季節の変わり目などに、身体中にゾクゾクとした寒気を感じたら、その後に発熱して風邪をひいたという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか?また、多くの方が風邪引きによる発熱初期に、身体の芯からブルブルと震えるような悪寒を感じたこともあるのではないでしょうか?
このような寒気や悪寒は、鼻水・鼻づまり・咽頭痛(のどの痛み)・咳(せき)・頭痛・発熱といった風邪の代表的な症状の一つに数えられます。寒気や悪寒に襲われると、とても不快で嫌な感覚を味わうことになりますが、実は寒気や悪寒と発熱があることは体内の免疫システムが正常に働いている証左でもあるのです。
そこで今回は、風邪に感染した際に寒気や悪寒が生じるメカニズム、寒気や悪寒の原因とその対処方法などについて、ご紹介したいと思いますので参考にしていただければ幸いです。
寒気と悪寒
そもそも「寒気」と「悪寒」の違いを、ご存知でしょうか?何気なく「寒気」と「悪寒」という言葉を使っていますが、その違いを明確に意識したことがある人は多くないでしょう。
そこで、まずは寒気と悪寒の違いを確認しておこうと思います。
一般的な定義
寒気の意味について、いくつかの国語辞典をあたり総合すると、概ね次のよう意味づけ・定義がされています。
- 寒い感覚
- 病気を原因とする不愉快で不快な寒さを感じること。悪寒と同義。
このように一般的な日本語における意味・定義は、寒気と悪寒は同じであるということになります。
医学用語としての寒気と悪寒の違い
たしかに、日常的に使用する一般的な意味については、寒気と悪寒に違いはありません。
しかしながら、医学用語としての寒気と悪寒については、その意味・定義に違いが存在するのです。つまり、寒さを感じる程度に応じて段階的な差があるのです。
医学用語としては、寒さを感じる程度が強い方から、悪寒戦慄(おかんせんりつ)、悪寒、寒気という順番に明確な差が設けられています。
寒気
寒気とは、病気を原因とする不愉快で不快な寒さを感じることを言います。寒さを感じる程度は、上着を1枚余計に着たくなる程度とされています。
悪寒
悪寒とは、病気を原因とする不愉快で不快な寒さを感じることで、寒気よりも寒さを感じる程度がやや強い表現となります。寒さを感じる程度は、上着や毛布を2枚以上余計に着たり、被りたくなる程度とされています。悪寒に身体の震えが伴う場合は、悪寒戦慄になります。
悪寒戦慄
悪寒戦慄とは、病気を原因とする不愉快で不快な寒さを感じることで、寒気や悪寒よりも寒さを感じる程度が強く、最上級の表現となります。
寒気や悪寒は余計に着こむことで不快な感覚を止めることができますが、悪寒戦慄では歯が鳴るような震えが伴い、その震えを自らの意思で止めることができません。
寒気・悪寒の原因
このように寒気・悪寒・悪寒戦慄の違いについて確認しましたが、それでは寒気や悪寒はどうして起きるのでしょうか?
寒気や悪寒が生じる原因について、ご紹介したいと思います。
寒気・悪寒の原因
寒気や悪寒の原因は、基本的にウイルスや細菌に感染して体内に侵入した病原体に対して、免疫システムが働き発熱による体温の上昇が発生することにあります。
つまり、体内に侵入した異物であるウイルスや細菌を排除する人間に備わった生体防御反応の一環として、寒気・悪寒・悪寒戦慄は生じるのです。
寒気・悪寒を引き起こす病気
基本的にウイルスや細菌などに感染して発熱する感染症については、寒気や悪寒を引き起こす病気となる可能性があります。その感染症の中でも、最も代表的な感染症が、風邪(かぜ症候群)です。
風邪(かぜ症候群)
風邪は、ウイルスに感染して生じる感染症です。風邪を引き起こす病原体であるウイルスは様々ですが、主に次のようなウイルスが風邪の原因ウイルスとなります。
- ライノウイルス:最も一般的な原因ウイルスです。
- コロナウイルス:冬場に流行しやすいウイルスです。
- アデノウイルス:夏場に流行しやすいウイルスで、プール熱などの原因となります。
- インフルエンザウイルス:冬場に流行する非常に感染力の強いウイルスです。
風邪は、これらのウイルスが感染者の咳やくしゃみの飛沫を通じて、主に上気道(のど・鼻)の粘膜に付着することで感染します。ウイルスに感染すると、くしゃみ・鼻水・鼻づまりといった鼻症状、咽頭痛・咳(せき)といった喉の症状、頭痛、発熱といった症状が現れます。
また、ウイルスにも特徴があり原因ウイルスによっては、吐き気を催したり、お腹を下したりする症状が現われたり、インフルエンザウイルスでは強い関節痛といった症状が現われることもあります。
その他の感染症
風邪の他にも、尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎など)や消化器感染症(胃炎・腸炎など)によっても病原体の排除の過程で発熱して寒気や悪寒が生じる可能性があります。
風邪における寒気・悪寒の発生メカニズム
