キーンベック病という病気を知っていますか?手首が痛いと感じたり、手首に腫れが見られたら、もしかしたらキーンベック病かもしれません。キーンベック病の場合、自然回復を望むことは難しい為、何かしらの処置をしないと悪化し、日常生活に大きく支障をきたします。
このような状態になると、手術を検討する必要が出てきます。ここでは、キーンベック病の症状や原因、治療方法についてご紹介します。
キーンベック病について
ここでは、キーンベック病の概要、月状骨の役割、症状、似ている病気の骨端症との違いについてご紹介します。
キーンベック病とは?
キーンベック病とは、手にある月状骨(げつじょうこつ)と呼ばれる骨がつぶれて、平たくなる病気です。手首(手関節)には、月状骨、有頭骨、有鈎骨、大菱形骨、小菱形骨、舟状骨、三角骨、豆状骨と呼ばれる8つの手根骨があり、月状骨は中央に位置しています。
月状骨は、周りが軟骨で囲まれているので、血液の通りが少なく、血流に支障をきたしやすい場所で壊死しやすい骨の1つと言われています。何らかが原因となって、血行不良を起こして骨が壊死して、つぶれて平たくなります。このように、月状骨が深く関わっている病気の為、別名で月状骨軟化症とも呼ばれています。
キーンベック病の初期の段階では、血行不全のためX線(レントゲン)検査やMRIで月状骨の輝度の変化を見ることが出来、症状としては、関節が腫れることで、手に力が入にずらかったり、手首が動かしずらくなります。症状が末期になると、無腐性壊死(むふせいえし)になり、骨がつぶれて、平たくなり、痛みを伴います。
このような状態になると、手首を動かすことが難しく生活に支障をきたします。特に、手を頻繁に使う仕事をされている方は、手術を検討する必要があります。
月状骨の役割とは?
月状骨とは、手関節のほぼ真ん中にある骨で、手首の動きに関与しています。この月状骨は、血流に支障をきたしやすく壊死しやすい骨の1つです。この骨の周りの血流が悪くなり、十分な栄養が行き渡らないことで骨が壊死してしまい、つぶれます。
手関節には「月状骨」や「舟状骨」、「三角骨」の介在部分と呼ばれるいう骨が存在し、これらは手首と手根骨の間に位置しています。手首を動かすときは、これらの繋いでいる骨が連動しあい、スムーズな動きを作り出しています。舟状骨は、手の甲からみて左に位置し、月状骨は中央、三角骨は右側に位置しています。
このように、月状骨が真ん中に位置していることから、他の骨と連結する中心的な役割を持ち、手先や手首から届く軸圧のほとんどが、月状骨を通じて伝達されます。その為、この月状骨が壊死すると、手の圧力を上手く調整することが出来ずに、握力や物を押す力が弱まったり、これらの動作時に痛みを伴います。
キーンベック病の症状とは?
キーンベック病になると、下記のような手首の痛みや腫れ、動かしずらいなどの症状が現れます。私たちが想像するよりも日常生活で手を使うことが多い為、手の動きが制限されることで、日常生活や仕事に大きな支障がでる病気です。特に男性の利き手である右手に発症しやすいと言われています。
主な症状
- 手首の痛み
- 手首の腫れ
- 握力が弱まる
- 手首が動かしにくい
- 床に手をつく動作がしずらい
- 物を押す力が弱まる
- 握力を加えたり、物を押すと手首が痛む
- 手関節の動きが制限
キーンベック病は症状の度合いに応じて、ステージ1~4の4つの段階に分けます。軽度のものをステージ1とし、数字があがるごとに症状が重くなります。ステージ1程度の軽症であると、X線で異常を確認することは難しく、MRIでの確認が必要になります。MRIで確認すると、月状骨の萎縮が確認できます。
症状にあわせた、4つのステージ
- ステージ1:月状骨の萎縮が確認できる。
- ステージ2:月状骨の萎縮や硬化が確認できる。
- ステージ3:月状骨がつぶれているのが確認できる。
- ステージ4:月状骨だけでなく、周りの骨や関節にも影響が見られる。
ステージ1~2の状態であれば、初期治療として内服薬や湿布、装具で固定してリハビリを行うことから始めますが、ステージ3~4になると、手術を検討する必要があります。
似ている病気、骨端症との違い
キーンベック病と似ている病気で、骨端症という病気があります。キーンベック病は、骨端症の一種でありますが、骨端症とキーンベック病の違いは、骨端症の場合は幼児や成長期にみられる場合が多く、自然回復することがあることです。
骨端症とは、骨の組織が腐って壊死する病気で、成長期に特に発症しやすい病気です。子供の骨には、骨端と呼ばれる柔らかい軟骨があり、その中央に骨化核と呼ばれる骨の固まりを作り出します。成長する過程で、この骨端で軟骨が外側に向かい硬い骨に変化します。
何かしらの原因でこの部分の血液循環が悪くなり、骨端核を含めて骨が壊死することを、骨端症といいます。原因として、スポーツによる外傷や、生まれつきの素因、ホルモンの異常などが挙げられます。
キーンベック病の原因とは?
