薬は体に良い効果をもたらすものの、大なり小なり副作用があります。市販の薬を買うと、必ず裏面には副作用の記載がありますよね。風邪薬を飲むにしても、体の状態を確認して飲む必要があります。
悪性症候群は薬の副作用によって、深刻な症状を招く状態です。主に向精神薬の副作用で起こります。治療の一環で飲む薬も、その取り扱いに注意しなければ命の危険もあるのです。
では、この悪性症候群はどのような症状を発症するのでしょうか。また、どういった薬に多いのか。そして、関連する病気についても詳しくみていくことにしましょう。
悪性症候群の症状とは?
冒頭でも述べたように、悪性症候群とは向精神薬の副作用によって起こる症状です。
薬は万人に効果を示すわけではなく、副作用についても同様のことがいえるでしょう。悪性症候群では以下の症状を発症することがあります。
発熱
副作用の症状としてよく起こるのが発熱です。
37℃程度の微熱を発症することもありますが、重篤なケースでは38℃以上の高熱を発症します。他の症状と合わせて、悪性症候群であるかを判断する必要があります。
自律神経症状
自律神経とは体の興奮・鎮静を司る神経です。この神経に異常が起こるのは自律神経症状です。具体的には発汗、脈拍が早くなる(頻脈)、脱水症状、血圧の上昇などがみられます。
特に頻脈や血圧の上昇などは循環器を始めとする内臓器官、そして血管にも大きなダメージを与えることがあります。通常の脈拍よりかなり速くなることもあるので、十分な注意が必要でしょう。
意識障害
呼びかけや刺激に反応しなくなるといった意識障害を発症します。
その他、せん妄と呼ばれる混乱状態。昏睡といった症状を発症することもあります。意識障害では状態がかなり悪化していることが推察できます。
錐体外路症状
少々難しい名前ですが、身体機能に関して何かしらの障害が出ている状態です。具体的には筋肉のこわばりや、四肢の痙攣、よだれ、嚥下障害、言語障害を発症します。
症状が進行すると、自分の意思とは関係なく筋肉に力が入ってしまいます。また、嚥下障害では食事が困難になり栄養障害といった、健康状態を悪くしてしまうようなことも招きます。
病気の先にある合併症
悪性症候群の悪化は他の病気を招くリスクを高めます。頻脈や高血圧が起これば循環器に深刻なダメージを与えてしまうでしょう。また、血液中に体に害を与える成分が残り続けてしまうと、腎臓に悪影響が及びます。このため、急性の腎不全にかかることもあります。
悪性症候群の原因とは?
悪性症候群は薬の副作用によって起こります。その多くが向精神薬ですが、そうではない場合もあります。また、投薬直後に発症するケースもあれば、投薬をやめてしまうことで発症するケースもあります。発症リスクのある薬には以下があげられます。
抗精神病薬
抗精神病薬は主に統合失調症患者に処方される薬です。統合失調症とは幻覚や幻聴を主とした精神疾患です。症状によって社会的な繋がりを持つことができなくなるといった影響も起こり、発症者を精神的に苦しめる病気です。
統合失調症は脳内のドーパミンというホルモンが過剰に分泌されることで起こるといわれています。ドーパミンは脳が快楽を得たときに分泌され流ホルモンです。抗精神病薬はこのドーパミンの分泌を抑制し、症状を改善する効果を期待します。
抗うつ病薬
うつ病の患者に対して処方されるのが抗うつ病薬です。様々な種類がありますが、共通していることは脳内のモノアミンという神経伝達物質に作用するということです。
うつ病は心の弱い人がかかる病気というイメージがあるかもしれません。しかし、その原因は脳の病気であることがわかってきていて、神経伝達物質に異常があるのではないかということがいわれています。抗うつ病薬では脳内の神経伝達物質に作用し、症状緩和を期待します。
抗不安薬
その名の通り、不安障害を患っている人に処方される薬です。不安と言ってもさまざまな種類があります。物事への不安だけではなく、過度な恐怖や緊張といったことも広い意味では不安障害の症状の1つです。
抗不安薬では不安を和らげる効果の他、筋肉を緩くする(筋弛緩作用)、眠りを促す(催眠作用)、痙攣を抑える(抗痙攣作用)といった効果もあります。複数の効果があるので、不安を抑える目的以外にもこの薬を使うことがあります。
パーキンソン病治療薬
パーキンソン病は神経変性疾患の1つです。脳内のドーパミン量が減ることで起こるとされ、40代以上の人に多くみられる病気です。悪性症候群はこのパーキンソン病治療薬を服用することで発症することがあります。パーキンソン病治療薬ではドーパミンの分泌量を多くする働きがあります。
制吐剤
その名の通り、吐き気や嘔吐を止めるための薬です。他の病気の治療で服用した薬の副作用で嘔吐してしまうことがあります。その時、この制吐剤を服用することで、症状を緩和します。
悪性症候群の発症率
