アテトーゼとは脳による正常な制御が機能せず、本人の意思とは関係なく現れる目的のない身体の運動のことです。
また脳性麻痺の中で大別された運動障害の1つで、アテトーゼ型ともあらわされます。脳性麻痺によって生じる他の運動障害との違いやアテトーゼと類似する舞踏病などの症状を説明していきます。
アテトーゼとは?
アテトーゼは緩慢な異常運動のことで錐体外路性(すいたいがいろ)不随意運動の1つです。体のあちこちが本人の意思にかかわらずに動きます。アテトーシスと呼ばれることもあります。
動きや症状が出る部位・特徴
アテトーゼの動きは具体的には手足や頭をゆっくりくねらせるようなものや顔面をしかめたようなものが特徴的とされています。アテトーゼの動きは独特のもので、捻じり・曲げ・伸ばし等多様な運動を伴います。筋肉の緊張は継続的に変化します。重症の場合は手足だけでなく、体幹や顔面・頸筋にも症状が及びます。
通常筋肉を動かす場合に、ある筋肉が伸ばされた場合には対になる筋肉が弛むはずですが、アテトーゼの場合にはアテトーゼの症状が出ている部位の筋肉を伸ばそうするも途中でその筋が収縮してしまい、不随意運動が現れて筋肉へのコントロールが効きません。首振りや、舌が出たり引っ込んだりする動き、顔の表情筋の細かいぴくぴくした動き、指のふるえなどもアテトーゼの症状です。
不規則かつ絶え間ない動きをするのが特徴的で、一定の姿勢を保持するのが困難であると言われています。アテトーゼの動きは感情によって激しくなることもあります。通常睡眠中には症状はでません。
随意運動と不随意運動
アテトーゼの説明で外せないのが随意運動と不随意運動の説明です。随意運動とは脊椎動物が自己の意思に基づいて行う運動全般のことを指します。泳いだり物をつかんだり、走ったり、飛んだり、物を噛んだり飲んだりする行動、つまり全身、手腕、足腰、顔の運動のことです。(人間の場合には話す・発声するといった行動もこれにあたります。)
随意運動が正しく行われるためには指令を出す脳、指令を伝達する中枢神経や末梢神経、指令を受け取る骨・筋肉の全てが正常な状態である必要があります。
不随意運動とは、横隔膜の伸縮や心臓の脈動、反射などが身体を有する脊椎動物の意思とは関係なく起こる運動のことを指します。また本来ならば自身の意思で動かすべき部位が本人の意思に基づかずに動いてしまうといった随意運動に異常が生じている場合にでる動きのことも指します。
アテトーゼの症状はこの自分の意思に基づかない異常運動である不随意運動にあたります。誤って不随運動と表されることもあります。
詳しくは、不随意運動とは?種類や原因となる病気を紹介!治療法やリハビリの方法を知ろう!を読んでおきましょう。
錐体路と錐体外路
アテトーゼの症状は脳の錐体外路を中心とした障害となります。まず錐体路とは随意運動の指令を伝える運動神経で、中枢神経が支配しています。延髄にある錐体を通る経路のことを言います。
そして運動の指令が行われるときに錐体路を通らない経路の総称を錐体外路と言います。主として無意識に起こる運動を司る神経経路でこのルートを通る運動指令は主に錐体路を通る運動指令のサポートを行っています。伝えられる指令は様々な脳の部位からの指令や身体の動きを微調整しながら骨格筋へ伝える役割を担っています。
錐体外路系が上手くコントロールすることによって筋緊張や筋群の協調運動を反射的に行うことが出来ています。例えば、柔らかいものをつぶさずに手で持てる握力の微妙な調整はその協調運動によるものです。アテトーゼの症状の場合にはこの錐体外路系に障害が生じ、振戦(しんせん)、筋硬直により、動作が緩慢になります。
アテトーゼの原因
アテトーゼを主な症状とする疾患は脳性麻痺や代謝異常です。
アテトーゼに類似するものとして舞踏病による舞踏運動というものもあります。それぞれの病気や特徴を見ていきましょう。
脳性麻痺
脳性麻痺は英語でcerebral palsyで、その頭文字をとってCPとも表現されます。脳性麻痺は脳の発達途中の時期、具体的には受胎から新生児期(生後4週間以内)までに、何らかの原因で脳に損傷を受けたために起こる運動発達の障害のことを言います。また、病変する脳の部分の違いによって、精神発達の遅れ、言語や視聴覚の障害、てんかんなどを伴うこともあります。