はっきりとした原因は不明ですが、職業的に手を使う仕事をしている男性の方に多くみられる事から、手を酷使することが原因とする説が有力説として挙げられています。
しかし、中には職歴のない女性や高齢者などに症状が見られる為、詳細は明らかにされていません。現在挙げられている、いくつかの原因説をご紹介します。
明確な原因は不明
何らかの原因で、月状骨の周りの血流が悪くなり、骨が壊死してしまうということは明らかになっていますが、血流が悪くなる原因がどんなものかは明らかになっていません。
月状骨の周りは、他の骨の関節軟骨に囲まれており、月状骨自体も軟骨で囲まれている為、血管の出入り口が少ない場所です。この為、何かしらが原因となって、もともと少ない血管が途絶えたり、血流不良を起こすと、骨が壊死してしまいます。
手を酷使すること
一説によると、手を酷使することで、月状骨に小さな傷がついて、それが何度も起こることで血行不良を招き、骨が壊死してしまうという説があります。工員、大工、農漁業などの手を酷使するような仕事や格闘技やラケット種目のスポーツ選手などの、20代~40代の男性がなりやすいという報告もありますが、時には主婦や事務職、年配の方など手を酷使しない仕事についている女性が発症するケースもある為、明らかではありません。
しかし、もともと血流が悪い場所ではあるので、酷使し続けることで血流が悪くなるという説は、因果関係があるようにも考えられます。スポーツで手関節の捻挫や外傷をうけている人や関節症を繰り返している人にも多く見られる傾向にあると言われているので、このような怪我など繰り返すことが原因となって血流を妨げている可能性があります。
ストレス
ここでいうストレスは精神的ストレスでは、肉体的なストレスになります。月状骨は、手根骨の中でも、最も手首を動かす際に影響を受けやすい場所です。橈骨(とうこつ)と呼ばれる前腕の2本の長い骨のうちの1つに、月状骨は最も近い位置にいます。
その為、手首を多く動かすことで、ストレスが加わりやすく、血流障害が生じやすくなるのではないかと言われています。ストレスは血流障害を招く直接的な原因にもなります。ストレスや疲労が原因となって血流障害が現れるのではないかという考えがあります。
骨の長さバランスの違い
橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)と呼ばれる前腕を構成する2本の長い骨があります。この2本の大きさや長さを比較すると、橈骨の方がやや短く、小さく出来ており、上手くバランスを保っています。
この長さのバランスが大きく崩れることで、手関節内にある月状骨にかかる圧力が強くなり、発症すると考えられています。
キーンベック病の診断について
ここでは、診断方法についてご紹介します。まずは、問診で自覚症状を確認し、MRIやCT、X線などの画像検査を通じて、キーンベック病の最終診断を行います。
これらの画像検査を通すことで、月状骨の透亮像、硬化像、扁平化をみることが出来、手の中で起こっている状態を詳しく確認する事ができます。特に、月状骨の場合はMRIやCTが適していると言われています。
問診
医師が診断の手がかりを得る為に、患者に自覚症状や病歴を確認します。どんな時に痛みがでるのか、どんな動作がしずらいのか、どれくらいの頻度で現れるかなど、患者から直接症状を聞きます。
手を使った後に手首に痛みと腫れが見られる、握力の低下、運動制限、手の甲の中央を押すと痛みがあるといった症状が見られるようであれば、月状骨が疑われ、画像検査を行い詳細の確認に移ります。
MRI検査
MRI(Magnetic Resonanse Imaging:磁気共鳴画像)検査とは、画像検査の1種です。X線と呼ばれる放射線による電磁波を使うことなく、別の強い磁石と電波を使って体内の状態を映像化する検査方法です。体内が持つ水素電子の弱い磁気に対して、強力な磁気をあてることで、原子の状態を映像化します。極力な磁気を当てるため、ペースメーカーを使用している人などは、MRIの使用は出来ません。
検査方法は、患者さんにベッドに仰向けになってもらい、磁石の埋め込まれたトンネルをくぐってもらいます。このトンネルを通過して電波を体に当てることで、体の中から出る信号を専用のコンピューターで読み取り、体内の様子を確認する事ができます。
症状が比較的に軽症であるステージ1の状態であると、X線の検査で確認することが出来ず、MRIでの撮影が必要になります。MRIで骨壊死の所見など細部まで確認することができます。その為、MRIで骨の壊死が確認できると、確定診断に至ります。
CT画像検査
CT検査(Computed Tomography:コンピュータ断層診断装置)は、X線と呼ばれる放射線による電磁波を使って、体の断面を画像化する検査です。MRIと比べると、画像解析に時間がかからないので、すぐに結果を受けることが出来ます。