このように体内に侵入した異物であるウイルスや細菌を排除する人間に備わった生体防御反応の一環として、寒気・悪寒・悪寒戦慄は生じます。
それでは、具体的にどのようなメカニズム・仕組みで、風邪における寒気や悪寒が生じるのでしょうか?そこで、風邪における寒気や悪寒が発生するメカニズムについて、ご紹介したいと思います。
発熱による体温上昇
身体の中に風邪の病原体であるウイルスが侵入すると、異物であるウイルスを除去しようと免疫システムが働きます。
白血球やマクロファージなどの免疫細胞がウイルスを感知すると、免疫細胞はウイルスを捕食して除去しようとする一方で、サイトカインという物質を生み出します。
このサイトカインが血流に乗って脳に到達すると、脳の視床下部に存在する体温調節中枢が体温を上昇させるように全身に命令を出します。
そして、体温調節中枢の命令によって、汗腺を閉じたり、血管を収縮させて身体から放熱しないようにします。また、発熱初期に身体がブルブルと震えて悪寒戦慄が起こるのは、筋肉を振動させて筋肉で熱を生み出すためだとされています。
発熱による体温上昇の理由
このように免疫システムとウイルスの攻防が始まると、身体は発熱をして体温を上昇させます。このように身体が発熱する理由は、主に二つあります。
ウイルスは比較的低い温度で活性化して増殖するという性質があり、発熱による体温の上昇が体内に侵入したウイルスの増殖を抑制することが、身体が発熱する理由の一つです。
また、発熱による体温の上昇は免疫細胞である白血球の動きを活性化させることが、体が発熱する二つ目の理由です。つまり、身体の発熱は、白血球の活性化を通じて、一時的に免疫力を高める効果をもたらすのです。
寒気・悪寒の発生メカニズム
このように免疫システムとウイルスの攻防が始まり身体が発熱する過程において、身体からの放熱をしないために、特に体表の皮膚血管が収縮するとともに、汗腺や毛穴を閉じる為に立毛筋という筋肉が収縮します。
この皮膚血管と立毛筋の収縮は、脳の体温調節中枢が設定した体温に達するまで継続されます。そして、皮膚血管と立毛筋が収縮している間は、一時的に自律神経が失調状態となっており、そのために皮膚血管と立毛筋の収縮による異常な感覚として寒気や悪寒が感じられるのです。
体温が体温調節中枢の設定した温度に達すると、それ以上体温を上昇させる必要がなくなるので、放熱防止のための皮膚血管と立毛筋の収縮も不要になります。高熱が出ている状態ではありますが、皮膚血管と立毛筋の収縮は解除されて、自律神経の失調もなくなり、結果として寒気や悪寒という異常感覚も消失するのです。
ですから、寒気・悪寒や悪寒戦慄は外気温との関係性がなく、あくまでも体温上昇に伴う血管・筋肉の収縮や筋肉の振動とそれに付随する自律神経の失調によるものなのです。
ちなみに、この立毛筋の収縮によって毛穴の部分が少し膨らむのですが、この膨らみが鳥肌と呼ばれるものです。
風邪における寒気・悪寒の対処方法
それでは、風邪の病原体であるウイルスに感染してしまい、発熱とともに寒気や悪寒を感じる場合に、どのような対処をしたら良いのでしょうか?
そこで、風邪における寒気や悪寒の対処法について、ご紹介したいと思います。
身体を温める
風邪が原因で寒気や悪寒がする場合、免疫システムが働き始めている徴候と言えるでしょう。そして、脳の体温調節中枢が設定する体温に上昇するまで、寒気や悪寒は続きます。
寒気や悪寒を感じる場合は、基本的に厚着をするか布団に入って身体を温めることで、身体から放熱をしないように手助けをすると良いでしょう。というのも前述のように、身体が発熱をして体温を上昇させることで、免疫細胞を活性化するとともに、ウイルスの活動を抑制するからです。
また、身体を温める上で見逃しがちなのが首周りです。厚着をしても布団に入っても、首周りが露出していて寒気が治まらないということが良くあります。厚着の際にネックウォーマーを装着したり、布団に入る際にタオルを首周りにかけるなど対策法を用意しておくと良いかもしれません。
解熱剤の服薬について
発熱初期に解熱剤を服薬することは、発熱による免疫細胞の活性化とウイルス活動の抑制を邪魔してしまい、免疫システムによる自然治癒力を低下させることがあると指摘されています。つまり、生体防御反応である発熱を解熱剤の服薬で無理に止めると、ウイルスの活動が抑制されず、結果として風邪の回復を先延ばしにして寒気や悪寒をぶり返す可能性があるのです。
ただし、体温の上昇が激しく高熱になった場合や、体力の十分でない子供の場合には、医師の指導の下で速やかに解熱剤を服用する必要があります。あくまでも、解熱剤を服用せずに免疫システムの自然治癒力を活かす対処法は、インフルエンザのような強力な風邪ではない普通の風邪で、かつ体力の十分にある成人に限定される点に注意しましょう。
ちなみに、漢方薬である葛根湯は、寒気や悪寒を含めた風邪の初期症状に一定の効果が期待でき、免疫システムの働きも阻害しませんので、医師や薬剤師に相談して服用を検討してみても良いのではないでしょうか。
