「ひざのお皿割れてしまったから、もう元通りに運動は出来ないかも」そんな言葉を聞いたことはありませんか。あれは、膝に蓋のようになっている膝蓋骨とよばれる通称「膝の皿」が損傷するものです。しかし、膝には膝蓋骨だけでなく、足を動かすなどの歩行や運動に関わる大切な部品がつまっています。その一つが、半月板です。
特にスポーツ選手などの話題で聞こえてくる「半月板損傷」という怪我は、なんとなくわかっているようで、実際どういうものなのか知らない人も多いと思います。本当に、運動が出来なくなってしまうのか?という不安を持ったり、逆に激しいスポーツをしていなければ安全だと思っていませんか。本当のところはどうなのでしょうか。詳しく見てみましょう。
半月板損傷とはどんな病気か
半月板が損傷を受けることで、膝の曲げ伸ばしが難しくなる病気です。
半月板の役割
わたしたちの足を動かすのに重要な働きをする半月板(はんげつばん)は、名前のようにお月さまのようなC型をしています。膝の関節の中にあるのですが、太ももの骨(大腿骨)と、脛骨(けいこつ)と呼ばれる足のすねの内側にある細い骨との間にあり、そこでクッションの役目と、車のスタビライザーのような、膝の曲げ伸ばしのサスペンションのような運動を安定させる役目を持っています。膝の内側と外側に、2つずつあります。
損傷するとどうなるのか
半月板が損傷してしまうと、膝の曲げ伸ばしがスムーズに出来なくなるため、曲げ伸ばしの際に痛みを感じたり、ひっかかりを覚えたりします。ひどくなると、膝に水がたまってしまう、あるいは急に膝が動かなくなるなどの症状が出ることもあります。こうなると、強い痛みを感じ、歩行困難をまねくこともあります。
主な原因~どんな時に損傷するのか~
スポーツでよく耳にする言葉ですが、スポーツ中の怪我だけでなく、加齢によって半月板が傷つきやすくなってしまい、外からの圧力がかかり損傷してしまう場合もあります。また、激しい運動だけでなく、繰り返しの運動により半月板が摩耗して損傷してしまうこともあるのです。
スポーツでの怪我などの場合
体重がかかっている状態で、無理に膝をひねる動きをした場合や、衝撃を受けた場合に起こります。半月だけが損傷する場合と、前十字靭帯(まえじゅうじ じんたい)と呼ばれる大腿骨と脛骨を結びつけている筋を同時に傷つけてしまっている場合があります。
半月板損傷を起こしやすいスポーツ
膝に無理にひねるような負担がかかることで半月板を損傷してしまうことが多いのですが、この膝をひねるような動作は、ラグビーやフットボールだけでなく、ほとんどのスポーツで行われています。
バスケットボールやドッヂボールでのターンなどは顕著な例です。バレーボールやサッカーはもちろん、テニスなども、走って急にとまる、そして直ぐに方向転換する、という動作は膝に無理なひねりが加わりやすいのです。体操やスキ―における着地などは、膝の関節が着地で曲がった状態になり半月板がクッションの役目を果たそうとしているところに、膝にひねりが加わった動作になってしまうと、地面に対して水平の方向にストレスがかかってしまいます。そのストレスにより半月板を損傷してしまうのです。また、大きな衝撃だけでなく、摩耗から損傷を受けることもあります。
- 片足で床を滑ってしまったとき
- 横から膝にタックルされて衝撃をうけたとき
- ジャンプして着地する際に膝が外側に曲がりひねりが加わったとき
- 水泳の平泳ぎで膝の半月板が摩耗してしまったとき(平泳ぎは、膝にひねりを加えて曲げ伸ばしする動作を繰り返しています)
- ランニングでの膝の曲げ伸ばしの繰り返しでの半月板の摩耗が起きたとき
前十字靭帯の損傷からくる場合
前十字靭帯の損傷はスポーツの怪我ではとても多いものです。ジャンプして着地した時の衝撃や、ターンしたときに膝にひねりがくわわるなど他からの接触なしで起こる場合の「非接触損傷」と、ラグビーのタックルのように、外からの大きな衝撃を受けて損傷する「接触損傷」とがあります。
この前十字靭帯を損傷することはスポーツではとても多いのですが、これによって起こる半月板損傷もあるのです。
前十字靭帯を損傷すると
前十字靭帯は、膝が回旋する動作のときや曲げ伸ばしするとき、その回旋運動の制御をする役目を果たしています。この靭帯が損傷してしまうと、膝の回旋運動を制御する機能が失われてしまうため、大腿骨と脛骨の間にある半月板は、挟まれる形で傷ついてしまうのです。前十字靭帯の損傷による痛みや腫れは、時間とともに落ち着き、日常生活に差し支えるような痛みはなくなるのですが、これは炎症が治まっただけであり、靭帯はくっついたわけではないのです。痛みがおさまったからとそのままにしておくと、半月板損傷だけでなく、関節症や膝崩れなど運動困難に陥ることもあります。