上記であげたような薬を服用することで、悪性症候群のリスクがあります。しかし、誰しもそうなるわけではありません。悪性症候群の発症率は0.07〜2.2%といわれています。これは1万人いて7人から22人程度とかなり稀なケースといえるでしょう。
悪性症候群の治療
悪性症候群を発症した時、どのような治療が行われるのでしょうか。具体的に以下のことがあげられます。
早期発見が第1ステップ
悪性症候群は薬を服用してから1週間以内に発症リスクが最も高いといわれています。このため、この期間で体の違和感があるかどうかを、監視する必要があるでしょう。
一方で1週間を過ぎても発症するケースもあります。発症頻度は下がりますが、薬の服用を始めた直後であれば、 気を緩めないことがポイントでしょう。
薬の服用を検討する
服用を開始した薬が悪性症候群を招いているとわかったとき、その薬の服用を中止、もしくは減量することを検討します。体の状態、症状を見極め、予後を観察します。
パーキンソン病の治療薬では、薬の中止が悪性症候群のきっかけとなることがあります。薬の量を減らしたことがきっかけとなった場合、薬を再開し、症状の緩和を期待します。
検査の後、全身の管理
悪性症候群と思われる症状を発症した時は、検査を行い、症状に関して対処していきます。循環器や呼吸器に異常が出ることもあり、早急な対応を求められることもあるでしょう。
治療後の薬の服用
悪性症候群が回避され、状態が安定すると、その後の薬服用を検討します。同じ薬を服用するケースがありますが、その場合は少量から始め、体の状態を見極めながら、段階的に量を増やしていきます。
反対に症状が軽微な場合には、服用している薬を段階的に減らしていきます。いきなり薬を絶ってしまうと起こる症状もあるため、慎重に減らしていきます。
精神的なケアも十分必要である
うつ病、不安症、パーキンソン病等の薬の副作用で起こる悪性症候群。発症することは非常に稀なケースですが、早急な対処をしなければ、命の危険があるため注意が必要です。
一方で治療という面では背景にある病気も合わせて治療していく必要があります。特に病気を発病してしまうと、精神的な負担が大きくのしかかります。
うつ病や不安症は薬の服用が一つの治療法ですが、患者自身がストレスから離れることも必要です。原因があって病気になっているわけですが、その原因が身近にあると治療の意味はないでしょう。
パーキンソン病も同様に、病気によって患者はひどく落ち込むことがあるかもしれません。1人で立ち向かうことができる病気ではありませんから、周りの支えが必要なこともあるでしょう。
悪性症候群の診断基準
悪性症候群を発病すると症状が複数現れるのですが、それは人それぞれ異なります。ある人にはAという症状が出ても、ある人にはその症状が出ず、Bという症状がでることがあります。
そのため、いくつかの症状のうち、複数個の症状を発症すれば悪性症候群であるという診断基準があります。具体的には以下があげられます。
Levensonらの悪性症候群診断基準
この診断基準では3つの大症状と6つの小症状に分類されます。大症状の3つに該当する、もしくは大症状2つ、小症状4つに該当すれば悪性症候群と診断されます。具体的な症状は以下の通りです。
[大症状]
- 発熱
- 筋強剛
- 血清CKの上昇
筋強剛とは患者さんの腕や足を動かす際にひっかかるような抵抗を感じることです。パーキンソン病に見られる症状ですが、悪性症候群でも発症します。
血清CKとは酵素の一種です。平常時は筋肉や脳細胞に分布していますが、悪性症候群を発症すると血清中で検出されるため、悪性症候群を疑うことができます。
[小症状]
- 頻脈
- 血圧の異常
- 頻呼吸
- 意識変容
- 発汗過多
- 白血球の増加
Popeらの悪性症候群診断基準
こちらの診断基準では症状が大きく3つあり、それらすべてを満たせば、悪性症候群と診断されます。具体的には以下の通りです。
1:発熱
他の病気の可能性が考えられない状態での発熱症状。37.5度以上の発熱であることが確認されます。
2:錐体外路症状
筋肉や体の動きに関する症状を呈します。以下の症状うち、2つ以上該当することが診断基準です。
・鉛管様筋強剛
継続的な筋強剛がみられます。
・歯車現象
筋強剛の一種。患者は筋肉がギコギコと歯車のように感じます。
・流涎
よだれを流してしまいます。
・眼球上転
眼球が上方へ向いてしまいます。
・後屈性斜頚
首が回らなくなってしまう状態です。
・反弓緊張
反り返った弓のように、体全体が反り返り、硬直してしまいます。
・咬痙
口の筋肉が痙攣を起こし、歯を食いしばる状態です。
・嚥下障害
食べ物の飲み込みに異常が起こります。
・舞踏病様運動
患者自身が踊っているようにも思えるような不規則な歩行・運動を発症します。
・ジスキネジア
自身の意思とは関係なく、体が動いてしまう状態です。
・加速歩行
歩行スピードが速くなり、自身で止まれなくなります。
・屈曲伸展姿勢
3:自律神経機能不全
自律神経に関して異常がある状態です。以下の2つ以上該当すれば、悪性症候群を疑います。
