事や日常生活にも大きな影響が及びます。また、四十肩やぎっくり腰などの場合には、動ける範囲で動くことによって患部を早い段階でほぐすことが早期回復につながるとされますから、首の寝違えの場合も同様に考えてしまいがちです。
しかしながら、首の寝違えの場合は、無理のない範囲で動かそうとしても、すぐに激痛が走ってしまいます。そのような状況で首を動かそうとすると、すぐに無理のない範囲を超えてしまい、むしろ症状悪化を招きかねません。
ですから、首の寝違えが発症した場合には、早く仕事や日常生活に復帰したいという焦りを抑制して、症状のピークが過ぎるまでは安静にすることが重要になるのです。
マッサージも控える
肩こりのように筋肉が緊張したり強張っているときには、たしかに患部をマッサージすることが筋肉をほぐすことにつながり、症状の緩和効果を期待することができます。
しかしながら、首の寝違えのように筋肉組織などに炎症が生じている場合には、患部のマッサージは逆効果です。むしろ、患部をマッサージすることによって、症状を悪化させてしまう危険性があるので注意が必要です。
患部を冷やす
首の寝違えの発症直後は、多くの場合で筋肉組織などに炎症が生じています。炎症による痛みが現れている場合は、患部の場所を冷やすと痛みを抑制する効果があります。
氷や保冷剤をタオルでくるんだ上で患部に当てて冷やし、ある程度冷やしたら患部の冷感が無くなり患部の感覚が戻るまで冷却を控えます。このような患部の冷却と冷却の停止を繰り返すと、冷感による痛みの抑制とともに、血行の回復も促されて痛みの元となる炎症性物質が血流に回収されて徐々に痛みが治まっていきます。
患部を温めるのは控える
血行促進という観点では、患部を温めたほうが良いと思われるかもしれません。しかしながら、筋肉組織の急性炎症は熱感を有するのが一般的で、この熱感は血管が局地的に拡張して血液が集中するためです。そして、血液の集中に伴い炎症性物質による痛みが現れます。ですから、このような急性炎症による熱感に対しては、お風呂などで温めることは逆効果であり、患部を冷やして血管を収縮させることが痛みの抑制につながるのです。
同様の理由から、消炎鎮痛効果のある湿布を用いる際は、温感湿布よりも冷感湿布のほうが望ましいと言えるでしょう。
症状のピークを過ぎてからストレッチをする
このように首の寝違えの発症直後は、患部の冷却をしつつ、安静にしていることが非常に重要となります。そして、患部の冷却と安静によって痛みなどの症状がピークを過ぎたら、ストレッチや体操を実施することにより症状の早期解消を促します。
腕引きストレッチ法(腕引き体操)
腕引きストレッチは、医療を内容とするマンガ「ゴッドハンド輝」で紹介された寝違え解消法で、効果が高いと話題になった方法です。具体的には、次のような要領でストレッチを行います。
- 椅子に腰かけて、できる範囲で背筋を伸ばし姿勢を正します。
- 首は動かさず、首の痛みがある側の腕を自分で後ろに引き上げます。
- 無理のない範囲で腕を後ろ方向に引き上げて、止まった所で20秒程度キープします。
- 20秒経過したら腕を下げ戻し、10回を目安回数として繰り返します。
- 繰り返す最中は、首の痛みや違和感にも気を配り、痛みなどがあれば即中止しましょう。
この腕引きストレッチのポイントは、肩まわり・肩甲骨周りを動かすことによって、圧迫された腋窩神経を解放しようとするものです。脇ストレッチや肩甲骨ストレッチなどとも呼ばれて名称は様々ですが、腋窩神経の支配する肩の筋肉を動かして首の寝違えを解消しようとする点で違いはありません。
イメージがつかめない場合、有名動画サイトを検索すれば簡単に動画が見つかりますので、探してみてください。
肘引きストレッチ法(肘引き体操)
肘引きストレッチは、腕引きストレッチと同様に肩の部分を動かすことによって、寝違えを解消しようとする寝違え対策法です。具体的には、次の要領で実施します。
- 椅子に腰かけて、できる範囲で背筋を伸ばし姿勢を正します。
- 首は動かさず、首の痛みがある側の腕の肘を曲げて、その手指を腰に当てます。
- その状態から、無理のない範囲で肘を後方へ引き、止まった所で20秒程度キープします。
- 20秒経過したら腕を下げ戻し、10回を目安回数として繰り返します。
- 繰り返す最中は、首の痛みや違和感にも気を配り、痛みなどがあれば即中止しましょう。
症状の改善がなければ病院を受診する
首の寝違えは急性炎症で、前述のように早い段階で痛みのピークを迎えて、その後は徐々に症状が回復傾向を辿り、1週間程度でほぼ症状は解消されるのが通常です。
ですから、症状の改善が見られない場合や症状が重度で痛みに耐えられない場合などは、整形外科などの病院を受診しましょう。
また、手足のしびれなど他の症状も見られる場合は、頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症などの可能性も考えられるため、早期に病院を受診すべきです。
ちなみに、整体院などへ赴くことを検討される人もいるかもしれませんが、まずは病院で原因をしっかりと把握してからにすべきです。というのも、原因も把握せずに整体の施術やケアを受けることは、無理に患部を動かすことと同じで症状の悪化を招きかねないからです。
寝違えの予防法
このように首の寝違えの対処法について説明しましたが、首の寝違えが起こらないことに越したことはありません。そこで、最後に寝違えの予防法について、簡単にご紹介したいと思います。寝違えの原因と重なりますが、次のようなことを意識すると寝違えの予防につながるでしょう。
- 寝る前に飲酒しない、過剰飲酒や暴飲暴食をしない。
- 自分に合った枕を用意する。
- 自分に合ったベッドマットや敷布団を用意する。
- 疲れを溜めない。
- 精神的ストレスを溜めない。
まとめ
いかがでしたか?首の寝違えの原因やその治し方・対処方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、首の寝違えが起きると、身体を動かすたびに首に痛みが走ることで、身体を動かすことに臆病にならざるをえず、日常生活にも支障をきたす場合があります。また、ぎっくり腰の対処法から、多くの人が首の可動域を広げようと痛みを我慢しながら無理に動かしたり、マッサージをしたりする傾向があるようです。
しかしながら、そのような対処法は、実は寝違えを更に悪化させてしまう危険性が高いのです。それゆえ、首の寝違えの対処法としては、患部の冷却と安静が非常に大切になります。首の寝違えとぎっくり腰は、症状が似ていますが対処法はまるで異なるのですね。本記事などを参考に、首の寝違えについて正しい対処ができるようにしましょう。
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