加齢による損傷
半月板は加齢とともに、状態がかわってゆきます。40歳を過ぎると、軽い外傷でも、同時に半月板を傷つけてしまうこともあるのです。この半月板は筋肉のように鍛えることが出来ませんので、中年以降は特に気をつけたいものです。
加齢とともに脆くなりつつある半月板に、いきなり負荷をかけた場合、損傷する危険性があります。健康のためとはいえ、いきなり無理なジョギング、ランニング、水泳での平泳ぎ、ジムでの運動をはじめるのはいかがなものでしょうか。何事も、無理のないようにすることが大切です。ジムなどの運動では、専門トレーナーに相談するのもよいでしょう。あとで述べますが、食生活の改善や、入浴など、日頃から少し気をつけるだけで、損傷を防げます。
半月板損傷の治療
膝を横に切ってみたとき、上からみると膝の内側、外側にC型とCの逆型についている板が半月板ですが、そこが損傷するということは、軟骨のようなクッションである半月板がひび割れたり断裂してしまう状態でもあります。
ですから、半月板は一度損傷すると、手術以外では治しにくいのです。しかし、手術方法も損傷部位や形態によって、違ってきます。主に縫合、切除といった手段がとられます。
どちらの手術の場合でも、通常は関節鏡といわれる鏡を使って、鏡で患部を見ながらの手術になります。
半月板損傷の種類
半月板損傷は、半月板に断裂が入ることだといいましたが、それにはいくつか種類があります。縦断裂、横断裂、水平断裂です。
縫合できる場合
- 損傷した部分が半月板の外側フチの部分で、半月板にそって縦に断裂している場合
- 細かく横断裂があるが外側のフチ部分であり断裂が小さい場合
などは、縫合することで、半月板の大きさを変えずに半月板をなるべく温存するために、断裂した部分をつなぐ手術が行われます。これによって断裂した部分がくっついてくれれば、もともとの半月板の役割を期待できます。
縫合手術のメリット・デメリット
- 完全にくっつくまで、6週間くらいかかる
- くっついたら、関節軟骨にストレスがかからなくなる
- 手術してから2週間は、足を床につけたり出来ない
- 2週間ほどの入院が必要
- 適切な訓練(リハビリ)をしたのち、スポーツや運動はよそ3か月後から出来る
縫合できない場合
- 断裂の場所が外側半月板の中心部に近い縦断裂の場合
- 断裂が内側半月板の内側から横断裂している場合
など、半月板の関節中央に近い部分などの縫合が無理な場合は、断裂している部分まで、なるべく半月板を残して切除することとなります。
切除された部分はあとから再生することはないため、本来の半月板のクッションの力が100%だとすると、切除部分と大きさによっては80%、60%、40%というようにクッション面積が小さくなり、力が弱くなります。つまり、切除した部分の、膝の関節や軟骨へのストレスは大きくなってしまうのです。
切除することのメリット・デメリット
- 切除した部分の関節軟骨へかかるストレスが大きくなる
- 関節軟骨の変形がおき、進行すると関節症になる危険がある
- 術後翌日から歩行可能である
- 術後1~2カ月ほどは、水がたまることがあるので、水をぬきに通院しなければならない
- 膝の屈伸は術後すぐ行える
- 入院日数が少なくて済む(およそ4日)
- スポーツや運動は術後1~2カ月から出来る
- クッションが少ない状態となるため、運動には気をつけなくてはならない
手術しなくてよい場合
損傷がとても少ない場合には、リハビリと、抗炎症薬の服用などで保存的治療を行う場合があります。これにより改善することもありますが、経過を見て、改善しない場合には手術を行うことになります。
治療しないで放っておくと
冒頭でも述べましたが、放っておいて慢性化してしまうと、関節炎を引き起こしたりするだけでなく、水がたまる、血がたまるなどして、水腫、血腫と呼ばれる合併症状を起こすこともあります。
患部をかばった動きになってしまうので、太ももの前面の筋肉(大腿四頭筋という)の使い方が偏ってしまい、スムーズな動きが出来ないだけでなく、膝が曲がった状態で固定されてしまう(ロッキング状態という)伸ばせなくなるということも起こります。運動が出来ないどころか、歩くことさえ困難になる場合があるのです。
また、断裂した半月板がめくれるなどして大腿骨や脛骨の関節にある軟骨を傷つけてしまい、骨を変形させる変形性膝関節症という病気の原因になってしまうこともあります。