満2歳までに症状が現れ、思い通りに手や足を動かしたり姿勢を保ったりすることが困難になります。症状は非進行性ですが姿勢や運動の異常が永続して残ります。症状は多様で変化することもあります。筋肉疾患、進行性疾患や将来正常化することが見込まれる一時的な運動障害は除かれます。脳性麻痺の発症率は1000人あたりに約2人と言われています。原因の半数が生前にあるとされます。
脳性麻痺の原因
脳性麻痺を起こす脳の病変は、出生前、出産時とその前後、新生時期(生後4週間)に分けて考えることができます。
お腹の中にいる出生前で考えられる要因は遺伝子や染色体の異常、脳の形成異常・中枢神経系の奇形(小頭症(しょうとうしょう)・脳梁欠損・裂脳症など)、脳や神経細胞の発達異常、胎内感染症(サイトメガロービールス感染症、トキソプラズマ感染症、先天性風疹症候群、先天性サイトメガロウイルス感染症など)、子宮内外傷などが挙げられます。またそのほかに薬物中毒や有機水銀中毒といったものも原因となります。
出産時とその前後での原因は、前置胎盤、子宮破裂、胎便吸引症候群などによる仮死が原因で生じる低酸素性虚血性疾患(分娩時の機械的損傷)、頭蓋内出血(硬膜下出血、脳室周囲白質軟化症(のうしつしゅういはくしつなんかしょう)…脳の中の脳室周囲の白質(神経線維が行き来する構造)に血液が行きわたらず、運動障害を起こす病気)、核黄疸(かくおうだん)、中枢神経感染症、脳室内出血、脳梗塞、またであるなどが考えられます。医療の進歩により出産時が原因で起こる脳障害は減少傾向にあります。
最後に生まれてから1カ月以内の新生児期で考えられる原因は、低体重未熟児、新生児仮死、新生児重症黄疸、高ビリルビン血漿、感染症による脳障害、脳炎、髄膜炎(ずいまくえん)、脳血管障害、頭部外傷などが挙げられます。現在は医療の進歩で500グラム以下の新生児でさえ生存可能と言われています。しかし低体重未熟児・低出生時体重児の脳性麻痺の割合は増加しています。
原因はこのように様々です。しかし実際は原因が特定できないことも多くあります。脳性麻痺の完全な発生予防は、研究中でありますが原因が明らかでないことも多く、難しいのが現状です。
脳性麻痺のタイプ
脳性麻痺の症状は脳の損傷部位によって異なります。脳性麻痺は現れる運動障害の症状により痙直型(けいちょくがた)、失調型、強剛型、混合型等の病型に分類されます。その中のタイプの1つがアテトーゼ型と言われます。アテトーゼの症状と併発するものもありますので、以下簡単にタイプ別に症状を紹介します。
痙直型…脳内麻痺全体の約8割を占めます。末端の筋の伸張反射が高まり、筋緊張が増大し、筋は継続して縮こまった状態になります。手足が硬直し、突っ張った状態になります。障害が出る部位により症状の呼び名は細かく分類されています(両まひ、単まひなど)。
失調型…バランス感覚・平衡感覚を調整する神経経路の障害で、筋緊張・筋力が共に弱く、この病型を持つ方は、言葉のイントネーションがなく非常にゆっくりと話すことが多く見られます。典型的な障害は少ないとされます。
強剛型…錐体路系の障害で筋の曲げ伸ばしのいずれにおいても緊張があります。屈曲・伸展の際に抵抗があります。しかし強剛の典型的な障害は少ないとされています。
混合型…アテトーゼ型を含めた以上のタイプのものが合わさったもので、多くの場合痙直型とアテトーゼ型の混合型であり、どちらかの型が優位を示します。
現在の傾向
現在の脳性麻痺の傾向としては痙直型両まひ(腕、躯幹、脚の左右にまひが現れる)が増加し、下肢痙縮(かしけいしゅく)への治療が多くなっています。総体的に曲げる筋が継続的に縮まった状態にあるため、それぞれの関節を伸ばしきれず関節の拘縮(筋肉が固まって関節の運動が制限されること)や変形が起こりやすくなります。
痙縮(けいしゅく)とは筋肉に力が入りすぎて動かしづらい状態で、下肢に痙縮があると歩行に障害が生じます。のちに下肢関節の拘縮や変形・脱臼へとつながり、歩行や運動発達に影響がでる可能性が高いです。
詳しくは、脳性麻痺の症状や原因とは?種類や検査方法を知ろう!病気との向き合い方を考えよう!を読んでおきましょう。
舞踏病
舞踏病はアテトーゼ同様、錐体外路の障害によって現れる症候群です。病名が表すように患者が舞踏をしているような歩行をするのが特徴的です。
