正座ができなかったという経験はありませんか?
なぜ正座ができないのでしょう!その答えはどうやら膝にありそうです。膝の状態が良くないと正座が難しいというのは定説です。
しかしなぜ膝が痛くなると正座ができないのでしょう?膝が痛くなる原因がわかれば正座がどれほど膝に負担をかけているのかも理解できるかもしれません。
体重の増減との関係が深い膝の仕組みが正座にどういう影響を与えるのか、正座ができない場合における上手な身体の対処法を学びましょう。
正座に関わる膝関節の特性
膝関節は7つある関節そのものが動く可動関節の中で、蝶番関節(ちょうつがいかんせつ)に属します。
蝶番関節は膝の他にも肘・足関節があります。この関節は1つの基本面での動きしかできませんが大変大きな可動域を持っています。
膝関節は0°~130°の可動域があり、正座はこの関節の最終可動域でしかも体重が加わるという力学的特徴があります。
膝の構造
膝関節は体重との関わりが非常に深いポイントです。大腿骨遠位端(だいたいこつえんいたん)と脛骨近位端(けいこつきんいたん)が交わるポイントであり、両方の骨が直接交わらないように半月板(はんげつばん)という繊維性軟骨(せんいせいなんこつ)が間に備わっています。
半月板には体重が加わった際に衝撃を吸収し分散する役割があります。半月板は断面で観るとその名の通り「半月」、もしくは三日月に近い形をしていて、外側の半月板は「O」、内側半月板は「C」の形をしています。
膝関節面は大腿骨の遠位端側が凸、脛骨近位端(けいこつきんいたん)側が凹、でその隙間を半月板がちょうど埋める構造をしています。
膝痛は関節そのものの構造に欠損がでた時だけでなく、筋膜をはじめとする軟部組織が硬くなる硬化(こうか)でも起こります。
こんな症状は要注意
膝の違和感や特定の症状は関節や骨の変性(形が変わる)における前兆です。以下の初期症状やまたは継続する違和感がある場合、痛みの出現なども含め注意する必要があります。
膝の動きがおかしい場合
- 膝になんとなくこわばりがある
- 可動域制限がある(しっかりと完全に曲げたり・伸ばしたりできない)
- 動く時に膝に「ひっかかり」がある
- 膝を動かす時にある角度で動かなくなる(ロッキング現象)
動かすと不安定
- 膝に不安定感がありぐらつく
- 膝が抜けるような感覚がある
- 脚に力が入りにくくなる
- 歩いたり走ったりすると膝がガクンと抜ける感じがある(膝崩れ現象)
膝周辺が怠い・水が溜まる
- 膝蓋骨(お皿)の形がない、見えない
- お皿周りを指で押すとブヨブヨして指が深く入る感じがある
- 膝裏も含めた関節全体が重だるく違和感がある
膝から音がする
- 膝を動かすと「コキコキッ」というクリック音がする
- きしむような「ギシギシ」感、すれるような「グリグリ」音がする
- 捻った時「パキッ」「ブチッ」「ゴリッ」といった破裂音がした
急激な強い痛みが膝に出る
- 安静時でも痛みが続く
- 他の関節も痛む
膝蓋骨(お皿)の痛み・違和感
- お皿とその周囲が痛む
- お皿を上から押すと沈む感触や痛みがある
- お皿が外側に大きくズレるような感じがする
- 膝の曲げ伸ばしでお皿がひっかかる感じがする
正座ができない原因
正座ができない理由は様々です。特に膝にかかる負担が大きくなり痛みを発生することが最も大きな理由でしょう。痛くなる原因には様々な理由があります。
加齢による膝関節の機能低下、急性・慢性のケガによって膝関節が腫れている、成長期の障害で痛みが出る等もあります。
加齢が原因
膝の障害で最も多いのが「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」という症状です。
膝の軟骨である半月板がすり減って薄くなる(摩耗する)ことで特に外側の大腿骨と脛骨端が直接接触し骨そのものが削れて骨棘(こつきょく)という膝の棘(とげ)を作り出し痛みを誘発するのです。
