アミロイドーシスという病名をご存知でしょうか?
わたしたちの体の中には様々なたんぱく質がありますが、そのたんぱく質の一部が体内に蓄積することで発症する病気があります。体の中には重要な器官がいくつもあり、それらが正常に機能することで健康的な生活を維持することができるわけですね。しかし、たんぱく質の一部が蓄積すると、体内で様々な弊害が起こります。
では、アミロイドーシスとはどんな病気なのか、症状や治療法などについて、具体的にお話ししましょう。
アミロイドーシスとは
アミロイドーシスは、タンパク質の1種であるアミロイドが、体の中の様々な組織や器官に蓄積することで起こる疾患です。
アミロイドは不溶性のため、組織や器官に沈着すると、徐々に溜まっていき、アミロイドーシスを発症するという仕組みです。
また、アミロイドは1つではなく、様々なタンパク質がアミロイドに変化すると言われています。
アミロイドーシスの種類
一口にアミロイドーシスと言っても、どの器官にアミロイドが蓄積するかによって3つのタイプに分かれています。
ここでは、アミロイドの沈着する場所別に、それぞれの種類をご紹介します。
全身性アミロイドーシス
その名の通り、心臓、消化器、腎臓、末梢神経など、全身のあらゆる器官にアミロイドが蓄積することで起こります。
心臓などの重要な器官にアミロイドが蓄積することで機能不全を起こすため、命にかかわることが多いのが特徴です。
限局性アミロイドーシス
全身性アミロイドーシスとは異なり、臓器の中でもある特定のものに限ってアミロイドが蓄積するタイプです。限局性アミロイドーシスの場合、その大半は良性とされ、命にかかわることはあまりまりません。
しかし、アミロイドが脳に蓄積すると脳アミロイドーシスになり、これが認知症を引き起こすため、蓄積する場所によっては厄介な病気です。
臨床病型アミロイドーシス
アミロイド前駆体蛋白に対応して起こるもので、蓄積のしかたによってすでにご紹介した2種類のいずれかになります。
つまり、アミロイド前駆体蛋白質が特定の器官にのみ蓄積すると限局性アミロイドーシスになり、血液を通して全身を巡り、あらゆる器官に蓄積すれば全身性アミロイドーシスになります。
アミロイド前駆体蛋白質とは
アミロイド前駆蛋白質は、アミロイドβ前駆体蛋白質が生成される前段階の物質です。アミロイド前駆体蛋白質そのものは無害で、神経の成長や修復作業に欠かせない大切なものですが、場合に寄っては突然、有害なものに変化することがあります。
というのも、アミロイド前駆体蛋白質は細かく切れており、何によって切断されているかによって有害か無害かが変わるのです。
- 無害なもの
アミロイド前駆体蛋白質が、αセクレターゼによって切断されている場合には、害を与えることなく、正常に機能します。
- 有害なもの
アミロイド前駆体蛋白質がγセクレターゼによって切断されると、アミロイドβ蛋白質を生成します。アミロイドβ蛋白は神経細胞に悪影響を及ぼす毒性を持つため、これが脳に蓄積することで認知症を発症するというわけです。
アミロイドーシスの4タイプ
上記ではアミロイドが蓄積する場所による、3種類のアミロイドーシスをご紹介しました。しかし、アミロイドーシスはどの器官に蓄積するか以外に、どのアミロイドが蓄積するかによっても種類が異なります。ここでは、4つのタイプについてご説明しましょう。
免疫グロブリン性アミロイドーシス
免疫グロブリンL鎖という物質が沈着することによって起こります。原発性全身性アミロイドーシスや骨髄腫(こつずいしゅ)に伴って発症する場合もあります。
原発性アミロイドーシスとは
体の中には、抗体を作り出すための形質細胞というものがありますが、この形質細胞に異常が起こることで、多発性骨髄腫(形質細胞のガン)を引き起こすこともあります。原発性アミロイドーシスは、主に心臓や肺、皮膚、舌や甲状腺、腸管、肝臓、腎臓、血管などにアミロイドが蓄積して発症します。
続発性アミロイドーシス
SAA(血漿アミロイドA蛋白)の蓄積によって起こります。主に結核や関節リウマチなど、持続的な感染または炎症を引き起こす病気のほか、特定の癌などで発症すると言われます。アミロイドが蓄積する臓器としては、脾臓、肝臓、腎臓、副腎のほか、リンパ節などがあります。
遺伝性アミロイドーシス
異常トランスサイレチンなどが沈着することによって発症します。ポルトガルや日本など、特定の家系で発症するタイプで、血中の特殊なタンパク質が変異することでによって起こると言われています。遺伝性アミロイドーシスの場合、神経系や心臓、血管、腎臓などにアミロイドが蓄積しやすいのが特徴として挙げられます。
老人性アミロイドーシス