半月板損傷にならないために
原因は大きくわけて、スポーツでの怪我によるものと、加齢によるものだと述べました。そこから、予防方法を考えてみましょう。予防にまさる治療はないのです。
筋力の低下を防ごう
膝に無理なひねりが加わることで半月板が断裂しますが、ひねる動作はスポーツにはつきものです。では、スポーツ選手はみな半月板を損傷するかというとそうではありません。ひねる動作をしても、膝に無理な力がかからないような身体づくりが、予防の鍵となります。
グロインペイン症候群のところでも紹介いたしましたが、骨を包む筋肉と筋(あるいは腱)が適度な弾力と筋力をもち、骨を支えることで、骨は守られます。その骨と骨をつなぐクッションは、骨が丈夫でかつ、しっかり筋力に守られていないと、擦れ、傷ついてしまうのです。
膝のまわりの筋肉がしっかりとしていれば、半月板損傷の防御の役目をしてくれるのです。筋肉トレーニングをすることで筋力をあげるのですが、強すぎるトレーニングで膝や足を痛めては元も子もありません。リラックスした状態で、強すぎない負荷を継続して与えることが大事です。
筋力トレーニングの効果
- 筋肉や骨や靭帯などの組織を丈夫にし、膝を支える力が強くなることで安定感が増します。それによって、半月板損傷だけでなく膝の痛みを起こす病気の高い予防効果が期待できます。
- また、既に膝に痛みがある場合でも、膝への負荷が減ることで痛みも軽減します。ただし、既に痛みがある場合は医師の指示のもとに行なってください。
- 筋肉の量が増えると血行が良くなるので、痛みや疲れがとれやすくなります。また、基礎代謝の量も増えるので、太りにくくなるという効果もあります。
トレーニングの際に気をつけてほしいこと
- 身体を締め付けないよう、動きやすい服装でリラックスした状態で、ゆっくりした動作で行います。決して、反動をつけないでください。
- 動作のときに呼吸をとめてはいけません。慣れるまでは難しいのですが、力をいれるときに息を吐き、力を抜くときに息を吸うように心がけます。
- 痛みを感じるところまでやらないようし、気持ちいいというところまででストップしてください。
- はじめは軽い負荷からはじめます。最初からきつい運動をしても、他の怪我のもとになります。
- 運動中に膝が痛くなったり、違和感を覚えたりしたらすぐに運動を中止して、状態がよくなるまで安静にしてください。良くならない場合には、病院へ行ってください。
- 運動効果が最もあるのは、沢山やることではなく、少しずつで良いので、毎日続けることです。朝と晩の2回、毎日続けられれば理想的ですが、痛みがある時や、疲れているときは無理せず、休んでください。
- 運動の前はストレッチで筋肉をほぐしてからはじめましょう。
日常でできること
硬くて乾いているものは折れたり割れたりしやすく、柔軟性のある水分の多いものは折れたり割れたりしにくいものです。筋力低下を防ぐこと、筋力をアップすることは最大の予防策ですが、それらはすぐには結果がでないものです。
ここでは、日頃から気をつけられることをあげてみます。
ストレッチをして筋肉や組織を柔軟に保ちましょう
強すぎるストレッチは、かえって筋肉を硬くしてしまいますから、痛くないところまでしかやらない、リラックスした状態でする、ということを守ってくださいね。
- 足首をやわらかくする
- アキレス腱を伸ばす
- 太ももの後ろ側を伸ばす
- 決して反動はつけないようにする
この2つのストレッチは膝と関係ないように思えますが、ここを柔らかくしておくことで、「歩き方」に影響が出ます。足首が硬い(アキレス腱が硬い)と、歩行のバネの運動の負荷が膝に大きくかかりますが、足首にもバネがあれば、負荷が分散されるというわけです。
また、太ももの裏側が硬いと、膝の曲げ伸ばしのときに、膝に無駄な負荷がかかってしまうのです。太ももの後ろ側も柔らかくしておきましょう。
入浴時を効果的に使いましょう
お風呂に入ると身体が温まりますね。身体が温まると、筋肉がほどよく緩み、ほぐれてくれるのです。また、入浴することで、副交感神経の働きが優勢になりますので、筋肉がゆるむだけでなく、回復力も高まるのです。身体が疲れている、ストレスを感じている人は、お風呂にはいってゆっくりしましょう。
ぬるめのお湯に、ゆっくりつかることが一番効果的です。ストレスの強い人は、バスソルトやハーブのバスオイルなどをつかってゆったりした気分で、足を優しくマッサージしてあげるといいでしょう。