また、血液の流れを確認したい場合は、血液に造影剤を注射して撮影を行うことで、血液の流れを確認することが出来ます。
X線(レントゲン)
X線は、別名レントゲン撮影といいます。X線と呼ばれる放射線による電磁波を使って、体の断面を画像化する検査方法です。内蔵や皮、筋肉など透過しやすい部分は黒く移り、骨や腫瘍など透過しにくい部分が白く移ります。その為、骨の撮影やがんなどの発見に使用されています。
しかし、症状が比較的に軽症であるステージ1の状態であると、X線の検査で確認することが出来ず、MRIでの撮影が必要になります。
キーンベック病の治療法について
治療方法は、症状や年齢にあわせて異なります。初期治療には装具やギブスによる固定や、内服薬や湿布を用います。症状が重い場合は外科手術を検討する必要があります。
予防策としては、手を酷使しないことが挙げられていますが、酷使していない方でも発症する場合があるので、残念ながら予防は難しいと言えます。その為、治療に専念することが、症状を緩和させ悪化させない方法と言えます。
装具やギブスによる固定とリハビリ
症状が比較的に軽く、炎症や関節の変形軟骨の変性による痛みが強い場合は安静が重要です。その為、ギブスや装具を装着して固定し、手を激しく使う動きに制限を加えたり手首の運動を助けます。また、装具を装着してリハビリを行い、手首の動きをスムーズに動かす練習をします。
内服薬の投与や湿布
症状が非常に軽い場合は、消炎鎮痛剤という痛みに対する内服薬の投与や、湿布を用いて痛みを軽減させます。初期治療としては、ギブスや装具による固定と内服薬と湿布を用いて様子をみますが、症状が悪化したり痛みが強い場合は、手術を検討する必要があります。
ステロイドの注入は骨の壊死を促進する可能性がある為、通常治療に用いることはありません。また、その他の方法として、保険適用外でありますが、血流をよくする為に、血流改善剤を試してみる価値はあると思います。血流が悪くなる事で起きる症状のため、血流を改善することで、症状が緩和される可能性があります。年齢や仕事上の理由で、手術をどうしても避けたいという方は、このような方法を医師と相談の上、検討してもいいと思います。
外科手術
月状骨がつぶれているほどの重い症状の場合や、内服薬やギブス、装具を固定、リハビリなどを通しても、症状が緩和されない場合は、手術を検討します。手術方法は、「橈骨短縮術」「橈骨楔状骨切り術」「有頭骨短縮術」「血管柄付き骨移植」「腱球挿入術」と複数存在し、症状や患者の年齢に合わせて行われます。
麻酔を行ってから、月状骨にかかっている圧力を軽減させる為に、前腕の2本の骨の長さのバランスを変える骨きり術や、月状骨の近くの骨を切り取る手術、血管を移植して血流を回復させる手術、骨の移植手術などが様々な方法があり、ステージ3や4などの重い症状になると、壊死した月状骨を取り出して、代わりとなる丸めた腱を入れる手術方法もあります。
これらの手術方法は、整形外科医に相談し、症状にあわせたメリット、デメリットを把握して選択しましょう。
病院選びについて
ここでは、どんな病院を受診するべきか、名医を選ぶ方法についてご紹介します。
受診する病院は?
キーンベック病の場合、整形外科や形成外科を受診します。通常、手の痛みや腫れを感じた場合は、整形外科や形成外科を受診することが多いですが、理由が分からない方は総合病院を受診して適切な科にまわしてもらうのもいいと思います。
名医を選ぶ方法は?
手術を検討される場合に、名医の治療を受けたいといういう方は手の疾患を専門としている、手外科専門医のいる病院を探してみることをおススメします。
日本手外科学会のホームページに手外科専門医のいる医療機関が公開されています。こちらを基に病院選びをすることができます。予約する前に電話でキーンベック病の治療を行っているか確認されることをおススメします。
関東地区おススメの病院、整形外科医院
■東京城東病院,整形外科
住所:〒136-0071 江東区亀戸9-13-1
電話番号:0336851431
■青木整形外科医院
住所:〒212-0011 神奈川県川崎市幸区幸町4丁目18
電話番号:0445403875
おわりに
キーンベック病は、手関節にある月状骨と呼ばれる骨が、つぶれてひらたくなり、手首の痛みや腫れを伴う病気です。この病気を自然治癒することは難しいといわれている為、病院で検査して、治療に専念する必要があります。
重症化すると手術を検討する必要があります。手術が必要になる場合は、手外科専門医のいる医療機関を一度、受診される事をおススメします。
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