こちらは加齢によるアミロイドーシスで、トランスサイレチンが沈着することで発症します。老化を原因として、心臓にアミロイドが蓄積されるのが特徴です。老人性アミロイドーシスで心臓が侵される理由については、加齢以外の原因は解明されていません。
アミロイドーシスの症状
アミロイドーシスの症状や重さは、アミロイドがどの器官に蓄積するかによって違いますが、顕微鏡で組織片を診ることで診断できます。
アミロイドが蓄積する器官によっては、ほとんど症状が現れないこともありますが、器官によっては非常に重篤な症状が現れることもあります。心臓など、アミロイドが蓄積する器官によっては命に関わることもあります。
器官別の症状の現れ方
アミロイドーシスは、それが蓄積する器官によって様々な症状を引き起こします。各部位には以下のような症状が現れますので、以下のような症状が現れる場合、アミロイドーシスを疑ってみるとよいかも知れません。
- 血液や血管:あざができやすい
- 脳:アルツハイマー病
- 消化器系:舌が腫れ上がる、腸閉塞、栄養吸収が悪くなる
- 心臓:不整脈、心臓の肥大、心不全
- 腎臓:組織の中に体液が溜まる、むくみがある、腎不全
- 肝臓:肝臓が肥大する
- 肺:呼吸困難
- リンパ節:リンパ節の肥大
- 神経系:しびれや刺すような痛み、脱力感
- 皮膚:あざ、丘疹
- 甲状腺:甲状腺が大きくなる
アミロイドーシスは、なかなか判断の難しい病気とされていますが、あざができたり、原因不明の出血があったりする場合には、早めに内科を受診することをオススメします。
アミロイドーシスの治療
アミロイドーシスには根本的な治療法はありません。しかし、アミロイドーシスの種類によっては多少の改善が見込まれる場合もあるため、以下で詳しくご紹介しましょう。
続発性アミロイドーシス
病気の根本治療にはなりませんが、原因となる疾患を治療することで、アミロイドーシスの進行を遅らせたり、ある程度の回復を見込むことができます。
原発性アミロイドーシス
こちらは治療や改善は難しく、多発性骨髄腫の有無に関係なく、経過はかなり悪いと言えます。特に、原発性アミロイドーシスと多発性骨髄腫を併発した場合、その大半の人が1~2年以内に死亡すると言われています。また、アミロイドーシス患者が心不全をおこした場合も、経過は非常に悪くなります。
薬による治療
薬でアミロイドーシスの症状や合併症を抑えることは難しく、効果ありとされる薬はかなり限られています。症状緩和の例としては、以下のようなものがあります。
- プレドニゾロン
- メルファラン
- コルヒチン
これらの薬を併用した化学療法や幹細胞の移植などが挙げられます。
手術での除去
これはアミロイドが蓄積している器官にもよりますが、場合によっては手術で取り除けることもあります。
除去によって回復可能な症例としては、アミロイドーシスを原因とする臓器不全がありますが、成功例はごく一部に留まっています。また、アミロイドーシスを治療できるわけではないため、やがて移植後の臓器にもアミロイドが蓄積することになります。
例外として、遺伝性アミロイドーシスの場合、肝臓を移植することにより、病気の進行が止めることができます。
アミロイドーシスの予防法
アミロイドーシスを予防することは難しいですが、脳アミロイドーシスによって発症するアルツハイマーを予防する方法はあります。アルツハイマーの原因はアミロイドβですから、これを抑える食生活を心掛けましょう。
アミロイドβは蓄積されることはあっても減ることはないため、日頃の予防が重要なのです。
インシュリン分解酵素の働きをよくする
食事をするとインシュリンが分泌され、これを分解するためにインシュリン分解酵素が働きます。このインシュリン分解酵素はアミロイドβも分解しているため、通常はアミロイドβが蓄積されることはありません。
しかし、大量に食事を摂取するとインシュリン分泌量も増え、分解が追いつかなくなります。そのため、アミロイドβの分解が十分に行われず、蓄積の原因となるのです。
食事療法
炭水化物や肉類などを摂取すると、血糖値が急激に上がり、インシュリンが大量に分泌されます。まずは野菜や海藻などから食べることで血糖値の上昇を緩やかにし、インシュリンの分泌を抑えましょう。
まとめ
このように、アミロイドは体内の様々な器官に蓄積することで重篤な疾患をもたらします。
アミロイドーシスはその種類も豊富な上、確実な治療法や予防法が確立されていないのが現状です。しかし、日々研究は進んでいますし、アルツハイマーの原因となるアミロイドβについての予防法はあります。
まずは生活習慣を整え、少しでも異常を感じたら早めに医師の診断を仰ぎましょう。対症療法が中心となるアミロイドーシスですが、早く手を打つに越したことはありませんからね。