舞踏病とアテトーゼは共通点が多く、筋肉群が不規則、無目的な運動をします。こうした運動は四肢と顔で最も明らかに見られますが、躯幹に現れることもあります。
舞踏病とアテトーゼ
舞踏病とアテトーゼの共通点は、本人の意思に基づかない不随意運動の一つであり、不規則的なゆっくりとくねるような動きが起こるところです。アテトーゼと舞踏病の異なる点は、アテトーゼの動きは乳幼児の脳性麻痺による場合が良く知られていますが、舞踏病は高齢者や妊婦に発生することがあります。舞踏病とアテトーゼは別の病気の症状であることが一般的です。
舞踏病の動きは、意図的または半意図的な動作と混じり合うこともあります。例えば手を曲げ伸ばしの運動、舌を出したり引っ込めたりする運動、首を回す運動などのように日常動作の一部となっている場合があります。そのため舞踏病と気づかれない場合もあります。そして舞踏病の動きはアテトーゼに比べ、素早い動きだとされています。
しかし舞踏病とアテトーゼはコレオアテトーシス(コレオアテトーシス)として同時に起こることがあります。実際にアテトーゼのみが現れることはまれで、コレアやジストニアなどを伴うことが一般的です。これらは、それ自体が病気なのではなく、複数の病気によって起こる症状です。
舞踏病とアテトーゼは、錐体外路系の基底核の活動が過剰になることによって起こります。基底核は脳からの指令運動を滑らかにして他の運動や自身が思った通りの運動へと協調させる役割を担います。ほとんどのタイプの舞踏病ではドパミン(基底核の主要な神経伝達物質)の過剰によって、基底核の正常な機能が妨害されることが原因となります。舞踏病とアテトーゼは、薬や疾患によりドパミンの量が増えたり、ドパミンに対する神経細胞の感受性が大きくなったりする場合に悪化する傾向があります。
様々な舞踏病
高齢者や妊婦に発症する舞踏病も存在します。老人性舞踏病と呼ばれる舞踏病で明らかな原因なく高齢者に発症します。口の内部や周囲の筋肉に症状が現れます。そして妊婦に発症するものとしては多くの場合妊娠初期の3カ月ごろに起こり、妊娠舞踏病と呼ばれます。これは治療を行う必要はなく、出産後になくなります。
まれに、経口避妊薬を服用中の女性にも同様の舞踏病が起こる場合があります。舞踏病は、全身性エリテマトーデス(ループス)、甲状腺機能亢進症、腫瘍(特に尾状核と呼ばれる基底核の一部に及ぶもの)や脳卒中、抗精神病薬などのある種の薬剤によっても発生することがあります。
舞踏病とアテトーゼは、ハンチントン病やリウマチ熱の合併症であるシデナム舞踏病(セント・ヴィツス舞踏病、シデナム病とも呼ばれる)でも起こります。ハンチントン病は遺伝性の変性疾患の一つです。シデナム舞踏病は不随意なピクピクした動作が特徴的で、数カ月間継続することがあります。
発作性運動誘発舞踏アテトーゼ
発作性運動誘発舞踏アテトーゼという舞踏病様の動きが発作的に来て、すぐに終わる病気もあります。多くの場合は1分以内の手足が捻じれるような不随運動で、倒れることはなく、意識もはっきりしています。発作は一定の時間において起こったりやんだりします。その間に不随運動はなく、健常者と変わりはありません。
加えて発作性運動誘発舞踏アテトーゼの特徴は、発作が急激な動きや心理の変化によって誘発されることです。座っている状態から急に立ち上がった時、歩き・走り始めた時、寝返りなど、また恐怖や驚愕、緊張などで誘発され起こることもあります。家系に同じ病気がみられることもあります。脳波に異常がない場合が多く、発症の原因はまだ十分に分かっていません。
舞踏病の治療
舞踏病はアテトーゼとは異なり永続的なものとは限りません。薬剤によって引き起こされた舞踏病はその使用を中止することで作用が治まります。
舞踏病は様々なものがありそれぞれの症状によって治療は異なります。治療をせずとも自然になくなっていくものもあります。個人差がありますが有効な薬剤も存在し、ドパミンの作用を遮断する薬剤の投与などにより改善する場合も多くあります。
アテトーゼの治療法
アテトーゼの治療方法を紹介します。
訓練
アテトーゼ型脳性麻痺については、異常が固定化する前に、すなわち損傷により運動の獲得に異常がではじめた段階で訓練などの適切な治療をする事によって、症状の改善が可能であると言われています。
作業療法で手の機能を向上させたり、理学療法で筋肉の緊張を和らげ運動機能を向上させることができるとされています。