変形性ヒザ関節症(OA)になると膝が外側に曲がったり、伸びにくくなり曲がりにくくなります。例えば前後から脚を観ると膝の間が広がりO脚になります。
OAだけではありませんがO脚傾向があれば腸脛靭帯炎という腿の外側の腸脛靭帯が引っ張られて炎症を起こす症状も呈します。
詳しくは、変形性膝関節症とは?原因・症状・治療方法を理解しよう!を読んでおきましょう。
病気によるもの
関節リウマチとは身体をウィルスや細菌から守ってくれる免疫システムが異常をきたし、骨や軟骨を破壊する病気です。「自己免疫疾患」とも呼ばれ特に関節部分に多く発症します。
こうした関節リウマチが膝に起こると曲げる伸ばす等の「蝶番関節」としての働きがまったく機能せず、正座もその形をとることすらできません。発症率は30~50代で最も多く、女性は男性より3倍罹患しやすいという特徴があります。
膝関節の周りには骨や組織が他の組織に直接接触し摩擦が生じて痛みがでないよう、間に“クッション”が存在する場所が何か所かあります。この袋状になった“クッション”を滑液包(かつえきほう)と呼び、この包みが他の組織と接触を繰り返し炎症を起こすことを滑液包炎と言います。
一般に言われる関節炎や関節痛のように関節そのものに炎症や痛みがでるのと違い、関節の外側で他の組織との接触を防ぐためにある滑液包自体に炎症が起こるのが特徴です。
詳しくは、リウマチの初期症状をチェックしよう!指のしびれに要注意!を参考にしてください。
膝の機能低下によるもの
半月板損傷や靭帯損傷などの後遺症が残ったために膝が曲がらなくなり正座ができないケース、稀な例としては足首の捻挫による可動域不全(かどういきふぜん)等の後遺症も意外多く見受けられます。
こういった一過性の痛みでは回復途中のため膝が曲がらない・伸びない場合、そして回復後もヒザの機能が思わしくなく、結果的に正座ができないといった2種類のケースが存在します。
半月板損傷や靭帯のケガよって膝関節内に水が溜まり腫れることを「関節水症」といいます。この状態になると「何か引っかかっている、その引っかかりがこれ以上曲げると弾けちゃうんじゃないか!?」という感覚になり膝を曲げること自体が怖くて中々曲げることもできません。
特殊なケースとしては太腿部が硬すぎて伸びない場合も正座はできません。膝を完全に曲げる必要のある正座は太腿の筋肉がしっかり伸びることで可能になるのです。
半月板損傷については、半月板損傷の治療方法とは?症状や予防方法も知っておこう!を読んでおきましょう。
成長障害
一般にお皿の骨といわれる膝蓋骨(しつがいこつ)は、膝蓋靭帯(しつがいじんたい)によって下は脛骨粗面(けいこつそめん)という脛の骨に付着しています。正座の場合、この膝蓋靭帯が引っ張られて痛みが出現するため深く座り込むことができません。
特にオスグッドや関連する成長痛では、お皿につく靭帯が上下方向に引っ張られるため正座は非常に辛い形です。
成長痛については、成長痛とは?原因や膝に多い理由を知ろう!痛みが発生しやすい時間帯や和らげる方法を紹介!を読んでおきましょう。
生活習慣がもたらす体調変化
現代の生活習慣は人の体格・体調や動きにまで様々な影響を及ぼします。中でも最も深刻な問題は肥満です。
肥満は脳卒中、心臓病、糖尿病等の重篤な疾患の元凶ともなりますし、関連する動脈硬化症や高血圧、高脂血症等とも深い関連性があります。
肥満の特徴
そして肥満は膝痛とも非常に深い関係があります。特に前述した変形性膝関節症(OA)は加齢による関節の変性だけでなく、肥満によっても同じくらいの割合で引き起こされるとの報告もあるくらいなのです。
肥満とはどういう状態なのでしょう。最もわかりやすいのは適正体重の指標であるBMI(体格指数)を算出することです。BMIは以下の計算式でスコアがだせ、そのスコアの範囲毎に判定基準があります。
体格指数(BMI)を知る
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