シャワーでは効果がない
身体を温めるには、シャワーでは不十分です。身体の疲れはとれないのです。身体に冷えがある場合などなおさらです。気分的にはすっきりするかも知れませんが、翌日まで疲れを持ち越して、それが溜まってゆき、身体は硬く、疲れも溜まりやすい身体になってしまうかも知れません。
身体の冷えをとることが大事なわけ
身体が冷えると、自律神経に作用して、身体の筋肉を緊張させます。つまり、硬くなるのです。冬に寒さで身体が動きにくくなった経験はありませんか?凍える、といいますが、まさにその、身体が固まりフリーズした状態に近くなるわけです。
日頃の生活でも、冷えはあります。夏の暖房、薄着をしていて脚だけ冷えてしまうなどもそうですが、何も外部的な要因だけではありません。人間は足が下、頭が上です。頭寒足熱という言葉を聞いたことはありませんか。これは、頭が、足より冷えた状態にあるのが望ましいという人間の身体のよい状態を指しています。温度差です。
わたしたちの生活では、運動不足になりがちです。そうすると、何がおきるでしょう。足は常に下にあり、身体の水分は溜まりやすくなります。動かないと血行も悪くなり、水分の多い足は冷えます。頭寒足熱の反対です。
このように普段の生活でも冷えは起こります。血行不良も起きています。それを、入浴することで、血行をよくし、冷えを解消することで、筋肉がほぐれ、ひいては疲労がとれるというわけなのです。
サプリメント
テレビなどでもよく宣伝しているグルコサミンをはじめとするサプリメントを服用するのもひとつの方法ではあります。ただ、これは減ってしまった半月板を再生する力はありません。ジェリー状の潤滑オイルのような役割で、また経口投与ですので、膝まで届く量にも限りがあります。膝への注射もありますが、これも、やはり潤滑剤をいれて、現状維持のため、今以上の摩耗を防ぐ効果しかなく、また身体に吸収されてしまいますので、定期的に投与しなければなりません。
ヒアルロン酸の場合、経口投与では効果はなく、注射でしか効果がないといわれています。また、グルコサミンに関しては、アメリカの医学誌でサプリメントには効果はないと発表されているものもあります。
市販サプリメントではグルコサミン、コンドロイチン、ヒアルロン酸などよく耳にしますが、残念ながら半月板損傷の治療の効果のほどは期待できないのが実情です。直接注射での痛みの緩和や症状の緩和は効果があるようです。
しかし、サプリメントで治療はできなくとも、膝や腰の痛みを和らげられることもあるようですし、予防策として服用するのもひとつの手だと思います。また、これらのサプリメントは肌に柔軟性をもたせたり、ぷるぷるさせてくれるものもあるようです。
食べ物
身体をつくるのは、食べ物です。食べ物を選ぶことは、自分の身体をどう作っていくかを決めることと言っても過言ではないでしょう。
骨、筋肉、軟骨、細胞をつくるのはたんぱく質です。たんぱく質を多く含んだ食品を、しっかりよく噛んで食べるよう、日頃から意識してみましょう。また、たんぱく質をとるのと同時に、バランスのよい食事を心がけましょう。
こんな症状が出たら検査しましょう
半月板損傷は、部位によってまた、損傷の状態によって治療法が変わってきますが、気付かずに放っておくと、歩行困難になったり、他の病気に進展する可能性があると述べました。以下のような症状が出たら、検査することをお勧めします。
- 膝をひねったあと、痛みや動きにひっかかりを感じる
- ねんざのように、腫れ、痛みの症状がある
- 膝が曲げ伸ばししづらい
このような症状があり病院へ行くと、整形外科などにゆきレントゲン検査をされると思います。しかし、半月板はレントゲンには映りません!半月板は軟骨のような軟部組織なので、レントゲンには映らないのです。MRI検査が必要です。
MRI検査をして、半月板損傷がなくとも、すり減っているなどの状況がわかることがあります。そのような場合は、症状がひどくなり手術するなどということにならないよう、トレーニングなどで損傷を防ぐことが出来る場合があります。
まとめ
- 半月板損傷は誰にでも起きます。
- 日常のトレーニングが一番の予防です。
- レントゲンには写りませんから、MRIで検査をしましょう
- 軽い症状のうちなら、リハビリやストレッチで治ることもあります
- 治療方法は医師と相談の上決めましょう
膝が痛いけど、年だから仕方ないと思っている人も、半月板というクッションを守るために、食事やストレッチ、入浴、筋力トレーニングで予防してみませんか。