・血圧上昇
安静時より拡張期血圧が20mmHg以上の上昇が認められます。
・頻脈
安静時より脈拍が1分で30回以上増加します。
・頻呼吸
1分間で25回以上の呼吸が認められます。
・発汗過多
・尿失禁
Caroffらの悪性症候群診断基準
こちらの診断基準は5つの項目からなり、このうち3つ満たすせば悪性症候群と診断することができます。具体的には以下の通りです。
1:発症の7日以内に抗精神病薬の投与を受けた。
2:高熱(38.0度以上)がみられる。
3:筋強剛
4:以下の症状から5つに該当する
- 精神状態に変化があります。
- 脈拍が速い(頻脈)
- 高血圧もしくは低血圧が見られる
- 頻呼吸もしくは低酸素症が見られる
- 発汗もしくは流涎が見られる
- 振戦(筋肉の緊張と弛緩が繰り替えられる症状)が見られる
- 尿失禁
- CK上昇あるいはミオグロブリン尿(褐色の尿)が見られる
- 白血球の増加
- 代謝性アシドーシス(体内に酸が溜まった状態)が起こっている
5:抗精神病薬等の薬以外の影響、もしくはその他疾患の可能性を除外できるかどうか。
パーキンソン病について
悪性症候群を招く一つの原因はパーキンソン病の薬です。もちろん、服用した全ての方に悪性症候群が発症するわけではありません。非常に少ない確率であり、過度な心配をする必要はないでしょう。では、パーキンソン病とはどういう病気なのか、少しそのことについてみていきましょう。
パーキンソン病の症状
パーキンソン病では神経障害症状、睡眠障害、精神的な落ち込みといったことが主症状です。最初は一見して、ただの疲れのように見えますが、症状が進行していくと、深刻な状況を招きます。
神経障害症状では関節のひっかかりや、転倒しやすいといった症状がみられます。運動に関する機能が低下してしまうのですね。歩行に関してかなり障害を感じます。
睡眠障害では寝付きにくい、突然目が覚める、日中の過度な眠気などがみられます。症状が長く続くことで、生活に支障がでるほど心身に影響を与えてしまうでしょう。
精神的な落ち込みでは、気分の塞ぎ込み、表情が乏しくなる、認知に問題が起こるなどがみられます。何かをしようという意欲そのものも低下し、生活にメリハリがなくなります。
パーキンソン病の原因
パーキンソン病の原因として考えられているのが、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの減少です。ドーパミンによって、神経同士の情報伝達が行われていますが、この量が減ることで情報伝達に支障をきたしてしまいます。
ドーパミンの減少は加齢によって起こるとされています。高齢者ほどパーキンソン病を発症しやすく、その後のQOLにも影響を及ぼす可能性があるでしょう。
パーキンソン病の治療
パーキンソン病では薬を服用することで治療をしていきます。ドーパミンの分泌を促進する薬やドーパミンそのものを補填する薬などがあります。
体を動かし、運動機能を取り戻すリハビリも重要な治療です。継続的なリハビリを行い、症状の緩和や痛みの軽減効果を期待することができます。
パーキンソン病との付き合い方
パーキンソン病は脳の病気であるがゆえ、生活していく中で様々な支障を発生させます。今までできていたことができなくなる。これは精神的にもかなり辛いことでしょう。
ですが、そこで諦めてしまうと、回復するどころかどんどん症状は悪くなっていくでしょう。治療やリハビリをすることが、健康を維持するために大事な手段です。
また、周囲の家族や友人との関わりも、治療にはとても重要な要素だと思います。心的なストレスを軽減し、未来に対して希望を持つきっかけになるでしょう。
病気になるととても辛いことがあります。しかし、そんな中でも自分の生き方を見つけることができれば、病気とうまく付き合えるのかもしれません。
詳しくは、パーキンソン病の初期症状とは?治療方法も紹介!を参考にしてください。
まとめ
悪性症候群は1万人に何人という非常に稀な病気です。薬を服用しているという人でも、それほど心配するような確率ではないのかもしれません。
ただ、一方で発症してしまったときは、最大限の対処をしなければなりません。命の危険もありますから、早々に病院へ搬送する必要があります。
薬は良い効果を示すこともありますが、一方で悪い効果を示すことがあります。そのリスクは服用前に十分説明されるかと思いますが、やはり不安な気持ちはあるかもしれません。
根本的な病気の治療では薬を飲むことも含め、総合的な治療が大切です。不安を感じるのであれば、それだけに頼らない治療もまた必要なのかもしれませんね。
今後の健康を考えた時、どういった姿になっていたいのか。どういった自分になりたいのか。そういった将来像を考え、治療に専念してみてくださいね。
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