肥満度の基準は以下の通りです。
- 18.5未満…やせ
- 18.5以上25未満…標準
- 25~30未満…肥満
- 30以上…高度肥満
成人病予防の観点で言えば最も予防効果が高い数値目標としてBMI値「22」が設定されています。
肥満の場合、変形性膝関節症になる確率が男性で3.9倍、女性で4.2倍高まるとされているので、是非BMI値で「22」を維持することを心がけましょう。
身長160cm、体重56kgの人で大体BMIが22になります。あなた自身の体格指数を知っておくことで様々な身体の変調を見直すきっかけにもなることを覚えておくとよいでしょう。
肥満と膝痛の関係1:運動による負荷
太っている人に膝痛が多いのは膝が曲がる伸びるという関節運動をすることが大きな要因です。人が移動する際は膝の曲げ伸ばしによって体重を支えながら移動しなければなりません。
例えば歩く時には体重の約3倍、走る時は実に約7~8倍の負荷が膝にかかります。つまり、体重50kgの人では、歩くだけで150kgの負荷が加わっていることになります。
数字状は体重が1kg増えるだけで3kg分の負荷が加わるという計算です。体重増加が膝の負担なる理由(わけ)がそこにあるのです。
肥満と膝痛の関係2:筋力低下
肥満の人は運動不足を免れません。肥満と運動不足はとても深い関係があり、そうなると全身の筋力低下や衰えが深刻になります。特に体重を支えて動くべき大腿四頭筋の力が弱まると膝関節には過度の負担がかかります。
膝をある程度まで曲げるのに力はいりません。重要なのは真っ直ぐに伸ばす動作です。完全伸展(かんぜんしんてん)とも言われるこの動作は日常では意識して作り出さない限り膝を真っ直ぐに伸ばすことはありません。
完全伸展はスクワットやレッグエクステンション、リハビリ等の特価したメニューといった特に意識したトレーニング等でしか経験できません。運動不足になれば当然、膝の曲げ伸ばしの機会は失われ体重を支える筋肉を維持することは困難となり、さらに太るという悪循環に陥るのです。
膝に良くない動き
ひとつテストをしてみましょう。全身鏡があるとあなた自身で確認しながらできますが、なかったらライブで誰かにみてもらうか、ビデオを撮っておくとよいでしょう。
膝の動きを予測する
レッグレンジという種目で、片脚を前に出しその脚に体重を一気にのせる感じで曲げてみましょう。体重を乗せた瞬間膝が外側に開いたり(割れる)、痛み・違和感が出たり、または捻れがあれば膝にとって悪い癖というわけです。
膝の捻れとはレッグレンジで片足を前に出しながら曲げるとき、①つま先と②お皿(膝蓋骨)の縦軸ラインがズレている状態です。このテストで①が外側を向いて、②が真ん中より内側を向いていればヒザが捻れている証拠であり、そのクセが普段歩くときも繰り返されていると考えていいでしょう。
人は少なくとも1日平均5000歩以上は歩いているので膝のその捻れが5000回繰り返されているとなると膝にかかる捻れの負担がどれほどのものか想像できるはずです。女性は男性に比べ骨盤が幅広いため膝が内側に入る癖が出やすく捻れも大きくなるという調査結果がでています。
生活習慣
日本人は「しゃがむ・しゃがみこむ」という習慣が意外にあります。昔は特にありました。トイレ等はその典型です。西洋人に比べて股関節が比較的柔らかくかなり開く人種ということもありしゃがむ動作はある意味無意識の習慣になっているようです。
未だにお庭の手入れ等ではしゃがみこみながら移動するというご婦人を見かけます。膝が完全に曲げられた状態でしかも移動する際の体重がかかる為決して健康的な動作とは言えません。
女性に多い横座りや、足を両わきに広げるトンビ座り等は膝を直接的に捻じる動作が入り、関節の緩みを生じさせ痛みの原因ともなるため注意することが必要です。
正座ができない場合の対策と対処法
正座ができなくなっている原因が膝関節にあると仮定し、まずは膝の問題を改善するための対処法を列挙します。正座ができない状態を改善する対策とは直接関係があるとはいえませんが、結びつきが弱いわけでもありません。