お風呂に浸かる
身体を温める方法として、入浴してお風呂に浸かることは非常に効率的かつ効果的です。風邪の初期症状(くしゃみ・鼻水)程度で、寒気はあるものの発熱までには至っていない場合は、シャワーだけで済まさずに、湯船に38度から40度くらいのお湯をはって浸かると効率的に身体の奥まで温めることができ効果的です。
また、お風呂に浸かることが難しい場合には、42度くらいの少し熱めのお湯に足を浸ける足湯も身体全体を温める効果があります。
入浴の注意点
ただし、寒気・悪寒の対策として、必ず入浴しなければならないというわけではありません。発熱が始まり既に平熱を超えて37.5度以上に達している場合、体力が消耗・低下している場合、体力が十分でない子供の場合などは、お風呂に浸かることは避けましょう。湯船に浸かるという行動は、汗をかくなど意外に体力を消耗するからです。
また、体力があって湯船に浸かることができる場合でも、汗をかくほど長くは浸からず、また入浴後はすぐに髪を乾かすなど湯冷めをしないように注意をする必要があります。
身体を温める食事と栄養補給
身体を温めるには、身体を温める効果のある食べ物や飲み物を摂取することも有効な方法です。代表的なところでは、生姜が抗菌作用があり身体を温める効果もあるとされています。すりおろした生姜をお湯で溶いた生姜湯や、生姜を紅茶に入れたジンジャーティーなどを意識して摂取することは、寒気や悪寒の有効な対策と言えるでしょう。
また、身体を温めるにはエネルギー源が必要ですし、免疫システムがしっかりと働く前提として栄養補給も必要です。そのため、可能な範囲内で食事による栄養補給を心掛け、ビタミン・ミネラル・炭水化物などの栄養素を摂取しましょう。特にビタミンCは風邪の予防効果があることで知られるとともに、風邪からの回復過程で必要量が多くなりますので、意識して摂取すると良いでしょう。
ただし、栄養補給をするからと言って、脂肪分の多い消化に悪いものを食べると胃腸に負荷がかかりますので、なるべく消化の良い物を食べるようにしましょう。
睡眠と休息をとる
風邪が原因で寒気や悪寒がする場合、免疫システムが働き始めている徴候ですから、運動などをして体力を消耗させるようなことはせずに、十分な睡眠をとって身体を休息させることが必要となります。
寒気・悪寒が生じる場合は、たいてい発熱につながります。そして、発熱は非常に体力を消耗しますので、それに備えて身体を休ませることが大切となってくるのです。
寒気や悪寒が落ち着いた後の対処法
前述しましたが、寒気や悪寒は発熱の過程で生じ、体温調節中枢が設定する体温に達すると寒気や悪寒は基本的に消失します。
ですから、厳密な意味では寒気や悪寒の対策とは言えませんが、寒気や悪寒が落ち着いた後の対処法についても触れておきます。
水分の補給
高熱の状態になると、発熱の過程では閉じていた汗腺も開いて汗をかき、体内の水分が失われますので、水分補給が重要になります。
汗とともに失われるミネラルを一緒に補給できる経口補水液やスポーツドリンクなどが、水分補給のアイテムとして最適です。
放熱するために厚着をやめる
寒気や悪寒の対策としては厚着が有効でも、体温が上昇して寒気や悪寒が消失すると今度は身体から放熱をさせる必要が出てきます。そのため、厚着などで熱が体内にこもらないように、厚着を止める必要があります。
発汗による冷えの防止
発熱により体温が上昇して寒気や悪寒が消失したら、身体が放熱を開始して発熱の過程で閉じていた汗腺が開き発汗をはじめます。発汗による汗の水分を含んだ衣服を放置していると、汗冷えして体力消耗の原因となりますので、汗を含んだ衣服は着替えるようにしましょう。
風邪の予防も重要
そもそも風邪を引き起こすウイルスに感染しなければ、寒気や悪寒を感じなくて済みます。つまり、風邪を予防することが重要なのです。
手洗いの励行、マスクで自分の口や鼻を覆ったり、冬場は特にウイルスが活性化しやすくなりますからインフルエンザの予防接種を病院で受けるなど、風邪予防対策をしましょう。
まとめ
いかがでしたか?風邪に感染した際に寒気や悪寒が生じるメカニズム、寒気や悪寒の原因とその対処方法などについて、ご理解いただけたでしょうか?
たしかに、風邪による発熱初期に身体の芯からブルブルと震えるような寒気・悪寒・悪寒戦慄は、不快で嫌な感覚でしかありません。しかしながら、寒気・悪寒・悪寒戦慄と発熱による体温上昇は体内の免疫システムが正常に働いている証左でもあるのです。
寒気や悪寒を感じる発熱時の対処法は、体力の十分な成人と体力の十分でない子供や高齢者とでは異なります。特に解熱剤の服用については、状況に応じて慎重な判断が必要となりますので、必ず医師や薬剤師に相談した上で意思決定するようにしましょう。
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