装具
筋肉や関節の硬化を予防するための装具、歩行や手の運動機能を助ける装具などがあります。
薬物療法
アテトーゼに対する治療はですが薬物療法による治療効果は乏しく、筋肉の緊張を和らげる程度の治療しかありません。
強い筋肉の緊張を伴う場合には、ジアゼパム(セルシン)などを用いて治療をします。そのほかに特定の筋肉の緊張を和らげるボツリヌストキシン筋肉注射や下肢全体の緊張を軽くする選択的脊髄後根切断術(せきずいこうこんせつだんじゅつ)や髄腔内バクロフェン持続投与などがあります。
整形外科的手術
大腿骨・下腿骨のねじれや足部の変形などを治す手術、短縮した筋肉の延長をする手術などがあります。
また、重度な子どもの股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)や背骨が曲がる脊柱側弯変形(せきちゅうそくわんへんけい)などの治療があります。
アテトーゼ型脳性麻痺の等級
障害の重症度の判定は、上肢機能と移動機能のそれぞれについて総合的に判断されます。
数が少なくなるほど症状は重くなります。
脳原性移動1~6級 緊張(アテトーゼ)型
脳原性移動1級緊張型の人は歩行全般や直立の姿勢の維持、立ち上がる動作ができません。車椅子を使用する必要があります。脳原性移動2級緊張型の人はつたい歩きが可能ですが、直立の姿勢の維持はできません。車椅子の使用が必要です。
脳原性移動3級緊張型の人は10m以内の手すりなしでの歩行が可能です。しかし直線歩行や立ち上がるなどの筋力の必要な動作はできません。車椅子の使用が必要です。脳原性移動4級緊張型の人は直線歩行ができず、立ち座りの動作に困難があります。手すりなどの補助が必要ですが、車椅子にはあまり依存せずに歩行が可能となります。
脳原性移動5級緊張型の人は立ち座りの動作、歩行も自力でできます。しかし直線歩行ができず、大きな脚力はないため、しゃがんで立ち上がるような動作ができません。脳原性移動6級緊張型の人は通常の歩行ができます。しかし、しゃがんで立ち上がるという大きな筋力を必要とする動作ができません。
脳原性上肢1~6級 緊張(アテトーゼ)型
脳原性上肢1 緊張型の人は左右両上肢に障害があり、上肢を使用する日常生活動作がほとんどできません。脳原性上肢2級緊張型の人は両手を使用する運動機能が低く、手の運動範囲は健常者の30%以下程度となります。
脳原性上肢3級緊張型の人は両手を使用する運動機能が低く、手の運動範囲は健常者の40%以下程度となります。脳原性上肢4級緊張型の人は両手で行う動作が健常者の50%以下程度となります。脳原性上肢5級緊張型の人は 両手で行う動作が健常者の60%以下程度です。脳原性上肢6級緊張型の人は両手で行う動作が健常者の70%以下程度です。
アテトーゼがわかったら?
子どもの場合は神経を専門にする小児科、小児を専門にする整形外科または小児病院、こども病院などの医療機関を訪ねるのがいいでしょう。肢体不自由施設に相談や情報を聞いてみるのも一つの手です。脳性麻痺は一般的に10歳を過ぎると脳機能の発達・完治とともに機能の大幅な改善が難しくなります。早めに訓練を開始することが大切です。
また膝・股関節や脊柱の変形、排泄、疼くような痛みなどの問題が大人になって出る場合も多くあります。股関節が痛くなり歩けなくなるような場合もあり、立って歩ける様になるには痛みを除く筋肉の手術が必要です。
さらに首の緊張が強いアテトーゼ型脳性麻痺では、頚椎の異常から来る頚椎症性頚髄症がよく見られます。これは頚の脊椎が傷つけられる症状でさらに頚椎が変化し、近くを通る脊髄に影響を及ぼし様々な神経症状を及ぼします。将来の頸椎症性脊髄症の予防のため頚の緊張した筋をゆるめる手術をしておくのが有効な場合もあります。(用語の頚は頸の俗字で意味は同じで同様に用いられます。)
まとめ
いかがでしたでしょうか。アテトーゼは10歳になるまでの訓練で動きの改善が見込めるようです。成長するに従ってアテトーゼの動きは変化するものであり、筋肉の緊張も軽視できません。
大人になってからの二次障害もありますので整形外科での治療や相談を続けて行っていき、きちんとフォローアップをしていくことが大切です。
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