あらかじめ、あなた自身の状況と照らし合わせてチェックしてみましょう。
医療(関連)施設を受診
まず症状の程度や原因を知る意味でも整形外科を受診してみましょう。痛みが軽減すれば、場合によっては正座ができる可能性も高まるかもしれません。
おそらくレントゲン撮影等で骨の形がわかるはずです。治療方法として痛み止めを処方されたり、場合によってはリハビリ等で筋力や可動域訓練もするようアドバイスされるでしょう。
病状がわかっていれば近隣の整骨院などでも治療はできます。施術は痛みをコントロールするものが優先され、電気治療や超音波等を使用します。また整体といって痛みの出ていない股関節や骨盤、そして足首の位置調整をすることで膝の痛みが軽減されることもあります。
サプリメント
膝の軟骨が減少することで起こる膝痛、さらには進行する変形性関節症等に軟骨成分を摂取する場合があります。
主にサプリメントとして摂取できるものとして以下の4つの成分が有効とされています。
- ヒアルロン酸
- コンドロイチン
- グルコサミン
- プロテオグリカン
この内、ヒアルロン酸は整形外科ではよく使われている医療薬に属します。例えば痛んだ膝関節に直接注射することで、関節液の品質が向上し潤滑機能を回復させる効果があります。いわゆる新品の“油成分”を入れているため動きやすくなり痛みを軽減してくれる効果です。
しかし膝の軟骨再生や修復には効果が認められていないため改善法としては限定的でしょう。他の3つに関しても口から摂取する口径成分としての効果は未だ明確にされていません。
ストレッチ・可動域の確保
膝関節はしっかり伸ばししっかり曲げることでその機能をフルに活用することができるのです。関節の動く範囲である関節可動域(かんせつかどういき)がある程度ないと運動することは困難となります。
ストレッチは膝周りの筋肉を伸ばしたり緩めたりするのに有効です。さらに膝関節をある程度まで曲げることで可動域を拡大する働きももっています。
股関節を含む背伸びとのセットで太腿前面と後面を伸ばすことを心がけましょう。
適度な(軽)運動
ストレッチングと合わせるとさらに効果が倍増します。ウォーキングは自分の能力範囲内で行えるため特に下肢の筋力強化にも役立ち膝の【曲げる・伸ばす】機能が向上します。
また水中ウォーキングやスイミングも非常に効果的です。胸までつかるプールであれば浮力の影響で体重が1/7以上減るので膝への負担が格段に減ります。一方で水中での水の抵抗は地上の数百倍にも上るため消費カロリーが飛躍的に高まるのです。
全身の筋力が不足するということは姿勢にも悪影響がでます。正座は膝を完全に曲げた状態にしますが、この時筋力が不足していると全体重が筋力によって分散されず、曲げきった状態の膝関節に一点集中しさらなる痛みの連鎖を招くことになってしまうのです。
(水中)ウォーキング等の(軽)運動は単なる下肢の筋力強化だけではありません。全身の筋力不足を解消し、仮に正座する場合は全体重が膝関節に集中するのを防ぎ適切な荷重分散を実現する働きもあるわけです。
正座できない:まとめ
変形性膝関節症(OA)やリウマチ等の病気では正座は全くできないと考えていいでしょう。
といってもそれほど悲観することはありません。大切なことは「正座ができない!」と考えるより、「正座をすることで悪化するかもしれない関節の状態を改善できる!」と考え方を変えてみることです。
膝周りの硬さを改善したり日常生活の不摂生を見直し筋力不足を解消することで、姿勢も改善される効果があるでしょう。膝の状態が良くなれば正座が可能になることも十分考えられます。
普段から知識を得て自分なりの適切な改善方法を試し、痛みを出さないための有効な手段をとることが充実したQOL(生活の質)の向上に役立つはずです。
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